歌舞伎俳優・尾上菊之助さんの長男・寺嶋和史くん(5歳)が、歌舞伎座「團菊祭五月大歌舞伎」の夜の部「絵本牛若丸」で、七代目尾上丑之助(うしのすけ)を名乗り、2019年5月3日に初舞台を踏みました。令和最初の歌舞伎俳優の誕生です! (5月27日まで)。
人間国宝の祖父を二人もち、父は尾上菊之助。将来の歌舞伎界を担う和史くんの、七代目尾上丑之助としての最初の一歩は見逃せません! さて、この小さなヒーロー・丑之助くんの素顔を、母親である寺嶋瓔子さんにうかがってみました。
かつての牛若丸、父尾上菊之助から丑之助へ受け継がれていく役者魂
3年前、和史くんが本名で歌舞伎座に初お目見えしたときは、わずか2歳でした。「初お目見えのときは、何をやっているのかわからないまま、大勢のお客様に圧倒されて、恥ずかしさのあまり手を振るのが精いっぱいでした」と、瓔子さん。その可愛らしさに劇場はほっこりしたものです。
「3歳のときには『髪結新三(かみゆいしんざ)』の丁稚(でっち)でちらりと登場させていただきました。そして、これまで舞台を経験し、稽古を積んで、こうして初舞台を踏めたことはとても有り難いことだと思っています」
「つくづく芝居が好きなんだと思いますね」
さて、初舞台の演目は『絵本牛若丸』。丑之助くんが演じるのは、平家討伐、源氏再興を目指して、桜が満開の鞍馬山で修行中の牛若丸です。これは、父親の尾上菊之助さんが、1984年2月に6代目丑之助として初舞台を勤めた時と同じ演目だそうです。
「お稽古に関しては、主人がいつもより厳しく指導していました。それにいろいろな取材が入っているため、本人もいつもとは違うという雰囲気を感じとっているようで、いつもよりやや緊張感はあるような気がします。でも、私はなるべくいつもの舞台と変らないような感じで接しているんです」と、瓔子さん。
お稽古をちゃんとさせるためにご褒美のようなものはあるのかとお聞きしてみると、「それが、舞台に出られなくなっちゃいますよ、というとちゃんとやってくれたりするんですよ。つくづく芝居が好きなんだなと思いますね」と、嬉しそうに微笑みます。
丑之助くん、なかなかの渋好みです!
おや? 丑之助くん、お父様の菊之助さんが主役を務める『マハーバーラタ戦記』のビデオを熱心に観ています。「お休みの日は、自分で好きな歌舞伎の演目のDVDを見ては、立ち回りをしています」と、瓔子さん。
丑之助くんの好きな演目を尋ねると、「『野晒悟助(のざらしごすけ)』の立ち回りや、『弁天小僧(べんてんこぞう)』の屋根の上での立ち回りも好きです。…かなり渋好みですね。我が家には、おじいちゃん(尾上菊五郎)と、おとうさん(尾上菊之助)と、実家の父(中村吉右衛門)と、先代の尾上松緑さんが演じる舞台のDVDを並べて置いてあるのですが、いつも自分で松緑さんのDVDを選んできて熱心に見ています…どうやら松緑さんの知盛が好きみたいですね」。
「つい小言を言っちゃうんですけどね(笑)」
「最近は、私が見たくて収録しておいた<劇団新感線>のビデオに夢中になっていました。好きで見ている分には構わないのですが、<劇団新感線>の立ち回りはやはり歌舞伎とは違うので、初舞台の公演中は歌舞伎以外のものはやめておいたほうがいいのかなと思っています」と、瓔子さん。
「とにかく私は芝居は教えられませんし、父親がしっかり伝えているので、私がプラスで何か言うのもよくないですからね。でも、つい小言を言っちゃうんですけどね(笑)。手がブラブラしていたとか…その程度のことですけど。でも、なるべく私は褒めたり、楽しく生活ができるようにと心がけています。そして、何よりいちばん心配しなければいけないのは、健康のことですね。幼稚園に通いながらの舞台ですし、下の子も風邪を引いたりしますから、気をつけて予防をしてゆかなければと思っています。家でも、これまでは子供たち3人で寝ていたんですが、今は主人と一緒に寝てもらっています」。
そういえば、先日、父子で出演したTV番組「徹子の部屋」ではお父さんと一緒に夕食を食べるのが和史くんの楽しみだと話していました。
「やはり歌舞伎俳優は土日も仕事があるし、地方巡業ではしばらく家に帰れない仕事ということもあって、主人と一緒に夕飯を食べるのが楽しみなようなんです。主人はお稽古などではガツンと言って厳しいですが、それ以外はとても優しいですね。一方、私はついつい細かくガミガミと怒ってしまいます(笑)」。
母親はしっかり厳しく躾をしてお父さんのことを大好きな子に育てる、瓔子さんの良妻賢母ぶりもうかがえます。
丑之助くん、歌舞伎以外では普段どんなことに興味があるのですか? 「先日、最後の休日には、お友達と恐竜のイベントに行きました。電車も好きですし、ドラえもんや普通のアニメも好きですが…見ていると、まあ、お芝居がいちばん好きなんだろうなと思います」。
最後に丑之助くんへの差し入れは何がよいだろうかと聞いてみると、「そうですね、甘い物はたくさんいただきますし、あまり食べ過ぎてもいけませんので、ボードゲームなんかが嬉しいです。子供たちも大好きで、よく家族みんなでボードゲームで遊んでいるんです」と、瓔子さん。
幼いながらも立派な歌舞伎俳優! 待ってました!
牛若丸を演じた丑之助くんは、人間国宝の尾上菊五郎と中村吉右衛門、ふたりの祖父とともに、舞台中央のせりから登場! 弁慶役の菊之助が花道から本舞台に加わり、親子孫三代が揃うと、大きな拍手が沸き起こりました。幼いけれど、立派な歌舞伎俳優の誕生です! 必見ですよ。
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◆公演情報
「團菊祭五月大歌舞伎」
公演期間:2019年5月3日(金・祝)〜27日(月)
昼の部:11時〜
夜の部:16時30分〜
※『絵本牛若丸』は歌舞伎座「團菊祭五月大歌舞伎」の夜の部です。
場所:歌舞伎座
公式サイト
撮影/岡本隆史