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2020.01.28

世界で最も美しい本コンクールで絶賛!日本発「美しすぎる塗り絵本」は、めくられずにはいられない

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2019年12月14日、印刷博物館 P&Pギャラリーにて「世界のブックデザイン2018-19」展が開幕した。同年3月にドイツで発表された「世界で最も美しい本コンクール2019」の入選図書11点に、7カ国(日本・ドイツ・オランダ・スイス・オーストリア・カナダ・中国)に及ぶコンクール入選図書を加えたおよそ170点が展示され、デザインおよび造本技術が世界的に高く評価された本を実際に手にとり、その意匠を楽しむことができる。

「世界で最も美しい本コンクール2019」入選作に、日本から出展された本が一冊だけある。フランス発の子供服ブランド「ボンポワンジャポン」が、銀座店オープン記念で出版した塗り絵本『the first』だ。2017年出版の書籍を対象にした「第52回造本装幀コンクール」で審査員奨励賞を、そして「世界で最も美しい本コンクール2019」では栄誉賞を受賞している。


この本の鮮やかな魅力について、「世界で最も美しい本コンクール2019」を主宰するドイツ・エディトリアルデザイン財団は次のように講評している。

「最初のフルカラーのページには色鮮やかな鳥が描かれ、たくさんの線描画が続いている。色鉛筆を手に取ってこの色を塗ったらどんなふうに見えるだろうというワクワクする気持ちにかられるだろう。これは子ども向けの塗り絵の本といえる。しかし、この本は塗ることをためらうほど美しい」※1

また、「第52回造本装幀コンクール」審査員のひとりで絵本作家の浜田桂子氏は次のように述べている。

「塗り絵ができる絵本だが、そのままでもページをめくる躍動感が感じられるよう配慮されている。レイアウトの工夫、「塗り絵見本」の彩色の意外性、穴あきページも楽しい。この本を手にした子どもは、スピン(栞紐)をはさみながら、世界でたった一冊のオリジナルな絵本を作っていくのだろう」※2

日本で唯一の「世界で最も美しい本コンクール2019」受賞作であり、「塗り絵にしては美しすぎる」と称賛された『the first』。いったいどのような人の手で、どのように制作され、どのような点が海を越えて人々の胸を打ったのか。その謎を紐解いていく。

そもそも、「装幀」ってどんな仕事?

造本装幀コンクールは「造本装幀にたずさわる人々(出版、印刷、製本、装幀、デザイン)の成果を総合的に評価する出版業界で唯一の賞」で、コンクールを主宰する団体のひとつ、社団法人 日本書籍出版協会は選考基準について「出版社、デザイナー、印刷会社、製本会社の協力の下で制作された、造本技術・装幀デザインが優秀な本」としている。

そもそも装幀とはどんな仕事なのか。装幀・造本に造詣が深い、日本図書設計家協会(※3)会長の小林真理氏に話を伺った。

「装幀とは、書物を綴じて表紙・扉・カバー・外函(そとばこ)などを付け、意匠を加えて本としての体裁を飾り整えることです。装幀は表紙だけではなく、カバー、帯、見返し、扉に至る本の外装に関わるパーツ一式のデザイン作業になります。判型や用紙選びなど、造本設計にまで作業が及ぶ場合もあります」

また、小林氏は装幀という仕事の大変さと面白さについてこうも語った。
「書名を表すタイトルの文字の形や配置のしかたを決めるのは装幀の主軸の仕事であり、売れ行きを左右しかねない大変な仕事です。装幀家が自分のスタイルを確立するためには自分の字と絵を持つことが肝要なのではないでしょうか。もちろん、手書き文字だけでなく完成された美しい活字を使いこなすことも装幀の醍醐味といえます」

装幀家に求められる能力の幅広さ、そして装幀という仕事の奥深さにただただ驚く。本と接するとき、一般的に読者が意識するのは、内容や著者、話題性、レビューが高いのか低いのかが主で、デザイン性や造本の意匠は二の次であることが多いのではないだろうか。

何気なく手に取った一冊が、ものすごく綿密に計画された上でデザインが施され、素材や色やかたちなど、出版・印刷・製本・装幀・デザインと各分野の職人が細部にわたり熟考に熟考を重ね制作されたものだと想像するだけで、その本の重さが途端にずっしりするような気さえする。

例えば『the first』でいうと、桜色がボンポワンのブランドマークであるさくらんぼを暗示していたり、鮮やかなイラストや本の世界観を際立たせるために、あえて本のタイトルを銀の箔押しにすることで目立たせないようにしたりと、表紙だけでも実に細やかな設計が行われている。

小林氏によると「日本人は装飾感覚に優れ、細やかな手仕事や繊細な感性で美を追求してきた歴史があります。西洋の印刷と製本技術が取り入れられて洋装本が作られ始めた明治期には、橋口五葉や小村雪岱などが文豪の名装幀を手がけるようになり日本の装幀の美が見事に開花し、その後、出版社は次々と個性的かつ内容に相応しい書籍を作るようになりました」とのこと。ときには趣向を変えて、本を「美しさ」で選んでみるのも面白そうだ。

さて、本題に入ろう。趣向を凝らしたデザインと群を抜く美しさで世界的な評価を得た『the first』。どのような仕掛けが施され、どんなメッセージが込められているのか。その魅力をひとつずつ探っていく。

世界が認めた塗り絵本『the first』の3つの魅力

1. テーマは大人も楽しめる本

『the first』のイラストレーションを担当した著者、田中健太郎氏はつくる際にこだわった点を、次のように語っている。

「ボンポワンは子供服のブランドではありますが、今回つくった本は、大人が思う子供目線のモノにはしたくありませんでした。本棚にずっとあり続け、親子代々大切にされる、そんな本を目指しました。子供たちはもちろん、大人の方も楽しめる一冊に仕上がったと思います」

実際、『the first』を手にとってみると、書店の児童書コーナーに置かれているようなザ・子供向けの本といったイメージは限りなく薄く、むしろインテリアショップに飾られているようなアーティスティックな本という印象のほうが強い。

「大人も楽しめる塗り絵」が一時期ブームになったが、その内実はストレス発散や脳トレといった実用性に重きが置かれ、『the first』のように塗らずともただ眺めて楽しむことができる塗り絵本は極めて稀有な存在といえるのではないだろうか。

2. イメージはおもちゃ箱をひっくり返したような本

『the first』の装幀を担当したサイトヲヒデユキ氏は、本の着想について「おもちゃ箱をひっくり返したような本にしたかった」と振り返り、「途中に窓のような穴があったり、裏からみると鳥かごのようだったり、といった工夫を凝らしています」と遊び心あふれる仕掛けについて教えてくれた。

通常の塗り絵本は、土台となるイラストはモノクロである場合がほとんどだが、『the first』は見本となる絵にも多彩な色が使用され、より色彩のデモンストレーションがしやすく工夫され、その見本にならって色を塗るもよし、思い切ってまったく異なる色に挑戦するもよし、といった具合にあくまでその続きは子供たちの手に委ねられている。

3. ゴールは見て、塗って、触って、感じる本

「世界で最も美しい本コンクール2019」の講評は、

「表紙に美しくしっかりと押された箔押し、マット加工された丈夫な本文のページ、非常に細いしおり紐など、子どもにとってさまざまな素材に触れて、感触を楽しむことができる本といえる」※1

と本の手触りについても触れ、賛辞を贈っている。

審査員に「ページをめくらずにはいられない」と言わしめた『the first』の考え抜かれた造本設計。サイトヲ氏は「紙の風合いや特色印刷やシルク印刷・箔押しの質感、型抜きの変化など、視覚だけではなく触覚でも楽しんでほしい」とそのこだわりを語った。

「発色の良いシルク印刷を使うことで海外の絵本のような雰囲気を醸し出すことに成功した」と語る印刷会社アイワードは、「素材感のある紙×平坦な印刷で肌触りの違いを感じてもらいたい」とコメントしている。

『the first』はアパレルブランドが発行した本という特殊性もあり、一般の書店では販売されておらず、購入はボンポワンの店舗とオンライン販売のみとなる。「世界のブックデザイン2018-19」展は、この貴重な塗り絵本を実際に手に取り、その意匠を堪能することができる絶好の機会となる。ぜひ足を運び、世界が認めたその美しさを体感してみてほしい。

※1「Best Book Design from all over the World」公式サイトより抜粋

※2『第52造本装幀コンクール公式冊子』より抜粋

※3…日本図書設計家協会(The Society of Publishing Arts、略称SPA)は、装丁・装画など、出版物のデザインに関する研究・啓発・振興・発展、および装丁家・装画家などの社会的役割の発展と地位の向上等に取り組むことを目的とする日本では唯一無二の団体です。

■参考書籍&Webサイト

小林 真理 著 『画家のブックデザイン』─装丁と装画からみる日本の本づくりのルーツ(誠文堂新光社)

株式会社アイワード 事例紹介「the first」https://iword.co.jp/works/category-3/detail/the-first.html

「世界のブックデザイン2018-19」展

会期:2019年12月14日(土)~2020年3月29日(日)
会場:印刷博物館 P&Pギャラリー 入場無料
開館時間:10:00~18:00
休館日:毎週月曜日(2月24日は開館)、2月25日(火)
住所:東京都文京区水道1丁目3番3号 トッパン小石川ビル
WEB:https://www.printing-museum.org/exhibition/pp/191214/

書いた人

茨城県出身の85年生まれ。出版社、WEBメディアを経て、フリーの編集者に。野望は編集領域を媒体を超えて「場」に広げること。アートに目覚めたきっかけは、浪人時代に通っていた予備校の先生の一人が現役の画家だったから。大学・新卒時代を過ごした京都は第二の故郷。