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2020.02.28

「麒麟がくる」で明智が乗る馬「バンカー君」に会いに行こうよ!

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NHK大河ドラマ「麒麟がくる」は馬萌え目線で楽しんでいます。いや、長谷川博己さんが渋くてかっこいいのは間違いないですが、彼を乗せている美しい馬から目が離せないんです。1日がかりで山梨まで会いに行ってきました。

山梨県・小淵沢は馬の町だった!

時代劇や大河ドラマは馬の活躍あってこそだよな、と考えながら山梨県・小淵沢(こぶちざわ)までやってきました。JR中央本線とJR小海線が乗り入れる高原の町です。

この看板を見るまで、小淵沢が馬の町だなんて知りませんでした。目的は、この町の「ラングラー・ランチ」という乗馬クラブ。小淵沢の駅からタクシーで約5分のところに立地しています。

伝説的乗馬クラブ「ラングラー・ランチ」

澄んだ空気の中、オーナーの田中光法(みつのり)さんと愛らしい馬たちが出迎えてくれました。田中さんは、知る人ぞ知る馬術指導師。新宿で生まれた生粋の都会っ子なのに、お父様がある日突然小淵沢でウエスタンスタイルの乗馬クラブをはじめ、田中さんは4歳で牧場の少年に。その後、馬術を本格的にはじめ、9歳でジュニア部門で馬術大会に出場するなど、才能が開花。人は「あの人、馬で小学校に通っていたらしいよ」と噂します。

「新宿生まれで山梨の山道が歩けないから馬で行っていただけだよ」と、本人は素っ気ないですが、天賦の才と馬への愛情を感じさせるエピソードです。

現在、ラングラー・ランチはお父様に代わり田中さんがオーナー。本業は乗馬クラブですが、時代劇や大河ドラマへの馬術指導でも知られています。

脇役どころか馬の存在感は主役級

時代劇といえば、馬を使った迫力満点の合戦シーン。でも、よく見るとあの馬たち、戦国時代に日本にいない種なのでは!? そう、彼らは欧米からもたらされた馬たちです。実際に戦国武将が乗ったのは、木曽馬(きそうま)など。日本の馬は総じておとなしく人懐っこいのですが、田中さんによると、やや気難しい個体もいて時代劇などで役を演じるのには向かないそうです。

この話、犬で考えてみるとよくわかります。外国出身の洋犬は総じてフレンドリーですが、柴犬や秋田犬などの日本犬は頑固な傾向ですよね。

このような理由から、時代劇などでは、アメリカで作出されたクォーターホース(アメリカンクォーターホース)などの種が適任です。サラブレッドより小型ながら筋肉質でタフ。それでいて性格は温厚と、なかなかいいヤツらしい。

馬がこんなリラックスした表情を見せるなんて

気になる馬のトレーニング方法

まず最初に、前足を高く上げ後ろ足だけで立つ姿や人を乗せて疾走する姿はいかにも戦国! というイメージですが、田中さんいわく、「あれは本来はダメです」とのこと。

「早く走らせるのは誰でもできるわけで、技術があるのは馬を制している人です。小さな操作でいかに大きなパフォーマンスをできるかを競うのが馬術。何もしていないように見せるのが一番です。『ヒヒーン!』という後ろ足立ちなんて、乗馬の世界では御法度。そのままひっくり返ると人間が下敷きになってしまいます。立ち上がるという動作は馬にとっては反抗です。あれは馬に乗ったナポレオンの肖像画による悪影響ですね」

犬などのペットでも動物園や水族館の飼育動物でも、トレーニングは信頼関係がベース。してほしい動きをしたときにすかさずほめて、その動きを強化する方向で教えるのが今や常識。馬も同様で、ムチでたたいたりするより、人道的な方法が主流になっています。

「好ましくないことをしたら3秒以内に怒ることと、感情的にならないことが重要。時代劇などの撮影現場は幟や武器など、馬にとって見るのも嫌なものばかり。馬だって不快なことや痛いことは嫌なので、ストレスをかけずに慣らしていかなければなりません。一度でも嫌な目にあえば、いい演技をしてくれなくなります。最強の騎馬隊で知られる武田信玄も、普段から馬を使った軍事訓練して、馬を現場に慣らしていたのでしょう」

バンカーと田中さん

田中さんの秘蔵っ子のスピンは、本番に強いイケメン!

バンカーやスピンはもはやベテランの域。普段はボーっとしているのに、撮影になると表情はキリッと一変。「刀や鉄砲はもちろんのこと、燃え盛る火や爆破にもまったく動じません」と田中さん。

馬好きのための小ネタと撮影裏話

田中さんの仕事は馬をトレーニングすることですが、馬に乗る役者さんの指導という重大な役目も。「この役者さんにこの馬をあてがう」と決めることを「馬配(うまはい)」と言い、重大な責任かつ最大級の権限が与えられています。

「主役を務める役者さんの中には、『乗馬経験があるので練習しなくても大丈夫です』という方もいますが、一度乗ってもらえば一瞬で力量がわかります。どんな方でも50~60時間の練習は必要です。その中で、人と馬との相性も見極めます。中井貴一さんの武田信玄からNHK大河の仕事をはじめて、『麒麟がくる』まで約30年。さまざまな現場で仕事をしましたが、遠方でも自分の運転で馬を運び、撮影現場に行くようにしています」

ラングラー・ランチには、さまざまな経緯でやってきた馬がいます。競走馬として成績を残せなかったため食肉用の競りにかけられたところを「肉の値段で」買われてきた馬も……。

西部劇好きの青年も働いている

「日本では年間約7,000頭が競走馬として生産されています。寿命が20年とすると相当数がいるはずですが、ほとんどが競走馬として一生を終えられない、レースに出ても未勝利続きなどで処分されています。一方で、競馬で活躍できなくても乗馬や役馬で能力を発揮できる馬もいます。全部は救えないですが、そういう馬を見極めて連れてくることもあります」

会いに行ける時代劇・大河の馬

乗馬というとヨーロッパでは貴族のたしなみのイメージがありますが、アメリカはウェスタンスタイル、農耕民族である日本人にとって馬は仕事仲間。世界的に見ても、馬と人の歴史は犬より古い。

「乗馬や撮影の仕事を通じて、多くの人に馬を身近に感じてほしいという思いがあります。うちはいい馬から優先してお客さんを乗せているから、バンカーやスピンに乗っていただけるチャンスもありますよ」

つまり、わたしたちも長谷川博己さん(明智光秀)、岡田准一さん(軍師官兵衛)、菅田将暉さん(おんな城主直虎)などを乗せたスター馬に乗れるかもしれないということですね。時代劇ファン、馬愛好家は今すぐ小淵沢へ!

◆取材協力=ラングラー・ランチ
山梨県北杜市小淵沢町上笹尾3332
http://www5a.biglobe.ne.jp/~Wrangler/
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