源氏物語の主人公、光源氏には6人の子どもがいました。しかし、そのうち戸籍上・生物学上ともに親子関係があったのは、たった2人だけ。それでは他の4人は一体どのような子どもなのでしょう?
それぞれのプロフィールを紹介するとともに、彼らの背景にあるドラマをうかがわせる作中の和歌を選びました。
光源氏の子どもたち
光源氏を生物学上の父にもつ子どもは合計3人、それ以外が他3人です。
※記載した出生当時の光源氏の年齢は、おおよその目安です。
名実ともに実子
まずは戸籍上・生物学上ともに親子関係がある子どもの2人です。
夕霧(ゆうぎり)
母:葵上(あおいのうえ)
出生時の光源氏の年齢:23才
光源氏が最初に娶った正妻との息子です。見た目は光源氏とそっくりですが、父に似ず女性関係は地味。官位を極めた超エリートで子だくさんでした。
夕霧の母・葵上は、夕霧を生んですぐに亡くなってしまいました。
「夕霧」という呼び名の由来となった歌(夕霧から落葉宮へ)
山里のあはれをそふる夕霧にたち出でん空もなき心地して
訳:山里の寂しい思いをかきたてる夕霧がたちこめています。どちらへ立ち出でていけばいいかわかりませんので、あなたのお傍にいさせてください。
明石中宮(あかしのちゅうぐう)
生母:明石御方(あかしのおんかた)
育ての親:紫上(むらさきのうえ)
出生時の光源氏の年齢:28才
光源氏が須磨に流されている際に出会った女性、明石御方との娘です。生母である明石御方の身分が低かったため、光源氏の妻、紫上が育てました。
明石中宮の子ども(光源氏の孫)には、源氏物語の後半で活躍する匂宮(におうのみや)などがいます。
明石御方から光源氏への歌(明石中宮が生まれたばかりの頃)
数ならでなにはのこともかひなきになどみをつくし思ひそめけむ
訳:あなたの恋人の数にも入らない身分の私は、生きているかいもありません。それなのにどうして、身を尽くしてあなたのことを愛してしまったのでしょう。
深い事情の子
光源氏には、人には言えない深い事情がある子どもが2人います。
冷泉帝(れいぜいてい)
母:藤壺宮(ふじつぼのみや)
生物学上の父:光源氏(出生時18才)
戸籍上の父:桐壺帝
戸籍上は桐壺帝(光源氏の父)の子どもですが、実は光源氏と藤壺宮(父帝の妻)の不倫によってできた子どもです。藤壺宮の出産は予定日より2カ月も遅れましたが、これは不倫を隠していたため。生まれてきた子どもは光源氏そっくりでしたが、戸籍上は兄弟になるため、特に疑われずにすみました。後に冷泉帝として帝位につきます。
密会中、光源氏が藤壺宮に詠んだ歌
見てもまたあふよまれなる夢の中にやがてまぎるるわが身ともがな
訳:今こうしてあなたにお逢いすることができましたが、この先も滅多にお逢いできないのならば、このまま夢の中に紛れて消えてしまいたい。
薫(かおる)
母:女三宮
生物学上の父:柏木(頭中将の息子)
戸籍上の父:光源氏(出生時48才)
光源氏の晩年に生まれた薫は、光源氏の幼妻・女三宮と、若い貴公子・柏木の密通によってできた子です。光源氏は2人の不倫を知りながらも自分の子として育てました。光源氏に似ていなかった薫は自分の出生に疑問を持ちながら育ち、後にその秘密を知ることとなります。
柏木が死の直前に女三宮に贈った歌(薫出産の直前)
行く方なき空の煙となりぬとも思ふあたりを立ちは離れじ
訳:わが身が火葬されて行方も知れぬ空の煙となったとしても、恋しいあなたのそばを立ち離れはしません。
養女
光源氏は、2人の養女をひきとっています。それぞれ美しく才気あふれる女性だったため、光源氏は恋心を抱いてしまいましたが、なんとか手を出さずにすみました。
秋好中宮(あきこのむちゅうぐう)
母:六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)
父:前東宮
光源氏の元恋人・六条御息所と、亡くなった東宮(次期天皇)との間の子どもです。後に光源氏の息子・冷泉帝のお妃になりました。
秋好中宮の母・六条御息所は、光源氏を愛するあまり自らが生霊となるほどの苦しみを味わい、別れを決意しました。
秋好中宮に付き添って、母・六条御息所が伊勢へ下る折に詠んだ別れの歌(六条御息所から光源氏へ)
おほかたの秋の別れもかなしきに鳴く音な添へそ野辺の松虫
訳:もの寂しい秋の別れというだけで悲しいのに、さらに鳴く音を添えて悲しみを増やしてくれるな、野辺の松虫よ(私がどんなにあなたの訪れを待っていたかわかりますか)。
玉鬘(たまかずら)
母:夕顔
父:頭中将
頭中将の子どもですが、母・夕顔が頭中将の正妻から嫌がらせを受けて身を隠したため、しばらく行方不明となっていました。それを光源氏が見つけ出し、自分の養女としたのです。
美人の誉れ高く、多くの貴公子が我こそはと結婚を申し込みましたが、その中には実の姉とは知らない頭中将の息子たちもいました。数々の求婚者の中から、髭黒大将という男性が出し抜き結婚します。
髭黒大将と玉鬘の結婚に関する記事はこちら!
「玉鬘」と呼ばれる由来となった光源氏の歌
恋ひわたる身はそれなれど玉かづらいかなるすぢを尋ね来つらむ
訳:夕顔(玉鬘の母)を思い続けるわが身はそのままだけれど、美しい髪飾りのようなこの娘は、どのような筋で私のもとを訪ね来たのだろうか。
光源氏の光と陰を背負う子どもたち
たくさんの女性と関係をもった光源氏ですが、子どもの数は多くありません。しかし、子どもたち一人ひとりに、光源氏を中心とした壮大なストーリーが込められているのです。彼、彼女たちは光源氏の栄光だけでなく、陰も背負って生きていきました。それぞれ「光源氏の子」としてどのような人生を送ったのか、子どもたちの視点に立って源氏物語を読み進めていくことも楽しみのひとつです。
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