ミステリアスで、どこかかわいい日本の妖怪(ようかい)。ゲームやマンガ「妖怪ウォッチ」などのアニメでもおなじみですが、ルーツを辿るともっとおもしろくなるかも!? 歴史や代表的な妖怪を図版とあわせて詳しく解説します。
妖怪とは何か?
妖怪とは、人知を超えた怪奇現象やそれを起こす不思議な力、非日常的な事象をモチーフにした化物のこと。「妖(あやかし)」「物の怪(もののけ)」などとも呼ばれています。古代では、生物・無生物にかかわらず、自然物にはすべて精霊が宿っていると信じられてきました。妖怪と神の役割は同じく、誰のせいにもできない災禍(さいか)は、人間を超越した存在のせいにすると納得できたのかもしれません。
北斎季親(ほくさいすえちか)『化物尽絵巻』(部分) 江戸時代末期 国際日本文化研究センター蔵
妖怪の歴史
古代から中世 歴史書などの作品に登場
妖怪の歴史は古代にまで遡ります。「古事記」や「日本書紀」といった歴史書の中でも鬼や大蛇、怪奇現象に関する記述が既に見られており、平安時代には「今昔物語集」など怪異にまつわる説話の登場する説話集もいくつか編纂されていました。しかし、この時代は怪異の登場する書物は存在していますが、妖怪たちの姿かたちを描いたものは、まだありませんでした。
やがて中世になると、絵巻や御伽草紙の登場により、姿を持った妖怪たちとなって描かれるようになりました。室町時代に描かれた御伽草紙の「百鬼夜行絵巻」を見ると、登場する妖怪たちは、ペットのようにあどけない姿ばかり。妖怪は弱い人間に対して自分のほうから接触するものとして描かれていました。
伝土佐光信 「百鬼夜行絵巻」
江戸時代 浮世絵にも登場
江戸時代に入ると、妖怪の伝承に基づいた「百物語」など怪談会が大流行。中国の小説を翻案したり、伝承や物語をミックスすることが行われ、書籍などの創作も増えていきました。また、すごろくやカルタといった玩具のモチーフにもなり、葛飾北斎や歌川国芳など名だたる浮世絵師たちによって、妖怪はより具体的なイメージとして描かれるようになりました。
葛飾北斎『百物語 お岩さん』 中判錦絵 天保(1830~1844)年間初期 中外産業株式会社(原安三郎コレクション)蔵
歌川国芳「源頼光公館土蜘作妖怪図(みなもとよりみつこうやかたつちぐもようかいをつくるのず)」早稲田大学図書館蔵。平安末期の武将・源頼光が化けもの退治をする伝説のワンシーン。左上の奇妙な妖怪たちが、かの有名な天保改革の犠牲者の見立てではないかとの噂が立ち、幕府を風刺した絵として売れに売れたといいます。版元はあまりの反響に腰が引けて、この絵を自主回収したというオチが。
近代から現代 キャラクターやゲーム、漫画へ
妖怪は海外からの影響も受けつつ、見た目の固定化・キャラクター化が進み、かつての畏れは和らぎ娯楽の対象へと移り変わっていきました。かつて様々なメディアで妖怪が描かれたように、漫画「ゲゲゲの鬼太郎」やアニメ「妖怪ウォッチ」、映画や小説などでも、その姿を描かれています。また現代でも、噂話や世間話などを発端に「トイレの花子さん」や「口裂け女」など、新たな妖怪が生まれています。
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日本三大妖怪(種族)は鬼・河童・天狗
妖怪研究家・作家の多田克己さんは、鬼・河童(かっぱ)・天狗(てんぐ)の三種族を「日本三大妖怪」と定義しました。これらの妖怪は日本各地で広く伝承されている種族で、これに狐と狸を加えた「日本五大妖怪」とする説もあります。
鬼
角や牙をもつ人の姿をした妖怪。日本における鬼は「古事記」の黄泉醜女 (よもつしこめ) という隠形の鬼に始まり、時代や思想の流れとともに変化していきました。
河童
水辺に棲むとされる妖怪。子どもの姿で頭の上に水の入った皿がありおかっぱ頭をしています。水神または水神の一族・従者、あるいはそれの零落したものと考えられています。
天狗
古代、中国の古書「山海経」や「地蔵経」の夜叉天狗などの伝説が、日本の信仰と習合して生まれたものとされています。中世以後は山伏姿の赤ら顔で鼻が高く、口は鳥のくちばしのようで羽うちわを持った姿で描かれています。
日本三大悪妖怪は鬼・九尾狐・天狗
日本の民話や伝説に登場した妖怪の中でも、特に非道で大きな被害をもたらしたとされる妖怪が「日本三大悪妖怪」と呼ばれています。その3妖怪とは、鬼の酒呑童子、九尾狐の玉藻前、天狗になった祟徳天皇とされています。
酒呑童子(しゅてんどうじ)
平安時代、京に住む若者や姫が次々と神隠しに遭う怪奇現象が起こりました。そこで陰陽師が占ってみたところ大江山に住む鬼(酒呑童子)の仕業ということが分かり、帝が家来を征伐に向わせました。家来が鬼の居城を訪ね話を聞いたところ、酒好きなため「酒呑童子」と呼ばれていることなど身の上話を語りはじめました。そこで家来たちは「神変奇特酒」(神便鬼毒酒)という毒酒を振る舞い、酒呑童子の寝所を襲い退治に成功しました。住んでいる山は諸説あるようです。
歌川国芳「大江山酒呑童子」
玉藻前(たまものまえ)
平安時代、鳥羽上皇に寵愛されれていた女性・玉藻前。美貌と博識から愛されていましたが、その正体は九尾の狐でした。やがて陰陽師によりその正体を見破られ、玉藻前は白面金毛の九尾の狐の姿となって姿を消します。九尾の狐は、近づく人間や動物等の命を奪い、人々を恐れさせましたが、その後、那須野(栃木県)で発見され、武士に退治されました。この玉藻前の伝説の成立は、室町時代の前期以前であると考えられており古くは「神明鏡」や御伽草子の「玉藻の草子」に描かれています。
鳥山石燕「今昔画図続百鬼」
祟徳天皇(すとくてんのう)
元永2年(1119)に誕生した崇徳天皇。3歳という幼さで、日本の第75代天皇として即位しました。その後は不遇の人生を辿り、保元の乱の敗戦により讃岐国(香川県)へ流罪となります。崇徳上皇は讃岐国で仏教を心の拠りどころとし、犠牲者の供養と自らの反省を表すために写本を書きますが「呪いがかかっているのでは」という疑いから受け取ってもらえませんでした。その怒りから舌を噛み切り、その血で「日本国の大魔縁となり、皇を取って民とし民を皇となさん」「この経を魔道に回向(えこう)す」と血で書いたといいます。それはまるで夜叉のように恐ろしい姿で、生きたまま天狗になったと言い伝えられています。ちなみに「酒呑童子」「玉藻前」はお話の中で退治されましたが、天狗になった祟徳天皇は未だ退治されていません。
歌川国芳「百人一首之内」より「崇徳院」
妖怪と幽霊の違いは?
幽霊とは「死んだ人の霊」や「成仏できなかった魂の姿」のことを指します。どこかかわいらしく、ユーモラスな姿をした妖怪たちに比べると、日本の幽霊は、おどろおどろしい不気味な姿で描かれてきました。それは、幽霊は「この世の未練(復讐や執着、怨念)を晴らすために現れる者」と定義されてきたため、凄惨な印象が強くなったことから生まれたイメージとされています。
平安時代から室町時代、幽霊の登場
幽霊が初めて資料に登場するのは平安の後期といわれていますが、この時点では文献のみ。私たちのよく知る姿を描いたものは、ありませんでした。その後、鎌倉時代や室町時代の絵巻に妖怪の絵が豊富に見られますが、ここでもまだ幽霊は描かれていません。しかし能には幽霊の登場する作品が現れ、やがて怪談も語り継がれはじめました。
江戸時代、怪談や絵画で一気にブーム
江戸時代には怪談噺などが大流行。江戸時代初期、円山応挙の描いた幽霊は、髪を乱し、青ざめた顔に白装束。艶めかしくリアリティあふれる姿をしていました。これが現在の「幽霊のイメージ」の典型と言われています。「雨月物語」「牡丹燈籠」「四谷怪談」などの幽霊の登場する名作が生まれたほか、江戸の絵師たちの手により水墨画や浮世絵なども盛んに描かれるようになりました。
幽霊の4つの条件
1.特定の人に憑く
幽霊は、現世に未練があるまま死んでいった人が化けたもの。だから未練をつくった本人や関係者の前にしか現れません。望みやグチをきちんと聞いてくれて、未練が解消されたら姿を消すとか。
2.足がない
「神霊になった人間は宙に浮いて飛行できる」「仏画の来迎図(らいごうず)に由来」「亡者(もうじゃ)は地獄で足を切られる」など、幽霊の足がない理由はさまざま。はっきりしているのは下半身を消すことで、亡霊というカテゴリーがより鮮明になり、現世とあの世との差別化に成功したということです。
3.生前の姿で現れる
生前とまったく違う姿では、恐怖の効果が半減するため、亡くなったときの衣装で、ホラーを感じさせる髪型や顔つきであることも重要。ごっそりと髪を抜けさせたり、目を腫らしたりして、視覚効果を上げることもあります。
4.決めポーズは「懐手」
江戸時代の「百怪図巻」の雪女は、下腹に右手を当てています。それは人間との間の子供がお腹にいることを暗示する、との説が。懐に右手を入れた幽霊像を描きはじめたのは、円山応挙といわれています。
渓斎英泉「幽霊図」福岡市博物館蔵 画像提供 福岡市博物館 DNPartcom
ちなみに葛飾北斎も描いた、百物語に登場する「小幡小平次(こはだ こへいじ)」。彼は、江戸時代の歌舞伎役者で、幽霊の役で名をあげた後に殺害されて自分を殺した人物のもとへ幽霊となって戻ってきたという実在しない人物です。これは妖怪ではなく、幽霊の分類とされています。
■幽霊の正体は?ひゅ〜どろどろ〜の音は? 幽霊の歴史に迫る!
日本の有名な妖怪12選
1.小豆洗い(あずきあらい)
全国各地に出没。ショキショキと音をたてて川で小豆を洗う妖怪。江戸時代の奇談集「絵本百物語」に描かれている小豆洗いの特徴は、体に障害を抱えた子どもの姿で、物の数を数えるのが得意、小豆の数を一合でも一升でも間違いなく言い当てられるといわれています。
2.座敷わらし(ざしきわらし)
岩手県を中心に伝えられている精霊的な妖怪。子どもの姿をしており屋敷の座敷や蔵に住んでいて、その家に富をもたらすなどの伝承があります。柳田國男の「遠野物語」にも登場する妖怪です。
3.海坊主(うみぼうず)
海に住む妖怪。海入道とも呼ばれ、大入道の姿で現れ,見上げるようにするとますます大きくなるが見下すようにすると消えるといわれています。寛政時代の随筆「閑窓自語」では、海坊主が海から上がって3日ほど地上にいたという記載もあり、海に帰るまでの間は子供は外に出ないよう戒められていたんだそう。
4.一反木綿(いったんもめん)
鹿児島県に伝わる妖怪。野村伝四と柳田國男の「大隅肝属郡方言集」に記載されている姿は「一反(長さ約10m、幅約30cm)の木綿のようなものが夕暮れ時にヒラヒラと飛び人を襲うもの」。
5.木霊(こだま)
山や谷で声が反射して遅れて聞こえる現象であるやまびこは、かつて木の妖怪「木霊」の仕業とされてきました。古くは「古事記」にある木の神・ククノチノカミが木霊と解釈されていたり、平安時代の辞書「和名類聚抄」には木の神の和名として「古多万(コダマ)」の記述があります。
6.猫又(ねこまた)
日本各地にある伝承や民話、怪談に登場する猫の妖怪です。猫又の物語は、大きく2つに分類されます。1つ目が、ペットとして暮らしていた猫が化けたもの。2つ目が山に住む猫の化けたもの。描かれる姿は地域や書物ごとに異なりますが、尻尾が2つに分かれている姿が特に多く見られます。長生きした猫がやがて猫又に化けると伝えられていますが、これは日本だけでなく、中国でも言い伝えとして多く残っています。
7.鳴釜(なりがま)
鳥山石燕の妖怪画集「百器徒然袋」に描かれている、頭が釜の妖怪。釜を火で炊くときの音から吉凶を判断したりする神事や、釜が思いもよららない音を鳴らすことで占いをすることが命名の由来のひとつであると考えられています。
8.ぬらりひょん
謎の妖怪。江戸時代に描かれた妖怪絵巻などにその姿が多く確認できますが、その詳細は不明。多くは老人の姿をしており、昭和以降の妖怪関連の文献では、家の者が忙しくしている夕方時などにどこからともなく家に入り、お茶を飲んだり自分の家のようにふるまう妖怪と解説されています。
9.鵺(ぬえ)
「平家物語」などにも登場する、猿の顔と狸の胴体、虎の手足を持ち、尾は蛇の妖怪。平安時代後期のに出現。
10.ぬりかべ
九州北部に伝えられている妖怪。福岡の伝承では、夜道を歩いていると目の前に突然目に見えない壁が現れ、前へ進めなくなってしまうというもの。大分県では、動物などが起こす妖怪として、同じような話が民間に伝えられているんだそう。
11.がしゃどくろ
がしゃ髑髏(どくろ)は、日本の妖怪です。お墓に埋葬されなかった人の骸骨や怨念が集まって巨大なドクロの姿になったといわれる妖怪で、夜の暗闇の中でガチガチ音をたててさまよい歩き、生きている人に襲いかかっては握りつぶして食べると言われています。妖怪としての歴史は非常に浅く、昭和中期に創作された妖怪です。日本各地に昔から伝わる民間伝承由来の妖怪とは異なり、1960年代の児童書などで創作されたものが起源とされています。
江戸時代の浮世絵師・歌川国芳が描いたこの有名な作品は、がしゃどくろのイメージとして一般的に知られていますが、実はがしゃどくろを描いたものではなく、巨大なドクロを描いたもの。しかし、この浮世絵が昭和の作家・漫画家たちへインスピレーションを与えたことは間違いありません。
12.河童(かっぱ)
日本の有名な妖怪のひとつ、河童(かっぱ)。河に現れること、童(こども)の姿をしていることから、その名前がつきました。その伝説や物語は全国各地に伝わり、呼び名も見た目も少しずつ異なります。
多く伝えられている姿は、子どものような体格で、全身が緑色。背中に亀の甲羅のようなものを背負っていて、頭の上には丸い皿があります。この皿には常に水が張られていて、皿が乾いたり割れてしまうと、力が出なくなるとされています。
また、現在描かれている河童の多くは、魚のような鱗に覆われた爬虫類のような姿をしていますが、18世紀以前の博物書などには、猿人のような姿で描かれることが多くありました。
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参考:水木しげる『図説 日本妖怪大鑑』、多田克己『幻想世界の住人たちⅣ<日本編>』、ブリタニカ国際大百科事典
※記事中の画像は、過去の「和樂」掲載記事を再編集したものです。