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2019.09.03

猫、がいこつ…奇抜な浮世絵で大人気!歌川国芳の有名な作品と生涯を紹介

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奇抜で豪胆、自由闊達。歌川国芳(うたがわくによし)の浮世絵を評す言葉は、そのまま彼の性格そのものだったといわれます。私を「ワッチ」、お前を「メェ」と言うべらんめえ口調で、火事と喧嘩が大好きな江戸っ子気質。幕末屈指の人気絵師でありながら“先生然”とするのが嫌いだったようです。気性の荒い町火消(まちびけし)たちと親しく交わり、火事とあらば遠近問わず駆けつけて、消火を手伝う男気のよさ。親分肌の国芳のもとには70人以上の弟子が集まり、家族のような深い絆で結ばれていました。そんな熱い男・歌川国芳は、いったいどんな人生を送っていたのでしょうか。

人気浮世絵師・歌川国芳とは?

歌川国芳、意外にも長かった下積み時代

国芳は、寛政9(1797)年に江戸日本橋の染物屋の家に生まれ、15歳のころに初代歌川豊国(とよくに)に弟子入りします。その後、画壇デビューを果たすものの、なかなか才能を発揮することができず、名声を手にするのは30歳を超えてからのこと。

国芳晴れやかに練り歩く国芳一門を描いた一枚。左端の派手な着物を着た後ろ姿が国芳だといわれています。歌川国芳「勇国芳桐対模様」嘉永初期 大判錦絵三枚続 ギャラリー紅屋

歌川国芳ブーム到来! 人気浮世絵師の仲間入り

スターダムにのし上がるきっかけとなったのは、文政10(1827)年ごろ、「水滸伝」に登場するヒーローを一図ずつ武者絵として描いた「通俗水滸伝豪傑百八人之一人」のシリーズでした。当時、曲亭馬琴が翻案した「傾城水滸伝」がベストセラーとなり、世の中は「水滸伝ブーム」の真っただ中。商機を狙った版元加賀屋が国芳に「水滸伝」をモチーフにした大判錦絵をまかせ、見事、大ヒットとなりました。躍動感に満ちたヒーローたちの姿は、大人から子どもまでの心をわしづかみにし、さらには、当シリーズに描かれた武将たちの刺青に憧れた江戸っ子たちの間に国芳作品の“彫り物”ブームが巻き起こり、まさに快哉を叫ぶ思いだったのではないでしょうか。

国芳大ヒットとなった「水滸伝」シリーズの中でも特に人気のある、水中での格闘場面。歌川国芳「通俗水滸伝豪傑百八人之 一人 短冥次郎阮小吾」大判錦絵 文政10〜天保元(1827〜1830)年 ギャラリー紅屋

江戸っ子にも大人気。時代を超えて人々を魅了する歌川国芳の作品たち

人気絵師となり、次々と作品を発表していくなかで、天保の改革が始まります。遊女や歌舞伎役者を浮世絵に描いたり、贅沢な風俗を描写したりすることが幕府に禁じられましたが、国芳の手にかかれば、なんのその。猫や雀を擬人化して遊郭を描いたり、役者に似た顔の魚を描いたり、巧みな手法ですり抜け、大衆をよろこばせました。

国芳猫を擬人化して遊郭を描いた作品。歌川国芳「おぼろ月猫の盛」弘化期 団扇絵判 錦絵 ギャラリー紅屋

天保年間(1830〜1844)の終わりごろからは、大判錦絵3枚をワイドスクリーンのようにとらえ、ひとつのモチーフを一図として描く、迫力ある作品を多く発表。浮世絵の新機軸を生み出し、絵師たちに意識改革を与えたことは国芳の大きな偉業のひとつといえるでしょう。大鯨も妖怪も大海原も縦横無尽に描かれた国芳の絵は、江戸の人々だけでなく、現代の私たちも魅了し続けます。

国芳大判錦絵3枚続きの作品の中でも、最も有名な大作。歌川国芳「相馬の古内裏に将門の姫君瀧夜叉妖術を以て味方を集むる大宅太郎光国妖怪を試さんと爰に来り竟に是を亡ぼす」弘化元(1844)年ごろ 大判錦絵三枚続 ボストン美術館

浮世絵師・歌川国芳、永遠のライバルは歌川国貞

国芳にとって生涯のライバルが、同門の兄弟子であった歌川国貞(くにさだ)。国貞は裕福な商人の子であり、若いころから美人画、役者絵の錦絵を発表して脚光を浴びました。まだ国芳がくすぶっていた若いころに、人気絶頂の国貞が柳橋の芸妓らと遊んでいるところへ出くわして、その悔しさから奮起したという話も。やんちゃな国芳にくらべて、国貞はまじめな性格だったようです。

国芳ほかの浮世絵師に比べると肉筆画は多くないですが、美人画も上品で独自の魅力が。歌川国芳「桜下身づくろいの芸者図」嘉永元〜3(1848〜1850)年ごろ 絹本一幅 太田記念美術館

国貞は、当時人気のあった役者や遊女など「江戸の風俗そのもの」を描くことが得意で、それゆえに、現代では歌舞伎や古典文学など江戸の文化に精通する研究者などにファンが多く見られます。一方、国芳は、読本や芝居のアクションシーンなど「物語」を描くことが十八番。その物語性によって、マンガやアニメと同じような感覚で、今、広く世界に受け入れられているのかもしれません。

国芳金太郎の絵も多く手がけました。歌川国芳「坂田怪童丸」天保7(1836)年ごろ 大判錦絵 ギャラリー紅屋

でも、国芳のスゴさはそれだけではないのです。その画力、その発想、そのユーモア! 知れば知るほど、国芳の作品には、時代と場所を超越する見事な力が備わっていることに、気づかされます。

国芳歌川国芳「絵鏡台合かゞ身 猫しゝ・みゝづく・はんにやあめん」団扇絵2枚組 天保13(1842)年ごろ ギャラリー紅屋蔵

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