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2023.04.28

唯一無二のミスター狩野派、狩野永徳【カリスマ絵師10人に学ぶ日本美術超入門】vol.2

シリーズ「カリスマ絵師10人に学ぶ日本美術超入門」。今回は狩野永徳(かのうえいとく)を、代表作とともにご紹介します。

そのほか9人の絵師はこちらからご覧ください。

そうだったのか日本美術04
燃えちゃった・・・

狩野派の御曹司(おんぞうし)として生まれた永徳は、幼くして画才を認められ、英才教育を受けたエリート中のエリート絵師。
23歳という若さで『洛中洛外図屛風 上杉本(らくちゅうらくがいずびょうぶ うえすぎぼん)』を完成して卓越した画力を発揮した永徳は、狩野派3代目の父・松栄(しょうえい)から頭領(とうりょう)の座を譲られ、若くして4代目を継いでいます。
永徳率いる新しい狩野派は、天下布武(ふぶ)を果たした織田信長が築城した安土城(あづちじょう)の障壁画制作を命じられ、永徳が描いた「瀟湘八景(しょうしょうはっけい)」や「花鳥」、「釈迦十大弟子(しゃかじゅうだいでし)」を信長が喜んだと伝わります。
その後の豊臣秀吉にも重用された永徳は、大坂城や聚楽第(じゅらくだい)障壁画を一手に引き受け好評を得たとされますが、いずれも戦火により焼失。これは、日本美術にとっても大きな喪失でした。

永徳作品の現存数の少なさは、戦乱の世の宿命だったとしても、あまりにも残念すぎる!

そうだったのか日本美術05
織田信長・豊臣秀吉の二大武将に愛された

永徳が名声を得たのは本人に才能があったことが第一ですが、織田信長に取り立てられたことを抜きにして語ることはできません。
その出会いは『洛中洛外図屛風 上杉本』であったと考えられ、それぞれの世界で天下をうかがっていた者同士の意志が通じあったのか、信長は永徳をお抱(かか)え絵師に任命。安土城など自身の力を誇示するためにつくらせた建物の障壁画を永徳にまかせ、絵師としてトップの座を与えたのです。
信長の跡を継いだ秀吉もまた、聚楽第や大坂城などの巨大建築を一任。永徳は多忙を極め、細密な絵を描く余裕を失ったことで、大画面に巨大なモチーフを描く大画(たいが)へシフト。それが『唐獅子図屛風』や『檜図屛風』などの名画へとつながったのです。

『檜図屛風(ひのきずびょうぶ)』 狩野永徳 国宝 紙本金地着色 4曲1双 安土桃山時代・天正18(1590)年 各縦170.0・横230.4㎝ 東京国立博物館 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp) 
檜の大樹が幹をうねらせ、大枝を振りかざす豪放な形態と濃密な色彩は、当時の美意識を余すところなく体現している。天正18年(1590)に落成した八条宮(後の桂宮家)邸を飾った襖絵であったとされ、永徳の最晩年作と考えられる。

そうだったのか日本美術06
狩野派300年の礎を築く

室町時代後期の正信を初代とする狩野派は2代目元信が画風を整理し、4代目永徳で頂点を極めます。
しかし、多忙によって健康を害した永徳は48歳で急逝(きゅうせい)。天才絵師の思いがけない死は狩野派の屋台骨を揺るがしかねない事態でもあったのです。永徳の長男・光信と次男・孝信、弟の長信、門人の山楽、内膳らの活躍で、豊臣と徳川が拮抗していた時代にそれぞれの御用絵師を務め、狩野派の勢力はむしろ拡大します。さらに、孝信の長男・探幽(たんゆう)は永徳の再来と称された天才で、徳川幕府の御用絵師として江戸へ上り、永徳の作風を受け継いだ山楽は京狩野(きょうがのう)として系譜を継承。
永徳がいたからこそ、狩野派は江戸時代をとおして絵師の最高峰であり続けられたのです。

『花下遊楽図屛風(かかゆうらくずびょうぶ)』 狩野長信 国宝 紙本着色 6曲1双 江戸時代・17世紀 各縦148.6・横355.8㎝ 東京国立博物館 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp) 永徳の画風を受け継いだ、永徳の弟・長信の国宝屛風。

『納涼図屛風(のうりょうずびょうぶ)』 久隅守景(くすみもりかげ) 国宝 紙本墨画淡彩 2曲1隻 江戸時代・17世紀 縦149.1・横165.0㎝ 東京国立博物館 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp) 守景は狩野探幽門下の四天王のひとり。夕顔棚の下で夕涼みをする三人家族の穏やかな雰囲気に心癒される。

カリスマ絵師02 狩野永徳プロフィール

かのう えいとく
天文12(1543)年~天正18(1590)年。狩野派3代目松栄の長男として京都に生まれ、早くから天才と称され、狩野派正統の画風で頭角を現す。若き日は細密な描写で力量を発揮し、狩野派頭領として多忙を極めるにしたがい大画様式、怪奇様式など、独自の画境を極めていった。

※本記事は雑誌『和樂(2018年4・5月号)』の転載です。

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和樂web編集部

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