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2023.08.23

風景画のエンターテイナー、歌川広重はどんな人?【カリスマ絵師10人に学ぶ日本美術超入門】vol.10

シリーズ「カリスマ絵師10人に学ぶ日本美術超入門」。今回は歌川広重(うたがわひろしげ)を、代表作とともにご紹介します。

そのほか9人の絵師はこちらからご覧ください。

そうだったのか日本美術28
江戸の旅行ブームの火付け役

美人画や役者絵を得意としていた歌川派にありながら、円山応挙の影響で写生を重視していた広重は、名所絵に活路を見出します。そうして『東都名所(とうとめいしょ)』シリーズを発表したものの、同時期の北斎作『冨嶽三十六景(ふがくさんじゅうろっけい)』の大人気のあおりを受け、成功にはいたりませんでした。

それから2年後、37歳の広重は有名版元・保永堂(ほうえいどう)の依頼を受け、東海道の53の宿場を写生して描き上げた『東海道五十三次』シリーズを、満を持して発表。当時、十返舎一九(じっぺんしゃいっく)が書いた滑稽本(こっけいぼん)『東海道中膝栗毛(とうかいどうちゅうひざくりげ)』が話題になっていたことも手伝って、『東海道五十三次』は空前の大ヒットを記録します。それによって、富士山信仰による参拝の旅や、伊勢へのおかげ参りなどの旅行ブームも本格化していきました。

『東海道五拾三次(とうかいどうごじゅうさんつぎ)』上から「日本橋 朝之景(にほんばし あさのけい)」、「箱根 湖水図(はこね こすいず)」、「庄野 白雨(しょうの はくう)」 歌川広重 1帖(55枚) 江戸時代・19世紀 横大判錦絵 東京国立博物館 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp) 江戸と京都を結ぶ東海道の53駅に、日本橋と京都三条大橋を加えた55図揃いのシリーズ。明快な色の対比とユーモアあふれる人物描写は、浮世絵風景画としては軽快な印象に仕上がっている。昭和の時代には、永谷園の「お茶づけ海苔」のおまけとして知られていた。

そうだったのか日本美術29
大胆な構図のインパクト

風景をより印象的に見せる構図に心を砕いて様々な名作をものにした広重は、60歳を目前に隠居を考えていたころ、安政の大地震に遭います。江戸市中は火の海と化し、7000人を超える死者を出した大災害に直面し、生家が火消同心(ひけしどうしん)であった広重は落胆すると同時に、江戸の町の無残な様子に心を痛めます。そして、還暦を機に剃髪(ていはつ)し、江戸の復興の様子を絵に残すことを決めるのです。

そうして発表したのが『名所江戸百景(めいしょえどひゃっけい)』で、広重は各地をできるだけわかりやすく表現するために、それぞれの名物を大きく手前に配するという大胆な手法をとります。これは中国・南宋の画法にならったものとされますが、インパクトある構図は広重の地元愛の賜物(たまもの)でもあったのです。

『名所江戸百景 深川洲崎十万坪 (名所江戸百景)』広重 国立国会図書館デジタルコレクション
名物を極端に大きく配した大胆な構図は、広重の地元・江戸の町に向けた愛情の表れともいわれる。

そうだったのか日本美術30
あのゴッホも手本にした!?

ジャポニスムで沸き立っていたパリで、浮世絵に心を動かされた画家たちの中でも、とりわけ広重の風景画に心を動かされたのがゴッホでした。
生前のゴッホは不遇をかこち、パリでゴーギャンやドガらと親交を深める中で浮世絵と出合い、その魅力に圧倒されたのです。そしてゴッホは、貧しい暮らしにもかかわらず、浮世絵のコレクションを始め、広重の『名所江戸百景』のうち『大はしあたけの夕立』と『亀戸梅屋舗』を最も気に入っていたとされます。なぜなら、両作に表された遠近の対比や鮮やかな色彩は、西洋にはなかったものだから。斬新な手法を学び取るために油彩の模写も行っていて、作品にはゴッホの浮世絵への憧憬と、成功への願いが託されているかのようです。

『名所江戸百景(めいしょえどひゃっけい)』、上から「大はしあたけの夕立」、「亀戸梅屋舗(かめいどうめやしき)」 歌川広重 横大判錦絵 江戸時代・安政4(1857)年 東京国立博物館 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp) ゴッホも模写した名所江戸百景の2作。今見ても斬新だ。

 

カリスマ絵師10 歌川広重プロフィール

うたがわ ひろしげ
寛政9(1797)年~安政5(1858)年。幕府御家人の火消同心の安藤家に生まれ、両親の死後に人気絵師・歌川豊国(とよくに)に弟子入り。『東海道五十三次』、『木曾街道六十九次』『京都名所』など風景画で人気を博する。『名所江戸百景』の完成を見ぬまま62歳で没す。

※アイキャッチ画像
歌川広重「東海道五拾三次 日本橋 朝之景」東京国立博物館
出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

※本記事は雑誌『和樂(2018年4・5月号)』の転載です。

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和樂web編集部

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