歴史ある建仁寺で特別な体験
今回のイベントは、10組20名の「茶炉音(サロン)・ド・和樂」会員様をご招待した贅沢なものです。まずは会場の建仁寺で皆様をお迎えしました。この日は雨模様のお天気でしたが、それも美しい枯山水の庭を引き立たせる演出のよう! 京都最古の禅寺として知られる建仁寺は、鎌倉時代の建仁2(1202)年の開創で、当時の年号から名づけられています。
本坊では、門外不出の日本美術の名作を所蔵する、アメリカ・スミソニアン国立アジア美術館の開館100周年を記念して、貴重な日本絵画の高精細複製品18点を公開する特別展示を開催中。限定イベントでは、通常の観覧時間終了後、ご招待者だけで観覧というスペシャルな体験でした。建仁寺の建物と庭とのコラボレーションが、特別感を倍増させます。
暗闇の中、ライトアップされた館内を回る
日が落ちると本坊内はライトアップされて、幽玄な雰囲気を醸し出し、非日常の世界へと誘います。参加者それぞれに渡されたLEDのミニ蝋燭を手にしながら進むスタイルは、通常の美術館の鑑賞とは違うので、少しドキドキ。
下からのライトで浮かび上がる屏風は美しく、惹きつけられます。ガラス越しではなく、間近で見られるのも、高精細複製品だからこそ。
建仁寺所蔵の国宝『風神雷神図屏風』の高精細デジタル複製も見られました。これは京都文化協会とキヤノンが文化財の複製を作って寄贈する、「綴(つづり)プロジェクト」の活動によるもの。高性能カメラで撮影し、専用の和紙に印刷した後、京都の職人が金箔をはって表装を手がけた、最先端と伝統技術の融合です。今回展示されているのは、2021年に、10年ぶりに奉納されたバージョンアップ版です。特別展示の作品も、綴プロジェクトが製作しています。
フランクさんの解説を少人数で聴く贅沢
今回の観覧は、スミソニアン国立アジア美術館 日本美術主任学芸員のフランク・フェルテンズさんが一緒に回りながら、解説をして下さるという贅沢さ。参加者は流ちょうな日本語で繰り出される言葉を、聞き逃さないようにとじっと聞き、そして時には質問を投げかけたりと、濃密な時間が流れていました。
「狩野派を設立した画家の1人である元信の屏風です。この作品は国立アジア美術館の中でも貴重なものです。中央の絵は水墨画で、周囲の大和絵も元信が描いています。両方の画法を合わせているのは、世界でもこの作品だけですね。水墨画の部分は絹地に描かれているのですが、複製品も絹地に印刷されているので、とても完成度が高いですね」。金箔の貼り方も素晴らしいというフランクさんの言葉を聞いて、海を越えた先にある本物の作品と出合ったような気分になりました。
国立アジア美術館のお客さんに人気のある、葛飾北斎の作品も紹介してくださいました。「この『富嶽図』は、特に人気があります。一見すると静かな印象ですが、作品から多くの音を感じますね。柳の大木に腰掛けている男の子が吹く笛の音、川の音や、遠くからの雷の音など。このように、作品に音が溢れていて、瞑想を誘導しているようなところが、人気が高い理由だと思います」
一期一会の絶景を、参加者一同で堪能
廊下を回遊しながら次はどんな作品が展示されているのか、ワクワクしながら暗闇を進みます。中庭に面した廊下を渡ろうとすると、「右側は見ないでくださいね」と係からのアナウンスが。えっ? どういうことだろうと思いつつも、反対側を向きながら廊下を渡りきると、素晴らしい光景が広がっていました。
ちょうど中庭越しに、向かい側にしつらえた屏風が見えるのですが、そこには美しい紅葉の屏風がありました。一足早い紅葉見物とは、なんて風流なのでしょう。庭の緑とのコントラストも素晴らしくて、見惚れてしまいました。色鮮やかな紅葉の屏風、暗闇、ライト、雨に濡れた庭と、全てが合わさった総合芸術のよう。この日、この一時でしか見られない美しさに、参加者からは感嘆の声が上がっていました。
『紅葉に流水図屏風』を展示している部屋では、裏面も見ることができました。趣の違う、文人画風の水墨山水画です。このように屏風の両面が見られるのも、高精細複製品だからなのでしょう。
最後の展示は、北斎が描いた『雷神図』でした。88歳の作品を意味する烙印に驚きましたが、ふと見ると「百」の印章が押されています。「北斎は90歳で亡くなりましたが、100歳まで描こうと、その思いがあったようです」とフランクさんが解説して下さいました。病と戦いながらも、描いたこの作品には、北斎自身を投影していたのではないかとフランクさんは続けます。北斎の魂が込められた『雷神図』をガラス越しではなく、夜の建仁寺の部屋に飾られた掛け軸で見られて、なんだか胸がいっぱいになりました。
祇園・カーサ ヴァレクストラで懇親会
観覧後は、次の会場となる「カーサ ヴァレクストラ」へ。建仁寺を出ると、タイミング良く雨があがっていて、心が弾みます。石畳の道を少し歩くと、元2階建ての茶室をリノベーションした建物に到着しました。この店舗は、熟練した職人による手仕事で有名なミラノ発祥のブランド・ヴァレクストラが、体験型スペースとして6月にオープンしたばかり。2階へ上がると、ブランドの名品を眺めながらくつろげるプライベートバーがあって、驚きました。奥には、畳敷きの間があり、京都らしい風情を感じさせます。
ザ・リッツ・カールトン京都とコラボレーションしていることから、ホテルスタッフの一流のサービスが受けられる夢のような空間です。シャンパンやフィンガーフードを楽しみながら、ヴァレクストラのクラフツマンシップを知る懇親会がスタート。
先ほどの特別展で見た北斎の高精細複製図の部分カットが飾られていて、楽しいアート談義も盛り上がりました。この作品は、まだ金箔などを塗る前の段階の高精細複製画の途中工程だそう。完成品と思えるクオリティなのに、ここからさらに改良が加えられたと知ると、いかに精密な作業なのかが実感できます。
京都で出合うイタリア職人のコレクション
1階では商品が美しくディスプレイされていて、まるでミュージアムのようでした。デザイン性と機能性を兼ね備えたコレクションの数々にうっとりしたり、手に取ったり。華やかな雰囲気の中、ショッピングをお楽しみいただきました。
イタリアの職人が京都へのオマージュとして、着物を収納するために特別に設計したトラベルケースも誕生したのだとか。この商品は、注文をすれば手に入れることができるそうです。
古都・京都で開催された催しは、終始和やかなムードで、終えることができました。今後も、このような読者のみなさまにお楽しみいただけるイベントを開催予定です。
イベントの様子はぜひ動画でもご覧ください。
「茶炉音・ド・和樂」のご案内
『和樂』では、今後も読者の方にお楽しみいただける、スペシャルなイベントを計画しています。
このような特別な企画、プレゼントのご案内は「茶炉音(サロン)・ド・和樂」ご登録のみなさまへお届けします。ぜひお気軽にご参加ください!
基本情報
建仁寺
京都市東山区大和大路通四条下る小松町
公式ウェブサイト:https://www.kenninji.jp/
綴プロジェクト
公式ウェブサイト:https://global.canon/ja/tsuzuri/
Casa Valextra(カーサ ヴァレクストラ)
京都市東山区祇園町南側570番地8
公式ウェブサイト:https://www.valextra.jp/
スチール撮影/伊藤信 映像/渡辺誠司、 RIVERSCAPE