阿寒湖温泉、アイヌの織物から生まれた下倉絵美さんの籠バッグ

阿寒湖温泉、アイヌの織物から生まれた下倉絵美さんの籠バッグ

「私のつくっているものは、家族の歴史そのもの」そう話すのは、夫と共にジュエリーブランド〈Ague〉を営み、アーティストとしても活動されている下倉絵美さん。2019年10月12日にBEAMS JAPAN 5Fのfennica STUDIOで発売されるコラボレーションアイテムでは、籠バッグを制作しています。

阿寒湖に暮らす人々と生活の手仕事

北海道釧路市、阿寒摩周国立公園の西のエリアに位置する阿寒湖温泉。この地で人々は、仕事に勤しんだり食事を楽しんだり子育てするのと同じように、生活の手段のひとつとして、さまざまなものづくりをしています。

そんな阿寒湖温泉に暮らす人たちとfennicaによる、2年の歳月をかけてつくりあげたオリジナルアイテムが、2019年10月12日〜20日にBEAMS JAPAN 5Fのfennica STUDIOにて展示・販売されます。そこで今回は、彼らがどんな生活をしながらものづくりを続けているのかお話をうかがいました。

絵美さんのつくる籠バック

アイヌの人々は、昔からガマという植物を使って織られたチタラペ(ゴザ)を家の壁や床に敷いて暮らしていました。防寒だけでなくクッション性にも優れたゴザは、織り目や素材感も美しく、その特性を生かして初めて立体化を試みたのが今回の籠バッグです。

ジュエリーブランド〈Ague〉のほか、阿寒アイヌ民族文化保存会の活動、妹・富貴子さんと共にアイヌのウポポ(民謡)を唄うアーティストとしても活動している絵美さん。こうした活動や子育ての合間に、今回籠バッグをつくったことについて、こんなふうにお話し始めました。

「各地で活躍されている立派な工芸家のみなさんを想像してみると、私が工芸家を名乗ってバッグを販売するのは、なんだかおこがましいような気持ちがあります。だってアイヌのものづくりって、どの家でも当たり前の仕事として織ったり縫ったり彫ったり…できることをただやっていただけなんですもの」

「アイヌ生活記念館」にあるゴザ織り機の展示

身近にあふれていたアイヌのものづくり

アイヌの血を引き、阿寒湖温泉で育った絵美さん。アイヌのものづくりに興味を抱いたのは、家族の影響が大きいと絵美さんは語ります。

「ものづくりを本格的に教わるようになったのは20歳すぎてからですが、それ以前にも、身近にものづくりがあふれていました。私のまわりには、いつでも何かをつくってるおばさんやらおじさんがいたんです。冬になるとみんなで技術を教えあうために集まることもありました」

ものづくりが得意な親族の中「祖母は織物が得意な人だった」と絵美さん。その織物のひとつにゴザがありました。

「私がゴザを初めてつくったのは、祖母の手伝いで付いていった物産展の実演販売のとき。そのあと数日かけてひとつのゴザを織り上げました。ただそこから、ずっとつくり続けてきたわけではなく、今回たまたま再開したんです」

技術の歴史、素材の歴史

ゴザづくりは、原料となるガマを集め、加工するところから始まります。

「ガマを採ったら、まずは洗って泥をおとして、干して乾燥させます。最初はグリーンだけど少しずつ色が抜けて茶色く変化するんです。そうして用意したガマを織る直前に水に浸けて、一気に織っていきます」

そうしてできたゴザには美しいパターンが描かれています。

「染めた木の皮をゴザの前面に織り込んでいくことで、パターンをつけています。基本的には黒色と赤色で構成していくものなんですが、今回は特別に木綿を使って青色を入れてみました。文様は昔から決まっていて、おばあちゃんがそのルールにしたがってつくっていたので、それをベースに考えています」

こうしたつくりかたは、絵美さんが祖母から教わったもの。つくりかたなどの技術的な継承のほかに、素材の継承に関しても、絵美さんには思うことがありました。

「なぜこのかたちで、今ここにあるのか? ものづくりは技術の歴史だけでなくて、素材の歴史もしっかり記憶して、継承していきたいと考えています。例えばゴザの原材料になっているガマは、阿寒湖には、もうあまり生えていないから、ここよりも暖かい地域に住む叔母の家の近くで採ってくるんです。いずれはそこでも手に入らなくなる可能性があるので、とにかくあちこちから集めています。今は生えている場所も、工事されてなくなってしまうかもしれないし台風がきたら一気になくなるかもしれません」

技術の出し惜しみをしちゃいけない

他のものづくりと同じように、絵美さんの籠バッグもひとつをつくりあげるのに膨大な時間を要します。

「生きるための仕事をしながら、子どものごはんをつくりながら、買い物へ行ったり、運動会へ行ったりしながらね、それでも、つくるんです(笑)。だけどそれが当たり前の生活というか。阿寒湖温泉では私だけでなく、みんないろいろやりながら、ものをつくっているんです」

阿寒湖のほとりで、ものをつくることが当たり前のアイヌの生活。そもそも、なぜものづくりをしているのかを辿ると、そこには家族の歴史がありました。

「わたしたちのつくっているものって家族の歴史なんです。なので、本来であればお土産として売るようなるものじゃない。…というか、ホントは売りたくないくらい大切なものなんですよね。身内の誰かのためにつくるものだったのが、いつしか生活のためにつくらなくちゃいけなくなった。だから可能であれば、売る場合であっても使う人と直接会って、相手を見て、ものをつくるのが正しい付き合い方なんですけど、今の世の中の流れですから、しょうがないことです。こういうつくりかたや人との繋がりかたも、その先にまた楽しいことがあるなと希望を感じています」

現代に合ったものづくりには複雑な思いもある。だけど、つくることでプラスになることのほうが多い。絵美さんは、前向きに未来について語ってくれました。

「この糸や素材、使い切ったらもう手に入らないんだよなぁ…なんて思うこともあるけど、つくればつくるほど、自分の技術が上がっていくことを考えると、とてもありがたいことなんですよね。だから技術を出し惜しみしちゃいけない。貴重なものだからこそ、ちゃんとつくって、自分の技術をあげなくちゃ。私のつくる籠バッグが、アイヌ文化や素材になっている植物についての関心へ繋がるのなら、これからも喜んでものをつくってものを売りたい。ものからアイヌの歴史を紐解いて、アイヌ文化に興味を持ってくれる人が増えたら幸せです」

BEAMS fennicaコラボレーション 詳細

「アイヌ クラフツ 伝統と革新 -阿寒湖から-」
“デザインとクラフトの橋渡し”をテーマにするBEAMSのレーベル「fennica(フェニカ)」と阿寒湖エリアのアイヌのものづくりのコラボレーションによる、新作コレクション。作品の展示販売のほか、トークショーやライブイベントも開催。

販売場所:BEAMS JAPAN 5Fのfennica STUDIO
販売期間:2019年10月12日〜20日
公式サイト(イベント情報):https://www.beams.co.jp/news/1660/
公式サイト(特集):https://www.beams.co.jp/special/fennica_things/vol7/

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