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2020.03.02

究極の七角箸を3年かけてカタチに!ごはんの味が変わる大黒屋の江戸木箸握 【東京の手仕事】

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食事をするときになくてはならない箸の存在。子どものころは親が選んだ箸を、大人になって一人暮らしや結婚してからは何気なく購入した箸や贈り物やお土産にいただいた箸を、使っているひとが多いのではないでしょうか。私ももちろんそのひとりでした。しかし10年前、食事の味がこうも変わるのか?との驚きを与えてくれた箸に出会います。それは江戸木箸・大黒屋の箸です。東京の手仕事シリーズ4回目は、日本全国から箸を求めてやってくる江戸木箸・大黒屋の“ごはん”の味を格上げする箸の物語です。

もっと使いやすい箸を、その思いで40代半ばから箸職人へ

日本には、素材や色やかたちはもちろん、麺や納豆など用途に応じた多種多彩な箸があります。おなじく箸を使う隣国の中国や韓国と比べても、日本は群を抜いて箸の種類が多い国。また物心つくころには専用の箸が与えられ、お父さんの箸、お母さんの箸、私の箸と、家族であっても個人の道具として意識をするのも日本ならではかもしれません。「そんな大切な道具なのに、大人になっても親や誰かが買ってきた箸を何気なく使っているひとがほとんど。靴は足のサイズにあわせて買うでしょう。足と同じように手だって人によって大きさや厚みが違いますよね。そして自分専用の道具なのに、手にあわせて箸を選んでいるひとはとても少ない。それっておかしいでしょう」。こう切り出したのは、東京は墨田区曳舟で、“使いやすさ”にこだわった箸を手掛ける江戸木箸・大黒屋の竹田勝彦さん。

江戸木箸・大黒屋の主、竹田勝彦さん。2007年に東京都優秀技術者(東京マイスター)にも認定されている箸職人。

もともとは食器問屋で営業をしていた竹田さん。20年のサラリーマン生活を経て独立を考えた際に、「不景気でも箸と茶椀はなくならない」という当時の社長の言葉や今までの経験や人脈を生かして、箸を商っていくことを考えます。時は昭和50年代、箸と言えば柄やデザインにこだわったものばかり。その形はだいたい丸か四角でした。もっと持ちやすい箸の形はないのか?と思うようになった竹田さんは、面を増やせば握りやすくなるはずだと、まずは八角箸を試作して箸工場へと持ち込んでみることに。しかし工場からは「こんな手間ひまかかる箸なんて作れない」と、にべなく断られます。

三角から九角までずらりと揃う江戸木箸。持ち手から先まで角度をつけて削り出す。まさに職人技。拙書の『江戸な日用品』(平凡社)より(撮影/喜多剛士)

だったら自身で作ってみようと思い立ち、木工用の機器を買い求めてゼロから八角箸づくりに挑むことに。祖父は大工、父は桐下駄職人で、竹田さんも子どもの時代から手先は器用だったそう。コツコツと試行錯誤を繰り返し、「1年ほどで思うようなものができ始めて、百貨店の催事で八角箸を扱ってもらったら、『使いやすい、つまみやすい』と大好評だったんです」。そうして40代半ばで箸職人として再スタートをきりました。

箸を削り出す木工機器。最初は竹田さん用に一台だけだったが箸職人も増えて今では5台がフル稼働している。

奇数面が持ちやすい、3年かけて誕生した究極の七角箸

好評な八角箸に加えて、もっと持ちやすい箸をと考えたのが五角箸。「箸は基本的に親指、ひとさし指、中指の三本で支えるでしょう。だから握る面も奇数だと安定感がでる」。五角箸は、指が五角にしっかりと収まり握りやすいと評判に。特に男性や手が厚いひとには、角があるほうが持ちやすいと好評でした。「ただ五角は角が手にあたると感じるひとも多いため、八角の柔らかさを加えた七角箸に挑戦。しかし七角箸はね、なかなか手ごわかった。一本ならばうまくいくけど箸は二本一組だから調整が難しくて。満足いくまで3年ほどはかかりました」と笑います。

握りが柔らかで、つまみやすい縞黒檀の七角箸(8,000円)。平成27年8月に日本が誇るべき優れた逸品「The Wonder500 ™」(経済産業省)に選ばれて、諸外国の人びとからさらに注目されるように。フランスの雑誌記事で取り上げられたことで、フランスやドイツからも興味を持ったひとが訪ねてくるように。『江戸な日用品』(平凡社)より(撮影/喜多剛士)

もともと角材を小割にしたもの(四角柱のようなカタチ)を材料につくる箸。対で面取りできる偶数に比べると奇数を面取りするのはとても難しいそう。なかでも五角箸と異なり、角度が割り切れない七角箸は、より繊細な削り出し作業が必要とされます。何度も微調整を重ねて工夫を凝らして、ようやく商品化した七角箸。手にピタッと収まり、食べ物がつまみやすい!と口コミやメディアでひろがり今でも全国から問い合わせが絶えません。

これが箸のもととなる材料!これを機械にあてて一本一本の面を削り出していく。

目の粗いヤスリである程度削りだして、目の細かいヤスリに変えて細かく調整していく。

誰もが握れる箸から先が浮く箸まで、その数200種類!?

難しい七角箸を完成させると、また新たな箸に挑戦したくなるのが職人というもの。634メートル高さを誇る東京スカイツリー®開業の際には、持ち手が六角、真ん中が三角、喰い先が四角という「武蔵(むさし)箸」を手掛けます。「名称の遊びだけでカタチにしたのではなくて、真ん中が奇数だから武蔵箸は使いやすいんです」と竹田さん。また手に力が入らないひとや子ども用にと変形五角にした「ずんぐり箸」を考案。そしてマイ箸使い用にと、テーブルに箸先がつかない仕様の「外出用ずんぐり箸」を商品化します。「箸先が浮くように機能に関係ない部分を削ったもの。箸置きがなくても使えるからいいんですよ。ちょっとでもアイデアが浮かぶとすぐに試してみたくなる」

写真上の「ずんぐり箸(鉄木)」(3,000円)は、ユニバーサル・クラフト・ジャパン(日本貿易振興機構・ジェトロ)の選定作品に。手に力のないお年寄りにも使いやすいために敬老の日の贈り物にも人気。写真下は箸先が浮き上がる「外出用ずんぐり箸(縞黒檀)」(4,000円)。これで椀の上に箸を置かずにすみますね。

工房の隣にある店には、四角、五角、六角、七角、八角、九角、小判、変形など、竹田さんのアイデアがカタチとなった200種類以上の箸が並びます。「指の長さや太さ、手の厚みなど人によって手が違うでしょう。機能性とバランスを見極めつつ、自分の手にあう一膳を選んで欲しい」。触れて握って試して欲しいと、店ではどの箸も試せるようになっています。
竹田さん曰く、「一般的に使いやすい長さは、手首から中指までの長さに3、4㎝足したサイズ。でも短くても持ち手にある程度の太さがあれば使いやすいですよ」。

六角、三角、四角と削り出した「武蔵箸(縞黒檀)」(8,000円)。東京スカイツリー®でも扱っているそう。

箸ひとつで味が変わる、お米ではなく箸を変えてみよう

ちなみに私が愛用しているのは八角箸です。手に厚みがなく指が細いため(と言っても、決して白魚のような手ではありません)、柔らかな手触りの八角箸が握りやすくつまみやすい。八角箸で食事をするとよりおいしさを感じられる気がすると話すと、「箸は喰い先一寸といわれる箸先の3㎝が大事。うちの箸は持ち手から先まで同じ角度で削り出してスーッと細く仕上げている。先まで角があるから食べものがつまみやすい。喰い先の太い箸は食べ物より先に箸が口に当たってしまうでしょう。でも喰い先が細いと、まず食べ物が唇に触れる。だからおいしく感じるんじゃないかな」と、答えてくれました。

私が使っている「八角箸(縞黒檀)」(3,000円)。箸帯の文字も竹田さんの手によるも

お店に置いてある絵ハガキも竹田さんが描いたもの。訪れたお客さんにプレゼントしているとか。字も絵も玄人はだし、趣味は続けて20年になる三味線。江戸っ子らしい、粋ですねえ。

意匠や仕様へのこだわりについて尋ねると「かっこよく作ろうなんて思ったことは一度もない」ときっぱり。握りやすさやつまみやすさなど使い勝手を追求していくなかで今の形に落ち着いたと話してくれました。多少値が張るけれども縞黒檀や鉄木を使うのは、堅いために丈夫で長持ちするから。縞黒檀や鉄木を削り出し、摺り漆できりりと仕上げた竹田さんの箸には、使い勝手を極めた道具の美しさが宿っています。

食と人を橋渡しする、“命の箸渡し”をする大切な道具。触れて握って味の変わる一膳を探してみてください。

*2020年2月の情報となります。商品価格はすべて税別。

江戸木箸・大黒屋
住所    東京都墨田区東向島2-3-6
電話番号  03‐3611‐0163
営業時間  10:00~17:00
定休日   第2・第3土日曜,祝日
https://www.edokibashi-daikokuya.com

書いた人

和樂江戸部部長(部員数ゼロ?)。江戸な老舗と道具で現代とつなぐ「江戸な日用品」(平凡社)を出版したことがきっかけとなり、老舗や職人、東京の手仕事や道具や菓子などを追求中。相撲、寄席、和菓子、酒場がご贔屓。茶道初心者。著書の台湾版が出たため台湾に留学をしたものの、中国語で江戸愛を語るにはまだ遠い。