日本を愛し、富山で酒づくりを追求するリシャール氏に、日本酒への新たなる挑戦を伺いました。
「IWA」創立者・醸造家 リシャール・ジョフロワ氏
千年続く日本酒の「つくり」
シャンパーニュから日本酒の世界に転身したリシャール氏。そのふたつの大きな違いは「つくり」にあると言います。「ワインは素材となる葡萄そのものが出来不出来を決めるのに対し、日本酒はつくり手のつくり方、プロセスが重要なんです」
平安時代から千年もの歴史をもつ日本酒は、杜氏と蔵人の洗練された技術によって受け継がれてきました。日本酒ができるまでには、米を研ぎ、蒸し、麹を加え発酵させるなど、実に多くのプロセスを経ています。その歴史と「つくり」に敬意を払い、米の品質や水の美しさも大切にして生まれた「IWA」には、リシャール氏ならではの挑戦も含んでいます。
日本酒への新たなる挑戦
「日本酒の味わいで大事なのは、バランス」。そう語るリシャール氏は、ワインで用いられる「アッサンブラージュ」という、ワインの原酒を組み合わせる技法を日本酒に取り入れています。
「ワインづくりで伝統的に行われるアッサンブラージュを取り入れることで、日本酒の味わいと香りのバランスを見直しています。日本酒の飲みやすさも大切にした上で、リッチさや強さ、余韻も感じさせたい」。そんなリシャール氏の野望を含む「IWA」を初めて飲んだ方は「馴染みがあるけれど新しい感覚」を覚えるそう。
日本酒にリッチ感をもたせるには、viscosity(粘度)も大切であると言い、こちらもワインでは一般的な「瓶内熟成」によって、濃厚な舌触りを模索します。
世界各国の料理と合う“SAKE”を世界へ
伝統を大切にしつつ、アッサンブラージュと瓶内熟成でさまざまなチャレンジをしているリシャール氏は「これから私は、今までにない“SAKE”をつくっていく。だから、飲む人もチャレンジしてほしい」と目を輝かせます。
「つくり」のプロセスが多い分、日本酒づくりは多くの挑戦ができる。それと同じように、飲む人にも遊び心をもってほしい―――。例えばリシャール氏は、富山の居酒屋でこんな経験をしたそうです。
「デザートにマンゴーが出てきて、IWAの熱燗をペアリングしてみました。そうすると、マンゴーの粘度とIWAの熱燗が実によく合うんです」。日本酒を飲み慣れている人でも、なかなかこの組み合わせは思いつきません。つくり手と同じく、飲む人ももっと自由にチャレンジングに日本酒を楽しむことで、その世界が広がっていきます。
「SAKEは、シャンパンやビールのような存在になれる」。リシャール氏の野望は続きます。「ワインは料理をマウントすることもある。しかし、日本酒は料理と対等な関係にあり、お互いを引き立て合っています。酒も料理も素晴らしい、それが日本酒。さまざまなバランスが整うことで、日本酒はどんな国の料理とも合わせることができます」
日本酒をSAKEとして、世界中でワインのように楽しまれる存在にする―――。そんな壮大な野望を胸に、富山の酒蔵からリシャール氏の挑戦は続く。
IWA
公式サイト:iwa-sake.jp/
オンラインショップ:iwa-sake.shop/
インタビュー・鈴木深 文・伊藤千晶 撮影・篠原宏明 動画編集・RIVERSCAPE