漆中心の生活道具ギャラリー「スペースたかもり」主宰の髙森寬子さんの提案
輪島出身の両親の影響で漆器が日常にあった髙森さん。自分の意思でお椀を買ったのは40代半ばごろ。この出合いが「ふだんの暮らしにこそいい漆器を」という考えに至る転機になりました。
ふだん使いにこそ、いいつくりの漆椀を!
初めて自分でお金を出して手に入れたお椀と髙森さんが語る朱塗りの椀(下の写真)。「親から受け継いだものなどがわが家には十分あったけど、それでも欲しいと思った。手が小さい私には口径が大きすぎるようにも感じましたが、使ってきた規格品にはない形や色。理屈を超えて惹かれるものがあったんです」
つくり手の顔が見えるのは「いい漆器」の大前提
今から40年ほど前、デパートなどの〝平場〟での漆器販売は、産地の名前はあっても作家名の明記はなく、この山本英明(ひであき)さんが初めてだったのでは…と回想する髙森さん。「後に本人と対面して人となりを知り、お椀に対する思いを聞いてとても安心したのを覚えています。自分が買い求めた漆器がどんなものか、知る手がかりがなかった時代ですから」
髙森さんの考える「信頼できる漆器」とは、[1]素地が天然木 [2]漆を使うべきところに本物の漆を使っている [3]つくり手の顔が見えるもので、その情報をきちんと伝えてくれる店が扱っているもの。つくり手と直接会えることがあたりまえになった今は「欲しい漆器を手に入れやすい、いい時代」と背中を押します。
漆器は使うことでつやが増します。髙森さんの手のなかでしっとりと輝く塗り肌は、長く使い続けてきた人だけがたどり着く〝私だけの景色〟。髙森さんが「ふだんの生活にいい漆椀を」と提案するのは、漆器は日々使うことで育つものであり、手をかけた漆の美しさが加わった食卓は、年齢を重ねるほど気持ちを豊かにしてくれると実感するからです。
手の感度にもっと忠実に、自分の手に合う漆椀を「和樂読者の世代なら、漆椀が家にない人はいないでしょう。使えるものをなんとなく使っている人も多いかも…」と髙森さん。
「でもね、今の自分の手になじむものにもっとこだわってもいいんじゃない? ちょうどいい形や重さ、大きさが何十年も変わらないことはない。毎日手にするものだからこそ大事なこと」
85歳になっても今を心地よく過ごすコツはこんなところにもあるようです。
髙森寬子 たかもり・ひろこ
エッセイスト。婦人雑誌の編集者を経て、日本にあるさまざまな生活道具のつくり手と使い手をつなぐ試みを行う。東京・小石川の「スペースたかもり」を主宰し、漆の日常食器を主体に、年に5~6回の企画展を開催。著書に『美しい日本の道具たち』(晶文社)、『心地いい日本の道具』(亜紀書房)などがある。
初春展「普段使いの漆の器/安比塗と輪島の漆」開催のお知らせ
2024年1月1日に発生した「令和6年 能登半島地震」により、髙森さんと交流がある輪島の作り手さんも皆被災されました。現在は作品完成の目途が立たない状況ですが、ギャラリーで輪島の作品を若干預かっていました。そこで今年初春の企画展は、少しでも応援につながるよう、当初予定していた安比塗(あっぴぬり)に輪島の作り手さん作品を加えて開催されます。
期間:2月16日(金)~3月2日(土)の金・土曜のみ開廊
時間:12時~18時(最終日は16時まで)
場所:スペースたかもり(東京都文京区小石川5-3-15 一幸庵ビル3階 ※企画展開催時のみ開廊)
電話:03-3817-0654
撮影/長谷川 潤 構成/藤田 優、後藤淳美(本誌)
※本記事は雑誌『和樂(2023年2・3月号)』の転載です。
※掲載商品はすべて手づくりのため、売り切れや、価格が変更になる場合があります。
※サイズはおおよその目安です。
■商品の問い合わせ先:「スペースたかもり」電話・ファックス:03-3817-0654 メール:space-t@ab.auone-net.jp