たとえば、とある骨董市で手ごろな値段の浮世絵を1枚見つけ、「どう飾ったらいい?」「どんな額を合わせたらいい?」「掛物(かけもの)に仕立てる?」と、インテリアショップや専門店に足を運んでみても、あれこれ迷ってしまうことがあります。
「だれかに相談したい」――そんなときに頼りになるのが、京都の専門店かもしれません。京都は歴史の街。この街では、天皇・貴族たちの生活や、祇園祭といった祭事に伴って、さまざまな道具の特注品がつくられてきました。
どの分野にしても「お誂(あつら)え」をはじめ、既製品にちょっとだけ手を加える「セミオーダー」のモノづくりが、生活のなかに息づいているのです。
特に京都の職人たちは、日本の中でも別格の存在。多種多様な「お誂え」に対応できる和の専門店のうち、まずは京表具の「井上光雅堂(いのうえこうがどう)」を訪ねてみましょう。
京表具の伝統を踏まえた掛物や表装パネルを仕立てます! 「井上光雅堂」
京都の寺院やホテル、いろいろな展覧会で「掛物だけど、現代的な軽やかさを感じる」「これは昔の屛風(びょうぶ)や襖(ふすま)をつくり替えているんだ!」という作品に出合ったら、その多くは井上光雅堂の3代目、井上雅博(いのうえまさひろ)さんの仕事です。
井上さんの祖父は、京都国立博物館の所蔵品の表装(ひょうそう)を修理する、表具師のひとりでした。表装とは、絵画や書の作品を和紙や布を使って、掛物、経巻(きょうかん)、書画帖(しょがちょう)、額、屛風、襖などに仕立てること。
「僕は古いものの修復といった伝統的な仕事とともに、現代アーティストとも仕事をしていて。新進の日本画家である品川亮(しながわりょう)さん、フォトグラファーの須藤和也(すどうかずや)さん、京繡(きょうぬい)の長艸敏明(ながくさとしあき)先生などさまざまなジャンルの方、また店舗やホテルからオーダーを受けて、今の空間にふさわしい表装を手がけているのです」と井上さんは語ります。
空間にふさわしい佇まいへと作品を仕上げていく表装力
実は、数年前に行った個展のタイトルに「スペース・マウンティング(空間表装)」と名付けました。井上さん自身、表具の仕事は、空間に「はまる(マウント)」ものを仕立てることだ、と意識していたからです。
だから依頼を受けたら「その作品を飾る場所について、よく話を聞きますね」。古い屛風を解体し、新しいパネルや現代的な額装(がくそう)にして命を吹き込む――これまでの京表具(きょうひょうぐ)をベースに、「作品の魅力を引き出し、空間そのものをコーディネートする」という姿勢は、表装の明るい未来を感じさせてくれるものでした。
「井上光雅堂」店舗情報
読み方:いのうえこうがどう
住所:京都市伏見区深草瓦町79-2
電話:075-641-3865
営業時間:9時~18時
休み:日曜・祝日
公式サイト:https://kogado.jp/
※本記事は雑誌『和樂(2024年4・5月号)』の転載です。
※掲載価格はすべて税込で、価格や営業時間などは変更される場合があります。お出かけの前にご確認ください。
構成/植田伊津子 撮影/伊藤 信