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2020.06.18

節分の鬼は5色!それぞれの色とその意味、桃太郎の鬼の色も考証してみた

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子ども時代を振りかえって、ちょっと思いだしてみてほしい。桃太郎が退治した鬼は赤鬼?それとも青鬼?一寸法師を飲みこんだ鬼や、こぶとり爺さんと朝までダンスバトルに興じた鬼が何色だったか覚えているだろうか。
鬼といえばやっぱり赤や青が定番かと思いきや、じつは戦隊ヒーローよろしく鬼には5種類ものカラーバリエーションがあるのだ。

今回は『桃太郎』『一寸法師』など数多くの日本昔話に出演しながら、毎度、若く精悍な主人公たちに退治される気の毒な〈鬼〉と「色」の関係を探ってみよう。

昔話の名悪役〈鬼〉とは何なのか?

絵本や節分の豆まき、日本各地に残された伝説に登場する〈鬼〉は、おそらく、日本でもっとも有名な妖怪だろう。鬼といえば、トゲのついた棒を持ち、ヒョウ柄のパンツを履き、角を生やしていて、体の色は赤や青といった姿をイメージするかもしれない。

日本では妖怪のイメージのある〈鬼〉だけど、中国では鬼といえば「幽霊」のイメージが強い。古代中国では、鬼は死者の霊魂と考えられていたからだ。

鬼の語源には諸説あって、古代中国の「陰陽道」の「陰(おん)」や、姿や形のない魔物を意味する「隠形(おんぎょう)」の「隠(おん、いん)」が転じて「おに」になったとするものもある。語源からも分かるように、かつて鬼は固定した像をもたない(目に見えない)ゆえに恐ろしい存在とされていたのだ。

まるで百鬼夜行!『こぶとり爺さん』に登場するあんな鬼、こんな鬼

『こぶとりじいさん』松田司郎(著)滝原章助(イラスト)、小学館

鬼が登場する昔話はたくさんあるので、日本人なら誰でもその活躍ぶりを絵本やアニメなどで目にしたことがあるに違いない。『こぶとり爺さん』も鬼が出てくる代表的な物語のひとつだ。物語のハイライトは、何といっても、お爺さんと鬼たちが踊るシーン。いつもなら悪役にまわされる鬼も、このときばかりは踊りや宴を繰り広げる愉快な妖怪に転じている。

『こぶとり爺さん』の原型は、鎌倉時代初期に編纂された『宇治拾遺物語』という説話集に収められている。内容は現代に伝わる昔話とほぼ同じだけど、ちょっと見慣れない鬼たちが登場するので見てみよう。

山の中で雨風にあって家に帰れずにいたお爺さんが木のうろに入って一夜を明かそうとしていると、そこに鬼たちが現れる。この鬼たちの姿形が、なかなか奇抜。まず、皮膚の色がカラフルで、真っ赤な肌に青い着物を羽織ったのや、黒い肌に赤い着物を着たのもいる。ふんどし姿の鬼とか、口がないのとか、目がひとつしかない鬼もいる。
鬼って、こんなに種類がいたのかと驚かされるバリエーションの豊かさだ。そんな異様な鬼たちが100人ほども集まって、ぐるりと輪になり宴会をはじめたのだから、お爺さんはすっかり驚いてしまう。

赤鬼と青鬼のちがいとは?節分の鬼は全部で5種類いた


昔話では赤鬼と青鬼を見かけることが多いかもしれないが、『こぶとり爺さん』にはちょっと珍しい黒い鬼が登場している。黒い鬼がいるなら、もちろん他の色の鬼だっている。

節分の豆まきでも、鬼といえば赤鬼と青鬼が定番かもしれないが、じつは赤と青のほかにも黄 (あるいは白)・緑・黒と3色の鬼がいるのだ。節分の鬼は基本的に5色だと言われている。これは仏教の「五蓋(ごがい)」(心を縛る5つの煩悩)の教えに基づいたもの。節分に登場する鬼の5色は、人間誰しもが持っている煩悩を体の色で表しているのだ。

鬼の性格を表す5つのカラーバリエーション


赤・青・黄・緑・黒の5色がならぶと、戦隊ヒーローみたいにカラフルだが、これは単なる肌の色の違いではない。鬼の肌の色は、仏教や陰陽五行説と深い関係がある。

赤鬼は五蓋の貪欲(とんよく)、つまり欲望や渇望を意味する。「鬼に金棒」で有名な、トゲのついた棒をもっているあの有名な鬼はこれだ。
青鬼が表しているのは、瞋恚(しんに)。すなわち、悪意や憎しみ、怒りなど。青鬼に豆をぶつけると、幸福や利益がやってくるそう。
黄鬼(または白鬼)は、掉挙(じょうこ)。後悔や我執の象徴だ。この鬼はのこぎりを手にしているといわれる。
緑鬼は、惛沈(こんちん)、睡眠(すいめん)、怠惰や過食、不真面目さを表している。薙刀を持ち、健康を祈って豆がぶつけられる。
黒鬼の疑(ぎ)は、斧をもち、疑心や愚痴を示している。

悪者なイメージの鬼だが、彼らが体の色で表している煩悩はどれも私たちに馴染みのあるものばかりだ。昔の人びとは節分のときに、自分たちの悪い心を鬼に見立て、それを戒めようとしていたのだろう。そういう意味では、鬼の色は人間を映す鏡ともいえる。人びとは、豆をまくことで卑しい心を追いだし、善い人間でありたいと願ったのかもしれない。

欲望や邪悪さの象徴である一方、鬼のなかには、人に優しく、利益をもたらしてくれるものもいる。鬼は、古くは神聖な存在として扱われてきた。とすれば人の祈りを聞き届ける鬼は、人知を超えたヒーローであるのかもしれない。

ところで、桃太郎の倒した鬼は何色だったのか

これは私が常々気になっていたことだ。
鬼の肌の色には、ちゃんと意味がある。となると、絵本や絵巻を見るたびに、鬼の肌の色がついつい気になってしまう。版によって様々なバリエーションがあるが、『桃太郎』に登場する鬼は、近くの村で暴れては村人たちから宝物やご馳走を盗んでいたという。この貪欲さと凶暴さから推測するに……桃太郎が倒した鬼は赤鬼とみた!…なんて、昔話の想像がふくらむ。

※アイキャッチ画像:wikimedia commonsより

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書いた人

文筆家。12歳で海外へ単身バレエ留学。University of Otagoで哲学を学び、帰国。筑波大学人文学類卒。在学中からライターをはじめ、アートや本についてのコラムを執筆する。舞踊や演劇などすべての視覚的表現を愛し、古今東西の枯れた「物語」を集める古書蒐集家でもある。古本を漁り、劇場へ行き、その間に原稿を書く。古いものばかり追いかけているせいでいつも世間から取り残されている。