Culture
2020.07.08

容量はいくつ?開発のヒントはあのゲーム? QRコード誕生の秘密!

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国際社会における日本の立場は、今どうなっているんだろう。ウォークマンや新幹線に代わるものが世界中で開発され、もはや「ものづくりニッポン」とは呼べない状況ではないだろうか。
しかし、日本人が作ったモノの中に、開発した当初から姿形を変えず今なお世界中で使われているものがある。当たり前に存在しているため、私たちはそれが偉大な先輩たちの功績だということに気がついていないかもしれない。
QRコード。
今やインターネット上で、飲食店で、コンビニで、見ない日はないと言っても過言ではない小さな四角形。私たちの生活に馴染みすぎているこの仕組みの誕生には、どんな物語があるのだろうか。

QRコードの仕組みと驚きのデータ量

QRコードは「クイック」と「レスポンス」の頭文字から名付けられている。つまり、素早く読み取れることを目的としている二次元コードだ。作ったのは自動車製造部品メーカーのデンソー(現在のデンソーウェーブ)。1994年のことである。
ところでQRコードをぱっと見たとき、いくつかクエスチョンが浮かんでこないだろうか。なかでも気になるのは三隅の特徴的な四角形。なぜ四隅にないのか、少し違和感がある。これは「切り出しシンボル」と呼ばれるもので、簡単に言うと、この違和感がQRコード自体の位置を遠目から把握しやすくしている。またデータを読み取る際、コードリーダーが素早くQRコードの大きさ、位置、角度を認識できる仕組みも兼ねているのだ。ちなみに、QRコード自体が小さいものは読み取りが容易なため、切り出しシンボルが1つのものもある。

そして驚くべきはその容量。QRコードにはモデルが2つあり、アライメントパターンと呼ばれる仕組みが追加された「モデル2」では、数字のみであれば最大7089文字、英数であれば最大4296文字、漢字・かなであれば最大1817文字と、あの小さな枠の中に結構な情報を詰め込むことができる。バーコードにもいくつかの種類があるが、例えば「JANコード」であれば数字のみで最大13文字。数字のみの情報量を比較してもQRコードが圧倒的に上回っている。

QRコード誕生前夜、バーコードはすでに限界が迫っていた

QRコードが出来る前は、前述したバーコードが広く普及していた。
バーコードは今でも見ることができる。コンビニやスーパーなどで買った商品のパッケージ。ここに印刷されている太かったり細かったりする黒線の並びがバーコードだ。昔『バーコードバトラー』という、バーコードから読み取った情報を数値化して競う玩具まであったんだけど、もう誰も知らないよね。

QRコードを開発したデンソーも、もともとはバーコードを採用していた。しかしバーコードは容量が少なく、10個ほどのバーコードを読み取って、ようやくひとつの製品情報を管理できるという状態だった。そこで作業効率の向上を目的として、当時開発部門に所属していた原昌宏氏を中心に新たな二次元コードの開発がスタートする。より多くの情報を詰め込むことができる形状の開発には困難を極めたが、原氏はこの問題を思いもよらないところから解決へと結びつける。

ヒントは囲碁?画期的なアイデアを実用化するまでの道のり

バーコードが一方向にしか情報を詰め込めないのに対し、QRコードは縦横と二方向に情報が詰め込まれており、これが容量アップを実現している。原氏は、この形状をなんと休憩時間に興じていた「囲碁」から思いついたという。新しい技術や商品の誕生には、こういう秘話が隠されている。画期的なアイデアは、一見するとまったく関係のないところから生まれたりするものなのだ。

囲碁から得た形状が容量アップにつながることは明確だった。これでコードの問題は解決したが、それを読み取るリーダーは世の中にまだ存在していなかった。にもかかわらず、原氏らは仕様が完成した段階でQRコードを発表する。リーダーの試作機でコードが読み取れることを確認したのは、その半年ほど後だったという。
この無謀とも言える行動には、実は理由があった。ひとつは、実績あるリーダー事業において新システムの開発に自信があったこと。そしてもうひとつは、海外でバーコードに代わる新しい二次元コードが存在していたことである。海外製のリーダーが完成してしまえば、二次元コードとセットで国内に流入してくる可能性があると考えていたのである。

ものづくりニッポンの職人気質がQRコードを世界に普及させた

情熱と自信、そしてほんの少しの奇跡。ひとつでも欠ければ、QRコードの誕生はなかったかもしれない。画期的な商品やシステムの誕生の陰に結実しなかったアイデアがあることを思うと、これから街やネット上でQRコードを見かけるたび、今までと違った感慨が胸に去来するのではないだろうか。
最後に、QRコードが世界中に普及した要素をもうひとつ紹介しておこう。それが特許である。
QRコードは特許を取得しつつも、特許料(ライセンス料)を徴収していない。つまり、誰もが自由にQRコードを使用することができるのである。

ライセンス料を取る方が、開発者やデンソーに利益を還元できると誰しも考えるだろう。しかし、この点について原氏は「ライセンス料を取っていたら、時代の変化に伴って新しいコードに取って代わられたかもしれません。せっかく作ったQRコードがデンソー関連の企業内でしか使われなくなってしまう可能性があったんです」とあるインタビューで答えている。
本当にいいものを作りたい。いいものだからみんなに使ってもらいたい。実に職人らしい考え方ではないだろうか。日本で生まれたモノが世界中でどんどん取って代わられている今、QRコードから「ものづくり」の真髄を学び直してみてもいいのではないだろうか。

書いた人

生粋のナニワっ子です。大阪での暮らしが長すぎて、地方に移住したい欲と地元の魅力に後ろ髪惹かれる気持ちの狭間で葛藤中。小説が好き、銭湯が好き、サブカルやオカルトが好き、お酒が好き。しっかりしてそうと言われるけれど、肝心なところが抜けているので怒られる時はいつも想像以上に怒られています。