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Culture
2021.04.01

「花見」よりも古くからある「桜狩り」とは?彬子女王殿下と知る日本文化入門

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彬子女王殿下の連載がスタートします! テーマは「年中行事で知る日本文化」。連載第一回は私たちにとって身近な存在である花見。その歴史を知ると意外や意外、思いもよらなかった事実が見えてきました。

なぜ、「花見」というのか

文・彬子女王

「秋に紅葉を見に行くのは紅葉狩りっていうのに、春に桜を見に行くのは花見っていうのはなぜか考えたことあるかい?」と、ちゃきちゃきの江戸っ子のおじさまに聞かれたことがある。そんなこと、聞かれるまで考えてみたこともなかった。「なぜですか?」と聞いたら、立て板に水のような早口の江戸弁で、得意気にこんなことを教えてくれた。

紅葉は、野山に分け入って、自分の好きな枝ぶりの紅葉を探しに行くから紅葉狩り。桜は、里に咲いているのを見に行くから花見。ソメイヨシノはクローンなので、「基本的にみんな同じで、いい枝ぶりも何もねぇわな」ということらしい。でも、人がほとんど来ない場所で伸び伸びと育っている桜を見た彼が、「立派な桜だねえ。こりゃ桜狩りって言ってもいいかもしんねえなぁ」と目を細めていた姿を懐かしく思い出す。

花見よりも古くから使われていた「桜狩り」

でも、「桜狩り」という言葉も実際にあるのである。それも、「花見」より古い言葉として。平安時代中期に書かれた『宇津保物語』には、「さくらかり」の言葉が見られる。もちろんこの頃ソメイヨシノはなく、桜と言えば山桜のこと。万葉集には「山峡に咲ける桜をただひと目君に見せてば何をか思はむ」という歌があるけれど、今のような登山の装備も整えられないあの時代、野山に分け入って、美しく咲き誇る桜を発見した時の喜びは如何なるものであっただろう。そんなことを考えていたら、桜狩りをされた重要人物のことを思い出した。

桓武天皇が平安京に遷都されたとき、内裏の紫宸殿の南庭には「左近の梅」と「右近の橘」が植えられていた。でも、承和年間に左近の梅は枯れてしまう。そこで、仁明天皇がその代わりに植えられたのが桜だったのだという。この桜がどこからもたらされたのはわからない。でも、その当時から桜の名所であった吉野山か交野か、とにかく山から桜を植樹したことは間違いない。仁明天皇による桜狩りが、現代まで脈々と受け継がれる「左近の桜」を生んだのである。

「花といえば桜」は桜狩りからうまれた?

当時、「花」と言えば梅のことを指すことが多かった。奈良時代は、服装も生活も、中国の影響が強かった時代。文書はすべて漢文で記され、和歌も万葉仮名で書かれていた。中国で文人たちが愛した梅が日本でも大切にされたことは当然のことであっただろう。万葉集の中で、梅を詠んだ歌は約120首、桜を詠んだ歌は約40首。奈良時代の人たちが、どれだけ梅を愛していたかがうかがえる。対して、平安時代は国風文化が花開いた時代。遣唐使が廃止され、服装も唐風のものから、衣冠や十二単といった日本独自のものへ。そして、ひらがなが使われるようになり、多くの日記、随筆、物語と言った文学作品が次々と誕生する。そんな時代の流れの中で植えられたのが桜だったのである。

多くの貴族たちが桜狩りをした結果、里には多くの桜が植えられ、わざわざ狩りにいかなくても桜が見られるようになっていく。宮中を始め、貴族の邸宅では桜を見ながら詩歌を楽しむ花見の宴が催されるようになり、多くの桜を詠んだ歌が作られる。そして、いつしか「花」は桜を指すようになり、桜は日本文化を象徴する花としてのイメージを確立させていく。中国文化の模倣を続けていた日本が、独自の道を歩み出すきっかけとなったのが、仁明天皇の桜狩りであったのかもしれない。

花見は神様への感謝を示すこと

桜と言う言葉は、「サガミ(田神)」の「サ」と、神の依り代である「クラ(座)」という意味だという説がある。つまり、桜は神様が里に下りてきたときの依り代であり、桜が咲くことは神様が下りてきてくださった証なのである。だから人々は、桜が咲くと皆で集まり、お酒や食べ物をお供えした。花見をするのは、神様への感謝を示すこととつながっている。里に神様を連れてきてくださった仁明天皇の桜狩りの意義を、桜を眺めながら改めて思う。

※アイキャッチは国立国会図書館デジタルコレクションより