新橋演舞場八月新派公演から考える! 歌舞伎より近くておっさんずラブより遠い「お茶の間」

新橋演舞場八月新派公演から考える! 歌舞伎より近くておっさんずラブより遠い「お茶の間」

目次

「お茶の間」、かつて紅白や高視聴率番組でしょっちゅう使われていた言葉。今聞くと少し懐かしく感じませんか。

最近はトレンドに「バブルファッション」が再来。チェーンバッグやビビッドのリップが流行りました。30年前の流行が若者に新鮮に思える。つまり、昭和後期~平成半ばの文化を遠く感じる世代が存在すると言い換えられます。

バブルとは、テレビが好調だった時代でもありました。「ザギンでシースーと言う業界人」、バブルの都市伝説として一度は聞いたことありますよね。

昨今は若い世代のテレビ離れと聞きます。そんな中話題になったドラマといえば「おっさんずラブ」。SNS上の口コミ、配信の力を借りて爆発的に広まりました。

「お茶の間」はもう失われたのか、はたまたバーチャルな世界に移行したのでしょうか?

2019年、新橋演舞場で1998年刊行山村美紗作「京都西大路通り殺人事件」を題材に、120年の歴史を持つ「新派」が舞台化!

「お茶の間おなじみドラマ」を舞台化するとどうなるのか、じっくり拝見してきました。

また、歌舞伎から新派へと移られた喜多村緑郎さん・河合雪之丞さんにインタビュー。「今、この舞台をやる醍醐味」について伺ってきました!

劇団「新派」とは

明治21年(1888年)、「壮士芝居」を大本に誕生した「新派」。歌舞伎が「旧派」と呼ばれたことを由来として命名されました。

その後、川上音二郎一座、島村抱月たちの芸術座など、日本演劇の歴史を作った人々の流れを汲みながら展開。日本演劇界に多大な影響を及ぼしました。

泉鏡花「婦系図」「日本橋」や樋口一葉「大つごもり」、三島由紀夫「鹿鳴館」など、日本文学との関係も非常に深い劇団です。

終戦の翌年に、それぞれの「新派」が合流。「劇団新派」として活動を開始し、120年の歴史を持ちながら、今もなお、水谷八重子さん、波乃久里子さんを中心に精力的に芝居を上演しています。

近年は「喜多村緑郎」の名跡を二代目市川月之助さんが継ぎ、市川春猿さんが「河合雪之丞」の名にかわって新派に所属したことでも話題になりました。

山村美紗×新派×豪華キャスト! みどころ紹介

あらすじ

京都・祇園クラブ「牡丹」に一本の電話がかかる。店のホステス・桃子が自宅で死んでいるという報せだった。桃子は日本画家・沢村と人形作家・歌乃が取り合いになるほど芸術家に愛されるモデルでもあった。

「牡丹」のママ・美保子(波乃久里子)が行う桃子を偲ぶ会に集まる、祇園の芸者・小春(山村紅葉)、ベンチャー企業の社長・山田二郎(長谷川純)などが集まる。自殺なのか?と疑いを持ち、美保子たちは独自に検証を始める。一方京都府警の狩矢警部(中村梅雀)も桃子の死に不信感を抱き、調査を進めていく。

そんな折、祇園の節分「お化け」の日に桃子と仲良しだった歌手が殺されるという第二の殺人が「牡丹」で起こる。容疑者になったのは沢木、美保子の義理の弟だ。
常連客の中に犯人がいる?疑心暗鬼のさなか、美保子は店を閉める決心をするが、あざ笑うように三度目の殺人が……。

犯人は一体誰なのか?そして、沢木や歌乃の秘めた思いとは―――

多彩な出演陣

今回はメインキャストに新派からは波乃久里子、喜多村緑郎、河合雪之丞が参加。一方で「二時間サスペンス」常連でお茶の間でもおなじみ、中村梅雀・山村紅葉、そして「越路吹雪物語」にも出演、ジャニーズ事務所所属の長谷川純、という、新橋演舞場ならではの多彩なキャスティングです。

探偵役は波乃久里子さん演じる好奇心旺盛なスナックのママ・美保子。実はペンネームで小説を書いています。着物姿がぴしりとしていて、格好いい!おせっかいでみんなに愛されるキャラクターです。

主な舞台はクラブ「牡丹」とその離れの茶室。小説特有のいろいろな舞台をうまく集中させていました。
狩矢警部は山村美紗作品の常連登場人物。中村梅雀さんのとぼけた様子、山村紅葉さんののびのびと通る声はまさに「テレビで見たことある」。直接見られるのは舞台の醍醐味ですね。

現代劇の中の「女形」が新鮮

新派の特徴の一つに「女形」(おんながた)の存在があります。歌舞伎でおなじみの男性が女性を演じる、という役割は今もなお、新派でも生き続けているんですよ。

河合雪之丞さんが今回は人形作家の歌乃を演じています。現代劇の中にしっとりと溶け込む自然さは必見!

新派入団以降コンビを組んでいる喜多村緑郎さんは河合雪之丞さんとの息もぴったり。今回は最初の被害者桃子をめぐり対立する役柄です。拘留までされる沢木は作中もっとも翻弄されているキャラクターかもしれません。

注目ポイントは「お化け」

あらすじにあった「お化け」の場面はとんでもないショータイム。振り付けを日本舞踊尾上流家元・尾上菊之丞さんが担当しているというぜいたくさです。具体的には伏せますが、出演者の中にジャニーズ事務所に所属されている方がいるというのがキーポイントですよ。

「お化け」とは祇園の節分に行われる催しで、元は舞妓さん、芸妓さんが仮装をして練り歩くものだったそうです。今回は「一般の人も楽しむ毎年のイベント」として登場。舞台上に揃う色とりどりの仮装が見ごたえ抜群。元ネタを探ろうと目が足りなくなりますよ。

サスペンスの謎解きをリアルタイムに体感

後半はいよいよ謎解き。20年前に起こった、大がかりな詐欺を企てた「贋作事件」が事件の背景に浮かび上がってきます。実は沢木がその贋作事件にかかわっていて……。

日本の美を追求する新派らしさを保ちながら、「山村美紗サスペンス」に仕上がった今作。「お茶の間」で見ていたころを思い出しながら、生の舞台の面白さを堪能できます。

喜多村緑郎・河合雪之丞独占インタビュー

今回、マチネとソワレの間に喜多村緑郎さん、河合雪之丞さんにお話を伺えることに!みどころや山村美紗作品を演じるにあたってなどインタビューしてきました。

Q.新派と言えば、泉鏡花「日本橋」など、古典文学のイメージがあります。「お茶の間」の「二時間ドラマ」の印象が強い山村美紗作品を演じてみていかがでしたか?

(喜多村緑郎)今回はポップというか、テーマが身近なんですね。【犬神家の一族】(2018年11月上演)は血族、家族の因縁がキーワードで、重厚な感じ。今回は親しみやすさがあって、テレビドラマを見るように、どなたにも楽しんでもらえると思います。

一方、我々らしい「しどころ」もあり、新派の芝居にもなっている。山村美紗作品は新派と相性が良いかもしれませんね

(河合雪之丞)芝居は生ものですから、初日が開いて、お客様の反応を頂いて……また見えてくるものがありますね。テレビドラマでおなじみの作品が、舞台ではどうなるのか?トリックはどうなっているのか?そういう意味ではハードルの高い作品に取り組んだと思います。演出の齋藤雅文さんがうまく『舞台』に仕上げてくださいました

Q.歌舞伎以外にも「女形」がいるのは珍しいですよね?「新派」の大きな特徴のひとつだと思います。河合雪之丞さん、この作品のような現代劇を演じる難しさはありましたか?

私は歌舞伎出身です。歌舞伎には舞台上には男性しかいないでしょう。一方新派は女優さんと舞台上でご一緒する。異物にならないよう、キワモノにならないように、舞台になじまなければと思っています。でも、女優さんとも女形は違う。自分たちしかできない芝居で、存在でいようと、私たち新派の女形は演じています。

今回は現代もので、古典文学のようなせりふではなく、日常の言葉。それでも「間」や「呼吸」、今まで培ってきた引き出しは使えるものです

Q.今回の役についてお伺いしたいです。喜多村緑郎さんが日本画家で美保子の義理の弟、沢木。河合雪之丞さんは女流人形作家の歌乃役ですね。

沢木は芸術家なので繊細さを大切にして演じています。人付き合いが悪く、神経質なところもある。過去があり、後ろめたい気持ちを持っている役柄です。お客様には登場人物それぞれを、「もしかしたら犯人?」と疑ってもらいたいですね

歌乃はヒステリックになったり、コミカルなときもあったりする、人間みのある役柄です。過去に苦労やつらい思いをしてきた。全部を舞台で説明するわけではないですが、過去を乗り越えたうえで今の歌乃がある、彼女のいろいろな面を見せられたらと思います

Q.ともに作中で重要な役割を担われていますよね。作品全体のみどころをお聞かせ願えますか。

この作品では謎解きを楽しんでいただきたいんですね。テレビドラマと違って、舞台にはカット割りがない。どうミスリードするのか?が出演者にとって重要です。何回か公演が終わったところですが、日々芝居が変わっていきます。舞台はお客様と作るものだなあと思います。舞台の醍醐味ですね。

実は今回、やると決まったときはどういう風になるのだろう?と考えていたんですよ。この作品自体は再演ですが、新派で上演するのは初めてですから。作品を引っ張っていく力量のある出演者ばかりですし、お客様にはぜひ騙されてほしいですね。新派を初めて見るという方にも楽しんでもらえる作品だと思います

やっぱり「犯人は誰だ?」でしょうね。作中で謎解きをしているんですが、役者がこのシーンのときどういう風にミスリードしているか、お客様は舞台全体の謎解きもしていただける。
結果がわかって観劇するとまた違う見え方があります。二回も三回も観ても楽しめる、むしろ二回観ないとわからないかもしれない(笑)

中村梅雀さんや山村紅葉さんは以前ご一緒したことがあります。今回、長谷川純さんが初めてご一緒しましたが、とても情のある芝居をされる方でした。あるシーンのあとで言う歌乃のせりふが、長谷川さんのお芝居を受けて稽古とは違うものになったんですよ

Qこれから「新派」、そして舞台そのものはどうなっていくとお考えですか?

新派は130年の歴史を持っています。まず新派自体を知ってもらわないとな、とは昨年巡業公演のときに感じました。お客様が新派の名前を見てきょとんとされていることも結構ありまして……でも、公演が終われば「面白かった!」とバスをすごく熱心に見送ってくださった。

新派は、お芝居の面でお客様を裏切りません。稽古も厳しいですし、若手も成長中です。どこか懐かしくて、ほろっとしたり共感できたり、心を動かせる力があります。ぜひ、一度見てほしいなと思いますよ。

現代人ってストレス社会じゃないですか。常に緊張しているし、目まぐるしい。今僕たちはスマホをタップ、スワイプってやっていますけれども、これが10年後、いや、3年後にはどうなっているのかなんて予想がつかない。昨年、芝居の中で「マッチをする」ってやりましたが、これだってもう今ほとんどない。

そういう今だからこそ、すべて忘れ作品世界に没頭できる時間は大切だと思います。繰り返しになりますが、舞台は生ものです。我々も精一杯精進してまいりますので、「今」を楽しむために、舞台に足を運んでいただけたらと願いますね

3本柱で考えていて、まず、皆さんに新派を知ってもらいたいんですね。「そういうのもあるんだ」と。次に、古典の継承。新派には今はなかなか演じられないけれども、すてきな古典の作品がたくさんあります。そういうものを掘り返して、また上演したいと考えていますよ。

でも、それをそのまま上演しても、時代は変化しているので、お客様が受け入れるのが難しい場合もある。それを「洗い張り」する。これが3つ目ですね。

舞台はお客様とかかわって作る生ものです。「ああ、明日からも頑張ろう」と思って頂けるのが芝居。そうじゃなきゃやる意味がないと私は思っています

お二人とも、覚悟を持って舞台というものに取り組んでらっしゃることがひしひしと伝わりました。喜多村緑郎さん、河合雪之丞さん、お忙しい中ありがとうございました!

八月新派公演「山村美紗サスペンス 京都 都大路謎の花くらべ」

公演情報

公演日:2019年8月3日~8月17日
会場:新橋演舞場
原作:山村美紗「京都西大路通り殺人事件」
演出:齋藤雅文
出演:波乃久里子 河合雪之丞 喜多村緑郎 長谷川純 山村紅葉 中村梅雀
新橋演舞場公式ホームページ
新派公式ホームページ

「お茶の間」の距離感がある舞台

大道具の転換、花道を去っていく山村紅葉さん、見ていたのは確実に舞台なのですが、「お茶の間にいる感」も強く感じました。

テレビに出ている人が親しみ深いのは、「距離感」が近いからではないでしょうか。新橋演舞場は客席数1,428という大劇場ですが、それぞれの役柄が際立っていることで、まるで拡大鏡のように、「近さ」を感じることができました。

「時代の変化」という単語がインタビュー中に出てきましたが、喜多村緑郎さんがおっしゃっていたように、「今」がいつ古くなるかなんて誰にもわかりません。私は今キーボードで文字を打っていますが、それだってなくなりつつあります。

禅には「即今目前」という言葉があります。今、ここにいる己しかない、だから今に集中するといった意味の言葉です。

今、目の前のことに集中する。その繰り返しで、いつの間にか「今のお茶の間」を発見できるかもしれません。

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