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6,7月号2024.05.01発売

永遠のふたり 白洲次郎と正子

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Culture

2024.05.21

竹本織太夫 大阪・中之島で素浄瑠璃の魅力を語る【文楽のすゝめ 四季オリオリ】第2回

大阪で生まれた伝統芸能・文楽の魅力を、太夫の竹本織太夫さんが語る連載。今回は織太夫さんにとって馴染みが深い、中之島でお話を伺いました。川と緑が感じられる場所はゆったりとリラックスできて、都会のオアシスの風情です。

▼連載第一回はこちらから!
師匠の思いを受け継ぎ、竹本織太夫の芸を守る【文楽のすゝめ 四季オリオリ 】第1回

子どものころから縁のある中之島

中之島は、堂島川と土佐堀川に挟まれた東西約3キロメートル、面積約50ヘクタールの細長いエリアを指します。江戸時代は全国各藩の蔵屋敷が集まり、米をはじめとする様々な物資の販売が行われ、「天下の台所」と呼ばれました。現在はオフィスビルや大阪市中央公会堂など歴史的建築物、文化施設などが集まり、水都大阪のシンボルアイランドとなっています。

左側に見えるのが大阪市中央公会堂

「中之島は子どもの頃からしょっちゅう来ている場所です。難波橋(なにわばし)の近くの天満橋の石町に祖父の二代目鶴澤道八(つるさわどうはち)※1のマンションがあったので、立ち寄った帰りにはバラ園や遊歩道が遊び場所でした」と、織太夫さんは懐かしそうに当時を振り返ります。

※1:文楽の三味線として活躍。

『織太夫ロード』は、人気散歩コース

太夫になってからも中之島との縁は深いようです。織太夫さんの遊び場所だった中之島公園のバラ園から遊歩道を西へ向うと、大阪市中央公会堂※2があります。「毎年この会場で行われる『中之島文楽』に出演していますし、2011年の『咲くやこの花賞』の授賞式も良い思い出ですね」。大阪市が将来の大阪文化の担い手にと1983年に創設した咲くやこの花賞は、初年度に豊竹咲太夫師匠も受賞されているので、文楽界では唯一の、師弟での受賞者になります。(2024年現在)

※2:中之島に建つ赤レンガ建築で、国の重要文化財指定。株式仲買人の岩本栄之助の寄付により竣工した。

「織太夫ロード」が掲載されている『文楽のすゝめ』を読む織太夫さん

バラ園をスタート地点として大阪市中央公会堂を通り過ぎ、御堂筋を渡って四ッ橋筋のフェスティバルホールまでは、約1.2キロの道です。2015 年に織太夫さんが「伝統を守りながら進化する道」として推薦し、大阪府・大阪市・観光庁(現在はJSTA)のランナーズインフォメーション研究所に公認されました。通称『織太夫ロード』は、モダンレトロ建築と豊かな自然が楽しめるので、散歩やジョギングにぴったりです。2012年にフェスティバルホールリニューアルの舞台開きでは、二人三番叟(ににんさんばそう)を勤めた織太夫さんにとって、思い入れのあるコースです。

素浄瑠璃で『卅三間堂棟由来』の世界へ誘う

2024年6月に、国立文楽劇場開場40周年記念「第27回文楽素浄瑠璃の会」が開催されます。文楽の公演では太夫の語りと三味線の伴奏に、人形芝居が結びつくのが特色ですが、素浄瑠璃(すじょうるり)では人形は登場しません。太夫の語りと三味線だけで、観客を物語の世界へと誘います。通常の公演では舞台上手(かみて 向って右側)の床が定位置の太夫と三味線が、舞台正面に座るのも印象的です。

織太夫さんは今回、弟で三味線弾きの鶴澤清馗(つるさわせいき)さんと『卅三間堂棟由来(さんじゅうさんげんどうむなぎのゆらい)』を演奏します。「この演目を実の兄弟が演奏するのは、史上初めてになりますね」

左から竹本織太夫さん、鶴澤清馗さん 国立文楽劇場提供

京都の三十三間堂建立の由来に関連しているこの作品は、宝歴10(1760)年に大坂豊竹座で初演されました。

お柳(りゅう)と横曽根平太郎(よこそねへいたろう)夫婦は、息子のみどり丸と共に、幸せに暮らしていました。そんなある日、白河法皇による三十三間堂建立のために、柳の大木を切り倒して棟木(むなぎ)にすることが決まります。実はお柳は柳の木の精で、切り倒されてしまえば、死んでしまう運命だったのです。人間と人間以外の植物が夫婦となり、子までなしながら、引き裂かれてしまう悲劇。平太郎の前世は梛(なぎ)の木で、お柳の柳とは、元々夫婦の間柄でありました。

不可思議でありながら輪廻転生や親子の情愛が語られる内容は、令和を生きる私たちの心にも、訴えかけてきそうです。

粋でいなせな二代目竹本織太夫が復活上演して評判に!

『卅三間堂棟由来』は一時上演が途絶えた時期がありましたが、二代目竹本織太夫(六代綱太夫)※3が復活上演して大評判になりました。資料には「明治8(1875)年2月、大阪竹田芝居で竹本織太夫が語ったところ、大好評を博した。全身に彫り物をしている江戸っ子の織太夫は、すでに大阪市民をやんやといわせていたが、いままた『卅三間堂』の好演で観客は沸き立ったようだ」とあります。その後各地で盛んに上演したようで、随所に残る華やかな節回しは、この二代目竹本織太夫が語ったものが、そのまま受け継がれているのだそうです。

※3:幕末から明治にかけて活躍した太夫。一時太夫を辞め紆余曲折の後、来阪して竹本山城掾(たけもとやましろのじょう)の門弟に。後に六代目竹本綱太夫を襲名。

『都名所之内 三十三間堂之図』 狩野秀源貞信 国立国会図書館デジタルコレクションより

時代劇に出て来そうな二代目織太夫は、粋な江戸っ子で、たぐいまれな美声の持ち主だったのだとか。また逸話も数多く残っているそうです。「太夫をやめて左官をしていた時期があった人で、町中で塗っていた左官を鼻で笑ったら、『やってみろ』と言われて、その場で見事に塗って見せたそうですよ」と織太夫さん。

語っていて楽しい、聴いても楽しい幻想的な物語

「物語に実在の人物である白河法皇が登場しますが、そこに柳の精の物語が関わってくるのが、『卅三間堂棟由来』のユニークなところです。史実とファンタジーが合わさっていますよね。語っていて楽しい演目です。聴いていても楽しいのではないでしょうか」と織太夫さんは魅力を語ります。

太夫が床本(ゆかほん)を置く見台 右端が織太夫さんが使用しているもの 国立文楽劇場の床にて

白河法皇には頭痛の病があり、因縁によるこの病を取り除く目的が、柳を切ることにつながります。実際の三十三間堂では、白河法皇(伝聞では後白河法皇)が頭痛平癒を祈って建立し、お堂の完成によって頭痛が治ったと伝えられています。この言い伝えを元に、大胆な解釈で物語が展開しているのも面白い点なのでしょう。素浄瑠璃観劇と共に、ゆかりの場所である三十三間堂へ足をのばすのも良さそうです。

参考書籍:『文楽のすゝめ』竹本織太夫監修 実業之日本社、『あらすじで読む 名作文楽50』 高木秀樹著 世界文化社、『カラー文楽の魅力』淡交社、『キングレコード八世竹本綱太夫大全集』倉田喜弘解説

取材・文/ 瓦谷登貴子 取材協力/ 国立文楽劇場

竹本織太夫さん出演情報

第27回 文楽素浄瑠璃の会

■日時:2024年6月29日(土)13時開演(16時40分終演予定)※字幕表示あり
■入場料金:5500円(学生3800円)
■会場:国立文楽劇場(OsakaMetoro「日本橋」駅下車7号出口より徒歩約1分)
『卅三間堂棟由来』平太郎住家より木遣り音頭(きやりおんど)の段
 竹本織太夫 鶴澤清馗
『伊賀越道中双六(いがごえどうちゅうすごろく)』沼津の段
 竹本錣太夫 鶴澤藤蔵 鶴澤清公
『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)』丞相名残(しょうじょうなごり)の段
 竹本千歳太夫 豊澤富助

チケット申し込み:国立劇場チケットセンターhttps://ticket.ntj.jac.go.jp/

Spotify podcast『文楽のすゝめ オリもオリとて』
X文楽のすゝめofficial

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竹本織太夫

竹本織太夫(たけもと おりたゆう)人形浄瑠璃文楽 太夫。1975年生まれ。大阪市出身。大伯父は四代目鶴澤清六。祖父は二代目鶴澤道八。伯父は鶴澤清治、実弟は鶴澤清馗。1983年、8歳で豊竹咲太夫に入門。初代豊竹咲甫太夫を名乗る。1986年、10歳で国立文楽劇場小ホールにて初舞台。2018年六代目竹本織太夫を襲名。実業之日本社から『文楽のすゝめ』シリーズを3冊既刊。NHK Eテレの『にほんごであそぼ』に2005年からレギュラー出演するなど多方面で活躍。国立劇場文楽賞文楽優秀賞等受賞歴多数。
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