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2024.04.05

源氏物語あらすじ全まとめ。わかりやすく全54帖をおさらい

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『源氏物語(げんじものがたり)』は、約千年前紫式部(むらさきしきぶ)によって書かれた世界最古の長編恋愛小説といわれます。時代を超えて読み継がれてきた大河ドラマである源氏物語は登場人物が多く、今を生きる私たちにとってハードルが高いのも事実。そこで、現代語訳や原文に挑戦する前に頭に入れておきたい全54帖のあらすじをまとめました。ばくっとあらすじを覚えておくと、源氏物語の世界に没入しやすくなること間違いなし!

「源氏物語」とはどんな作品?登場人物一覧

明かされる光源氏誕生の秘密

一帖 桐壺(きりつぼ)

いつの時代のことだったか、帝の寵愛を一身に受けるさして身分の高くない更衣(桐壺更衣)がいた。父である大納言もすでに亡くし、格別の後見もないため、帝の一のきさきである弘徽殿女御をはじめとする後宮の女たちから嫉妬されながら、更衣は玉のような皇子を出産した。帝はますます更衣を愛したが、女たちからの嫌がらせもはじまり、それに耐えかねた更衣は病に伏せ、やがて亡くなった。帝は深い悲しみにくれた。
 
母亡き後、養育していた更衣の母も亡くなったため、若宮は再び参内した。美貌はもとより、学問、音楽まで神才を見せる若宮が政争の種になることを恐れ、帝は若宮を臣籍に降し、源氏の姓を与えた。同じ頃、桐壺更衣に生き写しの藤壺の宮が入内した。帝の心は癒され、源氏も藤壺に亡き母の面影を求めた。帝の寵愛を受ける源氏と藤壺を人は「光る君」「輝く日の宮」と呼び讃えた。十二歳となった源氏は元服し、左大臣の娘(葵の上)と結婚した。しかし、源氏は四歳年上の妻になじむことができず、ますます藤壺への思慕を強めていった。

二帖 帚木(ははきぎ)

長雨の降り続くある夏の夜のこと、源氏の宿直所に葵上の兄であり、源氏のよきライバルである頭中将が訪れた。頭中将が源氏に贈られてきた恋文を見つけたことから、やがて話は女性論になる。そこに好き者として知られる左馬頭と藤式部丞が加わり「雨夜の品定め」が繰り広げられる。話の中で、源氏は頭中将が後見のない女性と通じ子まで成したのだが、正妻の嫌がらせを受けいつしか消えてしまったという話を聞く。また、源氏は自分とは縁がなかった中流の女性の魅力を三人の経験譚から知り、中流の女性に魅力を覚える。理想の女性はなかなかいないと言う彼らの話を聞きながら、源氏は理想の女性、藤壺にますます思慕を寄せる。
 
翌日、源氏は方違えのため紀伊守の別宅を訪れ、そこで紀伊守の父の後妻・空蝉が居合わせていることを知る。中流の女性への興味を募らせる源氏は、その夜半ば強引に寝所に忍び込む。その後源氏は空蝉の弟、小君を召し抱え空蝉との再会を狙うが、自身の身の程を知る空蝉はそれを許さなかった。
 
源氏、十七歳の夏のことだった。

三帖 空蝉(うつせみ)

再訪しての誘いにもなびかない空蝉に源氏は固執する。小君の手引きで紀伊守の邸宅を三度目に訪れた源氏は開放的な様子の若い女(軒端萩)と碁を打つ空蝉を垣間見る。若い女とくらべ見栄えはよくないが、源氏は空蝉に品のある慎みを感じる。夜、源氏は寝所に忍び込むが、それを察した空蝉は小袿を脱ぎ捨て寝所を抜け出した。行きがかり上、源氏は空蝉と同室で眠っていた軒端萩と情を交わす。
 
翌朝源氏は空蝉が脱ぎ捨てた小袿を持ち帰り、歌に思いを託す。小君から歌を渡された空蝉は、源氏の思いに応えられない我が身の情けなさを歌に詠み、源氏の歌の端に書きつけた。

四帖 夕顔(ゆうがお)

空蝉にうつつを抜かしていたころ、源氏は六条に住む高貴な女の所に忍んで通っていた。宮中から六条に向かう途中、源氏は夕顔の咲く家に住む女(夕顔)と知り合う。折しも六条の高貴な女との関係に気詰まりを感じていた源氏は、この女に耽溺していく。
 
近所の声が聞こえるような家での逢瀬に嫌気が差した源氏は、女を廃院に連れ出す。その夜、源氏は物の怪に襲われるような夢を見て、目を覚ます。源氏は魔除けをさせたが、正気を失った夕顔はそのまま息を引き取った。

悲しみにくれる源氏は瘧病を患う。秋、病から癒えた源氏は、夕顔の侍女であった右近から、実は夕顔は頭中将との間に子まで成した女であったことを聞かされる。空蝉と夕顔とのはかない縁に、源氏は物思いにふける。

紫の上登場!

五帖 若紫(わかむらさき)

十八歳の春、源氏は瘧病に苦しみ、加持を受けに北山の聖のもとを訪ねる。その夕暮れ由緒ありげな某僧都の家で可憐な少女(紫の上)を垣間見る。その少女は源氏が恋い焦がれる藤壺の宮に生き写しだった。
 
母を失い、祖母の尼君に育てられるこの少女は兵部卿宮の姫君で藤壺の宮の姪だった。源氏はこの少女を自らの手で育てたい旨を、僧都や尼君に願い出るが、少女の幼い年齢もあって、まったく相手にされない。それにも拘らず源氏は、病から癒え下山した後も少女に執心する。
 
その頃、藤壺の宮が宮中から里に下がった。源氏は藤壺の宮に仕える王命婦を頼りに、藤壺と夢のような逢瀬を持つ。そして、この一回の密会で藤壺は懐妊する。ふたりは罪の意識に苛まれるが、源氏は藤壺への思いをますます強めた。
 
しばし後、紫の上の祖母、尼君が亡くなった。源氏は紫の上を半ば盗み取るようにして、二条院に連れ去った。少女は二条院の暮らしにすぐになじみ、源氏になついていった。

六帖 末摘花(すえつむはな)

源氏ははかなく消えた夕顔のことが忘れられない。そんな折、乳母子の大輔命婦から、故常陸宮の姫君(末摘花)のことを聞く。姫は荒れた邸で琴だけを友として暮らしているという。興味を持った源氏は、早速常陸宮邸を訪れ、琴の音を耳にする。
 
源氏の後をつけ、同様に姫に懸想をする頭の中将と源氏は恋の鞘当てを繰り広げるが、姫は一向になびいてこない。いらだった源氏は命婦に手引きさせ姫と強引に契りを結ぶが、姫の風情のなさに落胆する。
 
忙しさに追われしばらくぶりに姫のもとに訪れた源氏は、その翌朝見た姫の醜い姿、特にだらりと伸びた、先が赤い鼻に驚きを覚える。だが、落ちぶれた宮家の境遇を哀れと思い、姫の面倒を見続けた。
 
二条院で、源氏は美しく成長する紫の上と、赤鼻の女の絵を描いたり、自分の鼻に紅を塗ったりして戯れた。

七帖 紅葉賀(もみじが)

 
朱雀院への行幸に先立ち、身重の藤壺に気遣って宮中で試楽が催された。源氏は頭の中将と青海波を舞い激賞されるが、藤壺は言葉少なに褒めただけだった。出産のため三条宮に退出した藤壺は、さらに源氏を遠ざける。源氏の思いは藤壺に似る紫の上に向けられていく。このため葵の上との仲はいっそう遠くなった。
 
藤壺が出産をした。源氏の生き写しの皇子を前にして、藤壺は恐れおののくが、事実を知らない帝は皇子の誕生を手放しで喜んだ。
 
そのころ源氏は源典侍という好き者の老女と関係を持った。それを知った頭の中将も源典侍に通う人となる。ふたりは老女をだしにしてふざけあった。

八帖 花宴(はなのえん)

源氏二十歳の春、南殿で桜の宴が催された。源氏は帝に所望され、詩や舞を披露し賞賛される。そんな源氏に対して、弘徽殿の女御は憎しみを募らせる。
 
宴が終わり、酔い心地で源氏が弘徽殿に忍び込むと、「朧月夜に似るものはなき」と口ずさみながら来る女(朧月夜)がいた。源氏が袖をとらえると女は最初おびえるが、源氏と知って心を許す。翌朝ふたりは名前も交わさぬまま扇だけを取り交わして別れた。その後、源氏は女が政敵である右大臣の娘、弘徽殿の女御の妹と知り、再会の困難を思う。
 
朧月夜は東宮に輿入れする予定だったが、源氏との逢瀬に思いふけていた。そんな折、右大臣家の宴に招かれた源氏は酔いすぎた風を装い、姫君たちの居室に向かった。当て推量で先日の扇の持ち主を問いかけると、返した声はまさにその人自身のものであった。

屈辱に震える六条御息所

九帖 葵(あおい)

桐壺帝が譲位をして弘徽殿の女御が産んだ皇子が帝(朱雀帝)となると、右大臣家が権勢を強めた。譲位に伴って六条御息所の娘が斎宮に定められると、源氏に冷遇される六条御息所は娘とともに伊勢へ下向することを考え始める。
 
葵祭の日、源氏も行列の供に加わると知り、懐妊中の葵の上は見物に出かける。そこで、身分をやつして見物に出ていた六条御息所の車と鉢合わせ、従者たちが御息所一行を辱めてしまう。
 
底知れぬ恥辱を受けた六条御息所は病に伏せ、夢の中で葵の上に憎しみをぶつける。同じ頃、葵の上には物の怪が取り憑き、左大臣家では加持祈祷が繰り返されていた。やがて葵の上は出産するが、生霊にとらわれ急逝する。
 
源氏は悲しみにくれるが、喪が明けて二条院に戻ると、美しく成長した紫の上と新枕を交わす。

十帖 賢木(さかき)

六条御息所は源氏への思いを断ち、娘とともに伊勢に向かう決心をした。出発間近になって、源氏は野宮に六条御息所を訪ね、ふたりは晩秋の野宮で心ゆくまで語り明かした。
 
十月、かねてより病に伏せていた桐壺院が崩御。年があらたまり、朧月夜が尚侍として帝に仕えた。朱雀帝は、母、弘徽殿の大后の言いなりとなり、源氏は政治的に追いつめられていく。

藤壺は桐壺院亡き後、東宮の後ろ盾として源氏を頼りにするが、源氏の藤壺への執心はますます強まっていく。思い悩んだ藤壺は、桐壺院の一周忌法要後、髪を落とした。
 
失意の源氏だが、朧月夜との関係は続いていた。ふたりはある日、右大臣に逢瀬の現場を目撃される。弘徽殿の大后をはじめとする、右大臣家の怒りは凄まじいものだった。

十一帖 花散里(はなちるさと)

右大臣家の台頭、女性たちとのはかない関係から源氏は厭世を強めていく。そんな折、源氏は故桐壺帝の女御であった女性の邸を訪れる。女御の妹(花散里)と源氏はかつて宮中でほのかな関係があり、姉妹は源氏を頼りに暮らしていた。
 
邸へ向かう途中源氏は、昔なじみがあった中川のほとりに住む女に歌を届けさせたが、返事はつれないものだった。
 
落ち着いた雰囲気につつまれた女御の邸で、源氏は女御と故桐壺帝のことを回想し、その後、花散里を訪ねた。花散里は源氏の不在を責めることなく、穏やかに語り合った。

光源氏須磨へ!

十二帖 須磨(すま)

源氏は自分をとりまく政情の悪化から自ら須磨へ退去する決意をした。都へ残る紫の上は悲嘆にくれるが、源氏は後ろ髪を引かれる思いで邸や所領の管理を託す。藤壺、東宮をはじめ、親しい人々と別れの挨拶を交わした源氏は、故桐壺帝の御陵を訪ねる。そこで源氏は故桐壺帝の幻が立ち現れるのを見た。紫の上と最後の別れを済ますと、源氏はごく少数の供とともに須磨へと向かった。
 
須磨での生活が落ち着くと、源氏は閑居のわびしさを痛感する。語らう相手もいないため、源氏は紫の上や六条御息所に手紙をしたためるが、源氏の不在を都の人々もまた嘆いていた。
 
源氏は須磨で秋を迎えた。帝や東宮は源氏を恋しく思うが、弘徽殿の大后を恐れ源氏に便りを出すことさえできない。そんな状況下、今や宰相となったかつての頭の中将が源氏を訪ね、久方ぶりに語り合った。
 
一方、明石の入道は源氏の噂を聞き、娘を源氏に捧げようと思いつめていた。
 
三月、禊ぎをしていた源氏を暴風雨が襲い、源氏は命からがら逃げ出した。

十三帖 明石(あかし)

 
須磨で源氏を襲った嵐はなお続いていた。紫の上からの使者によると都でも天変地異が続いているという。雷雨の中、源氏は住吉の明神に祈りを捧げる。風雨が静まったころ、まどろむ源氏の夢枕に故桐壺帝が立ち、この地を去るように告げる。奇しくも翌朝、明石の入道が源氏を迎えに現れる。入道も源氏を迎えるお告げを明石で得ていた。
 
明石に移った源氏は、都にも劣らない暮らしぶりに心を落ち着ける。入道は源氏に大切に育てた娘(明石の君)のことを持ちかける。入道の期待を受け、源氏は明石の君に手紙を送るが、身の程を知る姫はなかなかなびかない。
 
一方都では凶事が続いていた。朱雀帝は桐壺院の幻を見て、眼病を患う。源氏への不遇が原因と考えた帝は源氏を都へ呼び戻すことを考える。 
 
八月十三日、ついに源氏と明石の君が結ばれるが、紫の上を思う源氏は明石の君を冷遇する。明石の君は想像通りの事の運びに深く思い悩む。 
 
年が変わり、源氏は赦免され、都への帰還が決まる。同じ頃、明石の君は懐妊し、源氏は再び明石の君に心を寄せる。明石の君に執心しながらも、源氏は2年ぶりに都に戻り、権大納言に昇進、久々に帝と対面した。

十四帖 澪標(みおつくし)

病がちな朱雀帝は東宮への譲位を考えるが、そんな時でも心を占めるのは朧月夜のことであった。東宮(実は源氏の子)が元服し、即位をした(冷泉帝)。源氏は内大臣に昇進、葵の上の父、兄もともに昇進し、再び源氏は権勢を強める。
 
三月半ば、明石の君が女児を出産した。娘のために源氏は乳母を選び、明石に派遣する。同じ頃、源氏は紫の上に明石の君の件を打ち明ける。源氏の話を聞き、素直に嫉妬の感情をあらわにする紫の上の姿を源氏は好ましく感じる。
 
秋、源氏は住吉にお礼参りに出かける。偶然居合わせた明石の父娘は、源氏のあまりの華やかさに早々と立ち去った。
 
帝が代わるとともに娘と帰京した六条御息所は病に倒れ、出家した。御息所は娘(斎宮の女御)を源氏に託しこの世を去る。源氏は好き心を抑え後見を誓った。朱雀院は斎宮の女御を所望するが、源氏は藤壺と結託し、冷泉帝へ入内させることを計る。

十五帖 蓬生(よもぎう)

源氏が須磨、明石を流浪している間、末摘花の暮らしは困窮を極める。邸は荒れ果て、召使いが皆去っていく中、姫は源氏を待ち続ける。源氏は帰京後も姫を訪れる気配はなく、姫は絶望しつつ独り冬を越していく。
 
夏になり、偶然邸を通りかかった源氏は、末摘花のことを思い出し再会する。邸は活気を取り戻し、後に末摘花は二条東院に引き取られる。

十六帖 関屋(せきや)

夫、伊予介の転任でともに東国へ下っていた空蟬は、任期が切れた夫とともに都へ帰る途中、石山寺を詣でる源氏と偶然出会う。かつての小君を通して源氏の消息を聞いた空蟬は後に源氏と文を交わす。夫の死後、義理の息子から言い寄られ困惑した空蟬は密かに出家する。

光源氏この世の栄華を極める

十七帖 絵合(えあわせ)

故六条御息所の娘(斎宮の女御)が年下の冷泉帝に入内した。帝の寵は、年齢が近いこともあって、先に入内した弘徽殿の女御に傾きがちだったが、絵が好きな帝は絵画に造詣が深い斎宮の女御に惹かれていく。これに慌てた弘徽殿の女御の父、権中納言(かつての頭の中将)は当代一流の絵師に贅を尽くした絵を描かせる。これに対し源氏は、紫の上とともに秘蔵の絵を集める。
 
後宮を舞台に繰り広げられる絵合わせが、三月、藤壺の御前で行われた。双方優劣つけがたく、帝の御前で再び開かれることとなった。その絵合わせも雌雄決しがたかったが、最後に出された源氏の手による須磨の日記によって、斎宮の女御方が勝利をおさめた。
 
栄華を極めた源氏は、いつしか自らの出家へと思いを馳せた。

十八帖 松風(まつかぜ)

かねてより造営中であった二条東院が完成し、源氏は西の対に花散里を住まわせた。明石の君を東の対にと考える源氏だが、明石の君は身の程を思い決心できない。そこで明石の入道は大堰川のほとりに娘を住まわせるための家を用意した。明石の君は、入道と涙ながらに今生の別れをし、娘とともに移り住んだ。
 
口実をつくり紫の上の不満をかわした源氏が明石の君を訪れる。三年ぶりに再会したふたりだが、源氏は成長した我が子の将来を思い描く。
 
二条院に戻った源氏は紫の上に明石の君との娘の養育を持ちかける。子どもが好きな紫の上は満更でもない様子だった。

十九帖 薄雲(うすぐも)

 
冬になり明石の君が姫君と住む大堰は寂しさを増す。源氏は明石の君のつらさを思いながらも、姫を紫の上の養女にする申し出をする。明石の君は思い悩むが、娘の将来を考え娘を手放す決心をする。二条院に引き取られた姫は、はじめこそ悲しんだもののすぐに紫の上になついていった。
 
春になると天変地異が相次いだ。それに呼応するかのように太政大臣、そして、源氏最愛の女性、藤壺の宮がこの世を去った。源氏は人目につかぬよう御堂に籠もり悲嘆に暮れた。
 
四十九日の法要が済んだころ、ある高僧が帝に出生の秘密を告白する。天変地異の理由を、父を臣下とする自身の非礼と結びつける帝は源氏に譲位をほのめかすが、源氏は固辞する。帝の態度から源氏は秘密の漏洩を察し動揺する。
 
秋、斎宮の女御が二条院に下がった。源氏は、春秋の優劣を論じつつ恋心をほのめかす。女御に好色を厭われた源氏は恋心を自制する。以前と異なる自分の姿に、源氏は恋の季節が終わったことを自覚する。

二十帖 朝顔(あさがお)

父宮の薨去により朝顔の姫君は斎院を退き、桃園の宮で暮らしていた。姫と同居する女五の宮の見舞いにかこつけて邸を訪問した源氏は朝顔の姫君に恋心を訴えるが、姫君は聞こうとしない。
 
世の人々は源氏と姫君のことを理想のふたりだと噂をする。それを聞いた紫の上は、さしたる後見のない自分の身と前斎宮である姫君をくらべ強い不安を覚える。
 
源氏の求愛を聞くことなく朝顔の姫君は勤行に明け暮れる。あきらめきれない源氏だが、紫の上を放っておくこともできず弁明に明け暮れる。雪が降る中、源氏と紫の上が女性論を交わしていると、藤壺の宮が源氏の夢枕に立ち、秘密の漏洩を深く恨んだ。

二十一帖 少女(おとめ)

源氏はなおも朝顔の姫君に言い寄るが、姫君のかたくなな態度は変わらない。
 
一方、祖母大宮の元で養育されていた源氏と葵の上の子、夕霧が十二歳となり元服した。源氏は勉学を身につけさせるために、六位という下級の官位に留めおいた。大宮も夕霧もその処置に不満であったが、発憤した夕霧は異例の早さで昇進した。
 
同じころ、斎宮の女御が立后した。源氏は太政大臣に、かつての頭の中将は内大臣に昇進した。斎宮の女御の立后にあせる内大臣は、次女雲居雁の入内を考えるが、雲居雁は夕霧と相思相愛の仲になっていた。そのことを知った内大臣は雲居雁を自宅に連れ戻す。
 
源氏は夕霧の後見を花散里に依頼する。夕霧は容姿はふつうだが気立てのよい花散里に心を許す。
 
源氏は四季の町からなる六条院を完成させた。春の町を紫の上、夏の町を花散里の邸とし、秋の町を斎宮の女御の里邸とした。

二十二帖 玉鬘(たまかずら)

源氏は夕顔のことが忘れられない。その夕顔にかつて仕えていた右近は紫の上の侍女となっていた。
 
夕顔と内大臣(頭の中将)の娘(玉鬘)は、夕顔の死後、その乳母の縁者を頼りに筑紫に下っていた。美しく成長した玉鬘は、田舎風情の豪族からの強引な求婚に苦慮していた。思い悩んだ乳母はすべてを捨てて玉鬘とともに上京する。
 
都であてのない生活を続けていた玉鬘一行は、開運祈願のため長谷を詣でた。するとそこで同じく長谷に詣でていた右近と邂逅する。奇跡の再会を果たした右近はこのことを源氏に伝える。源氏はすぐさま六条院に玉鬘を引き取り、花散里に託した。
 
田舎育ちにもかかわらず、美しく聡明な玉鬘に源氏は満足する。若干の好き心が首をもたげるが、六条院を訪れる男たちの玉鬘に対しての様子を見てみようと計画する。
 
新年が近づき源氏は六条院に住む女性たちの衣裳を誂える。玉鬘にはとりわけ鮮やかな衣裳が仕立てられ、紫の上は複雑な胸中を覗かせる。

二十三帖 初音(はつね)

新春の六条院は栄華に満ちていた。なかでも紫の上が住む春の町はこの世の極楽のようだった。
 
元日、源氏は六条院に住む女君たちを訪れ、歌や贈り物を交わした。夕刻、明石の君の元を訪れると、明石の君は明石の姫君からの文を読み思い乱れていた。その日源氏は明石の君と朝を迎える。
 
翌日、源氏の元には多くの客が新年の挨拶に訪れるが、玉鬘の美貌に気もそぞろだった。その後源氏は二条東院に住む末摘花と空蝉を訪れる。
 
儀式が一段落し男踏歌が催され、六条院に住む女性たちが対面した。これを機に女楽を開催することを源氏は考える。

二十四帖 胡蝶(こちょう)

三月、春たけなわの続く春の御殿で源氏は船楽を催した。折しも秋好中宮が里に下がっていたので、中宮に仕える女房達も見物し盛大な宴となった。源氏の弟、蛍の宮をはじめ、参列した男たちは玉鬘の存在に気もそぞろだった。
 
玉鬘は洗練の度を増し、多くの文が届けられる。源氏はすべての文を読み玉鬘に対応を指示するが、自身も恋心を募らせていく。玉鬘は源氏を信頼する様子だが、紫の上はその本心を察し不安を感じる。
 
源氏は親代わりの身と内省しながら、雨の夜、玉鬘に告白する。突然のことに玉鬘は困惑する。

二十五帖 蛍(ほたる)

源氏の懸想に玉鬘は困惑を隠せない。源氏は玉鬘に告白しながらも、蛍の宮を恋の相手として勧める。玉鬘が蛍の宮と対面する日、源氏は蛍を用意し頃合いを見て放った。蛍の灯りで垣間見た玉鬘の美しさに、蛍の宮は玉鬘への思いを強くする。
 
五月五日、源氏は六条院で競射を催す。その夜、源氏は花散里の御殿に泊まるが、いつからかふたりは男と女の関係ではなくなっていた。
 
源氏は自らの経験から夕霧を紫の上から遠ざけていた。夕霧は雲居雁のことを忘れられずにいたが、内大臣の仕打ちを恨み許しを懇願する気にはなれなかった。
 
内大臣は自分の娘たちの不運を嘆き、行方のわからない玉鬘を捜し出そうと夢占いをさせる。

二十六帖 常夏(とこなつ)

暑い夏の日、源氏が夕霧と釣殿で涼をとっていると、内大臣家の若者たちが現れた。源氏は彼らから、内大臣が最近探し当てた外腹の子(近江の君)の出来が悪く困っていると聞くと、夕霧と雲居雁の件で気を悪くしていた源氏は内大臣を責める。
 
黄昏時になって源氏は、玉鬘と琴を唱和しながら夕顔のことを語る。玉鬘に恋心を抱く源氏だが、現実を考え、髭黒の大将か蛍の宮に玉鬘を託すことを考える。
 
内大臣は、夕霧と雲居雁の結婚を許そうと考えるが、源氏が折れない限りはと思い直す。近江の君にほとほと手を焼く内大臣は、弘徽殿の女御に行儀見習いを頼んだ。
 

二十七帖 篝火(かがりび)

近江の君に対する内大臣の態度を源氏は非難する。玉鬘は徐々に源氏に惹かれはじめるが、男女の関係になることはなかった。
 
玉鬘は偶然、柏木たち血のつながった兄弟の楽を聴いて感動する。事情を知らない柏木は美しい玉鬘を前に緊張する。

夕霧、紫の上に懸想する

二十八帖 野分(のわき)

中秋を迎え、六条院、とりわけ秋好中宮の庭は美しさの盛りを見せる。そんな中、激しい野分が六条院を襲う。
 
明石の君の見舞いに訪れた夕霧は、紫の上を垣間見て、その美しさに驚愕する。
 
翌朝、夕霧は源氏と紫の上の仲むつまじい会話を聞く。源氏は夕霧に秋好中宮の見舞いを頼むが、気もそぞろの夕霧を見て、紫の上が垣間見られたことに気付く。 
 
源氏は夕霧とともに六条院の女性たちを見舞う。玉鬘に対し親とは思えない態度をとる源氏の姿に夕霧は驚きを隠せない。
 
夕霧が大宮の元を訪れると、内大臣も大宮を訪れていた。雲居雁に会うことができない寂しさを語る大宮に、内大臣は娘など持つものではないと不満を託つ。

二十九帖 行幸(みゆき)

十二月、大原野への行幸があった。見物に出た玉鬘は、初めて父、内大臣の姿を見る。蛍の宮、髭黒の大将なども見るが、冷泉帝の美しさに感動を覚え、源氏に勧められていた尚侍として宮中に出仕するという形での入内に興味を覚える。
 
源氏は再び玉鬘に入内を勧め、裳着の儀の準備をする。内大臣に腰結役を依頼するが断られた源氏は大宮を訪れ、玉鬘と内大臣の関係を語る。
 
大宮の仲介で源氏と内大臣は久々に対面し、昔のように心を通じ合った。源氏は玉鬘のことを内大臣に告げた。
 
源氏と玉鬘の関係を疑う内大臣だが、結局は二月に行われた裳着の儀で腰結役を果たす。
 
玉鬘の話を聞き、羨ましがる近江の君の姿を内大臣と柏木はからかう。

三十帖 藤袴(ふじばかま)

入内を前にして玉鬘はひとり悩んでいた。源氏の懸想はやまず、また、入内したとしても帝寵の厚い秋好中宮と弘徽殿の女御と争うことは考えられなかった。父、内大臣は源氏の顔色を窺うばかりで、誰ひとり悩みを打ち明ける相手もいない。そんな折、親切心を装った夕霧にまで言い寄られる。
 
源氏の元に立ち寄った夕霧は玉鬘との関係を追及する。なんとかかわす源氏だが、玉鬘への思いを断つ時が来たことを悟る。
 
玉鬘の入内が十月と決まり、内大臣の使者として柏木が訪れる。かつての懸想人である実の弟柏木を玉鬘はそっけなくあしらう。多くの求婚者から手紙が届くが、玉鬘は蛍の宮にだけ短い返事を書いた。

三十一帖 真木柱(まきばしら)

玉鬘を強引に手に入れたのは髭黒の大将だった。源氏と冷泉帝は残念がるが、玉鬘は予定通り尚侍として出仕することとなった。有頂天の髭黒にくらべ、玉鬘は優雅な源氏や蛍の宮を思い嘆き悲しんだ。
 
髭黒の正妻、式部卿の宮の娘は、かつては美貌を誇っていたが物の怪に捕らわれ、心身ともに病み苛まれていた。哀れに思う髭黒はあれこれと気をかけていたが、ある日玉鬘を訪れようとしていた時に、錯乱した妻に灰を浴びせかけられる。それ以来髭黒は妻を避ける。
 
玉鬘の件を聞いた式部卿の宮は、娘を自邸へと迎えるための車を差し向ける。髭黒との仲を断念した娘は、息子と娘を引き連れ式部卿の宮邸に帰る。慌てた髭黒だが、連れ戻せたのは男君だけだった。
 
翌年玉鬘は出仕する。帝との仲を心配する髭黒は強引に自邸に連れ戻す。髭黒の子どもたちも玉鬘に懐き、玉鬘はその後男子を出産する。

三十二帖 梅枝(うめがえ)

源氏は明石の姫君の裳着の準備をする。東宮の元服も迫り、元服後、姫君が入内できるよう支度を調える。公私ともに落ち着いた源氏は薫き物合わせを思いつく。名香が集められて催された薫き物あわせ後、明石の姫君の裳着が行われた。腰結役は秋好中宮自らが務めた。
 
二月東宮が元服した。明石の姫君の異例の権勢を恐れ、他の姫君の入内が遠慮されことを嫌って、源氏は姫君の入内を延期した。
 
一方内大臣は、可愛い盛りの雲居雁が家でくすぶっているのを見て思い悩む。雲居雁は夕霧の縁談の噂を聞き、恨みの歌を送る。

三十三帖 藤裏葉(ふじのうらば)

夕霧の縁談話を聞き、内大臣は焦燥する。三月、故大宮の三回忌で内大臣は夕霧に歩み寄り、四月、内大臣邸で催された藤の宴で夕霧と雲居雁は結婚する。
 
明石の君の入内が決まり、紫の上は実の娘への思いを斟酌し、明石の君を姫の後見とする。入内を機会に、明石の君が参内し侍女として娘に付き添うことになる。はじめて対面した紫の上と明石の君はすぐに互いを認め合う。すべてを手に入れた源氏は出家を考える。
 
四十歳となり、源氏は准太上天皇、内大臣は太政大臣、夕霧は中納言に昇進した。十月、六条院への行幸が、朱雀院を伴って華やかに行われた。源氏や朱雀院は若かりしころ催された紅葉の賀に思いを馳せた。

三十四帖 若菜上(わかなじょう)

六条院への行幸後、病にかかり強く出家を望む朱雀院は、愛娘の女三の宮の行く末だけを気にかけていた。あれこれと候補者を考えた末、朱雀院は姫を源氏に託す決心をする。一度は固辞した源氏だが、正妻として姫を受け入れる。紫の上の心は激しく揺れるが、かろうじて冷静さを保っていた。
 
年が明け、玉鬘が源氏の四十の賀を催す。
 
二月中旬、女三の宮が六条院に迎えられた。源氏は紫の上とくらべ、あまりに幼い女三の宮にあきれ果てる。紫の上の苦悩は絶えず、その重苦しさから逃れるように、源氏は朧月夜を訪問する。
 
明石の女御が懐妊し、六条院に下がった。これを機に紫の上は女三の宮と対面し、六条院の秩序の維持に努める。
 
翌年三月、明石の女御は男児を出産。宿願をかなえた明石の入道は、山に入り、消息を絶つ。
 
春うららかな日、六条院で蹴鞠が催された。偶然にも猫が御簾を引き上げ、柏木が女三の宮を垣間見、懸想する。

女三の宮と柏木の秘密

三十五帖 若菜下(わかなげ)

女三の宮のことが忘れられない柏木は、東宮に頼み、女三の宮の猫を借り受ける愛玩する。
 
四年の月日が流れた。冷泉帝は東宮に譲位し、明石の女御が産んだ皇子が東宮となった。女三の宮は二品に叙され、源氏はますます丁重に扱う。明石の君、女三の宮と比して、自分の立場の心細さを痛感する紫の上は出家を志す。
 
女三の宮との対面を望む朱雀院のため、源氏は朱雀院の五十の賀を計画する。それに備えて、源氏は女三の宮に琴を教授する。年が明け、院の賀に先立ち、源氏は六条院の女性たちによる女楽を催した。その直後、紫の上は重病に伏し、二条院に移される。源氏は紫の上につきっきりで看護にあたった。
 
柏木は女三の宮の姉(落葉の宮)を妻としていたが、女三の宮に固執していた。源氏不在に乗じて、柏木は小侍従の手引きで女三の宮と密通する。そのころ紫の上は重体に陥る。調伏を続けると六条御息所らしき霊が現れ源氏は慄然とするが、紫の上はなんとか息を吹き返す。
 
紫の上は小康状態を保ち、源氏は六条院に戻る。そこで女三の宮の懐妊を知り不審に思う。源氏は女三の宮の部屋で柏木の手紙を見つけ、事の次第を知る。真相を知られたことに気づいた柏木は焦燥のあまり、病に倒れる。 
 
延期が続いていた朱雀院の五十の賀の試楽が行われた。病をおして出席した柏木は、源氏から痛烈な皮肉を浴びせられ、重病に伏す。柏木不在のまま十二月に賀が催された。

三十六帖 柏木(かしわぎ)

柏木は死を予感し、小侍従に女三の宮への手紙を託す。
 
その晩、女三の宮は産気づき、男子(薫)を出産する。源氏の冷淡な態度に怯え、女三の宮は密かに下山していた父、朱雀院によって受戒し出家する。
 
女三の宮の出家を知った柏木は重体に陥る。見舞いに訪れた夕霧に源氏へのとりなしと落葉の宮の行く末を託した後、柏木はこの世を去った。
 
三月、実の父そっくりの薫と尼姿の女三の宮を前にして源氏の胸中は複雑だった。
 
夕霧は落葉の宮をたびたび見舞い、ほのかな恋心を文に託す。

三十七帖 横笛(よこぶえ)

柏木の一周忌が巡ってきた。源氏や夕霧の厚意に事情を知らない柏木の父、致仕の大臣は、感激しつつ悲しみを新たにする。源氏は日に日に成長する薫の姿に自身の老いを感じる。
 
秋、落葉の宮を見舞った夕霧は柏木が愛した横笛を贈られる。その晩、夕霧の枕に柏木が立ち、その笛は別の人に贈りたいと語る。
 
笛の処置に困った夕霧は六条院を訪れる。薫を見た夕霧はその面影に柏木を感じ、源氏に柏木の遺言を質した。

三十八帖 鈴虫(すずむし)

翌夏、女三の宮の持仏開眼の供養が、源氏、紫の上の協力のもと営まれる。女三の宮はなお自分に執心する源氏の態度に困惑する。
 
八月十五日、源氏は女三の宮を訪ね歌や琴で遊ぶ。夕霧たちも訪れ管弦を愛でていたころに、冷泉院から宴への招待があり、皆で参上した。

三十九帖 夕霧(ゆうぎり)

落葉の宮の母、一条御息所は病気平癒のため娘とともに小野山荘に移った。御息所の見舞いと称して山荘を訪れた夕霧は応対に出た落葉の宮に言い寄り、半ば強引に側で一夜を過ごす。
 
そのことを聞いた御息所は夕霧へ文を送るが、文を見つけた雲居雁がこれを奪い隠す。返事も訪れもないことに落胆した御息所は、失意のまま亡くなる。
 
夕霧は御息所の葬儀を仕切り、母を亡くし呆然とする落葉の宮になおも言い寄り続ける。頑なに拒む落葉の宮だが、遂に夕霧と関係を結ぶ。
 
その後、夕霧は妻たちとの間に多くの子を成した。

紫の上死す

四十帖 御法(みのり)

紫の上は数年来体調が思わしくなく出家を望むが、源氏は決して許さない。 
 
三月、紫の上は二条院で自身の発願による法華経千部の供養を盛大に催す。紫の上は自身の死が近いことを悟り、近親者と別れを交わす。
 
秋、紫の上は、源氏、明石の中宮に看取られこの世を去る。多くの人が弔問に訪れる中、源氏がただただ悲嘆に暮れた。

四十一帖 幻(まぼろし)

年が明けたが源氏の悲しみは癒えず、蛍の宮以外とは会おうともしない。
 
やがて夏が来て、秋が来たが、源氏は親しい女性たちと紫の上の思い出を語らい涙するだけだった。
 
冬、源氏は出家を決意し、紫の上と交わした文を焼き、紫の上の死後、初めて人前に姿を表した。源氏は自分の人生が終わったことを悟る。

雲隠(くもがくれ)

いつからか幻の帖として、巻名だけが残されている帖。

光源氏亡き後の物語がスタート

四十二帖 匂兵部卿(におうひょうぶきょう)

源氏の死後、源氏に並び立つ人物は出てこなかったが、今上帝の三の宮、匂の宮と、女三の宮の息子、薫が美しく成長し、評判を呼んでいた。
 
薫は皆に愛されていたが、己の出自を疑い悩んでいた。
 
薫は生まれつき何とも言えない芳香を身にまとっていた。匂の宮はそれに対抗し、薫物に趣向を凝らしていた。世間の評判はふたりに集中したが、薫は厭世の思いが強く、特定の女性をつくらずにいた。

四十三帖 紅梅(こうばい)

柏木の弟、按察大納言は亡くなった妻との間にふたりの姫君をもうけていた。今は故蛍の宮の正妻であった真木柱を妻にしており、真木柱には宮の御方という連れ子がいた。大納言は長女を東宮に入内させ、次女を匂の宮に嫁がせようと考える。一方匂の宮は宮の御方に懸想していた。真木柱は匂の宮の好色からふたりの関係を躊躇する。

四十四帖 竹河(たけかわ)

玉鬘は髭黒と三男と二女を成していたが、髭黒亡き後、娘たちの将来について苦慮していた。娘たちは、帝、冷泉院、夕霧の息子(蔵人の少将)から求婚されている。冷泉院の意向に背く結果となった自身の責もあり、大君は冷泉院のもとにと玉鬘は考える。
 
桜の花の盛りに、蔵人の少将は大君を垣間見て、思慕を募らせる。大君は冷泉院に嫁ぎ、やがて女児を出産する。
 
明石の中宮、帝との確執を怖れ、玉鬘は中君を尚侍として入内させる。その後大君は男子を出産する。
 
年が明け、夕霧は左大臣に、薫は中納言に昇進。それを見て玉鬘は我が子たちの不運を嘆く。

四十五帖 橋姫(はしひめ)

そのころ世間から忘れられた古宮(八の宮)がいた。源氏の弟にあたるが、冷泉院が東宮のころ政変に巻き込まれ、源氏の政界復帰に伴って見捨てられた存在となっていた。さらに北の方にも先立たれ、京の邸も焼失し、宇治でふたりの娘を育てながら、聖のような生活を送っていた。宮のことを聞いた薫は、宮と交際をはじめ、次第にその高潔な人柄に惹かれていく。
 
薫が宇治に通い始めて三年目の秋、たまたま有明の月の下で姫君たちを垣間見、歌を読み交わす。その際、応対した老女房(弁)は自分が柏木の乳母子であると告げ、再会を約束する。
 
八の宮は信頼する薫に姫君たちの後事を託し、薫は応諾する。その明け方、薫は弁から自分の出生の秘密を知る。薫は驚き女三の宮に真実を聞こうとするが、無心に経を読む女三の宮を見て、打ち明けることも叶わず、苦悩を深める。

四十六帖 椎本(しいがもと)

二月二十日過ぎ、薫から宇治の姫君の話を聞き、興味を持った匂の宮が宇治を訪れ、薫と供に管弦の遊びを催す。匂の宮からの手紙に八の宮は中の君に返事を書かせる。七月、死期が近いことを悟った八の宮は再び薫に姫君たちの後見を頼む。
 
姫君たちに軽率な結婚への訓戒を残し、八の宮はこの世を去る。薫や匂の宮から文が届けられるが、父の遺言を守り、姫君たちは固く心を閉ざす。
 
冬、薫は大君に恋情を訴えるが、大君は取り合わない。
 
翌春、匂の宮はかねてからあった夕霧の娘との縁談にまったく興味を見せず、薫に八の宮の娘との仲介を頼む。夏、薫は喪服姿の姫君たちを垣間見る。

四十七帖 総角(あげまき)

 
八月、八の宮の一周忌のため宇治を訪れた薫は、大君に恋心を訴える。大君はそれを強く拒み、薫は空しく一夜を過ごす。大君は自分が後見となって、中の君を薫に嫁がせたいと考え、弁を通じて薫に伝える。大君を忘れられない薫は、弁の手引きで大君の寝所に忍び入るが、気配を察した大君は中の君を残して身をかわす。薫は中の君と夜を徹して語り合う。
 
薫は自分が大君と結ばれるには、匂の宮と中の君を結婚させるしかないと考え、実行に移す。結婚後、匂の宮は母、明石の中宮にいさめられ、宇治から足が遠のく。さらに夕霧の六の君と匂の宮との縁談話を聞き、大君はますます絶望する。
 
十一月、病に伏せがちな大君は阿闍梨から父、八の宮が成仏できずに苦しんでいるという夢を見たと聞く。自責の念から重体に陥った大君は薫に看取られながらこの世を去る。匂の宮は母の許しを得て、中の君を京に引き取る準備をする。

四十八帖 早蕨(さわらび)

中の君が未だ悲嘆に暮れる中、宇治に春が訪れた。匂の宮は二月初旬に中の君を京へ迎えることにする。宇治を離れがたく思い悩む中の君に、薫は細やかな配慮を見せるが、心の中では匂の宮に中の君を譲ったことを悔いていた。中の君は、出家をしひとり宇治に残る弁と別れを惜しみ、後悔しつつも上京する。
 
匂の宮は薫の悔いを知り警戒する。中の君はそんな薫、匂の宮の心持ちを煩わしく思う。

浮舟登場!

四十九帖 宿木(やどりぎ)

帝は女二の宮を薫に嫁がせたいと考える。それを知った夕霧は匂の宮と六の君の縁談を進める。中の君は匂の宮の縁談話を聞き、父の遺言に背き、宇治を離れたことを後悔する。
 
はじめ匂の宮は縁談に乗り気でなかったが、次第に六の君に惹かれ、中の君とは疎遠になっていく。薫は苦悩を深める中の君の袖をとらえるが、中の君の懐妊を知り、思いを留める。中の君に移った残り香から匂の宮は疑惑を抱き、嫉妬心から再び中の君に執心する。
 
薫の思いを煩わしく思う中の君は、大君に似る異母妹(浮舟)の存在を明かす。年が明けて中の君は男子を出産。薫は女二の宮と結婚する。四月、宇治に赴いた薫は浮舟を垣間見る。

五十帖 東屋(あずまや)

浮舟の母(中将の君)は薫の思いを知るが、身分の差を考え、浮舟を左近少将に嫁がせようとする。財産目当ての左近少将は浮舟が父•常陸介の実子でないと知ると、話を一方的に破断する。中将の君は中の君に浮舟の後見を頼み、薫との縁を願う。
 
匂の宮は邸に帰ると、誰とは知らぬまま浮舟に言い寄る。中将の君は、事なきを得た浮舟を三条に移す。
 
九月、浮舟が三条にいると知った薫は、浮舟と会い契りを結ぶ。翌日、薫は浮舟と連れ立って宇治に向かう。

五十一帖 浮舟(うきふね)

匂の宮は二条院で会った浮舟が忘れられない。
 
年が明け、浮舟から中の君に手紙が届いた。その文面から、薫が浮舟を宇治に隠れ住まわせていることを知った

匂の宮は、密かに宇治を訪れ薫を装って寝所に入る。浮舟は人違いと知って恐れおののくが、情熱的な匂の宮に惹かれていく。
二月、薫は宇治を訪ねる。秘密を抱え苦悩する浮舟の姿に薫は女としての成長を感じ、京に迎える約束をする。一方、浮舟に情熱を燃やす匂の宮は、雪の積もるなか宇治を訪ねる。匂の宮は浮舟を対岸の隠れ家に連れ出し、夢のような二日間を過ごす。
 
さまざまな思いが交錯する浮舟のもとに、薫から京へ迎える日を告げる知らせが届く。事情を知らない女房たちは上京の準備をするが、ふとしたことから秘密が漏れ、薫から密通をなじる歌が届く。追いつめられた浮舟は死を決意する。

五十二帖 蜻蛉(かげろう)

浮舟の失踪に宇治の人々は大慌てする。浮舟が入水したことを知る右近は、浮舟の母、中将の君に事情を打ち明け、真相が明らかになることを怖れ、亡骸もないまま葬儀を行う。
 
匂の宮は悲しみのあまり病に伏せ、薫は浮舟を放置した責任を痛感し、家族の後見を約束する。
 
夏、明石の中宮が催した法華八講の日に、薫は女一の宮を垣間見、強烈に惹きつけられる。妻である女二の宮に同じ装いをさせたりするが、心は慰められない。さまざまな女君との恋の有り様に無常を感じ、薫は、はかなく別れた宇治の姫君たちに思いを馳せる。

五十三帖 手習(てならい)

横川の僧都という高僧がいた。僧都は母の病気のため下山していた。宿のある院の裏手で僧都は意識のない女を見つける。僧都の妹尼が小野の里で介抱にあたることになった。
 
僧都に加持され意識を取り戻した女は、実は宇治で入水した浮舟だった。浮舟は事情を語らず、頑なに出家を望んだ。僧都はあまりの熱心さに五戒を授ける。
 
小野の里に妹尼の亡き娘の婿であった中将が訪れ、浮舟に懸想する。妹尼の周囲も結婚を期待するが、浮舟にとってはただ煩わしいだけだった。浮舟は下山していた横川の僧都に懇願し、念願の出家を果たす。
 
翌春、仏道に励む浮舟は、薫が自分の一周忌を盛大に執り行うと知り、心乱れる。薫は偶然浮舟の現状を知り、横川を訪れる決心をする。

五十四帖 夢浮橋(ゆめのうきはし)

薫は横川の僧都を訪ね事情を語る。浮舟と薫の関係を知った僧都は驚き、浮舟を出家させたことを後悔する。薫は浮舟との再会を望むが、僧都は薫に伴う浮舟の弟に浮舟への手紙を託すことだけに応じた。
 
翌日、薫は浮舟の弟を使者として浮舟のもとへ向かわせる。浮舟は激しく動揺するが、弟に会うことも、薫の手紙に返事を書くことも、人違いだとしてしなかった。薫は、浮舟が誰かに匿われているのではないかと疑う。

輝く日の宮(かがやくひのみや)

源氏最愛の女性、藤壺の宮のことが書かれていたとされる幻の帖。