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Culture

2025.06.20

片岡千之助の連載 Que sais-je「自分が何も知らない」ということを知る旅へ!#006 音楽

“Que sais-je(クセジュ)?”とは、フランス語で「私は何を知っているのか」。自分に問いかけるニュアンスのフレーズです。人生とは、自分が何も知らないということを知る旅ではないでしょうか。僕はこのエッセイで、日々のインプットを文字に残し、皆さんと共有します。 今回の「旅」は…音楽。僕の中で生き続けるスーパースター、X JAPANのhideさんです。

ピンク髪に、全身赤レザーの美青年

10年ほど前に遡ります。高校生だった僕は音楽が好きで、様々なジャンルや時代ごとの音楽を聴いてきました。

ある時、それまで触れることのなかったX JAPANがふと気になり、色々と聴き始め、『The Last Live』のライブDVDにたどり着きました。その中でも特に印象に残ったのは「Dahlia」という曲のギターソロの場面でした。

ピンク髪で、全身赤レザーに身を包んだ美青年が、片笑いをしながらギターをかき鳴らす。彼のギターの音は、何かが刺さってくるように響いてきて、視覚からも聴覚からも、僕の心はすべて奪われてしまいました。堕とされたという表現が合うのでしょうか。堕とされながらも、どこか裏腹に、安心するような感覚でもありました。

そして不思議と、ステージに立つ彼の仕草や表情に、僕の中で共感の嵐が巻き起こりました。当時、高校生ながらに占いにハマっていた僕は、あのギタリストと自分は同じ星に生まれたのだろう、と勝手ながらに感じたのです。九星気学という占いのサイトで、彼の生年月日を打ち込んでみたところ、本当に自分と同じ生まれ星だと分かり、そこからは彼に対して、ファンとしての憧れという言葉では表現しきれないほどの気持ちを持つようになりました。

その人は、僕が生まれるより前の1998年5月2日に、亡くなってしまいました。同じ時間を生きたことは一瞬もなく、触れることはもちろん同じ空気を吸ったことさえありません。それでも映像の中から、彼は僕の心を奪い去りました。亡くなったアーティストの作品に心を動かされる経験は初めてではありません。でも、そのどれとも比較にならない、強烈な印象を植え付けられた経験です。彼がいない現世を生きる身として、少しでも彼に触れられないかと、音楽や情報を探し漁るようになりました。それ以来、彼は心の中に生き始めました。

僕の中で生き続けるスーパースター

hideさんが僕の中で生き始めて10年近く経ち、今年の命日、はじめて彼のLiveに参加してまいりました。もちろん彼自身の姿はありませんが、彼がX JAPAN解散後に活動をともにしていたspread beaverの仲間たちが、当時の映像とともに、生演奏で彼の名曲の数々を披露してくれました。

はじまる前、客席についた瞬間に涙が流れ、live終盤では、特に好きだった「Misery」が流れ始めてまた涙が溢れました。やっと彼に会いにこられた気がして、ホッとしながらも心は踊り続ける貴い時間でした。

会場には、hideさんがロサンゼルスで購入した愛車のキャデラックが展示されていました

今でも、色々な音楽を聞きます。舞台や撮影など仕事の前には、クラシック音楽を聴くこともありますし、プライベートで気合を入れたい時には、hideさんの「tell me」を聴いたりも。そして今、思い出したのですが、育ての父が亡くなった日、僕はX JAPANを聞いていました。危篤の知らせを受けて病院へ向かう電車の中、イヤホンからたまたま流れてきたのがX JAPANでした。「どうにかして死なせないぞ」という気概のようなものが、自分の中から強く湧いてきたことを覚えています。僕の人生のプライベートな時間の中で、一番気合いが入っていた時間でした。

liveの日、皆の心に生き続ける彼への、客席の皆の想いの一欠片が蓄積して、目には見えなくても舞台の上に、彼はたしかに立っていました。生きていなくても、生き続ける人がいる、と知る経験でした。愛に溢れた、僕が心から愛するスーパースターhideこと松本秀人に出会えたことに感謝です。

これも何かのご縁か、高校時代に仲良くしていた同級生の叔父さまが、事務所で仕事をされている方でした!最高のliveを堪能しました!

関連情報

ルネサンス音楽劇『ハムレット』
主演:片岡 千之助
原作:ウィリアム・シェイクスピア
演出:彌勒忠史
2025年9月、新国立劇場 小劇場
https://artistjapan.co.jp/performance/aj_hamlet2025/

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片岡千之助

2000年生まれ。2004年歌舞伎座にて4歳で初代片岡千之助として初舞台を踏む。2011年、片岡仁左衛門と戦後初の祖父、孫での「連獅子」を実現させる。2012年(当時12歳)から自主公演「千之会」を主催するなど芸事への研鑽を積みながら、2017年にはペニンシュラ・パリにて歌舞伎舞踊を披露、2020年『カルティエ』腕時計パシャのアチバー(達成者)に選ばれる。また昨今では大学に復学しながら、主演映画を続けて勤め、現代劇舞台、ドラマと様々な分野で表現者として邁進している。
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