新たに設立されたこのアワードは、分野を横断して日本文化の担い手を選出し、その活動を顕彰。そして継続的に、多言語で国内外へ発信するところまで行うところに特徴があるといいます。このたび受賞したのは、16組の個人・団体、プロジェクト。大賞には、日本料理アカデミー「日本料理大全」が選ばれました。日本料理アカデミー理事の川崎寛也さんのコメントを表彰式の模様とともにお届けします。
三番三がオープニングを飾る
開幕を飾ったのは、日本舞踊尾上流家元の尾上菊之丞さんと、大蔵流能楽師狂言方の茂山逸平さんによる『三番三(さんばそう)』です。日本舞踊と狂言というジャンルの違いを感じることのない、息のあった舞。足拍子と鈴の音が響き、心地よい緊張感と祝祭感が広がりました。『三番三』は、空気を清めるように舞い納められました。尾上菊之丞さんの長男、尾上琴也さんの口上をもって開幕です。
個性豊かな16組が受賞
個人/団体賞は、大蔵山スタジオ、大谷山荘、SUZUSAN、中村隼人さん、樂雅臣さん。
歌舞伎俳優の中村隼人さんの受賞理由は、2025年にトルコ、サウジアラビア、さらにアメリカでは、ニューヨークのカーネギーホールでの公演が評価されてのこと。
「日本と日本の伝統文化を広める活動をさせていただきました。小さい頃からお稽古してきた歌舞伎舞踊を披露させていただき、本当にありがたかったです。現地、そして日本人のスタッフの方々に支えられ、無事に公演ができました。皆さまのおかげでいただけた賞です。これを励みに歌舞伎の公演はもちろんのこと、日本の伝統芸能を海外に発信するお仕事にも力を入れていきたいです」と受賞の喜びを話します。

会見では、映画『国宝』のヒットの流れを受けた質問も。映画のヒットの理由のひとつには、「日本人の心の中に、歌舞伎というものが根付いているからでは」とも語りました。現在32歳。「業界的にはまだまだ鼻たれ小僧と言われる世代ですが、一般社会においては、中堅として支えていかなくてはならない年齢。」との言葉に、今後のご活躍にいっそう期待が高まります。

特定プロジェクト賞は、A-POC ABLE ISSEY MIYAKE、三郎丸蒸留所、シーベジタブル、坂東玉三郎衣裳展、さらにプロデューサー/キュレーター賞はA Lighthouse called Kanataに贈られました。
歌舞伎に関わるもうひとつの受賞が、「坂東玉三郎衣裳展」です。2023年から2025年にかけて英国・オックスフォード大学付属の美術館で開催された大規模な衣裳展を通じ、日本の伝統技術と美意識を世界へ発信していることが評価されました。

「衣裳が美術館で展示されるとは考えもしなかった」と玉三郎さん。同世代の中でも長身で、しかも女方とあり、それまでに使われていた女方の衣裳では、身体にあうものがなかったのだそうです。「必要に迫られて」自ら衣裳を用意するようになったと明かします。

「染め物から始まり、刺繍のもの、織物などを40年間ほど。多くの職人さんに助けられ、今日の素晴らしい衣裳があります。その時その時に作ってきたものが一斉に集まり、展覧会が開かれ、このような賞に導かれました」と、長年の衣裳づくりを支えた方々への感謝の思いを語りました。
文化を支える、それぞれの仕事
スポンサーより贈られる特別賞は、御昆布司奥井海生堂、株式会社白岩、喜如嘉芭蕉布(きじょか ばしょうふ)協同組合、杉原商店、ふしきのが受賞しました。アワード全体を通し、工芸、食、芸能、デザインなど、日本文化が広く扱われています。その中で食文化の分野では、どちらも海藻に関わる事業でありながら、それぞれのアプローチを続ける受賞者の言葉も聞かれました。
特定プロジェクト賞のシーベジタブルは、海藻の栽培技術の研究や海藻の新しい食文化の創造に挑む企業です。登壇した友廣裕一さんは、日本では、天然でも養殖でも、あらゆる海藻が激減する現状に触れ、「皆さんが美味しい海藻を食べれば食べるほど、地域に雇用が生まれ、さらに地域の海の生態系も回復され、みんなが幸せになっていく大きな循環が作れるのでは」と呼びかけました。
一方で、御昆布司奥井海生堂は、155年の歴史をもつ老舗の昆布専門店で、昆布を蔵で寝かせて旨みを引き出す、伝統的な技法「蔵囲」を今に伝えます。授賞式に登壇した奥井隆さんは、知識や技術を守ると同時に、イギリスの自然史博物館の日本の海藻調査と記録映像制作に協力したことも紹介しました。
日本料理人の技術と知識がすごいんです
「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されたのは、2013年のこと。このたび初開催となるこのアワードで大賞に選ばれたのは、日本料理のバイブルとも言える学習書『日本料理大全』です。NPO法人日本料理アカデミーが、料理人と各分野の専門家と共に、2012年より執筆を始めました。日本食の知識や技術を、世界の料理人へどう伝えるか。その課題に取り組むプロジェクトへの授与となります。
代表してトロフィーを受け取ったのは、同アカデミーの川崎寛也さんです。
「皆さん、日本料理は好きですよね。美味しいですよね。すごいですよね。なぜそれができるかというと、日本料理人の技術と知識がすごいんです」

2015年に刊行された第1巻は、「プロローグ」として日本の宗教や美意識、四季、自然現象に根付く日本料理の技術を解説。その続巻では「だしとうま味、調味料」、さらに調理法などでまとめ、全5巻。日本料理の価値を世界に広めるべく、同書は、最初から日本語版と英語版が同時に出版されたそうです。さらに現在は、オンラインで無料公開もされています。
川崎さんは自らを「料理の科学者」と紹介。このプロジェクトでは、料理人が勘と経験をもとに継承してきた技術を、科学的に解説することに力を注いでいます。

「日本の料理人がもつ感覚を、海外の料理人にどう伝えるか。そのとき共通言語となるのが、サイエンスです」
例えば肉や魚の「霜降り」。冬の日本にみられる自然現象に重ねた言葉ですが、霜を知らない地域の料理人にそれをイメージしてもらうことは容易ではありません。
「『霜降り』であれば、表面のタンパク質を変性させ、その後加熱が進むのを止めるために氷水に入れる。そういった説明をし、科学で、できる限りつまびらかにしています。ただ、それに限界があることも分かっています。どこまで明らかにしても、最後の最後は人間の感覚が残ります。でも、それが素晴らしいじゃないですか。そのような気持ちで作ってまいりました。このたびは受賞ありがとうございました。アカデミーを代表して御礼申し上げます」
村田さんによれば、現在『日本料理大全』の6巻目となる、「煮る・炊く」を制作中とのこと。「これからもがんばります。まだまだ先が長いです。よろしくお願いします」と呼びかけ、川崎さんも笑顔をみせました。会見では、川崎さんが、おすすめの日本食を問われる一幕も。「魚に、塩を事前に回してから焼く」調理方法を挙げ、身近な楽しみ方として「西京焼きを買ってきて、ご家庭のフライパンで焼かれたらいいと思います。魚を一番美味しく食べるお料理だと思います」と語りました。

初開催の授賞式は、拍手の中で華やかに結ばれました。受賞された16組による、世界へ、そして次世代への取り組みに注目です。

