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Culture
2019.11.27

太郎冠者は中間管理職? サラリーマン狂言でストレスは飛ぶや? 飛ばざるや?

この記事を書いた人

スーツ姿の男性が腰を低く落とし、摺り足で舞台に現れると、厳かな口調で語り始めます。狂言のような雰囲気なのですが、よくよく聞いてみると……あれ? さらりゐまんの悲哀が……。

サラリーマンと狂言という、摩訶不思議な取り合わせの「サラリーマン狂言」で話題を呼んでいる、河田全休(かわたぜんきゅう)さんにお話を伺いました。

河田 全休さん プロフィール

京都市在住、39歳、兵庫県明石市出身。京都大学の狂言研究会で狂言の奥深さを知り、のめり込む。大蔵流狂言師の木村正雄氏および網谷正美氏に師事。伝統的な古典狂言の研鑽に励むと同時に「サラリーマン狂言」や「婚活狂言」の制作・上演、他ジャンルの芸能や文化活動とのコラボレーションなど新境地への挑戦・普及活動を行い、評判を呼んでいる。現代のサムライであるサラリーマンやOLの戦場=オフィスの息抜きの場、給湯室でお茶会をしよう! がコンセプトのユニット「給湯流茶道」狂言部部長。

サラリーマン狂言とは?

さっそくサラリーマン狂言について、おたずねしました。

– サラリーマン狂言というのは、どういった内容なのでしょう?
河田さん(以下、敬称略):サラリーマンを始めとした現代に生きる私たちを主人公に、日々の葛藤や喜びを描いた現代風創作狂言です。サラリーマンと狂言の代表的な登場人物である「太郎冠者(たろうかじゃ)」というのは似ていると感じたのです。

– サラリーマン狂言が誕生したきっかけを教えてください。
河田:4年前、京都市の鴨川一帯で開催された茶会で、「給湯流茶道」というユニットのお茶を知って衝撃を受けたことが始まりです。現代に生きる私たちにとって、より身近でリアルなお茶を追い求める「給湯流家元(仮)」谷田(たにだ)さんの独特の世界観に触れ、古典狂言にはない、サラリーマンを主人公にした狂言の着想を得ました。

– サラリーマンと狂言の太郎冠者(たろうかじゃ)は似ている、とのお話でしたが、それはどんなところなのでしょう?
河田:会社や上司に仕えるサラリーマンが、日々の勤めに励みつつ、ときには理不尽な要求に振り回されながらも、屈することなくしたたかに生きていく。そんな姿に、中世の労働者・下人階級でありながらたくましく生きる、太郎冠者との共通点を見出しました。

– 中世のサラリーマンが、狂言の太郎冠者だったのですね。サラリーマン狂言を作り上げていく時に、大切にしていることは何ですか?
河田:古典狂言の表現や醍醐味をなるべく活かし、尊重しながらも、それでいて今を生きる人にとっても身近に感じて頂ける物語にする、ということを大切にしていますね。

「給湯流茶道」とは?

– 先ほどお話いただいた「給湯流茶道」というのは、どんな活動をされているユニットなのでしょうか?
河田:信長や秀吉が戦場で茶会をしていたエピソードを現代に再現する、というコンセプトで活動しているユニットで、2010年に結成されました。リストラ、パワハラ、ブラック企業と戦う「現代のサムライ」であるサラリーマンの戦場・職場の給湯室で抹茶をたてる、というのが活動の根本にあります。金沢21世記美術館や増上寺からロンドンの弁護士事務所・廃線になった駅・道後温泉ストリップ小屋まで、「諸行無常な戦いの場」でも茶会を決行しています。

– プラスチック製の安価な器などを「わびさび茶碗」と呼んで使っていたり、お茶菓子も従来の茶道とは全く異なった視点で選んでいたり、というのも、とても興味深いです。価値って何だ? という根本的な問いを投げかけられます。

給湯流茶道公式サイト

給湯流狂言部では、依頼に応じて新作狂言を製作・上演するサービスも行っているそう。忘年会や新年会などに、新作サラリーマン狂言を楽しんでみては?
新作サラリーマン狂言依頼・詳細ページ

狂言との出会い、そしてプロの道へ

– 精力的に活動されている河田さんですが、狂言との出会いはどのようなものだったのでしょうか?
河田:京都大学の狂言サークルで、古典芸能の狂言に出会い、お稽古を始めました。指導に来られていた師匠も、サークル出身の狂言師だったということもあり、次第に狂言の道に憧れるようになりました。

– 狂言のお家に生まれたのではなく、一般家庭からプロになられたのですね。それほどまでにのめり込まれた狂言、その魅力とは何でしょう?
河田:長年の伝承の間に洗練され鍛え上げられた「型」によって表現する部分と、その場限りのライブ感という二重構造の面白さ。人の心をダイレクトに揺さぶる迫力やエネルギーを有していること。ひと言で言えば、不易(ふえき)と流行を体現した芸能であると思います。

ふえき‐りゅうこう〔‐リウカウ〕【不易流行】
蕉風俳諧の理念の一。新しみを求めて変化していく流行性が実は俳諧の不易の本質であり、不易と流行とは根元において結合すべきであるとするもの。
出典 小学館デジタル大辞泉

– 大学時代からの恩師のもとに今も通っておられるということですが。
河田:卒業後も恩師の元で狂言の修行を続け、先輩弟子や後輩弟子と切磋琢磨しながら古典の芸の研鑽に努めています。 どんなに新しい狂言に挑戦しても、古典狂言を極めていくということはずっと変わらない目標です。

大好きな狂言を次世代に伝えていきたい!

– 河田さんは狂言の普及活動にも力を入れておられると聞きます。
河田:普段狂言に触れる機会の少ない、離島や山間地域などの子どもたちに狂言にふれる機会を設けたり、日本文化に関心の高い外国の方に狂言の体験を提供したりしています。また最近では、幼児教育や企業研修など、教育の分野にも関心があり、さまざまなプログラムを企画しています。

新しい試みと、古典と。一見、正反対にも見える取り組みの中に見えてきたのは、一貫した情熱、狂言への熱い思いでした。

河田さん、本日はお忙しい中、ありがとうございました!

河田全休さん 基本情報

河田さんへのコンタクトは、以下の方法にてお願いいたします。

twitter: @kyogen_zenkyu
給湯流茶道: http://www.910ryu.com/contact.html

河田全休さん 今後の公演予定

2019年11月29日(金)~12月5日(木) ポーランド2都市(ワルシャワ、ポズナン)にて、サラリーマン狂言巡業公演

2020年1月26日(日) 創作狂言ミュージカル
会場:江戸東京あかり展
住所:神田明神文化交流館 地下1階「EDOCCO STUDIO」(千代田区外神田2-16-2 神田明神境内)
イベント公式サイト:http://edotokyoakari.com/

2020年2月22日(土) 給湯流茶会&狂言の会
会場:快哉湯
住所:東京都台東区下谷2-17-11
連絡先:03-3874-3853

書いた人

人生の総ては必然と信じる不動明王ファン。経歴に節操がなさすぎて不思議がられることがよくあるが、一期は夢よ、ただ狂へ。熱しやすく冷めにくく、息切れするよ、と周囲が呆れるような劫火の情熱を平気で10年単位で保てる高性能魔法瓶。日本刀剣は永遠の恋人。愛ハムスターに日々齧られるのが本業。