日本文化の入り口マガジン和樂web
9月21日(火)
この世にて慈悲も悪事もせぬ人は、さぞや閻魔も困りたまはん(一休宗純)
日本文化の入り口マガジン 和樂web
日本文化の入り口マガジン 和樂web
9月20日(月)

この世にて慈悲も悪事もせぬ人は、さぞや閻魔も困りたまはん(一休宗純)

読み物
Culture
2019.11.30

終われば胴上げ!乾杯!こっそり二次会!楽しすぎるぞ、江戸時代の大掃除【師走候】

この記事を書いた人

江戸市中では、12月13日が煤払いこと大掃除の日。お城でも長屋でも江戸に暮らすひとびとは、朝早くから一斉に大掃除をしました。終われば胴上げで乾杯も!今と変わらぬ暮れの習わし、さあ師走のはじまりです。

江戸ごよみ東京ぶらり【師走候】

“江戸”という切り口で東京という街をめぐる『江戸ごよみ、東京ぶらり』。江戸時代から脈々と続いてきた老舗や社寺仏閣、行事や文化など、いまの暦にあわせた江戸―東京案内。
昔から坊主も駆け回ると言われるほどに忙しい“師走”。今月は、江戸城下の大掃除について、また大掃除の季節ということで今こそ使いたい箒やハタキなどの掃除道具のお話しを。きれいにすっきり一年を締める12月の東京ぶらりをご案内します。

12月13日は江戸城から長屋まで大掃除

12月の声をきくと、なんだかそわそわしませんか。仕事では年内に終わらせておきたいあれこれから新たな年への仕込みまで、家では暮れの掃除から新年の準備まで、仕事先から親しいお仲間との忘年会まで、なにかとぎゅうぎゅう予定を詰め込んでひとり焦ってしまいがち。しかしながら師走TODOリストが完遂せずに、新年を迎えてしまうのもいつものこと。毎年慌ただしくてせわしない、でもそれもちょっと楽しんでいたりする年の瀬です。

煤払いのあとは大奥でもワッショイ?!「源氏十二ヶ月之内 師走」三枚続き一部(左)*冒頭画像は一部分/東京都立中央図書館特別文庫室所蔵

江戸の歳末風景といえば、正月の支度をはじめる12月8日の「正月事始め(ことはじめ)」から。江戸の年中行事を記した天保9(1838)年刊『東都歳事記』には、人びとは「お事(おこと)」とよび、「家々笊(ざる)・目籠(めかご)を竿の先に付けて屋上に出す」と記されています。そして13日は「煤払い」こと大掃除。この煤払いですが、江戸城下いっせいで行われていました。寛永17(1640)年以来、12月13日には江戸城内の煤払いを行いました。そのため大名屋敷や旗本邸なども13日に煤払いをするようになり、町衆も統一したほうがいいとのことで、江戸城下の煤払いは12月13日と決まったそうです。町人たちは煤払い前夜に「明日は煤払いですから」とお互いに挨拶をいれたとか。

煤払いあとは、銭湯、宴会、こっそり二次会

越後屋に代表されるような大店(おおだな)の煤払いは、それは賑やかなもの。高張提灯をたてて、頭は手ぬぐい姿に尻端折り(しりぱっしょり)の店員や商家に出入りしている鳶職人が、煤竹(すすだけ*竹竿の先に枝葉を残したもの)などで掃除にとりかかります。今の暮らしでは煤が出ることはありませんが、薪や炭、蝋燭を使う江戸の暮らしは家財や天井に煤で真っ黒になるのは当然のこと。江戸の川柳にも「十三日白い野郎は叱られる」なんて句もあったそうで、顔中を真っ黒にして煤払いをしていた様子が浮かびます。

畳をあげて埃を落とし、煤竹で天井を払う店員たち。煤払いの様子(左)東都歳事記/国会図書館デジタルコレクション

また煤掃きが終わるとご祝儀として、店主から店員まで胴上げをしたそう。男性だけではなく女性もターゲットとなったようで、女性陣は柱にしがみついたり幼子を抱いたりして胴上げから逃げまくっていたとか。その後、すす餅がふるまわれて、店員たちは煤を落としに銭湯へ。夜には店主からご祝儀酒がふるまわれ早めの解散。そして煤払いの夜は、責任者による夜中の見回りがないため、店員たちはこっそり抜け出して遊びに出かけたとか。「この日だけは」と店主も大目にみていたそう。しかし大掃除して酒宴で二次会へ、それは年末最後の出社日に掃除して納会で締めて二次会という、今の会社員とちっとも変わりませんね。

ふざけあったり、飲み食いしたり、暮れの楽しい商習慣。煤払いの様子(右)東都歳事記/国会図書館デジタルコレクション

人気作家・滝沢馬琴邸でも家族そろって大掃除

また一般家庭での煤払いは、南総里見八犬伝で知られる作家・滝沢馬琴が残した日記に記されています。朝七ツ時(午前4時ごろ)に息子夫婦が起き出し、夜が明けるやいなや煤払いに取り掛かったとか。嫁いだ娘が手伝いにやってきてみんなで家族総出で大掃除。日暮れ前には終えて煤払い祝儀として、一汁三菜を家族みんなで食べたそう。一日だけでは終わらず掃除は何日か続き、お手伝いにやってきた仕事仲間には蕎麦切りや酒をだしたと書かれています。一般家庭でも家族が集まり掃除をして、その後に飲み食いするという暮れの楽しい一幕だったようです。

手軽で便利!暮らしにあわせた道具でお掃除を

江戸の煤払いこと大掃除に登場したであろう箒。町人宅にも畳が普及してきたこともあって竹材とホウキモロコシ草で作られる箒は欠かせない日用品でした。百万人都市・大江戸で暮らす多くの人々に向けた江戸の箒は、近場で採れる材料を使って大量生産ができるように考えられたシンプルな仕様のもの。無駄な装飾を省いた江戸仕様の箒は、今でも箒職人の間で東京型として受け継がれています。

松野屋で扱っているシュロ手ぼうき、シュロはたき、木手トタンバケツ。愛嬌のある掃除道具たち。

そんな東京型箒やちり取り、はたきなど昔ながらの道具をあつかう荒物雑貨問屋の松野屋。松野屋・女将の松野きぬ子さんは、今の時代だからこそ箒やはたきで掃除をする良さを説きます。「過去の道具と思われているけれども、箒やちり取りは今こそ使いたい道具。掃除機と違って時間を気にせず、思ったときにすぐ掃除ができる。大きな音がしないから赤ちゃんやペットと暮らす家庭にもむいているでしょう」。とはいえ、もちろん箒だけでなく掃除機だって使います。「畳やフローリングは箒でもいいけれど、毛足の長いカーペットは掃除機が必要。平日は箒でサッと掃除して週末は掃除機をかけるなど、暮らしにあわせて道具を上手く使い分ければいいんですよ」

東京型箒(和ぼうき東京型/松野屋)で縁側を掃く松野きぬ子さん。また掃除といえば欠かせないのが雑巾。みんなで雑巾を縫うワークショップを主催する松野さんは、「不要な布に針をさすだけで愛着のある道具に。まずはお布巾遣いにはじまり、床拭きやガスレンジ汚れ落とし、最後は玄関のたたき拭きへ、どんどん使い込んで布を大往生させてあげる」。布の大往生、いいお言葉です!

箒や雑巾、はたきを使って日々の掃除を実践すれば暮れの大掃除もラクになるはず。「思い立ったら掃除ができる箒や雑巾は便利で手軽な道具。箒はホウキモロコシ草やシュロなど素材やサイズなど種類が多いので、実際に触って手馴染みのよいものを選んでくださいね」。箒や叩きは実用道具なのに、部屋かけていてもどことなく愛嬌があるのがいい。暮れの大掃除からは、道具にあわせた暮らしではなく、暮らしにあわせた道具を取り入れていきたいものです。

庭もふたりで掃除する、松野屋店主の松野弘さんと女将きぬ子さん。松野家では、気になったらすぐに掃除ができるようにと家のいたるところに箒やちり取りがかけてある。

おまけ二十四節気、12月は「大雪(たいせつ)」と「冬至(とうじ)」

最後に江戸市民の暮らしに寄り添っていた暦・二十四節気(にじゅうしせっき)についてもご案内を。2019年の師走、12月の二十四節気は12月7日の「大雪(たいせつ)」と12月22日の「冬至(とうじ)」です。

7日の「大雪」は、寒さが厳しくなってきて雪が激しく降りはじめるころ。二十四節気をさらに細かくわけた七十二侯(半月ごとに変わる節気を約5日ずつ3つに時期に分けた)、大雪には「熊蟄穴(くまあなにこもる)」や「鮭魚群(さけのうおむらがる)」があり、熊が冬眠準備をはじめ鮭が遡上しはじめサケ漁などが盛んになる時期でもあります。22日の「冬至」は、二至二分(夏至・冬至・春分・秋分)という重要な節気のひとつ。一年でもっとも夜が長くなる日です。この日から昼の時間が長くなることから「一陽来復(いちようらいふく)」とも。冬至の夜、柚子湯に入ると風邪をひかないと言われています。江戸時代の銭湯で客寄せのために、冬至の日に柚子を入れたことがはじまりだそう。バスルームがいい香りに包まれるので、ご自宅でも取り入れてみてください。

暮れという言葉が押し迫ってくる師走。じわじわと焦りつつ、そんな焦りを楽しみつつ、新年を迎える掃除や準備もしつつ、ぎりぎりまで2019年をご堪能ください。

江戸的に楽しむ、12月の東京案内

掲載店情報

谷中松野屋
住所 東京都荒川区西日暮里3-14-14
電話 03-3823-7441
営業時間 11時~19時(土日祝は10時~19時)
定休/火曜日(祝日は営業)
www.yanakamatsunoya.jp

松野屋イベント&松野きぬ子さんワークショップ情報

会場:misto(ミスト)
イベント名:「暮れの整い」
出品:松野屋 
ゲスト:松野きぬ子/ソウマノリコ
日程:11月30日(土)〜12月13日(土)
(11月30日(土)&12月5日(木)ワークショップ/ソウマノリコ・松野きぬこ
12月7日(土)トークショー/松野弘*時間や申し込みなどは店舗webにて)
住所:東京都武蔵野市吉祥寺北町1-1-20藤野ビル3F
電話:0422-27-5450
営業時間:12:00〜19:00(12月7日は21時まで)※12月8日(日)はお休み
misto.jp

書いた人

和樂江戸部部長(部員数ゼロ?)。江戸な老舗と道具で現代とつなぐ「江戸な日用品」(平凡社)を出版したことがきっかけとなり、老舗や職人、東京の手仕事や道具や菓子などを追求中。相撲、寄席、和菓子、酒場がご贔屓。茶道初心者。著書の台湾版が出たため台湾に留学をしたものの、中国語で江戸愛を語るにはまだ遠い。