東京アニメアワードフェスティバル2018長編コンペティション部門グランプリ、オタワ国際アニメーション映画祭審査員特別賞、シュトゥットガルト国際アニメーションフェスティバル長編部門グランプリなど、世界中の映画祭を席巻した台湾のアニメ映画「幸福路のチー」(こうふくろのチー)。いよいよ2019年11月29日、吹き替え版も併せて日本公開となりました。
台湾の地名である「幸福路」は、こうふくじではなく、こうふくろ、と読みます。この映画を作った宋欣穎監督(ソン・シンイン監督、以下カタカナ表記)の出身地です。実写の映画を作っていたソン監督が、なぜアニメで作ったのか?京都に留学していた経験もあるソン監督に、日本のアニメの魅力、そして「幸福路のチー」への影響を伺いました。
「幸福路のチー」あらすじ
台湾・幸福路で育ったリン・スーチー(チー)。今は結婚してアメリカで暮らしている。ある日、母からの電話で祖母が亡くなったというしらせを受け、久しぶりに母国へと戻ることになった。子どものころ見ていた川はすでに面影なく、町の人々が年老いたことに驚くチー。幸福路で過ごすうちに、かつての記憶が蘇ってきて……。
無邪気に遊んだ幼いころ、力の足りない自分に悩んだ時期、「このままでいいの?」と自問自答する苦しみ。
「あの日思い描いた未来に、私は今、立てている?」
1975年生まれのひとりの女性の半生を追う。無邪気な少女時代、親の期待に応えることが至上命題だった学生時代、理想とは違う社会、友人との別れ、そして新しい出会い―。背景には、台湾語禁止の学校教育、少数民族である祖母との関係、学生運動、台湾大地震など、戒厳令の解除を経て民主化へと向かう現代台湾の大きなうねりがある。人生には分岐点がある。「生きる」ことを幻想的なタッチと温かみのあるトーンで描く、ノスタルジーと共感をもたらす作品です。
日本に来たきっかけは新聞記者だったから?ソン監督と日本
イベントのために来日されていたソン監督。ハードなスケジュールにも関わらず、いつもニコニコ!明るく迎えてくださいました。
―いよいよ待望の日本公開ですね。京都大学に留学されていたということですが、きっかけはなんだったのですか?
ソン監督: 元々は台湾の新聞社で記者をしていました。ある時、若者を中心に日本文化の人気が出て、彼らは「ハーリー族」と呼ばれていました(ハーリー=ミーハー)。上司から、一番若いから日本文化の担当になりなさいと言われて……。でもその当時、キムタクすら知らなかったんですよ(笑)レコード会社から送られてきた資料をもとに、「この、エス、エム、エー、ピーというグループは何て読みますか?」って電話して、きょとんとされたこともありました。
―あまりなじみがなかったのですね。それなのに留学にまで至るなんて、意外です。
ソン監督: 仕事で触れるうちにだんだん興味がわいてきました。当時、同級生は海外に行っている子も多くて、私も台湾を離れてみたくなったんですね。台湾は政治のことでいつも騒がしくて、テレビも当時はエンターテインメントが少なかったですし……。そんなときに奨学金制度があることを知り、お金も貯めて、留学することになりました。上司に辞表を堂々と出して(笑)
―京都に留学してみて、最初はいかがでしたか?
ソン監督 さびしかったあ!(笑)夜が真っ暗で、慣れていないし。台湾の夜はいつもにぎやかだったから、もうさびしくて寝られへん。
―寝られへんかったのですね(笑)
インタビューは日本語と北京語と両方でお話くださっていましたが、たまに京都弁が飛び出していました。ちなみに、日本語検定一級を取ってから来日したのに、いざ関西に来てみたら関西弁に戸惑い、「まるでわからない」と不安になったそうですよ。
ソン監督: 夜の静かさは本当にさびしかった。でも、心の余裕が生まれてきたら、静かさのおかげで自分のことを考える時間ができました。どんな人になりたいか、どういう風に生きたいかと。
―京都の夜が、ソン監督に人生考える時間をくれたのですね。京都は独特な街ですが、何か影響はありましたか?
ソン監督: 京都は、すごくデリケート。細部を大事にする文化があり、自分の作品作りに影響したと思います。
「幸福路のチー」には日本のアニメ「ガッチャマン」が登場しています。1980年代の台湾でも日本アニメは放映していたのでしょうか?そちらも詳しく伺ってみました。
日本アニメの影響~「キャンディ・キャンディ」がかけた魔法~
―そもそも、日本のアニメって台湾で放送していたんですか?
ソン監督: はい、もう子どもたちは日本のアニメが大好き。「ガッチャマン」はもちろんのこと、「ドラえもん」に「ちびまる子ちゃん」。お父さんは「マジンガーZ」が好きで、チャンネルの取り合いになっていました。
「キャンディ・キャンディ」が女の子の間では人気で、みんな二つ結びにしていましたよ。恋愛のことはキャンディが教えてくれました(笑)
―ああ、私の世代は「セーラームーン」のお団子にしていました……。「幸福路のチー」はどこかジブリ作品を思い出すのですが、台湾でもジブリアニメは人気ですか。
ソン監督: ジブリももちろん人気です。私は「となりのトトロ」を20回以上見ましたよ!
お気に入りのアニメを繰り返し見るのは、台湾も日本も変わらないようです。
「幸福路のチー」をアニメにしたわけ
ソン監督は実は実写映画の監督。アニメーションを作ったのは今回が初めてなのだそうです。
―「幸福路のチー」、とても身近に感じ、心温まる作品でした。チーの半生を描くにあたってアニメにした理由とはなんだったのでしょうか。
ソン監督: 女性の人生を描くとき、実写だとどうしても厳しさやつらさを感じてしまうと考えたからです。また、チーはとても想像力の豊かな女の子。彼女の世界を童話のようにしたかったので、それにはアニメーションのファンタジックな雰囲気がぴったりだと思いました。
―死んだおばあちゃんがチーを見守ってくれているのが印象的でした。日本のアニメは作品に影響を与えましたか?
ソン監督: もちろん!作中に「ガッチャマン」が出ていますが、これは台湾の人なら誰でもわかるから出しました。
―「ドラえもん」のように、世代を超えた共通語になっているんですね!
ソン監督: そう、みんな知っています。ガッチャマンはヒーローです。大人になったらヒーローになれるという子どもの希望、逆に大人になるにつれ、ヒーローになれない自分を知る。その象徴です。
―確かに、「幸福路のチー」ではなりたかった自分になれない苦しみが描かれています。それでも前を向き、歩き出そうとするチーの姿に強く勇気づけられました。
ちなみに、私・宇野なおみは、こちらの映画の試写会を拝見、ご縁あって、吹替版に参加させていただいています。映画でソン監督が演じている「ツァイ先生」役です!
ソン監督: ダイジェスト版を見ましたが、それぞれのキャラクターにふさわしい声を当ててくださっていました。LiLiCoさん(チーの祖母役)もお会いしましたが、あんなにお若い方だと思わなかった、陽気な感じがぴったりです!吹き替え版も、楽しみにしています。
―ありがとうございました。
これは「幸せになりたい人」の物語
台湾のアニメ映画で、女性の人生を描いた作品……とまとめてしまうと、縁遠い作品と感じるかもしれません。でも「幸福路のチー」は、家族、自分の住む土地、仕事、愛、そして自分と幸せの物語。今幸せな人も、幸せを願う人にもどこか「刺さる」物語です。
「幸福路のチー」は2019年11月29日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町他、全国順次ロードショーです!
幸福路のチー (こうふくろのちー)
11月29日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町他
全国順次ロードショー
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