ネズミだって、舞台の上ではカブキます! 子年に見たい歌舞伎演目3選

ネズミだって、舞台の上ではカブキます! 子年に見たい歌舞伎演目3選

目次

2020年の干支はネズミ。実は、歌舞伎にネズミが出演する演目があるのをご存じですか?
そして、舞台では、ネズミもカブいているのです!

歌舞伎には、様々な動物が登場します。登場する動物の大きさも様々です。
ネズミや小さな鳥、蝶のように小さい動物は、「差し金」という黒塗りのよくしなる棒状の素材の先端に小動物のぬいぐるみをつけた小道具を、後見や黒衣(くろご)が操ります。大きい動物は、着ぐるみの中に役者が入るもの、手に持って動かす人形もの、派手な仕掛けのものなどがあります。
動物を演じる役者の名前は、歌舞伎のプログラムである筋書やチラシ・ポスターなどに記載されないことが多いのですが、動物の所作のカブキっぷりが舞台全体を魅力あふれるものにするだけではなく、演目によっては、動物が物語の重要な鍵を担っていることもあるのです!

この記事では、2020年の干支にちなみ、ネズミが活躍する歌舞伎の演目を三つ選び、ネズミのカブキっぷりを紹介します。

歌川広重「東都繁栄の図」より(『猿若町三芝居図』) 国立国会図書館デジタルコレクション

雪舟の孫娘を救った白ネズミ

ネズミが出てくる歌舞伎の一つ目は『祇園祭礼信仰記(ぎおんさいれいしんこうき)』です。

『祇園祭礼信仰記』は、宝暦7(1757)年、大坂・豊竹座初演の人形浄瑠璃を歌舞伎化したもの。小田春永(おだ はるなが、史実の織田信長)の一代記を描いた全五段の長編ですが、現在上演されるのは、四段目の通称「金閣寺」の場です。
そして、「金閣寺」に白ネズミが登場します。

「金閣寺」のあらすじ

室町幕府の執権・松永大膳(まつなが だいぜん、史実の松永弾正)は、足利家を滅ぼして天下を牛耳ろうと企てています。
そこで、将軍・足利義輝(あしかが よしてる)を殺し、義輝の母・慶寿院(けいじゅいん)と雪舟(せっしゅう)の孫で、女絵師・雪姫を捕らえて金閣寺に幽閉し、自らも金閣寺に立て籠もっています。

大膳は、雪姫に金閣寺の天井に竜を描かせようとさせます。
雪姫は、父・雪村(せっそん)を殺害したのが大膳であったことに気づき、大膳が手にする太刀・俱利伽羅丸(くりからまる)を奪い、斬りかかりますが、取り押さえられ、桜の木に縛られてしまいます。
船岡山(ふなおかやま)で打ち首にされる夫・狩野之介直信(かののすけ なおのぶ)が引かれてきて目の前を通っても、縛られているため近寄ることができず、わずかに言葉を交わすのみ。

囚われの雪姫は、降りかかる桜吹雪の中で嘆き悲しんでいましたが、

昔、絵に夢中になって学問を怠った雪舟は、戒めのために縄で柱に縛られたが、涙で描いた鼠が動き出して縄を食い切った

という、祖父・雪舟の故事を思い出します。

雪姫は、夫を助けたい一心で、「筆力では劣っても、その血筋を受け継ぐ身、一念は劣らない」と気持ちを奮い立たせて桜の花びらを足で寄せ集め、つま先でネズミを描きます。すると、描いたネズミが本物の白ネズミとなって現れ、縄を食いちぎり、雪姫は自由の身となったのでした。

豊原国周「息女雪姫 中村福助」  国立国会図書館デジタルコレクション

消えるネズミと散る桜の演出に注目!

この場面では、黒衣が実物大の白ネズミのぬいぐるみを差し金で操作します。
雪姫の縄を食いちぎった白ネズミには名前はなく、舞台に出ている時間もわずかですが、物語を大転換される大きな役割を担っています。更に、白ネズミが消える時に、仕掛けではじけて、桜の花びらとなります。これは、白ネズミが元の桜の花びらに戻った、ということを表しています。

奇跡を起こす桜の花びらは、桜色の洋紙を花びらの形に切り抜いたものです。舞台の天井に吊るした籠に花びらを入れ、舞台袖まで伸びた紐を引いて籠を揺らすことで、舞台に花びらが舞い落ちてくる仕掛けです。
これは、舞台に雪を降らせる仕掛けと同じで、紐の引き具合で、花びらの量を調整しています。

妖術によってネズミに化けた悪人

ネズミが出てくる歌舞伎の二つ目は『伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)』です。

室町時代の足利家の御家騒動の物語である『伽羅先代萩』は、「花水橋」「竹の間」「御殿」「床下」「対決」「刃場」の全六場。ネズミが登場するのは「御殿」の幕切れから、それに続く「床下」の場面です。
最初は差し金で動く小さなぬいぐるみのネズミで現れ、舞台転換で中に役者が入った着ぐるみのネズミとなり、最後にネズミの妖術を使う悪人の姿に戻って登場します。

『伽羅先代萩』(「御殿」「床下」)のあらすじ

奥州五十四郡の領主・足利頼兼(あしかが よりかね)は、御家横領を企む叔父の大江鬼貫(おおえ おにつら)、執権の仁木弾正(にっき だんじょう)の甘言に惑わされ、足繁く廓に通い、遊興に耽っていました。その有様が将軍家の知るところとなり、不行跡を理由に頼兼は隠居を命じられ、家督は嫡子の鶴千代が相続することになります。

御殿

鬼貫、弾正らの御家乗っ取りを企む一味は、鶴千代の毒殺を画策。その動きを察知し、守護したのが、鶴千代の乳人(めのと)である政岡でした。
政岡は、鶴千代が病のため、男性の姿を見るのを嫌うと言い立てます。そして、自らが用意した食事以外は口にさせないようにするなどして、我が子の千松と共に、日夜、若君を守りました。

そこへ、管領・山名持豊(やまな もちとよ)の妻・栄御前が夫の名代として鶴千代の病気見舞いにやって来ます。栄御前が見舞いの品として持参した菓子を、仁木弾正の妹・八汐が鶴千代に勧め、思わず手を伸ばそうとする鶴千代を政岡が制します。その様子を栄御前が見とがめ、政岡を詰問。政岡が困窮していると、奥から千松が走り出て、菓子を食べた上、菓子箱を蹴散らします。その途端、俄かに苦しみだす千松。菓子には、毒が仕込まれていました。

千松の様子に皆が驚いていると、八汐が進み出て「幼子とはいえ、管領家から賜った菓子を足蹴にした罪は許されず、御家のために千松を手に掛けたのだ」と言って、千松の咽元へ懐剣を突き立てます。一方、政岡は、鶴千代を守護する姿勢を崩さず、我が子が嬲(なぶ)り殺されるのをじっと見つめているのでした。

その様子を見ていた栄御前は、政岡が我が子を足利家の当主にしようと考え、鶴千代と千松を取り替えて育てたと早合点し、人払いをして、政岡にお家乗っ取りをたくらむ一味の連判状を預けて帰っていきます。

栄御前を見送った政岡は、息絶えた千松の元に駆け寄り、その死骸を抱きかかえ、日頃から言い聞かせていたとおり、鶴千代の身代わりとなったことで悪事の証拠を手にいれることができたと喜び、千松を誉め讃えます。政岡の我が子を亡くした口惜しさと悲しさは親として堪え切れるものではなく、涙を流して嘆き悲しむのでした。

そこへ、八汐が現れ、連判状を取り返そうと政岡に斬りかかります。政岡は八汐を討ち果たしますが、争っている間に落とした連判状を1匹のネズミがくわえて逃げ去っていきます。

床下

悪人の讒言(ざんげん)により、鶴千代の身辺から遠ざけられた荒獅子男之助(あらじし おとこのすけ)は、鶴千代の寝所に近い床下に潜み、守護していました。そこへ、一巻をくわえたネズミが現れたので、男之助はネズミを捕らえ、鉄扇で打ち付けます。

ところが、ネズミは男之助の隙をついて逃げ出し、やがて、仁木弾正が姿を現します。
実は、弾正は妖術によってネズミに姿を変えて、連判状を取り戻したのでした。

一勇斎国芳「見立十二支の内子 仁木弾正・荒獅子男之介」(『見立十二支』より  国立国会図書館デジタルコレクション

ぬいぐるみに着ぐるみ…舞台上で3変化するネズミ

「御殿」の幕切れに出てくるネズミは、連判状の巻物をくわえて逃げますが、実物大のネズミのぬいぐるみを黒衣が差し金で動かします。

そして、舞台転換し、「床下」の場面になります。
舞台中央から、荒獅子男之助が、着ぐるみのネズミを捕らえ、踏みつけた型で舞台にせり上がってきます。ネズミは、男之助が目を離した隙に逃げ出し、バック転や片膝をついてクルクル回ったり、舞台上を派手に動き回ってから花道のスッポンに逃げ込みます。

すると、花道のスッポンから煙が立ち上がり、一巻をくわえた仁木弾正が、せり上がってきます。
仁木弾正の衣裳もネズミにちなんだもので、銀鼠(ぎんねず)の半着付けに鼠竜紋(ねずみりゅうもん)の熨斗目(のしめ)の長袴(ながばかま)で花道のスッポンから登場します。そして、額には男之助がネズミを鉄扇で打ち付けた時の傷があります。

歌川豊国(3世)「清書七伊魯婆 ねづミの術仁木彈正」(『俳優似顔東錦絵』より  国立国会図書館デジタルコレクション

仁木弾正は、男之助に手裏剣を打ち、幕外(まくそと)に一人残って妖術を解き、連判の巻物を懐中し、舞台のツケ際に戻って大見得(おおみえ)。後は、差し出しの灯りにより鳴物入りで揚幕まで引っ込むだけという無言の役です。
この場だけの上演でも、仁木弾正は座頭格(ざがしらかく)の役者が勤めることがほとんどです。

スッポンとは?

「スッポン」とは、花道の舞台に近い「七三(しちさん)」と呼ばれる場所近くにある開閉式切穴で、役者がせり上がったり、せり下りたりします。
ちなみに、スッポンから現れるのは、動物や妖怪変化、忍術使いなど、普通の人間ではない異形のものなのです!

寝ぼけた男と踊るネズミ

ネズミが出てくる歌舞伎の三つ目は、歌舞伎舞踊「鳥羽絵(とばえ)」。
この浄瑠璃の題は、京都・栂尾(とがのお)にある高山寺(こうざんじ)にある鳥羽絵僧正の作と言われる『鳥獣戯画』からきています。

文政2(1819)年9月、江戸中村座『御名残押絵交張(おんなごりおしえのまぜばり)』という九変化(くへんげ)で、中村芝翫(なかむら しかん)こと三代目中村歌右衛門(なかむら うたえもん)が初演しました。初演時の内容は、「天人、狂乱、黒ん坊、知盛、梓巫女、鳥羽絵、関羽、傾城、玉藻の前」と言われていますが、順序は不明です。「女伊達」を加えた十変化とも言われています。

「鳥羽絵」のあらすじ

舞台は、どこかの大店(おおだな)の台所。
夜、皆が寝静まったところにネズミが駆け込んできます。そのネズミを、下男・升六(ますろく)が寝巻の半襦袢のまま、枡で打ち据えようと追ってきます。寝ぼけた襦袢1枚で裸に近い姿の下男が、縫いぐるみのネズミを相手に、男と女の色模様をみせるという趣向の、15分くらいの短い舞踊です。
清元の歌詞に従って、「金棒」「酒」「女郎」「夜鷹(よだか)」など様々な姿を描写していきます。ネズミつながりで、「伽羅先代萩」の「床下」の場のパロディで、升六が男之助の見得を見せたりもします。

升六は、体は痩身で手足を細長く誇張し、半裸で髷(まげ)を細長く、眉を縦長にした剽軽(ひょうきん)な姿という江戸期の戯画である「鳥羽絵風(とばえふう)」。升六の名は、鼠を捕らえる「枡落とし(ますおとし)」に因みます。

竹原信繁(春潮齋)『鳥羽絵扇能的(とばえ おうぎのまと)』より  国立国会図書館デジタルコレクション

子役が活躍! 踊る着ぐるみのネズミ

「鳥羽絵」のネズミはなかなか芸達者で、当時の風俗を折り込んだ清元に合わせて、女の振りをして升六を口説いたりするところが見どころです。
ネズミは、着ぐるみで、中の役者が顔を出しています。子役が演じることが多く、ネズミを演じる役者の名前が、筋書・ポスター・チラシに載ります。

12年前の子年、2008年9月の歌舞伎座では「干支に因みし戯れ絵の趣親子鷹 鳥羽絵」として上演されました。踊りの名手でもあった故・中村富十郎さんが升六、息子の中村鷹之資(なかむら たかのすけ)さんがネズミという配役で、親子共演が話題になりました。

動物に注目して歌舞伎を見るのも楽しい

この記事では、ネズミが出演する歌舞伎を三つ紹介しましたが、この中の「金閣寺」が2020年1月の新橋演舞場「初春歌舞伎公演」の昼の部で上演中です!
桜舞い散る金閣寺を舞台に描いた、義太夫狂言の傑作「金閣寺」は見どころが多い作品ですが、桜の花びらから抜け出した白ネズミの活躍にも注目してご覧になってはいかがでしょうか。

また、2020年2月に歌舞伎座の昼の部で上演される『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)』では、「加茂堤(かもづつみ)」の場面では牛、「道明寺(どうみょうじ)」の場面では鶏が登場します。
気になった方は、歌舞伎座に足を運び、牛と鶏がどこに出てくるのか、どういう役割をするのかを確認してみてはいかがでしょうか。

歌舞伎の舞台で、動物はどんな風にカブくのか注目して見るのも楽しいですよ。

主な参考文献

  • 『歌舞伎登場人物事典』 河竹登志夫監修 白水社 2006年5月 「雪姫」の項、「仁木弾正」の項、「升六」の項
  • 『最新歌舞伎大事典』 柏書房 2012年7月 「鳥羽絵(とばえ)」の項、「縫いぐるみ」の項
  • 歌舞伎に登場する動物たち.『歌舞伎勝手三昧』 浜田恂子著 未知谷 2017年2月
ネズミだって、舞台の上ではカブキます! 子年に見たい歌舞伎演目3選
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