Culture
2020.02.06

民謡酒場とは?浅草「和ノ家 追分」で魂に響くライブを楽しむ

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民謡ってやや古びた音楽だと思っている方もいるかもしれません。しかし、若い新進気鋭の演奏家たちが多数活躍し密かに人気を呼んでいるのです。

今回は、東京・浅草で60年以上の歴史を誇り、才能豊かな演奏家たちを輩出してきた民謡酒場「和ノ家 追分(かずのや おいわけ)」を訪れ、女将さんの服部章代(はっとりあきよ)さんや若き演奏家・安藤龍正(あんどうたつまさ)さんにお話しをうかがいながら、和ノ家 追分が誇るライブを楽しんできました。

昭和の高度成長期に栄えた民謡酒場

民謡酒場とはその名の通り、民謡を聴かせる居酒屋です。1960年代の高度成長期には数多くの民謡酒場が、都内にもありました。地方から東京へと上京した人々が、ふるさとの唄と言葉を求めて通ったそうです。その後、民謡ブームもあり多くの演奏家たちが民謡酒場で活躍し、巣立っていきました。

時代とともに民謡酒場は数を減らしていき、和ノ家 追分も2018年にいったんは歴史に幕を閉じました。しかし、お客さまの要望が強く翌年の2019年に場所を移して再オープンとなりました。

「2018年に閉店したときは、小さな小料理屋でも始めようと思っていたのだけれど、民謡って今もたくさんの愛好家がいらっしゃるんですよ。それに、がんばっている若い演奏家たちもいて、民謡酒場の火を絶やすことはできないって思って、また始めることになったんです」と女将さん。

料理人でもあるご主人と福居典陽(ふくいてんよう)の名で演奏家としても活躍する女将さんが暖かく迎えてくれる

和ノ家 追分では19時~と21時~の2回、毎日ステージを行っていますが、演奏家の多くが20代と30代。

「みんな祖父母やご両親が、何かしら三味線や唄、踊りをやっていたりして、小さい頃から自然と民謡に触れてきたんですよ。そういう若手がこの店で活躍したり、いろんな場所でコンサートをしたりして民謡を広める活動をしています」(女将さん)。

わりと自由な民謡の世界

ところで、今さらながらですが、民謡とはどんな音楽なのかについても伺ってみました。
「民謡の成り立ちは定かではないんです。各所で口伝えで唄い継がれてきたものなんです。民謡には労働歌や祝い唄、お座敷唄などの種類があるんですが、一番多いのが労働歌です。漁のときや、畑仕事のときに唄って、気持ちをあげてきたんですよね」と、津軽三味線の演奏家・安藤龍正さん。

ほかに民謡の特徴としては、クラシックの7音階に対して、民謡音階は5音階であることが挙げられます。歌詞はほとんどが七七七五調のため、誤って違う曲の歌詞で歌ってしまっても、ぴたりとハマってしまうことがあるのだとか。使う楽器は三味線、尺八、太鼓、鐘など。ほとんどの曲が作者不詳です。

佐渡おけさも阿波踊りも同じ曲から生まれた

楽譜もなく、著作権もなく、唄い継がれた唄は人の移動とともに他の地域にも広がっていくことがあり、各地で少しずつ歌詞や節が変化して伝えられ現象もありました。その代表格が牛深ハイヤ節だそうです。

「江戸時代から熊本県の牛深で唄われていたのが牛深ハイヤ節です。それが物資を運搬する船とともに、日本の沿岸地域へとアレンジされながら広まっていったんです」(安藤さん)。

牛深ハイヤ節のふるさと牛深は海上交通、物流の拠点であり帆船が多く行き来していましたが、その帆船は日本海を北上し、津軽海峡を通って太平洋を南下。瀬戸内海を通って、九州へと戻っていきました。その途中で船乗りたちが唄う牛深ハイヤ節が各地に伝わり、その土地土地で変化していったと考えられています。

そんな、牛深ハイヤ節系の民謡は実に多く、鹿児島ハンヤ節、柏崎おけさ、佐渡おけさ、津軽あいや節、阿波踊りなども系譜に連なります。

源流を同じくするハイヤ節系の曲でも歌詞にはその土地のことが唄われ、アレンジも地域性が表れています。牛深ハイヤ節をはじめ、南国の場合は明るくポップな感じで、新潟の佐渡おけさはゆったりとしていて、聞き比べてみるのも一興です。

和ノ家 追分のステージでも日本全国の民謡が聞ける

演奏家たちの熱量に圧倒されるライブ

迫力のある津軽三味線の音が響き渡る

「和ノ家 追分」では、ご主人が作る料理に舌鼓を打ちながら、すぐ目の前でライブを存分に楽しめます。
老若男女取り混ぜた客席で一緒に盛り上がっていると「民謡は年配者の音楽」「ハードルが高そう」なんて印象はあっという間に吹き飛びます。

「民謡って現代音楽に例えるならば、けっこう、ロックなんですよ」と安藤さん。

確かに津軽三味線の激しくばちを打ち付けるような奏法が作る力強い音はロックのようであり、アドリブはジャズにも通じて、魂を揺さぶる音はブルースのようでもあるという声もあります。一般大衆に愛され、みんなが気軽に口ずさめるところは、日本を代表するポップスといった感じです。

佐藤公基さん。安来節では太鼓を担当

この日も追分音頭や津軽じょんがら節、店のオリジナル曲などでステージは大盛り上がり。安来節のどじょうすくいも、店の名物となっています。途中、ゲストの尺八の演奏家、佐藤公基(さとうこうき)さんが繰り出す音色にも酔いしれます。ちなみに佐藤さんも20代。東京藝術大学を卒業し、精力的に活動している注目のアーティストです。

津軽じょんがら節を演奏中。手前が今回お話を伺った安藤龍正さん

安藤さんによるどじょうすくい。実は安藤さんは安来節全国大会にて、弦(三味線)・鼓(つづみ)・踊(どじょうすくい)の3種全部門で優勝を果たしている。三味線を弾いている二枚目なときとのギャップも面白い

手拍子を打って盛り上がるグループ客の方たちがいる一方で、カウンターではご主人がニコニコと料理を作っては、常連の話に耳を傾けていました。肩に力を入れずに気軽に楽しめる、そんな雰囲気こそが、民謡と民謡酒場が長年愛されてきた理由なのかもしれません。

お客様と一体となって楽しむ

和ノ家 追分(Kazunoya Oiwake)基本情報

住所: 111-0032東京都台東区浅草5-37-7
営業時間: 17:30~24:00
      (演芸第一部19:00~、第二部21:00~) 
定休日: 月曜日
公式webサイト: https://www.kazunoya-oiwake.com

書いた人

埼玉県出身。好きな食べ物は草加せんべい。子供の頃遊びに連れて行ってもらった浅草で食べたカルメラ焼きの味と、買ってもらったしおりの美しさが今も忘れられない。仕事&プライベートで70回以上海外旅行をしつつ、「やっぱり、生まれ育った国のこともっと知らないと」とつくづく思う日々。かつては民謡三味線を習ったこともあったが、今はお休み中。