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片岡仁左衛門×坂東玉三郎 奇跡の「国宝コンビ」のすべて

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Culture
2020.01.08

人間国宝の歌舞伎俳優 片岡仁左衛門、坂東玉三郎、この最強の黄金コンビが演じる、男と女の恋模様『廓文章 吉田屋』

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片岡仁左衛門さんと坂東玉三郎さんは、現在の歌舞伎界きっての黄金コンビ! 絵に描いたようないい男といい女…目にも美しく、長年共演してきた阿吽の呼吸で交わすセリフは絶妙な間で心地よく。共に人間国宝(重要無形文化財保持者)が演じる芝居は、歌舞伎ファンはもちろん、歌舞伎初心者にも是非おすすめしたい舞台です。

シネマ歌舞伎でみる、恋しや、伊左衛門!

さて、この黄金コンビの名舞台が、1月23日(木)まで、全国の映画館でシネマ歌舞伎として上映されています。収録されているのは、平成21年4月歌舞伎座さよなら公演で上演された名舞台『廓文章 吉田屋』(くるわぶんしょう よしだや)。とはいえ、じつは筆者は歌舞伎の舞台は頻繁に観ているものの、シネマ歌舞伎は観たことがありませんでした。そこで一足早く行われた試写会と、仁左衛門さんの記者会見に行って言葉を拾わせていただきました。

まず、『吉田屋』とは…。

『廓文章 吉田屋』とは、歌舞伎の中でも上方和事の代表的な作品です。放蕩の末に勘当された藤屋の若旦那・伊左衛門は、恋人の夕霧が病に伏せっていると聞いて、落ちぶれた身も省みずに、大坂新町の廓・吉田屋へやってきます。主人喜左衛門夫婦の好意で夕霧には会えたものの、お座敷に出ている夕霧に嫉妬して、すねてつらく当ったり、痴話喧嘩を始める始末。ようやく仲直りをした二人のもとに嬉しい知らせが届く…という物語です。

この伊左衛門は、身なりは貧しくても大店の若旦那に相応しい品と色気がなければいけません。それが仁左衛門さんの伊左衛門は絶品! 玉三郎さんの夕霧もまた、最上位の遊女である太夫の品格と艶やかさが求められる大役。揚巻のような関東の傾城とは違って、やわらかい物腰の上方の遊女の演じ分けも眼目だそうです。

なんと、舞台だけじゃなかった!これまでの俳優人生を仁左衛門さんが語り、夕霧を演じた玉三郎さんのインタビューもあり!

では、シネマ歌舞伎を拝見。まずは、舞台映像が始まる前に、素顔の仁左衛門さんのインタビューシーンがあり、家の芸である『吉田屋』への思いやお父様との思い出話が語られます。

仁左衛門さんが藤屋伊左衛門を初役で演じたのは、昭和47(1972)年の巡業公演だそうです。お父様(十三世片岡仁左衛門)から受け継いだ『吉田屋』。稽古での「父の動きはそこに伊左衛門がいるようだった」と言いいます。今では考えられませんが、「それだけで、プレッシャーがかかってしまう。とにかくできない。やれなかった」と、当時の苦労を語ります。

「当時、私は和事のようなやわらかい役はやったことがなかったんです。とにかく荒い役、強い役ばかりやってましたから…。でもやはり家の大事な狂言で、父も必死だったと思います」。お父様の稽古は厳しくて、「下手くそで、直しても直らないし、もう本当に逃げ出したかったですね」。また、花道に登場する瞬間、お父様が見守ってくれていたように感じたそうで「とにかく背中を押されるような感じで、出て行って…。襲名のときもやらせていただきましたが、夢で、父が客席から出てきて、あかんあかん、言うんです」と、笑う。ともかくお父様からは「大家のぼんぼんだということをしっかり踏まえてください」と、教えられたそうです。

それから、「伊左衛門は夕霧に心がまっすぐ行っていて、目の前にある障害物さえ目に入らない。夕霧に会いたいのに、わざとつれなくしてしまう。そういうところが伊左衛門のかわいいところで、母性本能を刺激されるような伊左衛門に持っていかなければ、今の時代に通用しないでしょうね」など、自らの工夫や秘話も語られます。

「調子というか、声の使い方。そして、役の性根。おかれた環境や気性をしっかり踏まえたうえで、枝葉を描いていく」伝統を重んじながら、時代に合わせた演じ方をする、それが仁左衛門演じる伊左衛門となっているのです。

さらに20代の若い頃に玉三郎さんと喧嘩をした思い出話なんかも…。

「芝居のことで喧嘩したのは、玉三郎さんと(十八世)勘三郎くんくらい。喧嘩というか、言い合いですね」と、玉三郎さんとの思い出を振り返る。

玉三郎さんとは「唯一、声を張り上げて言い合った仲です。まあ若かったからね。20代の頃、それこそ50年前の話ですよ」と、嬉しそうに話す様子に、芝居への情熱を感じます。

「父と、(玉三郎の父の十四世守田)勘弥のおじ様は非常に仲がよかったんです。単身で東京に来たとき、勘弥のおじ様に自分の子どものようにかわいがってくださって、ある種、玉三郎さんと兄弟のような扱いでした」と、当時を振り返ります。

お家ごとに「それぞれ芝居の教え方が違います。ところが、その役のつくり方というのが、父と喜の字屋のおじさんは似ていたんです。だから私と彼(玉三郎)とも、それが似ているんです」と、黄金コンビのルーツを明かしました。シネマ歌舞伎では、玉三郎さんも仁左衛門さんとの思い出ばなしを語っています。これは必見!

夢のような『吉田屋』の舞台映像! 細かい演技もクローズアップで見える。

仁左衛門さんは舞台映像の制作編集にも関わっているそうです。「このカットはもう少し長めのほうがいいんじゃないかとか、相談して、提案させていただいて、直させていただけるところは直していただきました。役者として、ここを観てほしいというところもあれば、僕のカットはいらないので、この人のここをちゃんと見せたい、という場面もある」と言う。仁左衛門さんのフィルターを通した舞台映像にも注目ですね。

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シネマ歌舞伎ならではの見どころを仁左衛門さんのお嬢さん・片岡サチさんが教えてくれました。

試写会には、仁左衛門さんのお嬢さんの片岡サチさん(女優)がお見えでした。試写後、片岡サチさんにコメントをいただくことができました。

「最初のインタビューの場面を見ていたとき、ふと、まだ私が幼い頃に楽屋で玉三郎のお兄さんと父と母が3人で話しているのをぼんやり見ながら、“そうか、母は父の奥さんだけれども、舞台では玉三郎お兄さんはパパの奥さんなんだな”って思った不思議な感覚が甦りました。それから、まだ私が宝塚時代(芸名・汐風幸)のとき、『吉田屋』を踊らせていただいたことがあるんです。そのとき、父が『まさか、娘が踊るとはなぁ』と感慨深そうに言ったんです。そのときはあまり深く考えませんでしたが、今日このシネマ歌舞伎を拝見して、父が初めて伊左衛門役を演じたときの気持ちやエピソードを知って、あのときの父の一言には深い想いが込められていたのだなとあらためて知りました。舞台映像に関しては、空気感は生の舞台でなければ味わえない部分もあるかもしれませんが、私たち家族は普段は後方の席でしか観られませんから、細かい表情や、舞台美術のお正月の飾りや、衣裳などが間近に観られて新鮮でした」と、貴重な感想をいただきました。

名舞台の記録だけではなく、芸のクローズアップやインタビューまであるシネマ歌舞伎、これからは要チェックですね!

『吉田屋』、新年にふさわしい華やかな季節感と大団円の結末には幸福感に満たされる名舞台です。

公開情報

新作シネマ歌舞伎 『廓文章 吉田屋』 

公開日:2020年1月3日(金)~23日(木)※一部の劇場で延長あり。東劇ほか全国公開。
上映館:こちらから
上映時間:約1時間37分
料金:当日 一般2,100円(税込)

「シネマ歌舞伎」公式サイト