みなさんは「闇金ウシジマくん」という漫画を読んだことがあるでしょうか。
10日で5割という超高金利で金を貸すヤミ金経営者の丑嶋馨と、そんなヤミ金を頼りにお金を借りにくるワケありな人たちを中心に物語が展開される漫画です。
現実社会であれば法律に基づいて、貸付元本10万円未満では年20%まで、10万円以上では年18%まで、100万円以上では年15%まで、といった具合に利息制限が定められているので、10日で5割という利息は完全に違法となります。
テレビのCMなどで見かける消費者金融の利息が年18%程度に収まっているのも法律による制限があるためです。
さて、違法な金貸しというのはいつの時代にも裏社会で横行されているものですが、奈良時代には役人による組織ぐるみの違法な高利貸しがあったのをご存知でしょうか。
その名も「月借銭(げっしゃくせん)」と呼ばれるもので、写経所内で行われていた高利貸しです。
ちなみに写経所とは、決してお金を貸し出す金融機関ではなく、仏教流布のための写経であったり戸籍や納税の記録などを作成する公的な機関です。
月借銭の金利は?利用者は?
まず月借銭の金利がどのくらいなのかと言いますと、月13〜15%程度、年間で考えると150%を超える高い金利で貸していました。
ちなみに当時定められていた金利の上限は400日で100%まで、と現代人の感覚ではとても高いものでしたが、月借銭の金利はそれをさらに上回る違法なものでした。
しかも借りるときには、きちんと口分田(くぶんでん:国家から民衆に対して一律に支給された農地)や布といった現物資産や給料を担保にしていたので、返済に対する意識もシビアだったことが窺い知れます。
そしてこちらの月借銭は様々な機関でまかり通っていました。特に記録が多く確認されているのは、地位の高い役人主導のもとで写経所という機関が貸し手となり、そこに勤める写経生という今でいう国家公務員たちが借りていたケースがあります。
写経所内でお金を貸していた目的には諸説ありますが、一説には私利私欲のためというよりは災害や疫病、天皇の病といった不測の事態に備えるために裏の財源を確保するためだったと言われています。そのためほとんどの写経生に対して半ば強制的に貸し付けて利息を徴収していたようです。
写経生の方はと言いますと、難関試験に合格して採用されたエリートであり年収は3000〜9000文程度、現代の価値に換算すると年収350万〜1000万円程度とそれなりの給料をもらっており、借金をするほど生活が苦しかったわけでもありませんでした。また身内の不幸や体調不良、さらには衣服の洗濯が間に合わないといったよく分からない理由でもきちんと休暇を取れていた記録も残っていたので、写経所の勤務環境は決して悪いものではありませんでした。
そんな写経生が借金をする目的としては、お金を借りて利息を納めることによって地位の高い役人に気に入ってもらい、出世の近道にするという魂胆があったことも最近になって分かってきました。また借金に伴う利息の額も年収の3〜10%程度と無理のない範囲に収まっていたので、そこまで悪質な高利貸しではなく、貸し手と借り手の双方にメリットがあったと考えることができます。
とはいえ、雇用主が従業員に対して半ば強制的に、しかも違法金利でお金を貸すなどということを現代社会で真似すれば、間違いなく炎上して一発でブラック企業に認定されてしまいますね。
月借銭の利用方法は?
さて、ここまで読まれた皆さんの中にも月借銭を活用してみたくなってきた方もいらっしゃるかと思いますので、月借銭を借りるためにどのような申請がなされていたのか説明させていただきます。
お金を借りたい写経生(実際は半強制ですが表向きはあくまで借りたい意思があるということになっています)から提出された申請書は事務局で稟議が回されて、決裁者による署名がなされてお金が貸し出されます。申請書には以下の内容を記載しています。
1:借金額
2:月の利息
3:担保(口分田や布などの品名と数量)
4:返済期間
5:申請年月日
6:署名(自筆)
7:保証人(2名の自筆)
提出された申請書はきちんとファイリングされて、返済があるごとに何年何月にいくら、といったかたちで返済記録が加筆されていきます。完済されると完済年月日などが加筆され、書類は抜き取られて別の所で一定期間保管される、といった流れになっていました。
そしてこれら完済された分の書類については保管期間が経過したのちに、裏紙として再利用されます。
また完済されなかった借金の記録については残っていないことから、現存する月借銭に関する記録は単体としてではなく、食口案帳(しょっこうあんちょう)という写経生の人数や日ごとに使用した米の量を記録する二次的な文書の裏面として正倉院に伝わっているものでしか確認することができません。
そのため借金を完済できなかった人々は、借金の記録を盗んで逃亡したのか、存在ごと抹消されてしまったのか、そもそも完済できなかった人などいないのか、といったことは分かっておりません。
想像を膨らませつつ、新たな学術的発見に期待するばかりです。