Culture
2020.04.07

籠城とは?必要なもの・食事・トイレなど、籠城戦の過ごし方を現代の「外出自粛」と比べ解説

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2020年、新型コロナウイルスが猛威をふるい、家庭で「おうち時間」を過ごさざるを得ない状況が続きました。これと似たような状況が、かつて武士たちにもありました。それが「籠城(ろうじょう)」です。文字通り城に立て籠もる戦のことで、その期間は数年間に及ぶこともありました。籠城期間、武士たちはどのように過ごしていたのでしょうか。そこには、私たちの生活のヒントとなるアイディアがたくさんありました。

籠城戦とは?どのような戦の方法なの?

まずは籠城という戦い方について解説しましょう。

「前九年絵巻物」国立国会図書館デジタルコレクションより

籠城とは、城を落とそうと攻め込んできた敵軍から城を守る戦(いくさ)のことです。防衛戦なので一見「負け戦」のように感じられるかもしれませんが、戦い方によっては攻め手を翻弄し、撤退する敵の背後を襲って打ち破ったり、援軍が来れば一転勝利したりすることもありました。

例えば天正3(1575)年5月21日の「長篠の戦い」。長篠城がわずか500人の将兵で武田軍1万5,000の猛攻に耐えたことで、織田・徳川連合軍の援軍が到着。武田軍に歴史的な勝利を収めることになりました。

籠城のために必要なこと

長ければ数年間も続くことになった籠城。必要なものは何だったのでしょうか。

水と食料の確保

最低限生きていくために欠かせない、水と食料は必須です。当たり前ですが、今のように水道から水が出たり、ちょっとコンビニに食料を買いに行ったりできません。加えて武士は「パソコンでリモート戦」というわけにもいかないので、体力勝負に耐えられる十分なエネルギーをとる必要があります。

「兵糧攻め」で食料や水が手に入らなくなってしまうと、城内にある草木や馬、ひどい場合は死んだ人の肉を食べることも……。また、そうした食料難に備えるために、城内に食用の草木を植える工夫をした城も少なくありませんでした。

「撰雪六六談 籠城の馬肉 加藤清正」著者:芳宗 国立国会図書館デジタルコレクションより

トイレの整備

現代のように清潔な水洗トイレがなかった時代は、糞尿の処理も重要なミッションです。糞尿の処理能力が低下し城内で疫病が流行する例もあったため、そうした事態を招かないよう、トイレは城内に溝などを掘って所定の場所が設けられていました。また、有事には糞尿を武器として使うことも!熟成された糞尿が空から降ってきたら……。それはもう耐えがたい”爆弾”となったことでしょう。

味方との連携

籠城戦に重要なのは、味方との連携です。援軍が来れば敵を挟み撃ちにしたり、和睦交渉に持ち込んだりすることも可能でした。

長期間何をしていた?武士たちの「籠城生活」に学ぶ

長ければ数年にも及ぶ籠城生活中、武士や女性たちはどのように過ごしていたのでしょうか。さまざまな籠城中の過ごし方から「おうち時間」について、私なりに考えた意見もご紹介します。

宴会や茶会

敵に余裕を見せつけるため、宴会や茶会を開くことがありました。

今は人と顔を合わせることは難しい状況ですが、不安を少しでも解消するためにも、家族とゆっくりお茶をするリラックスタイムを作りたいものです。

武器の手入れ

戦のために武器をたくさん用意するのはもちろん、その手入れも重要な仕事です。また、戦に鉄砲が使われるようになると、鉄砲玉を作る作業は女性たちが担っていました。

家庭で時間がある際は、仕事道具やスーツのお手入れをして、来るべき日に備えるのもいいですね。例えばパソコンやスマホの容量がいっぱいな方は、この機会にじっくり整理してみては?

武士たちの激励

武士たちの士気を維持するのも、管理職の立場にある武将たちの重要な役目でした。豊臣秀吉の側室・淀殿も、城内を激励して周ったとされており、男性だけでなく女性も活躍していたことがわかります。

「後室淀君 岩井半四郎・加藤清正 市川団十郎・加藤伝蔵 市川権十郎」著者:豊原国周 国立国会図書館デジタルコレクションより

今だって美人上司に「頑張ってね!」なんて言ってもらえたら、ちょっとやる気アップしませんか?別に美人に限ったことではありません。上司のみなさま、長引く不安に晒されている部下を、どうか気にかけたり励ましたりしてください。

工夫を凝らした食事づくり


籠城中の人々の食事を作るのは、女性たちの仕事でした。米が少なければお粥にするなど、大切な食料をいかに上手に使うかが腕の見せ所。現代の「節約料理」のようなものかもしれません。

今、食料不足の不安からどうしても「買占め」の欲求が高まってしまいますが、なるべく少ない食材で調理する工夫も必要かもしれません。

球拾いならぬ弾拾い!?子どもも大人のお手伝い

籠城中子どもは基本的には安全な場所にいましたが、敵が撃ち込んできた弾を拾うなど、戦の手伝いをすることもありました。

今、子どもたちは学校などに通うことが難しい状況が続いていますが、これを逆手にお手伝いを習慣づけるチャンスかもしれません。

【番外編】生首のお化粧

籠城中に限りませんが、味方が討ち取った敵の生首にお化粧を施す作業がありました。これを担当するのは武家の女性たち。その恐ろしいお化粧の工程はこちら!

  • 首から垂れる血を止める
  • 髪型を整える
  • 顔にお化粧をする
  • お歯黒を塗る
  • このように生首をきれいにするのは、敵であっても丁寧に弔うためです。お化粧した生首は、その後首実検に出されました。

    こんな恐ろしいことをしなくて済む時代に生まれて良かったなと思います……。

    武士から学ぶ、今大切なこと

    時代も状況も違うため、単純に籠城と外出自粛を比べることはできません。しかし、命をかけて城を守った武士たちの「籠城」から、今の私たちも学ぶことは多いはずです。

    「いつ終わるかわからない……」そんな不安に心が押しつぶされそうになることもありますし、子どもたちの日々の過ごし方に頭を悩ませている方も多いでしょう(私もそのうちの一人です)。

    少なくとも、今は水や食料など最低限のものは手に入る状況です。生きるために最低限必要なものの他に武士たちが重要視したのが「繋がりと信頼」。武士同士の繋がりや信頼関係を築くことは、戦を左右する非常に重要な要素でした。そのためには、大切な娘を敵将の妻として差し出すこともありました。

    今はSNSも発達し、顔を合わせずともコミュニケーションが取れる時代です。武士の大切にした「繋がり」を絶やさず、仲間とお互いに助け合ったり苦しい胸のうちを語り合ったりすることは、今でもとても大切なことではないでしょうか。

    主な参考書籍:『ビジュアル・ワイド 江戸時代館』『世界大百科事典』

    書いた人

    大学で源氏物語を専攻していた。が、この話をしても「へーそうなんだ」以上の会話が生まれたことはないので、わざわざ誰かに話すことはない。学生時代は茶道や華道、歌舞伎などの日本文化を楽しんでいたものの、子育てに追われる今残ったのは小さな茶箱のみ。旅行によく出かけ、好きな場所は海辺のリゾート地。