「平家物語」にも登場する日本の妖怪「鵺(ぬえ)」について、鳴き声や見た目、その物語など解説します。
鵺(ぬえ)とは、どんな妖怪?
日本に昔から伝わる妖怪です。「鵺」の漢字のほか「鵼」「夜鳥」などとも表記します。鵺は平安時代後期に出現したと言われていますが、平安時代のいつ頃かは、二条天皇の時代や後白河天皇の時代など、書物によって記載がバラバラです。ちなみに「古事記」や「万葉集」にも、名前が登場しています。
また鵺の伝説で最も有名な「平家物語」での記載は「不思議な声で鳴く得体の知れないもの」であり、鵺という表記はありません。やがて他の書物にある記載と結びつき、この得体のしれないものが鵺だとされるようになり、現代では平家物語に登場する妖怪として知られています。
その「得体の知れないもの」というイメージから、現代において「鵺」という言葉は「つかみどころがなくて、正体のはっきりしない人物や物ごと」を表すときに使われるようになりました。
鵺の姿や見た目は?
そんな鵺の見た目は、サルの顔にタヌキの胴体、さらにはトラの手足に尻尾はヘビ。「源平盛衰記」では背中がトラで尻尾がキツネなど、書物により違いはありますが、まるでギリシャ神話のキメラのような姿をしています。
どんな鳴き声?
鵺の鳴き声は「ヒョウヒョウ」という不思議な声で、アジアやニューギニアに実際に生息する鳥・トラツグミではないかとされています。その寂しげな鳴き声は、平安時代の人々にとって不吉なものとされ、天皇や貴族たちは鳴き声が聞こえるや大事が起きないよう祈祷したと言われています。
鵺の伝説・物語
平家物語に描かれる怪物「鵺」
平安時代の末期。天皇の住む御殿に、夜になると黒煙と共に不気味な鳴き声が聞こえるようになりました。毎晩のように聞こえる不気味な声に、天皇は恐怖し、ついに病にかかってしまいます。しかしどんな薬や祈祷をもってしても、病は治りません。そこで側近たちは、弓の達人である源頼政に、鳴き声の主の怪物の退治を命じました。
頼政は夜になると家来を連れて、先祖の源頼光より受け継いだ弓を手にして怪物退治に向かいます。すると、みるみるうちに御殿に不気味な黒煙が現れ始めました。頼政が、山鳥の尾で作った矢を射ると、悲鳴と共に怪物が二条城の北に落ちていきます。すかさず家来が取り押さえて、とどめを刺しました。やがて御殿に静けさが戻ってきて、天皇の体調もたちまち回復。頼政は天皇から褒美に「獅子王」という刀をもらいました。
鵺は実在した?各地にある鵺の墓
想像上の妖怪とされていますが、日本各地に鵺の墓とされる史跡が今もなお残されています。
芦屋の鵺塚
「平家物語」のその後、祟りを恐れて支隊を船に乗せて鴨川に流し、淀川をつたって大阪に漂着したあと、海を渡って芦屋のあたりに打ち上げられたという逸話が残っています。鵺の墓の近くには「鵺塚橋」という橋もあります。
大阪の鵺塚
淀川下流に流れ着いた鵺を葬ったとされている墓です。
鵺の登場する作品
鵺が描かれた浮世絵などを紹介します。
歌川国芳「木曽街道六十九次」より「京都 鵺 大尾」
月岡芳年「新形三十六怪撰」より「猪早太と鵺 」
世阿弥の「鵺」
世阿弥作の謡曲でも「鵺」が描かれています。平家物語をもとに、旅僧の前に鵺の亡霊が現れ、源頼政の矢に射殺されたときのありさまを語る内容です。
参考:小学館「大辞泉」、水木しげる「図説 日本妖怪大鑑」
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