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Fashion&きもの

2024.06.17

武相荘で語らう、大事に育んできたものの中にある〝確かな美〟。美容家・石井美保の「和魂美才」vol.4

美容家・石井美保さんが、日本文化と和装の魅力を伝える連載「和魂美才」。今回は白洲次郎、白洲正子ゆかりの記念館「旧白洲邸 武相荘(ぶあいそう)」を訪れています。案内してくださった、白洲次郎・正子の娘婿で、武相荘の運営に関わる牧山圭男さんとの語らいもお届けします。(聞き手:和樂web編集部)

前回は、武相荘を訪れた時のお着物のスタイリング、メイクのポイントを伺いました。
白洲次郎 正子の美意識が息づく「武相荘」へ。美容家・石井美保の「和魂美才」vol.3
「和魂美才」一覧はこちら

和と洋が溶け合う、田舎暮らし

かつて白洲夫妻が暮らし、現在はミュージアムとして公開されている茅葺屋根の母屋の前で。左:石井美保さん、右:牧山圭男さん

石井美保(以下、石井):この場所で、白洲次郎さんと正子さんが暮らしていたのだなぁとしみじみ感じる空間ですね。

牧山圭男(以下、牧山):かつてこのあたりには田畑が広がっていて、武相荘はその中に建つ築100年を超える茅葺の農家でした。二人はそれをとても気に入って、郊外で豊かに暮らすイギリス流のカントリージェントルマンのスタイルに則って越してきたんです。戦争による食料問題や空襲を避ける疎開の意味もあり急いで越してきたけれど、次郎は農協にも入って畑仕事をして、家も自分たちのスタイルに合わせて改装していきました。

靴を脱いで、ご自宅にお邪魔するような気持ちで入館できるミュージアム。白洲夫妻の遺愛の品々が展示されている。ソファセットのある空間に立つと、二人が暮らしていた当時の気配が今も感じられるよう。ソファに立て掛けられているのは、吉田茂元首相のステッキ!

婚約当時の二人。お互い一目惚れだったそう。

ミュージアムの奥には、正子の書斎がそのままに。

石井:海外経験のあるお二人。西洋の感覚を持っている方の当時のお住まいと考えると意外にも思える風情ですね。和のものと洋のものが見事に混じり合っていて。また、1つひとつのものへのこだわりを感じます。私も、納得のいくもの以外を自分の空間に置きたくなくて……。共感を抱くところがありました。流行などとは関係なく好きなものを選びとって、自宅がどこよりも居心地の良い空間になるよう整えています。

牧山:まさに二人の暮らしは、和魂美才といえたのかもしれませんね。次郎は、「プリンシプル」という言葉を大事にしていました。直訳すると「原理・原則」を指しますが、つまり「筋を通して生きること」。自身の信念に基づいて生きていると、響くところが色々あると思います。

秘訣は「干渉しない」こと?

石井:自分の信念を貫くこと、大事にしていきたいです。加えて、この空間は、こだわりがありつつも調和がとれているところに驚きます。ひとりの空間であれば完璧に自分の好みの状態にできるのかもしれないですが、他者と暮らす中では思い通りにならないところもありますよね。そんな中、お互いの考えをうまく融合させながらお家を作ってこられたのが素敵だなと思いました。

牧山:生活への美意識はそれぞれ持っているが、大きな意味での共通の信念がある。そして何より、お互いにごちゃごちゃと干渉しないというのが秘訣だったのかもしれません。

石井:それぞれが独立していて、お互いのことを認め合う、そんな愛ある関係に憧れます。この空間の心地よさが全てを物語っているようです。

牧山:ここを公開した当時は、正子のファンの方々がたくさん訪ねてきてくれました。次郎の書籍が出たり、NHKでドラマ化されたりしたことで新たな層の方々にも知っていただけて、その後も今の時代と共鳴することがあるのか、若い方も多くいらっしゃるようになりました。最近では、二人のゆかりの場所だからということを超えて、茅葺屋根の家や季節の移ろいを感じられるこの空間そのものを味わいにこられる方も増えています。

石井:実際に暮らしが営まれていた場所で、その心地よさを実感して、自分自身がどうありたいか、暮らしたいか、今の私たちが本来的に求めていているものと向き合えるのかもしれませんね。

お庭では様々な草木が季節を告げていて、この日はアザミが咲き誇っていました。

年齢を重ねても、新たな自分の美に出会えるように

ミュージアムのお隣。かつての白洲家の食堂は、現在レストランに。
こちらでコーヒーとお菓子をいただきました。

人気メニュー「武相荘のどら焼き」は、アイスクリームがはさまれていてボリューム満点。実はこのどら焼きの器、陶芸をたしなむ牧山圭男さんが焼いたもの。

「おいしい!」と美保さん。柔らかな光が降り注ぐお茶の時間、風にそよぐ葉音や鳥たちのさえずりも響いてきました。

和樂:調和の美に関連して、着物を暮らしに取り入れていくステップ、前回伺った着物選びの中にも何か繋がるものがある気がしました。

石井:そうですね。私自身の好みはブレずにあるのですが、着物についてはまだまだ経験不足。知識のある方に教わる、客観的に見てくださる方の声を聞くが大事だと思っています。その中で、凝り固まらずに学ぶことで新たな発見もたくさんありました。例えば、今までだったら選ばなかった色や柄と出会えること。こういう経験は人生を豊かにしてくれるもの。お着物に関しては自分の固定概念を外していくもの、そう思ってチャレンジしています。

和樂:軸を持つのは大事だけど、凝り固まってはもったいない、と。

石井:ストイックに美容を突き詰めていると、「ずっと変わらないこと」を求めているように見えるかもしれませんが、実は変わることをさほど気にしていないんです。なるようになるしかないし、その時々の自分に合うものがあると思っていて。

和樂:「なるようにしかならない」を受けとめるのですね。

石井:歳を重ねていくと、自ずと人生の終わりを意識するようになりますよね。私は120歳まで生きるぞ、まだ先は長い!と思っていますが!(笑)
実は最近、年齢相応の肩の痛みに悩まされています。見た目は変わらなくても、体に変化は起きてきます。
同世代の人たちのお悩みを聞いていて、この移り変わりに落ち込んでいたり、若者に嫉妬してしまったり、そんな自分にげんなりするなんて声もありました。

和樂:年齢による変化、目の当たりにすると辛い時があります。

石井:たしかに肉体はすり減っていく。でも内面を豊かにしていけたら、若い時とは違った人生の楽しみも増えると思うんです。そして「これがあるからいいじゃん」と、思えるようになるというか。学んで新しいものを発見したり受け入れてみたり、自分の内面を育てていけたら。

縁側にて。手元のナンタケッタバスケットは「いつか着物おでかけが日常的になった時のために」と、10年前に自身で編んだもの。経年変化で味わいが増す籠も今まさに育っているところのよう。

石井:晩年の正子さんが、若い時よりも季節の草花などをしっかり見るようになったという事を書いているのをショップで見かけて印象的でした。
終わりを意識するようになって、有限だからこそ今目の前にあるものの美しさや愛おしさに気づくこともある。自分自身も大事に育てて、好きなもの、今感じる幸せをその時々100%受け止めて生きることが一番幸せなんじゃないかなと思う今日この頃です。

インタビュー・本文/小俣荘子 写真/天日恵美子 着付け/星山奈保子 ヘア/高倉里美 撮影協力/旧白洲邸 武相荘

旧白洲邸 武相荘

住所:〒195-0053 東京都町田市能ヶ谷7丁目3番2号
開館時間:10時~17時(入館は16時半まで)
休館日:月曜定休(※祝日は開館)夏季・冬季休館あり(※企画展ページ参照)
公式サイト:https://buaiso.com/

『和樂』2024年6,7月号で大特集!

大好評発売中の『和樂』2024年6,7月号の大特集は「永遠のふたり 白洲次郎と正子」。付録は白洲正子さんが慈しんだ〝日常の美〟を3枚セットにした、ポストカード。ぜひあわせてお楽しみください!

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小俣荘子

淡路島生まれ、横浜育ち。海が見えると安心する。ある夏、腕に火傷を負って治療のため長袖必須に。猛暑に溶け落ちる窮地を浴衣に救われ涼しく過ごす。以来、昔ながらのものを日常に取り入れるのが面白くなり、入り口探しがライフワークとなる。紙でできたものと小さいものに目がない。旅先の美術館カフェでぼんやりする時間が好き。 https://linktr.ee/omata_shoko
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