▼どうして大阪の夏祭りにお二人で? と疑問に思った方は、こちらの記事をどうぞ!
竹本織太夫が尾上菊之助を案内する。文楽、歌舞伎ゆかりの夏祭り【文楽のすゝめ 四季オリオリ】第4回
紋に同じ柏が描かれているご縁
浴衣に合わせて、素敵な団扇をお持ちだったので、見せていただきました。あれ、どちらも同じ色? 「これは梅幸茶(ばいこうちゃ)で、茶色がかった薄緑っぽい色ですね」と菊之助さんが教えてくださいました。左側の織太夫さんの団扇に描かれているのは、竹本綱太夫家の定紋「抱き柏に隅立て四つ目」。右側の菊之助さんの団扇に描かれているのは、音羽屋の定紋「重ね扇に抱き柏」
「柏の葉は新芽が出るまで古い葉が落ちないという特性から、家系が絶えない縁起が良い葉との言い伝えもあるそうです」と織太夫さんは、話します。「うちの家の方では、当時の大名か誰かから、柏餅をのせた扇を渡されて、それを扇で受け取ったのがルーツと聞いたことがありますね」と菊之助さん。神前で拝むときの作法も柏手と呼ばれるなど、柏の葉は縁起が良い印象です。
帯の結び方が左右違う!?
お二人とも角帯を粋に締めておられますが、実はそれぞれの帯の結び方が異なります。貝の口という結び方の手先が左右逆なのだそうです。「上方と江戸で違うのですよね、ご存知ない方が多いかもしれません」と織太夫さん。織太夫さんの手先は左側になり、菊之助さんの手先は、右側になっています。「上方が舞台の演目の時は、上方の結び方にするのですよ」と菊之助さん。歌舞伎を観るときにチェックするのもいいですね!
子どもの頃から馴染み深い神社に奉納
高津宮の夏祭りには、子どもの頃からずっと通っていると話す織太夫さん。地元ならではの、思い入れも強いようです。境内の周りには、石玉垣(いしたまがき)と呼ばれる石でできた境界の柵があります。ふと見ると、織太夫さんの名前が。昔からの石玉垣が長年の風雨にさらされて、修復が必要となった時に、寄進をされたそうです。
夏祭りに映える浴衣の着こなし
神社の夏祭りということで、揃って涼やかな浴衣で現れた織太夫さんと菊之助さん、さすがキマッてますね! 白地の浴衣に染め抜かれた模様には、それぞれ特徴があり、代々受け継がれてきた歴史を感じるものです。
菊之助さんの浴衣は「斧琴菊文(よきこときくもん)」と呼ばれる江戸時代に流行した文様。描かれている斧を「よき」と読み、その下は「琴」、丸い形の絵は「菊」の花で「良き事を聞く」という縁起の良い意味が込められています。文化12(1815)年に襲名した三世尾上菊五郎が、菊五郎の菊にちなみ衣装にも採用されたと伝えられる、音羽屋にのみ許される文様です。
一方織太夫さんの浴衣は、六代目竹本織太夫襲名記念として作られた「織太夫縞」です。二代目竹本綱太夫が、かつて京都の織物屋で菅大臣縞(かんだいじんじま)※を織っていたことを踏まえて、竹と菅大臣縞と織の紋の意匠を、織太夫さんの古くからの友人であるgooddesigncompanyの水野学さんがデザインされたものです。
お揃いの鬼献上男帯は『帯源』さんのものですが、偶々なのだそうです。(スゴい!)この帯と合わせてコーディネートされた、それぞれの草履も素敵です。菊之助さんは畳表(たたみおもて)の草履で格調高く、鼻緒の色は帯と合わせたシックなグレー。織太夫さんの草履は、『ぜん屋』さんの艶消しのシルバー。鼻緒の色も同じくシルバーで、こちらも帯とぴったりですね!
今回もありました!和樂web編集長のファッション解説!!
夏祭りの後の直会(なおらい 神社の祭祀の後の会食)は、織太夫さんお馴染みのお店で、シャンパンで乾杯。打ち合わせをされていないのに、洋服の色をお二人とも白をチョイスとは、まさに以心伝心!
あれ、織太夫さんが着ておられるシャツは、どうも一般的なものではない様子……。
では、最後はやはりファッション誌を歴任してきて、織太夫さんの着こなしに大注目している和樂web鈴木深編集長のコメントで締めてもらいましょう!
編集長のファッション解説を楽しみにしてくださっている読者も増えてきている様子です!
というわけで今回も『和樂web』編集長の「勝手にファッション解説」です。
今回は最後のオフショット(オフホワイトシャツ&ホワイトTシャツ)の着こなしのみに限定させていただきます。
なにせ伝統芸能を背負っていらっしゃるおふたりの、脈々と先代から受け継がれている矜持をそのまま纏っているような浴衣のお姿は、写真で拝見しているだけでも神々しすぎます!
俗物の塊のようなわたくしが、えらそうにとやかく言えるはずもなく、以下、オフホワイトシャツ&ホワイトTシャツ限定で「勝手にファッション解説」をさせていただきます。
今回も興奮して長くなること必至ですので、「付き合いきれねぇ!」という方は、ばんばんスクロールしてください。
菊之助さんがさりげなく着ているのは、見るからにやわらかそうな、透けるほどに繊細な生地のホワイトTシャツ。
ネック周りのていねいな縫いから推察するに、ハイブランドのラグジュアリーな逸品だと思われます。
シルクなのか、あるいはコットンでもかなり番手の細かい、シーアイランドコットンのような極上の肌ざわりに違いありません。
菊之助さんは、浴衣の着こなしでもそうですが、キメキメにアピールするというよりは、どこかユルリとした優しい風情を醸し出すような、余裕のあるスタイルがお好きだと拝見しました。
しかし! このサイジングと肌見せバランスはただ者ではありません。
体をふわりと包み込むような絶妙シルエットのTシャツですが、やや細めで短めの袖丈がポイント! 上腕をチラリと見せて若々しさを匂わせているあたりはサスガ! のひと言です。
柔らかな笑顔とは対照的に、その下に潜むゆるぎない自信を感じさせます。
一方、われらが織太夫さん。今日もバリバリ我が道(ド変態道)を、脇目も振らず邁進されております。
今回もすごいです!
着ているシャツは、一見フツーのオジさん!いや!フツーのオリさん!に見えて(スミマセン!)とんでもないこだわりのド変態シャツです!!
ジャンルとしては、ここ最近おしゃれメンズの間で人気のリゾートアイテム「パナマシャツ」ですが、よくよく見ると、このシャツは生地の織り方がとんでもないことになっており、もはやフツーであるはずありません。
写真を拡大して(笑)よ~く見ると、生地全面に細か~い凸凹がそれはそれは美しく並んでいることがわかります。
「こんな細やかな生地を織れる工場は日本にないだろうな~」と思って聞いてみると、織太夫さんのご友人が「圧倒的なクオリティのパナマシャツをつくりたい!」という一心で、なんと50年代のプリペラ生地の織機を手に入れ、やっと完成した夢のような逸品だということが判明!
そもそもパナマ織りとは、縦の糸と横の糸を2~3本ずつ引きそろえて交互に繰り返す織り方のことですが、それでできる凸凹の風合いには飽き足らず、プリペラの織機でさらに太い糸と細い糸を織り混ぜて、絶妙この上ない肌ざわりを追求しまくった結果の、気の遠くなるような作業の先にある、まさしく究極のシャツなんです!!
そんな一枚をはおった、織太夫さんの自信に満ち満ちたドヤ顔を見てください。
ハ~っ、おそろしい。
いったいわれらが太夫はどこに向かっているのでしょうか…。
しかも問題は、こんなすごいシャツでありながら、あくまで遠目には「一見フツー」に見えてしまうこと。
このシャツのすごさを分かってもらうためには、すぐ近くでよく見てもらい、なんなら実際にさわって確かめてもらうことが必要です。
でも、織太夫さんにそんな失礼なことできる人はほとんどいません。
つまり「どうせシロウトじゃわからないでしょ? 俺は誰からも理解されなくてもイイんだよ!」という、またしてもねじまがったナルシズムをいかんなく発動されています。
いずれにしても、このおふたかたがおそろいでホワイトを着てシャンパンを飲んでいる迫力ときたら、さぞかし居合わせた人を圧倒しまくったに違いありません。
ちなみにこの日、織太夫さんがシャツに合わせて履いていたのは、「サテントラウザーズ」とのこと。
え? それって何ですか? サテンの光るパンツ(ないでしょ)?
それって色は白ですか(いやいやいや…)?
またまた気になって、夜も眠れそうにありません。
取材・文/ 瓦谷登貴子
取材協力/ 高津宮、たこりき
竹本織太夫さん情報
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