日本文化の
入り口マガジン
3月1日(月)
恋しという気持ちは目の前にないものに対しておこるもの。
(古今和歌集岩波文庫脚註より)
日本文化の入り口マガジン 和樂web
日本文化の入り口マガジン 和樂web
2月25日(木)

恋しという気持ちは目の前にないものに対しておこるもの。
(古今和歌集岩波文庫脚註より)

読み物
Gourmet
2021.01.30

茶を「宇宙船の中にあるバーカウンター」で楽しむ!コロナ禍の混沌から生まれた「GEN GEN AN幻 in 銀座」

この記事を書いた人

「渋谷店は映画『AKIRA』。銀座店は同じSF映画でも全く異なる世界観の『ガタカ』をイメージソースにしました」

こう話すのは、「編集長がいく!」第1回のゲストにお招きした茶葉ブランド「EN TEA」主宰の丸若裕俊(まるわか ひろとし)さん。2019年6月に「GEN GEN AN幻 in 渋谷」でお話しを伺いましたが、実は現在2021年9月までの限定でGINZA SONY PARKに出店されているのです。噂を聞きつけ「GEN GEN AN幻 in 銀座」へお邪魔し、和樂webスタッフ鳩がお話を伺いました。今、丸若さんが銀座店から伝えようとしていること、これからの茶の在り方についてお話しいただきます。

EN TEA 主宰 丸若裕俊さん

1979年、東京生まれ。2010年に株式会社丸若屋を設立。2016年に茶葉ブランド「EN TEA」を立ち上げ、2017年4月に「GEN GEN AN幻 in 渋谷」をオープン。2020年11月にはGINZA SONY PARKに2021年9月までの期間限定で「GEN GEN AN幻 in 銀座」を出店。

銀座店のイメージは、映画『ガタカ』

–– GINZA SONY PARKへの出店はどのような経緯で決定したのでしょう。

丸若: 今回は、SONYさんからお話をいただきました。実は渋谷店をスタートしたとき、店を増やす構想はなかったんです。しかし、斬新で美しいGINZA SONY PARKの空間に以前から惹かれていましたし、2021年9月までの期間限定であることが決断を後押ししました。コロナ禍の今だからこそ短い時間で新しいことをやりきる、といいますか。銀座店でこれからの茶の可能性を探ろうと決めました。

「GEN GEN AN幻 in 銀座」 (写真: EN TEA公式サイトより)

–– 「GEN GEN AN幻 in 銀座」のコンセプトは?

丸若: 渋谷店も銀座店も考え方は同じです。「心を豊かにしてくれる茶の存在」「音と茶のある空間」このふたつがベースになっています。

–– 渋谷店とは雰囲気が大きく異なりますね。

丸若: 銀座店と渋谷店はアルバム違いのような関係です。店づくりをするときは、その場所に合った空間を意識しますが、銀座店の場合は「SONY」や「建築」をキーワードに据えています。

「SONY」でいえば、例えば壁に飾っている白いカセットテープ。カセットテープ全盛期、SONYで一番ハイスペックなものは、セラミック製だったそうです。それをオマージュしているのですが、この配置はモールス信号の「GEN GEN AN幻」になっています。このクリエーションは家電蒐集家の松崎順一さんによる物です。
「建築」という面では、荒木信雄さんが建築されたGINZA SONY PARKのソリッドな空間に「GEN GEN AN幻」がどのようにスポットしていくべきか。考え抜いた結果、宇宙船の中にあるバーカウンターのようなデザインにたどり着きました。

–– 宇宙船、ですか。

丸若: はい。銀座店のテーマは「近未来」です。2020年は、新型コロナウイルスによってかつてない混沌とした世界がやってきました。近い未来ですら一体どうなるのかわからない……そんな不安な時間が増えたと思います。茶においても、従来の在り方や伝え方のままでよいのか? と近い未来のビジョンが強く揺さぶられました。だからこそ今、茶の未来を想像する場所、ポジティブに近未来を捉えられる場所をつくろうとしたんです。

–– 銀座店をつくるにあたってイメージの参考にしたものは何かありますか?

丸若: 渋谷店も銀座店もそれぞれ異なる映画作品をイメージソースにしていますが、渋谷店は『AKIRA』。渋谷のような混沌とした街にふさわしい映画をイメージしています。一方、銀座店は同じSF映画でも全く異なる世界観の『ガタカ』から影響を受けています。

「GEN GEN AN幻 in 渋谷」の空間デザイン。壁いっぱいにカセットテープが 第1回 渋谷店の取材記事 より

丸若: 洗練された銀座の街にふさわしい、美しく研ぎ澄まされた空間といいますか。『ガタカ』は、銀座店のオリジナルのショップコートをつくったスタイリストの三田真一さんからの提案なんです。可視化することが難しい茶のワクワク感を、こういった宇宙のイメージが、キャッチーに伝える役割を果たしています。

–– 近未来な空間の中に、見覚えのあるものをみつけてしまいました。もしかして、「TEA TIME MACHINE」ですか?

丸若: そうそう、これ! 化学の研究・実験用のガラス器具を製造する桐山製作所と和樂webさんと一緒につくった「TEA TIME MACHINE」の最新版なんです。基本の構造はほとんど同じですが、メッシュの精度をあげたり、プラスチックだった部分をガラスにしてソリッドにしたり、さらに工夫を凝らしています。これもちょっと、近未来を想起させるアイテムですよね。

–– 美しい世界観の中に、ちょっとカオスな要素を感じました。

丸若: まさに、近未来の中に「美しい不協和音」を意識したんです。そもそも、今の時代そのものがカオスじゃありませんか? 伝えたいメッセージがあるなら、カオスもポジティブに楽しんだほうが伝わると思って。徹底して遊んでいます。

あとは、何か新しいことをやるときは振り切らないと「カッコつけてるんじゃないよ!」って高木編集長に怒られてしまうので。渋谷店をつくったあと、高木編集長は、なぜか「次はイスタンブールに店をつくりなよ」って僕に言ってたんです(笑)。「イスタンブールと渋谷の間をとって、銀座にしました」ってお伝えください。

家で楽しめる茶の抽出

–– 近未来、というコンセプトはメニューの中にも?

丸若: そうですね。近未来の中でも「宇宙食」をイメージしています。「宇宙で食べる乾燥したもの」ではなく「宇宙にトリップできるもの」としての宇宙食です。想像を掻き立てられるキーワードですし、千利休のような美意識の非常に高い人物が、水でも酒でもなく、茶を選んでそこに宇宙を見出したことからもヒントを得ました。遊び心はあるんですが、だからといって不思議な飲み物をつくりたいというわけではありません。むしろ、家でも楽しめる茶を提供したいと考えています。

–– あえて家でも楽しめるような茶ですか。

丸若: 背景として、いつロックダウンになるかわからない近未来に家でも「GEN GEN AN幻」を体感して欲しいという思いがあります。そこで銀座店のメニューは「茶の抽出」を楽しんでもらうことにフォーカスしました。茶を淹れるとき、温度や量のルールを厳格に守らなくてはならないような固定概念がありませんか? そういうことに縛られず、もう少しだけ現実的に家でもできる茶の楽しみをメニューに盛り込んでみました。

–– 具体的にはどのようなことを実践されているのでしょう。

丸若: ひとつは抽出に使う水の浄水。家庭用の蛇口をひねった水でおいしく茶を飲むことが最もかんたんではありますが、そのまま使うと不具合があったり地域差があったりするのが現実です。ですから、僕たちなりに少しでもおいしく家で飲む方法として、炭を使ったり鉄釜で角をとったりして、水を浄化しています。

茶の「選択」よりも「抽出」にフォーカスするため、茶の種類を渋谷店よりも絞っている

もうひとつは抽出時間。冷たい茶は低温で、一番長いものだと14時間かけて抽出しています。長時間抽出することで茶葉へのストレスを減らすことができるため、よりクリアな茶を楽しむことができます。浄水も抽出時間も、家でできる工夫ですが、これまで提案してこなかったことなんです。これを伝えるというところに、近未来を見据えたメッセージがあります。

–– なるほど、家でも「GEN GEN AN幻」を体験できるようにするための工夫なんですね。スイーツも近未来をテーマにしたのでしょうか?

丸若: スイーツは、ガトーバスクとアイスを4種類。パリの名店「Maison」の渥美創太シェフとゼロからレシピをつくりました。ここにももちろん意図があります。新型コロナウイルスによって海外に対する考え方も大きく変わりました。2020年のパリで生まれたレシピが銀座に再現されるということに対して、近未来への好奇心と似た感情が生まれるのではないかと考えたんです。

トレイに乗ったアイスは宇宙食のようにも見える

人類緑化計画に込めた思い

–– 最後にお尋ねしたかったことが。「GEN GEN AN幻」のInstagramを拝見しました。「人類緑化計画」は一体……?

丸若: ふざけているようで、実は真面目なプロジェクトなんです。茶を飲むことによって、体の中から緑になっていくということ、茶畑が増えて本当に緑化が進んでいくこと。そのために行っている活動ですが、例えば、店舗にマイボトルを持参された方には茶をディスカウントしたり、茶のレシピを公開したりすることで茶を飲む機会を増やそうとしています。最終的には、「GEN GEN AN幻」そのもののノウハウを他のエリアに展開して、この活動を広げたいんです。

「GEN GEN AN幻」Instagram公式アカウントより

–– 銀座店も「人類緑化計画」もやっぱりカオスです!

丸若: そうなんです。ポジティブな意味でカオス。カオスの根幹で、僕がいつも考えるのは売茶翁(ばいさおう)の逸話です。「なぜ高僧にまでなったのに路上で茶をふるまっているのか?」という問いに対して彼は「今の禅や茶には無い、本質がここにある」と答えた。これってすごく現代にしっくりくる逸話だと思うんです。きっと、みんなワクワクするから茶を飲んだわけで、それが本質だったんじゃないか。現代にもワクワクする茶が必要ではないかと。

「GEN GEN AN幻」もいろいろ遊びをつめこんでいますけど、一番成し遂げたいことは、そこなんです。再分解して再構築して、茶を楽しむ時間をアップデートする。限られた時間の中で、銀座店でチャレンジしていきます。

GEN GEN AN幻 in 銀座 店舗情報

銀座という場所と季節に合わせて抽出時間を変えた「究極の茶」や、茶に合うキャラメル入りの焼き菓子・ガトーバスク、ランチにはスペシャルなピタパンを楽しめる空間。日本茶本来の味わいを感じられる「茶のアイスクリーム」も数種類、つくりたてを味わうことができます。

営業時間 11:00 – 19:00
定休日 月曜日 (月曜祝日の場合は火曜日)、GINZA SONY PARK休園日
公式Instagram: https://www.instagram.com/gen2an/
EN TEA公式サイト:https://en-tea.com/

書いた人

我の名は、ミステリアス鳩仮面である。1988年4月生まれ、埼玉出身。叔父は鳩界で一世を風靡したピジョン・ザ・グレート。憧れの存在はイトーヨーカドーの鳩。