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2022.07.26

実は日本発祥!カウンタースタイルのレストランがパリで人気のワケ

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パリのカフェのカウンターといえば、朝、出勤前にちょっと立ち寄りコーヒーを飲んだり、夕方の仕事終わりに、軽く一杯楽しんだりする空間。立ち飲み、もしくは、ハイスツールに軽く腰掛け、あまり長時間過ごすイメージはありませんでした。そんなパリのカウンターが少しずつ変わってきています。そのきっかけは、日本の食文化。伊藤洋一氏は著作『カウンターから日本が見える』で、前菜から順に提供されるような上質な料理を、楽しむ場所としてのカウンターはもとは日本にしかなかった、と言います。

カウンターでいただくお料理は、目でも美味しいですよね!

パリのカフェのカウンター

日本の影響を受けたパリのカウンタービストロ

そもそも、日本で初めてオープンキッチンのカウンター方式を採用したのは、大正13年(1924年)創業の板前割烹「浜作」。そこから、寿司、天ぷら、ラーメンと広がっていきました。どれも、出来たてが美味しい料理たちです。そして2003年、ジョエル・ロブションが、フランス料理で最初にカウンター方式のレストランを作りました。「すきやばし次郎」に感銘を受け、新店舗開店の際には、カウンターの寸法も参考にしたそう。

その流れを汲んでか、パリの若いシェフたちがオープンするビストロにも、カウンター方式が定着してきました。店内に入ると、オープンキッチンに長いカウンターテーブルがあり、その向こうから料理人が迎えてくれます。高めの椅子に腰掛けると、カトラリーにナプキンが並び、ゆっくりと食事を楽しむ雰囲気があります。パリで料理人をしている友人に聞いたところ、カウンター方式の利点は、小さな面積で家賃を抑えられることと、お客さんの反応をダイレクトに見られること、と言います。

なるほど家賃にも利点が!

パリのビストロで、カウンター越しに最後の仕上げ
カウンター&オープンキッチンのレストラン、店と客の一体感が魅力的ですよね!

パリの最新日本食レストランはカウンター方式

更に深く、パリのカウンターについて調べてみると、ここ最近、カウンター方式の日本食レストランが、立て続けにオープンしていました。

まずは、以前もこちらで取り上げた、パリでSAKEを造る「WAKAZE」のレストラン。店内の中心には大きなU字状のカウンターがあり、欧州で初といわれている生酒サーバーから、新鮮なSAKEが提供され、ペアリングした食事を楽しめます。まだ日本酒を知らない人が、日本酒に出会うきっかけになることを目指しているそう。15席という少人数制であることで、隣り合った人同士や、時には造り手との交流が生まれることが狙いです。

語らいが生まれる空間

なぜ日本食カウンターが人気なのか

「今、フランス人の間で、日本食のカウンターが注目されているのは、NETFLIXで放映されている『深夜食堂』の影響が大きいのでは?」と話すのは、南仏で日本料理教室「Shiori(栞)」を主宰する、戸塚敦子さん。日本食ブームはパリのみならず、フランス中で起こっているのです。教室の生徒さんたちは「深夜食堂」を見て食べてみたいもの、作ってみたいもののリクエストをするといいます。「食べ物とヒューマンドラマが絡み合う魅力は日本特有のものだし、その上、出てくる食べ物もフランス人にとってはエキゾチックで気になるのではないか」と、戸塚さんは分析します。

深夜食堂がフランスで日本食ブームを生み出しているなんて!!

南仏の日本料理教室「Shiori(栞)」を主宰する、戸塚敦子さん

日本のポップカルチャーを紹介するフランスのwebサイト「Katsuuu」に掲載された、「深夜食堂を観るべき5つの理由」という記事もみせてくれました。その理由のひとつに「調理過程が段階を踏んで見れるので、自分でも作れるかもしれない!?」とあり、再現してみたくなるのもポイントのようです。戸塚さんの料理教室もカウンターテーブルで行われていて、「深夜食堂」に行ってみたいフランス人が、憧れにちょっと近づける存在です。

料理教室の生徒さんたちと戸塚敦子さん(中央)

体験を楽しむパリの新しい食の空間

そして、最新オープンはパリ初の天ぷら専門店「天善」。パリ1区、オペラ座界隈という中心地から、日本の食文化を発信します。「TEMPURA」という言葉は、スッカリお馴染みなのに、今までパリには専門店がなかったというから驚きです。「天善」は、2006年にオープンした日本料理店「善」の地下を改装して作られました。立派な一枚板のヒノキのカウンターを中心に据えた空間は、京都・滋賀を拠点に活動する、大工技能集団「三角屋」で作られ、一度解体されて、職人さんたちと一緒にパリまでやってきました。そして、再度組み上げられたという、非常に凝った造りです。

立派な一枚板のヒノキのカウンター

こちらの天ぷらは、日仏のいいとこ取りで、フランス産の小麦粉をまとった季節の野菜たちは京都風の薄衣仕上げ。日本の綿実油でカラリと揚げられ、素材の味が凝縮されています。水分が飛んだサクサクの衣と、その中に閉じ込められた瑞々しい食材のコントラストは、料理人の近藤次郎さんが言う「実は、天ぷらは蒸し料理」という言葉を実感します。
パチパチと揚がる音も楽しんで欲しい、という配慮から店内にはBGMがかかっていません。カウンターは、五感をフルに研ぎ澄ませて料理に没入できる空間なのです。

料理人の近藤次郎さんから、揚げる前の食材説明が聞けるのもカウンターならでは

世界を旅する食文化

この日は、たまたま店舗に居合わせた、フランスで日本文化を紹介する雑誌『TEMPURA MAGAZINE』編集長のエミールさんと編集者のクレモンスさんにお話を聞くことができました。このような会話が出来たのも、カウンターのおかげです。美味しかったものについて聞くと「土鍋で炊かれた御飯」という通な答えが返ってきました。天ぷらは、フランス産のじゃがいもと、同じくフランス産のとうもろこしが特に印象的だったと言います。じゃがいもは時間を空けて2度揚げされ、香ばしい皮のパリパリ感と中のしっとりとしたコントラストが絶妙。こちらのとうもろこしは、粒がしっかりしていて、噛みしめるごとに、甘い汁がプチプチッと力強く弾けます。

土鍋で炊き上げた御飯に、とうもろこしも入った〆のかき揚げ丼

『TEMPURA MAGAZINE』の編集者のクレモンスさん(左)と編集長のエミールさん(右)

ところで、『TEMPURA MAGAZINE』は、2020年に創刊し、フランスの日本ブームで急成長を遂げている雑誌ですが、なぜ「TEMPURA」なのか。「天ぷらの歴史は、ポルトガルから日本に伝わったことから始まります。その後、日本で進化し、日本料理として世界中で人気になりました。ひとつの料理が色んな国を回遊していくことに魅力を感じ、雑誌の名前にしました」とエミールさんは言います。日本から来たとされるカウンター方式のレストランですが、カウンター自体はきっと西洋の影響を受けていそう。食文化は世界を行き来しながら、美味しさの純度を上げていっているのでしょう。

ヨーロッパに美味しい天ぷら屋さんが増えたら最高です!

取材協力
日本料理教室「Shiori(栞)」
Shiori公式サイト

WAKAZE PARIS
住所:31 Rue de la Parcheminerie, 75005 Paris
営業時間:18:00-23:00 (火-土)
WAKAZE PARIS公式サイト

天善
住所:8 rue de l’Échelle 75001 Paris レストラン善 店内地下階
営業時間:
ランチ 12:00-15:00 (水-土)
ディナー 19:00-23:00 (火-土)
天善公式サイト

TEMPURA MAGAZINE
TEMPURA MAGAZINE公式サイト

参考文献
『読む寿司』河原一久 2019年4月
『カウンターから日本が見える』伊藤洋一 2006年9月

書いた人

フランスで日本人の夫と共に企業デザイナーとして働きながら、パリ生まれだけど純日本人の娘を子育てしています。 本当は日本にいるんじゃないかと疑われるぐらい、日本のワイドショーネタをつかむのが速いです。 日々の仏蘭西生活研究ネタはコチラ https://note.com/uemma

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平成元年生まれ。コピーライターとして10年勤めるも、ひょんなことからイスラエル在住に。好物の茗荷と長ネギが食べられずに悶絶する日々を送っています。好きなものは妖怪と盆踊りと飲酒。