暑い日に食べたくなる、キーンと冷えた素麺。日本の夏の定番メニューですね。素麺の名産地は日本各地にありますが、東京・東中野の素麺専門店「阿波や壱兆」では、徳島県特産の「半田手延べそうめん」を供しています。麺の太さ、コシの強さが特徴の「半田手延べそうめん」。ゆで方・しめ方、徳島のフレッシュな酢橘を使った「すだちそうめん」のレシピ、麺つゆ・出汁の応用アイデアなどを、「阿波や壱兆」店主・田中嘉織さんに教えていただきました。
「阿波や壱兆」店主に聞く、徳島県産「半田手延べそうめん」のゆで方
素麺専門店「阿波や壱兆」の田中さんは徳島県出身。故郷の味を広めたいと店をオープンした時には、「素麺を外で食べる人はいないでしょ」「素麺の店なんて無理」と批判的なことを言われることが多かったそうですが、今では行列ができる人気店に。人気の秘密はやはり、家で食べる素麺とは一味違ったおいしさです。
家で素麺を食べるとき、ゆで方・しめ方についてこだわりをもっていますか? テキトーにゆでている、という方が大半ではないでしょうか。……むしろそれが普通ですよね。
いわば素麺の専門家であり、素麺愛あふれる田中さんに、素麺をおいしく食べるためのゆで方・しめ方を、きっちり教えていただきました。今更素麺のゆで方なんてと思った方、ちょっとしたひと手間で麺の仕上がりが変わりますよ!
このゆで方・しめ方は「半田手延べそうめん」に向いたやり方です。「半田手延べそうめん」が手に入らない場合は、細いタイプの素麺よりも冷や麦でお試しいただくのがおすすめです。
◆たっぷりの湯で麺を躍らせながらゆでる
まずは大き目のお鍋に、たっぷりのお湯を用意。沸騰したら素麺を入れます。
「半田手延べそうめん」は直径が約1.7~2ミリと、一般的な細い素麺に比べてかなり太いので、ゆで時間も長くなります。この日は6分ほど。基本的にはパッケージ等にある時間を目安にゆでてください。
田 店では、その日の気温などによって微妙にゆで時間を調整しますね。
火は強めにして、吹きこぼれないように調整しながら鍋の中で麺が踊っているような状態をキープします。鍋が小さかったりお湯が少なかったりすると、この状態にもっていくことができません。
これは必ずやらなければいけない手順ではないですが、田中さんは素麺をゆでている間に盛りつけの器を用意。水と氷で冷やしていました。冷たい素麺を仕上げるならお皿ごと冷えていた方がおいしさは倍増ですね。この氷は後で麺をしめるために使うので、氷の有効活用にもなるわけです。
◆しっかりとすすいでぬめりを取る
ゆであがったらざるにあげて、流水ですすぎます。ここできちんとすすぐことが味わいにも影響するんです。ちょろちょろっと水で流す、というイメージではありません。ぬめりがとれるまで、きっちり。
田 ぬめり、えぐみ、麺に残っている塩分を取るためにすすぎます。ざるに麺を軽く押し付けるような感じでしっかりと。
素麺を温かいメニューで食べる場合は、流水でしっかりすすいでから再度温めます。二度手間では? と感じますが、ぬめりやえぐみをとるために流水ですすぐプロセスが必要です。
◆キンキンに冷やしてしめる! これが最重要
ここからは、冷たい素麺メニューを作るためのしめ方の手順。
ぬめりが取れたら氷を投入。あらかじめ盛り付け用の器を冷やしていた方は、その氷を活用しましょう。
力は入れず、ぐるぐると麺と水と氷をかき回してしめます。これ、最重要。かき回す時間は想像以上に長いです。田中さんは1分弱、少なくとも数十秒は回していました。かき回すスピードはかなり、高速。
田 もうね、手が冷たくなってジンジンするまでやります。芯まで冷やさないと、麺がしまりませんからね。
スタッフも「最初は麺がふにゃっとやわらかいんですけど、氷の冷たさで手が痛くなるくらいまで麺を冷やすと、麺の手触りが変わってくるんですよ。しっかりしてきて、麺の角がわかるぐらい」と教えてくれました。手触りが変わるということは食感も変わるということ。手がジンジンするのは苦行ですが、おいしい素麺のために我慢。
◆水気を切って盛り付け
ざるにギュッと押し付けて絞ってしっかり水気を切ります。
盛りつけた麺は表面キラキラ。見た目からすでに、テキトーにゆでた麺とは別モノです。
「すだちそうめん」のレシピ
ベースとなる冷たい素麺が準備できたら、いろんなメニューに挑戦したいですね。
今回は、「阿波や壱兆」の看板メニュー「すだちそうめん」の調理も教えていただきました。
◇徳島県特産の酢橘を薄くスライス
爽やかな香りとやわらかい酸味、深い緑色が美しい酢橘(すだち)。徳島県特産の柑橘です。8月くらいからが露地ものの旬で、まさに冷たい素麺のおいしい時期と重なっています。
「阿波や壱兆」では、フレッシュでピチピチな酢橘を、提供直前に薄くスライス。スライスした瞬間から爽やかな香りが立ち上ります。
お店が忙しくなってくるとこれはちょっとした手間になるでしょうから、あらかじめスライスして保存しておかないんですか? と山田さんにお聞きすると
田 そんなのダメでしょ。
……そうですね。酢橘は食べる直前にスライスした方が、食感も香りも楽しめます。
薄さは1ミリから2ミリくらいでしょうか。酢橘ほぼ1個分をスライスして、冷たい素麺の上に綺麗に並べます。酢橘、1個分です。贅沢です。
◇出汁の決め手は干ししいたけの旨み
田中さんのご実家のエリアは素麺をぶっかけで食べるのがスタンダードだったため、「阿波や壱兆」のメニューもすべてぶっかけスタイルです。出汁は、昆布、煮干し、鰹節、そして干ししいたけの旨みを活かした味わい。薄口しょうゆ、酒、みりんで味付けしています。関東風の濃いつゆに比べて、やさしい味わいの関西風のお出汁です。
麺も冷え冷えなら、出汁も冷え冷え。キンキンに冷やした出汁を、上からドバっと、ではなく、きれいに並べた酢橘を邪魔しないように器の端から注ぎます。麺がひたひたになるくらいまで。でも酢橘は浸かりきらないようなボリューム感です。
お店で出している出汁は販売もしているので活用してみてください。
◇青柚子を削りかけて、「すだちそうめん」完成
最後に青柚子を削って、「すだちそうめん」が完成です。
田 青柚子を削るのは私の実家のやり方なんです。素麺は、最後に必ず青柚子。
夏の終わりの「素麺まだある」問題、ひと工夫で応用レシピ
お中元等、贈答品としてひと箱どーんといただくことも多い素麺。食べきらないまま年を越して、去年の夏の素麺がまだある! なんていうこともありますよね。今年はそんなことのないように、田中さん、素麺をバリエーション豊かに食べるにはどうしたらいいでしょうか。
田 素麺は麺つゆにつけて食べるものだ、っていう固定観念から離れること。ゆでた後、何かと和えてもいいし。
和え麺にすれば、メニューの幅はぐっと増えますね。パスタ用の明太子ソースでも、バジルソースも合うかもしれません。
さらに、市販の濃縮タイプの麺つゆを、水ではなく豆乳で割ったり、トマトジュースで割ったり(!)すれば、それだけで全く別のひと品になると田中さん。ちょっと試してみたくなりますね。
「阿波や壱兆」で素麺のおいしさを堪能
「半田手延べそうめん」のゆで方・しめ方のコツを教わりましたが、やっぱり一度はお店で味わって、素麺のもつポテンシャルを感じていただきたい。
「阿波や壱兆」は東中野に本店を構え、同じ東中野の西口に「阿波や壱兆 はなれ」、のれん分けした「阿波や壱兆 バイパス店」が阿佐ヶ谷に、そして2019年7月には五反田にも支店をオープンさせました。
お近くのお店で、ぜひ徳島の「半田手延べそうめん」を味わってみてください。
店主・田中さんが、素麺に対する思いを語ってくれた関連記事はこちらです。
「阿波や壱兆」店舗情報
住所:東京都中野区東中野1-58-11 セリタビル1F
電話:03-3363-7234
営業時間:
11:00から翌朝5:00(ラストオーダー4:00)
火曜のみ11:00から23:00(ラストオーダー22:00)
※15:30から17:00までの間に30分ほど支度時間あり
定休日:不定休
公式サイト