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Gourmet
2019.12.18

バレンタインにカッコいい和風なチョコはいかが?ショコラティエ川路の「北斎チョコレート」

この記事を書いた人

2017年に、墨田区・本所吾妻橋にオープンした「ショコラティエ川路」。パリの5つ星店「サンクタブレット」で2年間修業を積んだ、ショコラティエの川路さとみさんがオーナーを勤めるお店です。

和の要素を取り入れたチョコレートを中心に商品を展開している「ショコラティエ川路」には、葛飾北斎の浮世絵が転写されたチョコレートがあります。

墨田区のお隣、台東区・浅草出身の筆者は、以前散歩をしている途中に偶然こちらのお店を見つけ、チョコレートを購入。見た目の美しさ、繊細な味わいに感動し、「ぜひ取材したい!」と思い、オーナーの川路さんにお話を伺ってきました。

フランス修行を経て、墨田区にお店をオープン。「北斎チョコレート」ができるまで

北斎の浮世絵が転写されたチョコレートは2種類。『冨嶽三十六景』の「神奈川沖浪裏」と「凱風快晴(通称:赤富士)」が使われています。

『冨嶽三十六景』「神奈川沖浪裏」

『冨嶽三十六景』「凱風快晴(通称:赤富士)」

ショコラティエ川路の看板商品「北斎チョコレートセット」は、「神奈川沖浪裏」と「赤富士」に加え、日本古来の文様をあしらった2種類のチョコレート「桜割文様」と「源氏香と若松文様」の合計4つがセットになったもの。

北斎チョコレートセット 税込1,620円(※2020年1月より税込1,750円)

「桜割文様」と「源氏香と若松文様」は、北斎が描いた美人画「神田明神休茶屋」に描かれている女性の着物の文様から取り入れました。

川路さん:「浮世絵のイメージが強い北斎ですが、当時は美人画家としても有名だったんです。北斎の美人画は、着物の文様や帯の柄などがとても細やかに書き込まれていて、それが当時の着物のデザインにも生かされていたそうです」

店舗がある墨田区は、葛飾北斎が生まれ育った場所。北斎チョコレートは「墨田区の方に恩返しをしたい」という思いから、オープン一周年を機につくったものだそう。

川路さん:「右も左もわからない状態でお店をオープンして、地域の方々にたくさん助けていただいたんです。何か恩返しができないか……と考えたときに、墨田区民の皆さんが誇りに思っている、北斎をモチーフにしたチョコレートを作るのはどうか、と思いつきました」

「北斎チョコレート」用の転写シート

また、フランスでのショコラティエ修行中の経験も、北斎チョコレートを作るきっかけのひとつでした。

当時はお給料のほとんどを家賃で使ってしまうような、ギリギリの生活だったそう。そんな中、月に一度、美術館が無料開放される日にオランジュリー美術館へと足を運び、モネの「睡蓮」を眺める……というのが、川路さんの毎月の楽しみでした。モネが北斎の影響を受けていると知ったのは、その時です。

gigi4791Louvre, Monet-Nuferii, CC BY 2.0

川路さん:「フランス人と話す中でも、有名な日本人としてよく名前があがるのが、北斎でした。北斎の存在はもちろん知っていましたが、こんなにも海外で知られている画家なんだというのを、フランスで初めて知りました」

その後、墨田区に店舗を構えることになった川路さん。北斎に不思議な縁を感じたそう。

北斎が生まれ育ったこの地で、フランスで学んだ技術と和の要素を組み合わせて、“日本人だからこそ作れるチョコレート”を作りたい。そう思い、北斎チョコレートを作ることを決めました。

きちんと北斎のことを知った上で商品を作りたいと考え、北斎の作品や資料を数多く収蔵している「すみだ北斎美術館」に通いつめました。書籍を読んだり学芸員の方に話を聞いたりし、北斎についての知識を深めていきました。

川路さん:「北斎の浮世絵を用いた商品は世の中にたくさんありますが、ただ浮世絵をプリントしただけのものにはしたくなくて。美術館の方にも、『浮世絵がプリントされた商品がただ置いてあるだけでは、お店の格が下がってしまうよ』とアドバイスをいただきました。そう見られるのは私自身嫌でしたし、お客様に質問されたときに、きちんとご説明できなければならない。そう思って、美術館には何度も足を運びました」

1粒のために100パターン試作?! 1粒に込められたこだわり

ショーケースにずらりと並ぶ美しいチョコレートは、20種類以上。絵柄や形によって味がそれぞれ異なり、甘酒やゴマ、柚子みそ、黒蜜きなこなど、いろいろな和の食材を使用しています。

それぞれ、「この柄にはこの味」というのは、どうやって決めているんだろう……? と、気になって聞いてみました。

川路さん:「まずは色を軸に考えるんです。たとえばほうじ茶だったら、青や緑ではなく、オレンジや黄色が連想されますよね。食べたときに、見た目と味に違和感を覚えない組み合わせを考えていきます」

味と絵柄の組み合わせが決まったあとは、食材探し。同じ食材でも物によって風味が異なるので、色々な種類を取り寄せ、ひとつひとつ試していきます。

川路さん:「カカオの香りは強いので、和の食材は味が負けてしまうことも多いんです。かといって、単純に量を増やせばいいわけでもないし、いい食材を使えば美味しくなるとも限らない。チョコレートと合わせたときのバランスがすべてなんです。そこの見極めは難しいところですね。ヒントを得るために、生産者の元に足を運ぶことも多いです」

1つのチョコレートに対し、食材とチョコレートの組み合わせ数は100パターン以上にもなります。3パターン試してすぐに決まることもあれば、50パターン以上試してもうまくいかず、諦めることも。

3年以上試作を続けているものや、一度店頭に出したものの、味に納得がいかずに下げて再度試作を進めているものもあるそうです。

1粒のチョコレートを作るのに、いったいどのくらいの時間と労力がかかっているのだろう……?! チョコレートにかける熱意に圧倒されましたが、当の川路さんは大変そうな様子はまったくなく、「好きだからできるんでしょうね」とにっこり。

川路さん:「チョコレートの材料は、基本的にはカカオと生クリームだけ。限られた材料を使って、2.5cm角の中にストーリーを込める。この面白さにハマってしまったんです。
お店をオープンしたのも、自分が思い描くチョコレートを0から作り上げて、お客さんに『おいしい!』と喜んでもらいたいと思ったから。だから、生産者の元に足を運んだり、試作を繰り返したりするのも、苦ではありません。むしろ、すごく楽しいですよ!」

「北斎という一流の中に、今の自分の最上級を表現したい」挑む気持ちで作った3種類のチョコレート

「神奈川沖浪裏」と「赤富士」、そして「神田明神休茶屋」に描かれている女性の着物の柄でもあり、お店のロゴのモチーフでもある「七宝」。この3つのチョコレートには、「ショコラティエとして持てる技術のすべてを詰め込んだ」と、川路さんは言います。

チョコレートは本来、カカオの味と口どけを楽しむもの。「日本人に、本物のチョコレートの味を知ってもらいたい」という思いがあった川路さんは、和の食材でアクセントを加えたものだけでなく、チョコレート本来のおいしさを存分に味わってもらえる商品も用意したいと考えました。

川路さん:「カカオと生クリームだけで作ったチョコレートは、シンプルなだけに難しく、ショコラティエの腕が試されます。北斎という一流の中に、今の自分が作れる最上級のものを表現したい。そう思って、あえて和の食材を使わずに挑みました」

3つのチョコレートについて、違いを詳しく伺いました。

口どけのよさと香りを感じる「七宝」

川路さん:「エクアドル産のオーガニックショコラ66%を使用したビターショコラです。こちらのオーガニックショコラは、クリーミーな味わいが特徴。日本人の多くはクリーミーなチョコレートを好む傾向があり、『たくさんの人に愛されるお店になるように』という願いを込めて、お店のロゴマーク『七宝』をあしらったこちらのチョコレートに、オーガニックショコラを使用しました。

このオーガニックショコラは、口の中で広がったときに鼻に抜ける余韻が長いほうがおいしく感じるので、口どけのよさを重視しました。口全体でカカオを感じていただけるような仕上がりになっています」

口に残る酸味を楽しむ「赤富士」

川路さん:「エクアドル産のローチョコレート70%を使用したビターショコラです。
ローチョコレートは、『Raw=生』つまり酵素が生きているチョコレートで、酸味が強いのが特徴。『赤富士』を見たときに感じた大地の力強いイメージを表現するのに、チョコレートの生命力を感じさせる酸味の強いローチョコレートがぴったりだと思いました。

こちらは、口どけよりも味を楽しんでいただくチョコレートです。ローチョコレートの酸味を生かすには、口の中に長く残って味を感じていただいたほうがいいと思い、あえて口どけしにくい製法で作りました」

希少なホワイトカカオの“素材そのもの”を味わう「神奈川沖浪裏」

川路さん:「希少なホワイトカカオ70%を使用したビターショコラです。
ホワイトカカオは、カカオの原生種……つまり、この世に最初に生まれたカカオです。『神奈川沖浪裏』の美しい波のうねりから、『母なる海』のイメージが湧いて、原生種であるホワイトカカオを使うことにしました。

カカオは進化の過程で動物から身を守るために苦味やえぐみが加えられてきましたが、原生種であるホワイトカカオにはえぐみがまったくないんです。初めて食べたとき、あまりのおいしさに感動して。これは素材の味をそのまま味わっていただくのがいいと思い、一番シンプルな配合で作りました」

それぞれのショコラの特徴を聞いていた中で気になったのが、「口どけ」というワード。

口どけがいい・悪いってよく聞きますが、それってどうやって調節するんだろう?? と不思議に思っていたら、川路さんに「『ようかいおんど』ってわかりますか?」と言われて……はて、妖怪音頭……?

川路さん:「『溶解温度』です。通常、カカオは40度でとけますが、生クリームやバターを加えるともっと低い温度でとけるようになるんです。その配合を変えることで、チョコレートを口の中に入れて、どのタイミングでとけ出すようにするかを調節しています」

溶解温度が低ければ、口に入れて早めのタイミングでとけ出します。つまり、「口どけがいい」チョコレートになる、と。なるほど!

配合や材料を混ぜ合わせるタイミングが少しでも違うと、うまくいかないそう。まるで理科の実験のような緻密さ……!

日本人であることが誇らしい和ショコラを。目指すはフランスへの逆輸入

川路さんは、フランスでショコラティエ修行をした2年半で、日本人としてのアイデンティティをより強く持つことができたそう。また、日本にいるときには気づかなかった「日本らしさ」にも気付くようになったのだとか。

たとえば、ショコラティエ川路のチョコレートに取り入れられている吉祥文様。

吉祥文様とは、縁起がいいとされるモチーフを描いた図柄のこと。波を描いた「青海波」は“安定や平和”、「桜」は“新しい門出”というように、ひとつひとつの文様に意味が込められています。

川路さん:「吉祥文様は、自分ではなく相手の幸せを願うためのものなんです。たとえば、赤ちゃんの産着には麻の葉の文様がよく使われますが、『麻のように丈夫にすくすく育ちますように』という願いが込められています。
相手の幸せを願う気持ちが込められた文様がある……というのは、日本独特の文化だと感じますね」

また、味覚の面でも「日本人らしさ」を感じる機会は多かったといいます。

和の食材はフランスでも用いられていますが、日本人との味覚の違いから、素材の味を生かしきれていないと感じることもあったそう。中でも顕著だったのが「ゴマ」でした。

川路さん:「フランス人にとっては、ゴマの『香ばしさ』がよくわからないみたいで。焦げているものと香ばしく炒ったもの、味の違いはわかるし『香ばしい』ほうをおいしいとも感じる。けれど、何が違うのかわからないし、自分で再現もできない……と。味覚にも、“日本人ならではの感覚”は存在するんだと気付きました」

フランスで本場の技術を習得する一方で、自身が元々持っていた「日本人」としてのアイデンティティも再認識していった川路さん。ショコラティエ川路のコンセプトである「日本人であることが誇らしい和ショコラを」は、この経験から生まれたものです。

2017年にお店をオープンし、現在は3年目。今後目標としているのは、「フランスへの逆輸入」だそう。

川路さん:「フランスでは毎年、『サロン・デュ・ショコラ』という、チョコレートのミシュランのような祭典が開催されています。ゆくゆくはそこに出品したいですね。フランスで学んだ技術と和の要素を掛け合わせた、日本人だからこそ作れるチョコレートを、世界中の人に味わっていただきたいと思っています」

手土産にも、自分用のおやつにも。幸せな気持ちになれる、ショコラティエ川路のチョコレート

取材後、チョコレートを購入。ショコラティエとして持てる技術をすべて込めて作ったという「神奈川沖浪裏」、「赤富士」、「七宝」の3つ、そして取材時に「味を表現するのが難しかった」と言っていた「甘酒」を選びました。

自宅に持ち帰り、さっそく実食!

「最初はアルコール臭だけが残ってしまって、甘酒の風味を出すのが難しかった」と語っていた甘酒のチョコレート。一口かじると甘酒の風味がふわりと広がります。チョコレートの味わいもしっかり感じられて、ものすごくおいしい……!

全部一度に食べるのは贅沢すぎる?! と思いながらも我慢ができず、「神奈川沖浪裏」、「赤富士」、「七宝」の3つも、少しずつかじって食べ比べ。

川路さんに伺った説明をメモしたものを見ながら、口どけのよさやカカオの味わいの違いを楽しみました。ひとえに「チョコレート」と言っても、こんなに味のバリエーションがあるんだ……と感動!

今回は食べ比べをしたかったので4つ一度に食べてしまいましたが(贅沢!!)、1粒ずつがすごく豊かな味わいで、1つ食べただけでもかなりの満足感がありました。本当に、びっくりするくらいおいしかったです。

お店のロゴのモチーフ「七宝」は、「世界中の財宝」を表しています。そしてチョコレートの箱にかける帯にあしらわれた「七宝繋ぎ」には、「たえることのない永遠の幸せの連鎖」という意味があるそう。

ショコラティエ川路のチョコレートを食べたすべての方が、幸せな気持ちになれるようなチョコレートを作っていきたい。そんな思いが込められています。

見た目も華やかなショコラティエ川路のチョコレートは贈り物として好評で、「手土産として持っていったら、『こんなチョコレート初めて見た!』とすごく喜んでもらえた」と、わざわざ川路さんに報告してくださるお客様も多いのだとか。

もちろん、自分用に購入するのもOK! 週末、お気に入りのドリンク片手にゆったりくつろぎながら、チョコレートを味わう……なんてのもいいですね。

1粒食べれば幸せな気持ちになれる、川路さんのこだわりが詰まったチョコレート。ぜひ一度、味わってみてください!

ショコラティエ川路 基本情報

店舗名: ショコラティエ川路
住所: 130-0001 東京都墨田区吾妻橋1丁目7-12
営業時間: 11:00〜19:00
定休日: 水曜日・第3水曜日の次の木曜日
公式webサイト: https://chocolatier-kawaji.com/

※価格や商品ラインナップ、営業時間など、文中に掲載の情報は取材時点のものです。詳細は店舗までお問い合わせください。

書いた人

浅草出身のフリーライター。街歩きや公園でのんびりするのが好きで、気が向くとふらりと散歩に出かけがち。趣味はイラスト、読書、写真、純喫茶めぐりなど。 レトロなお出かけスポットを紹介するWebマガジン「てくてくレトロ」を運営しています。