120年の歴史を持つヴェネチア・ビエンナーレで
ビエンナーレとは「2年に一度」という意味のイタリア語。国際美術展として世界で最も長い歴史を持つヴェネチア・ビエンナーレは、120年以上にわたって継続的に開催されてきました。
ヴェネチア・ビエンナーレ財団が任命する総合ディレクターが各回のテーマを設定し、それをもとに各国が自国のパヴィリオンを設置。どの国も自国を代表する気鋭のアーティストを送り込むなどして、展示を行います。
第60回を迎えた今年、日本館では、日用品やおもちゃ、楽器、機械の部品などさまざまなものを組み合わせて、磁力や重力、空気の動きといった目に見えない力を感じさせるインスタレーションを制作している毛利悠子氏(写真上)の個展「Compose」を開催していました。
大回顧展「The Prince of Goldsmith」
アーティストはもとより、ギャラリストやコレクターなどが集まるビエンナーレ。その期間中、とりわけ耳目を集めたのが、名門ジュエリーブランド「ブチェラッティ」の特別展でした。
ブチェラッティは、世界中にその名が知られるイタリアの老舗ハイジュエラーの一つ。「金細工の魔術師」とも称されたマリオ・ブチェラッティによって1919年にイタリア・ミラノで創設されました。そのジュエリーは、ミラノの洗練された空気の中で育まれた優雅な美しさと、クラシカルな伝統を併せ持つ独自の作品を幅広くラインナップし、世界中で長く愛されています。
「金細工の魔術師」とも呼ばれるブチェラッティは、1世紀以上にわたり高度な技と伝統を守り伝えつつ、アートピースのようなジュエリーによって、王侯貴族をはじめ世界中の人々を魅了し続けてきました。
今回ブチェラッティが催したエキシビションは、「The Prince of Goldsmith」(邦題:金細工の魔術師)と題したもので、ブチェラッティの顧客でもあったイタリアの大詩人ガブリエーレ・ダンヌンツィオ(1863 – 1938)が、創業者マリオ・ブチェラッティを讃えた言葉を冠した特別展。ヴェネチアの大運河からもエキシビションの案内が目を引きます。その背後には、ヴェネチアのシンボルのひとつであるサンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂が佇みます。
マドモアゼル・ユリアが目を留めたアイテム
この会場に、艶やかなきもの姿で訪れたのは、マドモアゼル・ユリアさん(写真下)。DJ兼シンガーとして活躍し、アルバムをリリースする一方で、きもののスタイリングや着付け教室講師、コラムニスト、モデルとしても活動しており、英国ヴィクトリア&アルバート博物館開催の展覧会『Kimono Kyoto to Catwalk』では、キャンペーンヴィジュアルのスタイリングも手がけた女性です。
ヴェネチアの海をイメージしたという青い紬の着物に、舟をあしらった帯に身を包んだユリアさんが、展示会場のルーム1でまず目を留めたのは、同ブランドのシンボルでもある華麗に舞うバタフライ(蝶)たち。創業者である初代マリオ・ブチェラッティ、2代目ジャンマリア、3代目アンドレア、4代目ルクレツィアとアンドレアの父娘合作による、計4頭の蝶は、いずれも個性的でありながら、メゾン伝統の様式がデザインの根底に息づいています。
名品の数々をインスタレーションで
続くルーム2には、初代マリオがデザインした20世紀初頭からの作品が並びます。展示はジュエリーだけでなく、スカラ座を訪れる貴婦人たちのためにつくられたイブニングバッグ(別名:オペラバッグ)なども。ユリアさんも「ハンドバッグの原型といわれるオペラバッグの繊細な金工技に感動しました」と語ります。
この他にも、名品と呼ばれる作品がインスタレーションのように展示され、中には20世紀初頭のイタリア耽美主義の詩人で軍人でもあったガブリエーレ・ダンヌンツィオがオーダーしたというシガレットケースも並んでいました。
金細工に光る熟練の手仕事
ブチェラッティの魅力の一つは、古代まで遡ることができるイタリア銀細工の伝統を今に伝えていることにもあります。ルーム3では、花や果物、葉などの植物、さらにはエビやカニといった生き物が熟練の職人たちによって芸術的に意匠化され、シルバーウェアとして並びます。オークの葉をモチーフにした銀製ボウルには、葉脈までもが緻密に表現されており、メゾンの自然界に対するリスペクトの一端も垣間見ることができます。
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