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Jewelry&Watch

2025.12.15

【短期集中連載 最終回】〝時の探求〟を続けて270年── ヴァシュロン・コンスタンタンが紡ぐ美と叡智の物語

1755年の創業以来、途絶えることなく歴史を紡いできた世界最古のマニュファクチュール「ヴァシュロン・コンスタンタン」。精巧な技術と造形美が融合して生まれる時計は、〝時を刻む芸術〟と讃えられてきました。その270年の壮大な歩みを名品タイムピースとともにご紹介する連載の最終回は、時計製造における技術革新の歴史を時計ジャーナリストの柴田 充さんが解説。さらに270周年を記念して誕生した〝現代の名品〟をご紹介します。

過去から現代、そして未来へ。連綿と続く技術の連鎖が心揺さぶる

文・柴田 充●時計ジャーナリスト

マニュファクチュールの矜持を次代へと繫いで

270年という長大な歴史において、常に進み続けるメゾンの技術をひと括りに語るのは難しい。しかし、そこに通底しているのは、スイス時計を代表するマニュファクチュールとしての矜持であり、一方でそれは課せられた責務を遂行してこそ得られるものだ。
ムーブメントの開発生産から仕上げ、最終組み立てまでを自社一貫で行うマニュファクチュール体制は、個性豊かな時計を適宜生産するのに有効だ。だがそこにはつくるだけでなく、長期にわたって直し、時計として動かし続けるための責任が伴う。そのためには膨大なパーツを保管し、修理部門も設けなければならない。しかしそれだけの価値はある。こうして培ったヘリテージこそほかにはない唯一無二の財産だからだ。
そうした自負を抱くメゾンがさらに一歩踏み出すきっかけになったのは、ルーヴル美術館との邂逅ではないか。「天地創造」の修復支援を経て、2019年にパートナーシップを組む。美と芸術の保存と保護、継承に関わるコラボレーションを重ねることで、自らのアーカイブやクラフツマンシップにもより積極的に向き合い、取り組んでいく。そのひとつが2021年の「アメリカン 1921」の復元プロジェクトであり、復活した100年前の手彫り技法は270周年記念を象徴する装飾にもなったのだ。

世界に1本を生み出す情熱が時計技術を革新する

伝統的な時計技術や装飾技法に磨きをかけ、次世代に繫げる一方、時計の無限の可能性をさらに広げる技術開発にも余念がない。現在その牽引役となっているのが「キャビノティエ」部門だ。
ここでは特別な顧客の依頼に応え、世界に1本の時計製作のほか、自社でテーマを決め、ユニークピースを製作する。顧客の依頼した時計は通常は一般公開されないが、世界で最も複雑な懐中時計や11年をかけて完成させた中国暦のパーペチュアルカレンダー搭載の懐中時計など機構や装飾技術の革新を行ったユニークピースは、発注者から特別に許可を得て、情報公開される。それはメゾンにとっても大いなる創造性を育み、技術革新を促す挑戦なのだ。
1点製作のユニークピースには、かつて宮廷や貴族に納められた時計製造の伝統が息づく。こうしたビスポークの専門部署を自社に設ける時計ブランドは極めて限られ、それもまた270年という歴史をもつメゾンが担う役割なのだろう。そこで生まれた時計という時の芸術が愛好家のロマンをかき立て、培われた技術が沃野となり、時計をさらに発展させるのである。
ヘリテージを次代に伝え残していくとともに、大胆な創造性と匠の技をもって時計技術を革新していく。その両輪がメゾンを前進させる。270年間ただの一度も途切れることのない時計づくりへの情熱こそがこれからも刻み続ける時の原動力になるのだ。

270周年を飾る最新作「レ・キャビノティエレ・ソラリア・ウルトラ・グランドコンプリケーション – ラ・プルミエール -」は、8年におよぶ研究開発期間をかけたもので、表裏の文字盤で41種の複雑機構を搭載する。世界初を含む5つの天文機能をはじめ、毎正時と15分ごとに音で時刻を伝えるウェストミンスター・チャイムを備えたミニット・リピーターやパーペチュアルカレンダー、ふたつの経過時間を計測するスプリット式クロノグラフなど多機能を腕時計のサイズに凝縮した。

メティエ・ダールと先端技術を駆使して生まれた
270年の歴史を彩る、エポックメイキングな名品時計

1755年の創業から今日まで、比類なき時計製造の歴史を誇る「ヴァシュロン・コンスタンタン」。その270年の歩みのなかでもエポックメイキングな時計を集めました。先端技術の名品は柴田さんが厳選。第一人者ならではの解説は、物語を読んでいくような楽しさがあります。

Advanced technology ●柴田 充セレクト

1817

精度を担う小さなパーツがやがてメゾンのシンボルに


1817年製の懐中時計。ゼンマイの巻き上げは、現在のようなリュウズではなく、鍵巻き式だった。ケースを開けると、ムーブメントの11時位置に小さなパーツが見える。これが1880年に採用され、現在も用いられている「マルタ十字」のモチーフになった。精度を担保するパーツは、メゾンのシンボルにふさわしかったのだ。

1921

時代の先進的なスタイルと技法は、継承されて現代へ


クッション型ケースに左斜め45度に傾けた文字盤が特徴の「アメリカン1921」は、狂騒の20年代と呼ばれた好景気のアメリカ市場向けに発表された。一説にはドライビング時の視認性向上のためともいわれる。誕生から100年後の2021年には、忠実に再現したモデルを製作。当時の手作業による装飾技法を現代に受け継いだ。

1940

顧客の注文に応えた、世界に1本の希少な複雑時計


滑らかな曲線を描くトノー(樽)型ケースには、音で時刻を知らせるミニット・リピーター機構と、針が右に振り切ると瞬時に始点に戻るレトログラード式の日付カレンダー、そして月表示の多機能を備える。「ドン・パンチョ」の名はこれを注文したスペインの顧客名にちなみ、その依頼に応じ、当時希少な複雑機構時計を1点製作した。

1955

メゾンの実力を示す、世界最薄を達成したドレスウォッチ


創業200周年を祝し、メゾン本来のエレガントなドレススタイルを目指し、当時の世界最薄を実現した時計。搭載されたキャリバー1003は、厚さ1.64㎜を誇り、現在も伝統装飾を駆使するメティエ・ダールを含む一部のモデルに採用されている。専用ムーブメントと繊細な組立技術が求められる極薄時計は、マニュファクチュールの本領発揮である。

2005

メゾン初の腕時計のグランドコンプリケーション


創業250周年を記念し、メゾン初の腕時計におけるグランドコンプリケーションとして発表された。研究開発に1万時間以上をかけ、表裏の文字盤に16種の複雑機能を備える。当時は世界一複雑な時計を誇った。「トゥール・ド・リル」の名は1843年に工房を構え、のちにブティックを開いた、縁あるジュネーブの建造物から付けられた。

2010

ライフスタイルの変化に合わせ、振動数を2通りに


「トラディショナル・ツインビート・ パーペチュアルカレンダー」は、正確に自動で日めくりする永久カレンダー機構の自社製キャリバー3610 QPを搭載。着用時は高速振動となり、より高精度で時を刻む。着用しないときは手動で低振動に切り替えることで、時計機能を維持しながら駆動時間を最大65日間まで延長できる。

2015

時計史に燦然と輝く、世界一複雑な懐中時計


創業260周年を記念して発表された「Ref 57260」は、表裏に文字盤を備え、ユダヤ暦を含む57種の複雑機構を搭載する、当時、世界で最も複雑な懐中時計。特別な顧客の依頼に応えるビスポーク部門「アトリエ・キャビノティエ」が担当し、3名の時計師が8年かけて製作した。この依頼主は完成時、さらに複雑な懐中時計を発注している。

2023

世界に4台の特注車用 ダッシュボードクロック


「レ・キャビノティエ・アーミラリ・トゥールビヨン(ロールス・ロイス)」は、世界に4台のロールス・ロイスの特注車「ドロップテイル」のダッシュボードに搭載するために専用設計された。通常とは異なる、2軸によって球体が立体的に動くアーミラリ・トゥールビヨンを搭載。時分表示も車のメーターを思わせる。


柴田 充 ● 時計ジャーナリスト

1962年、東京生まれ。自動車メーカー広告制作会社でコピーライターを経て、フリーランスに。時計、ファッション、クルマ、デザインなどを中心に、広告制作や編集、記事の執筆などを手がける。スイスでの時計取材は25年以上になる。270周年を祝すメゾンのセレモニーではパリとジュネーブに赴き、あらためてその真髄に触れた。

〝時の探求〟を続けてきたメゾンが誇る 現代の名品ウォッチ

「ヴァシュロン・コンスタンタン」の偉大な歴史を知った今だからこそ、その真価を伝える芸術的なコンプリケーションウォッチを手に入れたい。270周年を祝して誕生した限定モデルから、〝現代の名品〟と呼ぶにふさわしい至高のタイムピースをご紹介します。

ふたつの複雑機構を統合し、薄型ケースに収めた奇跡のような270周年モデル

「永久と名づけられたカレンダー機構に止まることなく刻み続ける時への思いを込め、
マルタ十字を象ったトゥールビヨンが精度を追求する。ふたつの複雑機構が渾然一体となり、
漂うのは洗練された叡知。それは気高く、名品と呼ぶにふさわしい」────柴田 充 ● 時計ジャーナリスト


トラディショナル・トゥールビヨン
パーペチュアルカレンダー
6300T/000P-H056
参考価格¥49,280,000

創業270周年を讃える限定モデル。重力の影響を補正するトゥールビヨンと、2100年まで手動調整不要のパーペチュアルカレンダーを、厚さわずか6.55ミリのスリムなケースに統合。「マルタ十字」から着想を得たギヨシェ彫りのダイヤルが美しく、裏蓋からは270周年を祝す「コート・ユニーク」仕上げのムーブメントが鑑賞できる。クラシカルな美学と技術の粋が融合した、まさに奇跡のタイムピース。
──
ケース:PT、ケース径:42㎜、文字盤:シルバートーン・ゴールド、ストラップ:アリゲーター、自動巻き、世界限定127本(ヴァシュロン・コンスタンタン)

伝統の美的コードと高精度ムーンフェイズの芸術的な調和を讃えて

「創業270周年を記念するモデルだけあって特別感にあふれる端正なディテール。老舗メゾンの美意識そのものともいえるオーセンティックな佇まいが眩しいばかり。小さな美術工芸品を愛でるように大切に慈しんでいきたい」────本間 恵子 ● ウォッチ&ジュエリージャーナリスト

トラディショナル・ムーンフェイズ
83570/000R-H060
参考価格¥7,876,000

気品に満ちたピンクゴールドのケースには80石ものダイヤモンドが煌めき、122年に一度の調整で済む高精度ムーンフェイズがダイヤル上で存在感を示す。薄い金属にマザーオブパールを貼り合わせた文字盤には、メゾンを象徴する「マルタ十字」と幾何学模様がエングレービングによって描かれている。手巻きムーブメントは「ジュネーブ・シール」認定の、創業270周年を記念するにふさわしい特別なモデル。
──
ケース:PG×ダイヤモンド、ケース径:36㎜、文字盤:MOP、ストラップ:アリゲーター、手巻き、世界限定270本(ヴァシュロン・コンスタンタン)
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福田 詞子(英国宝石学協会 FGA)


※文中のPTはプラチナ、PGはピンクゴールド、MOPはマザーオブパールを表します。
※価格表記はすべて税込価格です。
※価格は2025年12月15日以降の価格です。
※本記事は『和樂』2025年12月号の転載です。
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