映画『スター・ウォーズ』。
1978年の映画日本初公開から41年。今年12月に公開される最新作で、スカイウォーカー家をめぐる物語がついに完結するとあり、大きな話題を呼んでいます。
日本文化と深い関わりがある?
『スター・ウォーズ』は、遠い昔、はるかかなたの銀河系で繰り広げられるファンタジー作品ですが、実は日本文化と深い関わりがあると言われています。世界的なSF映画に大きな影響をもたらしたのは日本のどんな文化だったのでしょうか。
『スター・ウォーズ』が好きな人にも、よく知らない人にもぜひお伝えしたい日本文化との関係。関わりの深いアイテムやキャラクターの写真と共にご紹介します!
史上最大にして最後!『スター・ウォーズ』の大規模展覧会で実物を確認
訪れたのは、東京・天王洲。
現在、『スター・ウォーズ』の大規模展覧会「STAR WARS™ Identities: The Exhibition」が開催されています。
撮影で実際に使われた衣裳や小物、キャラクターを作り出すために描かれたコンセプト・アートなどのアイテムが公開され、世界中で200万人以上の人々を魅了してきた巡回展です。
これらの展示品は今後、ロサンゼルスに設立されるLucasfilm museumに収蔵されるため、これほどの規模の展示品を日本で見られるのは、今回が最後の機会となるのだそう。(筆者は、公開から間も無い8月中にすでに2回も足を運んでしまいました。見応えがありすぎて……)
「中の人」に伺う、ホントのこと
展覧会の開催に際して、ルーカス・ミュージアム・オブ・ナラティブ・アートからアーカイブディレクターのレイラ・フレンチさんが来日。和樂webでは、来日中のレイラさんに直接お話を伺う機会を得ました。
日本文化と『スター・ウォーズ』の関わりについてもしっかりお話を伺えましたので、さっそく紹介してまいりましょう。
ダース・ベイダーのモデルは伊達政宗?
まずは、『スター・ウォーズ』を見たことがない人でもきっとご存知のこのキャラクター。悪の化身「ダース・ベイダー」。
ダース・ベイダーの頭を覆うヘルメット。なんだか見覚えがある気がしませんか?
実はこの姿、戦国の武将・伊達政宗の漆黒の鎧兜がモデルになっているのです。
宮城県にある仙台市立博物館は、『スター・ウォーズ』の構想が進む1975年頃、映画関係者に依頼を受けて伊達政宗所蔵とされる「黒漆塗五枚胴具足(くろうるしぬりごまいどうぐそく)」の写真をハリウッドへ送っているのだそう。
『スター・ウォーズ』の登場人物の衣裳や小物などを紹介する書籍「STAR WARS−THE MAGIC OF MYTH−」の中でも、ダース・ベイダーのページに伊達政宗の兜が紹介されています。
「初期の構想段階で監督のジョージ・ルーカスは、とても邪悪なキャラクターを作ろうとしていました。風に舞う悪の権化のような…。
ジョージは、黒澤明監督の作品にインスパイアされて、ダース・ベイダーだけの新しいサムライの姿を目指しました。他にも、日本文化の影響を受けたものがたくさんありますよ」とレイラさん。
戦国時代のファッショニスタとして現代に名を轟かせる伊達政宗。漆黒の美しい甲冑がアレンジされ、世界中で愛されるキャラクターが生まれました。
クロサワ映画の影響
レイラさんのお話に登場した、黒澤明監督作品からの影響。
『スター・ウォーズ』に登場する人気のロボット(劇中では「ドロイド」と呼ばれます)「C-3PO」と「R2-D2」のコンビも、そのひとつです。
黒澤映画を愛してやまないルーカス監督は『隠し砦の三悪人』の太平と又七をモデルに、この2体を作ったのだそう。また、『スター・ウォーズ』の第1作目である「エピソード4」は、『隠し砦の三悪人』のオマージュのようなストーリー展開となっています。
さらには、黒澤映画の象徴ともいえる人物、俳優の三船敏郎さんをイメージして作られた役も登場します。
主人公ルークの師匠である「オビ=ワン・ケノービ」。有名なフレーズ「May the Force be with you.(フォースと共にあらんことを。)」をはじめ、数々の名言を残し主人公を導く重要な人物です。
汚し(ウェザリング)を多用
他にも黒澤映画に大きな影響を受けたとルーカス監督自身が語っているものがあります。それは、「汚し」(または「ウェザリング」)と呼ばれる手法。
『スター・ウォーズ』以前のSFの世界観は「真っ白」「シルバー」などのピカピカなTHE未来的なものでした。異世界として最適な表現である反面、リアリティに欠けるというのがルーカス監督の論。
僕は黒澤監督の精神を見習い、現実感のある世界をつくっている。
長年使い古されたような本物の船を作りたかった。
古めかしいセットにしたのはそれが理由だ。
とにかくリアリズムを追求した結果完成した世界だ。
SFの世界はすべてが整然としているのでみんながセットをピカピカに磨きたがった。
そこで、困った僕はこういったんだ。
「足跡もつかない船なんて現実味がなくなる」と。
(映画DVDの解説副音声よりルーカス監督の言葉を引用)
ルーカス監督は、ファンタジー作品の中にもリアリティを求めました。そこで、登場するアイテムに傷や汚れを施します。
「自然にあるように」という考え方は、茶の湯に通じるようにも感じられます。整えすぎるとかえって不自然という意識は日本人が育んできた独特の感覚だったのかもしれませんね。
刀はサムライの心。ライトセイバーは両手で持つ!
『スター・ウォーズ』に登場する善の心を持つ騎士ジェダイ。その武器であるライトセイバーは刀剣のような姿をしています。盾などは持たず、攻防の両方をライトセイバー1本で行うのがジェダイの戦闘スタイルです。この刀の構え方が独特で、時代劇の殺陣を思い出します。
「これは完全にサムライを意識して作られています」とレイラさん。また、ルーカス監督もこんな風に語っています。
(『スター・ウォーズ』は)ハイテクと人間のロマンがテーマの一つ。
人間のロマンとはつまり、名誉や正義といった人間性のことで、人の生き方に直結するもの。
ルーカスはそのシンボルをさがしていた。
「誇りある戦士を描きたかった。
まるでマシンのような殺りくなどにはしたくなかった。
ベースとなったもののひとつがサムライ。(他にはアーサー王伝説など)
どちらも厳しい倫理を確立している。
ライトセイバーはその象徴であり、人道的な武器。
相手を殺す場合でも人道的でありたい。
僕が求めたのは昔ながらの剣のような武器だが、ハイテクでないと世界観に適合しない。
そこで考えたのが、レーザーでできた武器。スイッチ一つで作動する。」
(映画DVDの解説副音声より引用)
高い精神性や身分を表現した「着物」
また、登場人物の衣裳にも日本の文化が見え隠れします。
「ジェダイの装いのルーツとして、着物が挙げられます。また、正義の心を持った高貴なキャラクターであるアミダラ女王の衣裳の中にも着物をモチーフにしたものが登場します」とレイラさん。
「女王とは何か、王族とは何か、身分を保証するものとは何か。架空の世界の中で全てを解説する時間はありません。ジョージは、衣裳がキャラクターの物語を補完してくれるようにしたかったのです。
さまざまな文化を見ていく中で、日本には美しい例がありました。もちろん、着物だけを参考にしているわけではありませんが、その影響は大きなものです。」
「同じ人物でもシチュエーションによって雰囲気を残したまま衣裳を着替えます。例えば、アミダラ女王は、政治家として動かない時はロングドレス(着物をモチーフにしたデザインのものも)、戦闘シーンではジェダイにも通じるパンツスタイルです。ジェダイの場合は、ローブをまとうことで地位の重みを持たせつつアクティブに動ける衣裳にしています。
ジェダイは戦士であると同時に、僧侶のような存在でもあります。その宗教哲学や風格を表現するにあたり、ボタンやジッパーなどは使いたくなかったんです。着物はとてもシンプルな作りですよね。また、日本のみなさんにとっては身近なものかもしれませんが、私たち西洋圏の文化の中では異世界を感じられるアイテムでもあります。着物や帯のようなものを身につける東洋の僧侶のスタイルと西洋のスタイルを一つにまとめるようにして生まれた衣裳です」
ネーミングの中にも東洋の香り
東洋の僧侶のイメージを持つジェダイ。中でも仙人のような賢者として登場する「ヨーダ」は人気のキャラクターです。
彼の言葉に中には、東洋的な思想を思わせるものがたくさん登場します。「ダライ・ラマを彷彿とさせるようなそのキャラクターには、東洋的な名前がふさわしい」と、この名前がついたのだそう。
ほかにも、時代劇の「時代」の響きに似たジェダイをはじめ、ブーシ、カンジクラブ、アンドー、などキャラクターの名前にも耳に馴染みのある言葉が散りばめられていて、「これも日本由来では?」と想像を膨らませながら映画を観るのも楽しいものです。
展示を通じて「己を知る旅」に出る
ここまで展示品をご覧いただきながら日本文化との関わりを紹介してきましたが、この展覧会の楽しみはこれだけではありません。
もうひとつの注目コンテンツは、「インタラクティブ・クエスト」。
会場内に設置された専用スペースで、出題される質問に答えながらID付きブレスレットをタッチしていくと、来場者の性格や価値観などのアイデンティティーが反映されたオリジナルキャラクターを作ることができます。
スターウォーズは、宇宙戦争を舞台にした冒険活劇であると同時に、とても内省的な一面があります。そこには禅をはじめとする東洋思想のエッセンスが伺えて、多くの「問い」に出会います。映画を通じて自分がどういう人間なのかを知り、どこに向かうのかを探る。そんな見方もあるように私は思います。
この「インタラクティブ・クエスト」は、展示を通じて『スター・ウォーズ』の世界を体験しながら、自分自身の価値観や思想を見つけ己への理解を深めていくアトラクションです。家族や恋人、友人など身近な人と一緒に体験すると、それぞれの価値観を共有し合う時間にもなりそうです。
「このアトラクションは、科学的根拠に基づいた心理分析で作られているのでリアリティがあります。世界中で開催する中で、『スター・ウォーズ』ファンが夢中になれるのはもちろんのこと、小さな子どもから年配の方まで幅広い層の方々が楽しんでいる様子を見てきました。お孫さんを引率してきたおじいさんが、入り口では興味を示していなかったのに進めていくうちに一緒に楽しんでいたり…まるで魔法のようでした」とレイラさんは語ります。
能楽師の観世清和(二十六世観世宗家)さんは、『スター・ウォーズ』と能の共通点として「普遍的なテーマを扱っている」ことを挙げています。(展覧会公式サイトより)
普遍性があるからこそ、時代が移り変わろうとも、異なる環境で暮らしていようとも共感できることがある。地域や世代を超えて共に楽しむことができる物語として愛されているのかもしれません。
12月の映画公開を前に、まずはこの展覧会で『スター・ウォーズ』の世界に一緒に足を踏み入れて見ませんか?
展覧会基本情報
*展覧会名:STAR WARS ™ Identities: The Exhibition
(スター・ウォーズ™ アイデンティティーズ:ザ・エキシビション)
*会場:寺田倉庫G1-5F(東京都品川区東品川2-6-4)
*会期:2019年8月8日(木)〜 2020年1月13日(月・祝)
*開催時間:10:00 ~ 19:00 ※18:30最終入場 / 11月以降は10:00 ~ 18:00 ※17:30分最終入場
*休館日:2019年9月9日(月)、10月21日(月)、11月18日(月)、2020年1月1日(水・祝)~ 1月3日(金)
公式サイト
2019年12月20公開 映画『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』
*予告動画
(翻訳協力 / 我妻尚美 展示撮影 / 井嶋 輝文、小俣荘子)