Lifestyle

2023.07.31

夏目漱石も愛した孤高の味わい「越後屋若狭」【ひんやり! つるん! 水ようかんの名店】

和菓子にモダンなものが登場する現代に、「水ようかん」だけは古風なたたずまいを残したまま、夏の味覚として私たちを魅了し続けています。小豆と砂糖、寒天と水という最小限かつ完成された組み合わせ。それなのに、材料の配分の違いで味わいは無限大に広がります。だから飽きることなく食べ続けられてきたのでしょう。

シリーズ「ひんやり! つるん! 水ようかんの名店」でご紹介する東西7軒は、手づくりの生菓子を中心に商いをしている店。生菓子用のあんを水ようかんにも使うので、あんの味わいに個性が出ます。ハイレベルな味の違いが楽しめる逸品がそろいました。夏の手土産にも自信をもっておすすめします。

東京でいちばん古い茶席菓子専門店の夏の名物
越後屋若狭の「水羊かん」

創業は元文(げんぶん)5(1740)年ごろといわれ、現在9代目主人の桑原勝己(くわはらかつみ)さんによれば「おそらく初代のときから茶席用の菓子をつくっていたようです」。松平不昧(まつだいらふまい)公もこの店がご贔屓(ひいき)で、大の甘党であった夏目漱石(なつめそうせき)ほか、時代を超えて食通から愛されてきた店。それでいて知る人ぞ知る存在なのは、一切宣伝をせず、注文制を貫いているからでしょう。

つくる生菓子もまた、孤高の味わい。茶席菓子専門なのでこしあんのみを扱いますが、なんとも淡味。あんはすっと口の中に消えてしまうのに、小豆の舌触りと香りは確かに感じます。あっさりした甘みは、ご主人曰く「江戸好みというより、店の好みですね」。そのこしあんで仕立てた「水羊かん」は切り分けてお皿の上に立つのがやっとの固さで、舌の上をすべる感触に恍惚となります。淡味なあんの味を立たせたまま、ゆるやかに品よく寒天をまとめるのにはどんな技が? と問うと、ご主人は「本来、水ようかんとはこういうものだとうちでは伝わっているので……」と苦笑い。水ようかんに限らず、「普通のことをしているだけですが、それぞれの工程にいろいろと手間はかけています」とのこと。

お菓子はすべてお客様の受け取り時間に合わせて調製されます。店から手渡されて数時間のうちに食べるものという約束があって、この店の味が続いているのです。


シュッとした大島桜の葉が小粋でしょ!

1箱(約8人分)3,348円(税込)。消費期限は当日(要冷蔵)。少なくとも2~3日前に注文を。5月中旬から8月いっぱいぐらいまでの販売。

箱を逆さにしてまな板に出すと切りやすい(写真は6等分)。切ったそばから水が出てくるほどゆるやか。茶匙で召し上がれ。

店舗情報

越後屋若狭 えちごやわかさ
住所:東京都墨田区千歳1-8-4 
電話:03-3631-3605 
営業時間;10時~17時(受け渡し時間) 完全予約制 日曜・祝日休 
月替わりで2種の生菓子を要望に応じて受付。

撮影/石井宏明 構成/藤田 優、後藤淳美(本誌)本記事は雑誌『和樂(2021年8・9月号)』の転載です。

Share

和樂web編集部

おすすめの記事

凍らせて味わう、羽二重餅とあんの絶品菓子。叶 匠壽庵「あも」の新しい食べ方がたまらない!

和樂web編集部

秋の夜長レシピ、生姜とスパイスのソースで広がるワイン時間。「今宵、お酒さそう料理を」

小俣荘子

スイカにかけた砂糖はよけて食べる! 茶の湯の心を今に伝える、千利休エピソード集3

和樂web編集部

身体に優しい発酵料理も。京都 東山の隠れ家で出合う「FAS」発酵エイジングコスメ

瓦谷登貴子

人気記事ランキング

最新号紹介

※和樂本誌ならびに和樂webに関するお問い合わせはこちら
※小学館が雑誌『和樂』およびWEBサイト『和樂web』にて運営しているInstagramの公式アカウントは「@warakumagazine」のみになります。
和樂webのロゴや名称、公式アカウントの投稿を無断使用しプレゼント企画などを行っている類似アカウントがございますが、弊社とは一切関係ないのでご注意ください。
類似アカウントから不審なDM(プレゼント当選告知)などを受け取った際は、記載されたURLにはアクセスせずDM自体を削除していただくようお願いいたします。
また被害防止のため、同アカウントのブロックをお願いいたします。

関連メディア