身近な「塩」と「きのこ」をソースに
桂:きのこは秋の季語ですが、いまや1年中手に入る食材。品種によって旬の時期も色々ですね。お料理の主役にもなれるし、季節の食材と合わせればおいしさを引き立ててくれる頼もしい存在です。冬の味覚とも相性抜群のきのこを使って、シンプルな「塩きのこソース」を作っておくのはどうでしょう。
小俣:塩ときのこ、いつもキッチンにありそうな身近な食材ですね。夜長の晩酌や年末年始の集まりでも、お料理を支えてくれそうな予感がします。
桂:そうなんです。用意するのは、お好みの塩ときのこ、米油、酢、少しのニンニク、胡椒のみ。
ミニマムな材料でヘルシーに、肉・魚・野菜…それぞれのお料理があっという間にできあがりますよ。お塩は、日本の「海塩」を使うと特に美味しくなるのでおすすめです。
小俣:桂さんは、海塩の食べ比べや使い方の研究が最近のブームと伺いました。レシピ紹介のあと、お塩の話もぜひお聞かせください!
※海塩とは、海水から作られる塩のこと。
◆《塩きのこソース》
野菜、お肉、お野菜の料理どれにも使える万能な「塩きのこソース」。

(材料)
・塩 大1/2
・お好みのきのこ 150g
・米油 100g
・米酢 大2
・にんにく 少々
・プラックペッパー 適量
※撮影時は椎茸を使用。

<作り方>
①きのこを1cm程のザク切りにカットする。
②鍋にプラックペッパー以外の材料を入れて中火にかけ、ふつふつとしてきたら弱火で10分。
③火を止めてプラックペッパーをふり、粗熱がとれたら冷蔵庫で半日冷やして出来上がり。
★保管:冷蔵で10日間、冷凍で1ヶ月ほど。冷蔵保存する際は、落としラップで酸素に触れにくい状態にしてください。
桂:ソースは、出来立ての熱々の状態も食欲をそそる香りがするのですが、冷まして落ち着かせると、味も香りもまろやかに調和して使いやすくなります。
小俣:温度による変化、面白いですね! 出来立てはガーリックとお酢の香りがきのこと大合唱しているような元気さがありますが、粗熱が取れて落ち着くと香りに一体感が出てきました。味の馴染んだきのこがジューシーで、大人なアヒージョのよう。これだけでもしっぽりと飲めそうです。
◆マグロとアボカドの塩きのこタルタル
ソースのままも美味しいですが、せっかくなので魚と野菜と和えた一品を。

(材料)※分量はお好みで
・マグロ
・アボカド
・塩きのこソース
・赤玉ねぎ or 玉ねぎ
・柑橘類

<作り方>
①マグロとアボカドを1cm角にカットしボールに入れ、柑橘類・塩きのこソース・赤玉葱みじんを加えよく混ぜる。
②お好みのパンを添えて出来上がり。



桂:「タルタル」というとマヨネーズソースのイメージが強い方も多いかと思うのですが、生肉で作るタルタルステーキをマグロで作るイメージです。
小俣:海鮮丼などマグロとアボカドの組み合わせが大好きなのですが、塩きのこソースの旨みが加わることで洋食の風が吹いてくる感じがして、白ワインが飲みたくなりました。玉ねぎの食感もアクセントになって飽きずにずっと食べてしまいそうです(笑)。
オープンサンドスタイルだと、ランチやお休みの日の朝ごはんにもしたくなります。コーヒーとも合いそうですね。
桂:朝ごはんと言えば、ピザトーストのベーコン代わりに塩きのこソースを乗せても美味しかったですよ。ランチにパスタと和えてもいいですし、豚肉と合わせて卵炒めにしたらご飯が進むおかずにもなります。ぜひ色々試してみてくださいね。
小俣:このソースのジューシーさは、たしかにベーコンのようですね! 酒の肴はもちろんのこと、パンにもパスタにも、ご飯にも…万能ソース恐るべし……。色々アレンジしてみます! (後日、クリームチーズと乾燥ハーブと一緒にベーグルに乗せて朝ごはんにしました。こちらも罪深い美味さでした……!)
冬のパーティメニューになりそうな使い方はありますか?
桂:もちろんです! こんなグラタンはいかがでしょう。
◆じゃが芋と塩きのこのグラタン
寒い季節に嬉しいグラタン。ここでも塩きのこソースが活躍します。

(材料)
・じゃがいも(中玉) 2個
・玉ねぎ(中玉) 1/4個
・塩きのこソース 大3
・牛乳 200cc
・チーズ 適量
・プラックペッパー 少々

<作り方>
①じゃがいもと玉ねぎをスライス。じゃがいもは1〜2mmほどの薄さに。
②フライパンに①と塩きのこソースを入れて蓋をして、中火にかける。時々混ぜて焦げ付かないように注意。
③じゃがいもに火が通ったら牛乳を加え、混ぜながら弱火で10分〜15分。
④とろみが出てきたら火を止めて、耐熱容器へ移す。
⑤チーズを乗せて、オーブンやトースターでチーズが溶けるまで焼く。
⑥焼き上がりにプラックペッパーを振って、出来上がり。


奥深い、塩の味わい。選び方、楽しみ方
今回の「塩きのこソース」、旨味を引き立てる縁の下の力持ちは「塩」だという。そういえば、肉や魚の下ごしらえやパスタを茹でる時も「味付け」だけにとどまらない役割が塩にはあったはず。
今春、福岡にも住まいができて東京との2拠点生活をスタートさせた桂さんは、九州の種類豊富な海塩と出会って、その味わいと奥深さに魅せられているのだそう。お料理と塩の関係、「海塩」とはどんなものなのだろう?
小俣:まず、「塩」って大まかにはどんな種類があるのでしょう?
桂:原料の違いでいうと、主にこの3つに分けられます。
○海水塩:海水から作られる。天日塩や平釡塩など、製造方法で種類が異なる。
○岩塩:地殻変動で海水が陸地に閉じ込められ、水分が蒸発して結晶化した。塩分が強くシャープな味わい。
○湖塩:塩湖から採れる。海水と岩塩の中間のような、柔らかな苦味と甘み。
「海塩」はミネラル感が豊富で、味に複雑みが加わるので万能ソースに仕込んでおくと、お料理に活用する時に他の調味料を加えずとも奥行きのある味わいを仕上げることができるように感じています。
私は「岩塩」もよく使うのですが、ヒマラヤの塩などは、塩味をしっかりと感じられるので牛肉のエスニック煮込みなどにぴったりです。しっかりした旨みのある肉であれば、繊細な塩よりも塩味の強さと組み合わせるとバランスがよいなぁと。
小俣:同じ塩でも種類によって結構な違いがあるのですね。岩塩は海外のものというイメージがありますが、海塩は日本??
桂:そうですね。岩塩ようなの天然資源に恵まれていない日本では、塩の原料といえば「海水」なんです。多雨多湿な気候なので、天日干しだけでは塩が作りにくく、エネルギーを多く使って海水を煮詰める製法がとられてきました。歴史的な背景としては、1971年に塩田法改正があって伝統的な塩田が全廃され、イオン交換膜式による工業的な製法が主流になりました。
小俣:たしかに、島国だから海水はたっぷりありますね! 美食家の方やお料理好きの方々の中には、昔ながらの製法の塩を好まれる方も多いように感じますが、作るハードルが高そうですね。
桂:塩田がなくなってしまい、高純度の食塩が主流になった事への反発から「自然塩運動」という運動が広がりました。塩の専売法が1997年に廃止されて塩の製造・販売自由化されてからは、昔ながらの製法でミネラル豊富な塩を作る「自然塩ブーム」も起きました。健康や自然志向への関心の高まりを受けて、近年は各地で昔ながらの天日製法や平釡製法で塩を作る事業者さんも増えているのだそうです。
小俣:塩の歴史、食への探求から法律まで変わっていったってすごいですね。
桂:なかなかに熱いですよね。製法の異なる塩、それぞれに良さがあるので用途に合わせて使っていきたいですね。
(参考)塩の作り方いろいろ
【精製塩】
電気分解などの化学反応によって塩化ナトリウムを抽出し、結晶化させる。純度が高く(しょっぱい)、大量生産に適していて安価で手に入れられる。
◎イオン膜・立ち釡法
日本の食塩製造の主流で、海水中のナトリウムイオンを濃縮し、立釡で煮詰めて結晶化させる。【自然塩(通称)】
精製されてない塩。ミネラルが豊富で奥深い味わい。
◎天日塩
太陽や風の力で海水を蒸発させて作る。
◎平釡塩
平釡で海水を煮詰めて塩分を濃縮させる。ミネラルも多く残るため、柔らかくまろやかな味わい。
◎再製加工塩
精製塩や輸入塩ににがりや海水を加え、成分調整や風味をつけたもの。
小俣:塩の使い分け、桂さんがハマっている「海塩」ではどんな感じですか?
桂:トップ(口に入れた時、最初に感じる印象)で、しっかり塩味を感じるタイプの塩は、温かい料理に使うと熱で届きにくい塩味を感じやすくなります。例えば、天ぷらや焼魚など。一方、トップがまろやかな塩は、冷たい料理……お刺身やドレッシングに使うといいなと思っています。冷たい料理は塩味を強く感じやすいので、まろやかな味わいの塩がおすすめです。
今回のソースには「またいちの焼塩」という福岡県糸島で作られている塩を選びました。キリっとしっかりした塩味が特徴です。きのこの持つ強い旨味を引き出しつつ、お料理と調和させるのにぴったりでした。
小俣:道の駅など、旅先でもいろんな塩に出会いますが、気になるものをちょっとずつ試してみて自分のお気に入りができると食事の楽しさが広がりそうですね。
桂:ぜひぜひ! シンプルにお刺身につける、塩を酒のアテにして飲む時など、2〜3種類のお塩を食べ比べしてみても楽しいですよ。人によって好みが違うので会話も弾みます。
小俣:塩だけでパーティできそうですね。年末年始の親戚の集まりで、地元のお酒を持ち寄ったりするのですが、お塩も持ってきてもらったら、盛り上がっちゃうかも!? 塩きのこソースも、いろんな塩で作ってみようと思います!
桂:色々な海塩を味わってみて、昔の人達が「塩で酒を飲む」って言っていたのが分かる気がしています。私達が生きている時代にこんなに美味しい海塩が復活してくれて、「ありがとう」と思いながら飲んだくれています(笑)。
▼これまでの桂さんによる旬の食材を使った万能ソース&アレンジレシピ。
簡単なお料理にソースを加えるだけで、グッと季節の味わいが増してお酒も進みます。
今宵、お酒さそう料理を
訪ねた料理人

田中桂(たなか かつら)
お酒さそう料理人。辻日本料理専門学校を卒業後、創作懐石料理、家庭料理をメインに、エスニックやビストロでも経験を積む。池尻大橋にて季節料理・酒処“さそう“店主をつとめた。季節料理、食材と調和するスパイス使いに定評があり、企業向けレシピ開発、お料理教室の講師、サントリー、NHKラジオ、料理雑誌ダンチュウや食楽、料理通信にてオリジナルレシピを手がけるなど活動は多岐にわたる。
現在、東京と福岡の2拠点生活で畑作りや食材研究、九州の窯元巡りを楽しんでいる。

