「名所江戸百景」は自らの生まれ育った江戸の風情を、創意に富んだ縦絵の構図で様々に切り取った歌川広重60歳からの連作です。当初は100枚の予定でしたが、あまりに好評を博したため亡くなるまでの3年で計118枚が制作されました。今回は、そんな広重の大ヒットシリーズのなかから「大はしあたけの夕立」をピックアップし、その見どころをご紹介します。
広重晩年の傑作「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」
突然の夕立に襲われたことを想像させる隅田川界隈の叙情的な風景を斬新な手法で切り取ったこの作品は、広重の才能の高さを如実に表した傑作中の傑作です。
歌川広重『名所江戸百景大はしあたけの夕立』大判錦絵一枚 安政4(1857)年
高浜市やきものの里かわら美術館蔵
墨の濃淡の線で表された雨と、その雨量を物語るかのように霞む対岸の安宅の遠景。さらには夕立が出し抜けに襲ったことを表現した橋上の人々の慌てた様子等々、静止画でありながらまるで動画のように見える広重流トリックが見る者を魅了します。
摺師や彫師の技も見所!!
濃淡の墨で表現された雨は角度をずらした重ね摺り。広重の発想と筆さばきもすごいですが、この線を彫り出す彫師の力量ももの凄い!!
夕立雲の「当てなしぼかし(版木を濡らして絵具をぼかす技法)」とともに、遠景の安宅の家並みのぼかし具合も絶妙。摺師の技も見所です!
歌川広重名所江戸百景大はしあたけの夕立」
隅田川にかかる大橋(現在の新大橋のことで当時は現在よりも下流に位置)と対岸の安宅周辺の夏の情景を描いたシリーズ屈指の名作。ゴッホが模写したことでも知られています。橋と川岸が斜めに交差する構図の妙と繊細な雨の描写が素晴しい一枚。