特別展「茶の湯」
茶の湯ファンが、待ちに待った展覧会がいよいよ開催。この春、東京には茶の湯をテーマにした大規模展が矢継ぎ早にやってきます。まずは東京国立博物館で行われる特別展「茶の湯」をクローズアップしてご紹介しましょう。東京国立博物館において「茶の美術」展が催されたのは昭和55(1980)年のこと。そして平成2(1990)年に行われた京都国立博物館の「400年忌 千利休展」以降、茶の湯史上最高クラスの名品が集まる展覧会は、本展をおいてほかにありません。特別展「茶の湯」は、わび茶大成から約450年、その前の室町時代足利将軍家の茶湯時代からすると、約650年前から続く茶の湯の通史が一望できる、とても濃い内容です。
そもそも茶の美には、「足利将軍家の唐物数寄」と「利休が創造したわび茶と、それ以後」という二項対立があります。いってみれば、特権階級の将軍たちが高級ブランド唐物を買い占めたのに対し、利休はだれもいない地平から、「私はこっちがおしゃれだと思うぞ」と、センスのよい茶道具を登場させたというわけ。展覧会場を巡る数時間で、650年の歴史と劇的変換を眺めることができるのは、とてもエキサイティングな体験といっていいでしょう。ましてや、本展に出品される唐物たちは、かつては高貴な立場の将軍だけしか観られなかったお宝です。それを実際に眼にできるとは。15世紀末に、珠光から武野紹鷗、そして利休へと新しい美の潮流である〝わび〟という概念が確立され、唐物から高麗物、和物へと茶道具が変化しますが、本展は茶の世界を構築する名品の数々がまとめて観られる、というところに大きな意味があります。
青井戸茶碗 柴田井戸
朝鮮からもたらされた高麗茶碗の中で、井戸茶碗は最も茶人に愛されたもの。「柴田」は冴えた釉調が特徴的な青井戸茶碗の名品だ。織田信長が柴田勝家へ贈ったことが、この名の由来になっている。
重要文化財 朝鮮時代(16世紀) 東京・根津美術館蔵
志野茶碗 銘 卯花墻
白い釉薬と赤い火色が生み出す表情。志野茶碗のベストオブベストがこの作品。ヘラを駆使した胴体の表現が見事で、鉄絵で表された文様を卯の花(ウツギ)が咲く垣根に見立てている。
国宝 安土桃山時代(16〜17世紀)東京・三井記念美術館蔵
古銅象耳花入 銘 キネナリ
小堀遠州がもっていたと伝わる古銅の花入。下蕪形の姿が杵に似ていることから、「キネナリ」の名がついたという。気品に満ちたたたずまいこそ、品格を重んじる武家茶の好みにふさわしいもの。
南宋~元時代(13~14世紀)京都・泉屋博古館蔵
これほどの名品が集まるのは稀、茶の湯ビギナーこそおすすめ
茶道具は、実はそのもの1点だけ観ても、よくわからないといわれます。なぜなら茶道具は、西洋名画や彫刻などの美術作品と違って独立して観るものではないからでしょう。ふつう芸術とは、そのよさがわからなくても、好き嫌いは自分でわかりますが、茶道具の場合、1点だけだと自分が好きなのか嫌いなのかも判断しにくい。それは、なぜなのでしょうか。 おそらくそれは、茶の湯ではそれぞれ趣が異なるものを組み合わせて、一期一会の茶席がつくられてきたからかもしれません。複数によってはじめて爆発的なパワーを発揮する。利休がつくったり、見立てたものの「数」を観て、やっと茶という全体の山が見えるのです。茶の湯ビギナーだけでなく、お茶に長年親しんできた人にとって、だからこそ、この展覧会は大変貴重な機会です。
そして、今回は「名碗オールスターズ」の競演も見逃せません。足利義政、織田信長、千利休、松平不昧などが愛蔵した国宝級の名碗の集大成。大阪市立東洋陶磁美術館蔵の油滴天目茶碗や京都の孤篷庵蔵の大井戸茶碗/喜左衛門井戸、三井記念美術館蔵の志野茶碗/銘 卯花墻といった国宝のほか、頴川美術館蔵の赤楽茶碗/銘 無一物、名古屋市博物館蔵で、重要文化財の黒楽茶碗/銘 時雨など、茶碗の最高峰たちが集います。歴史を動かした天下の武将や茶人たちでさえ、これらをいっぺんに観たことはなかったというのに。
超豪華な茶の美術品オールスターたちの競演!
会期/4月11日(火)~6月4日(日)
会場/東京国立博物館 平成館
住所/東京都台東区上野公園13-9 地図
開館時間/9時30分~17時(金・土曜は20時。日曜および5月3・4日は18時まで)。入館は閉館の30分前まで
休館日/月曜(5月1日は開館)
前売券(4月10日まで)1,400。当日券1,600円。
●4月中下旬は、平成館ラウンジで11時~15時に呈茶500円。売り切れ次第終了。
●4月11日~5月7日(4月15日はのぞく)は、博物館の庭園内にある小堀遠州ゆかりの「転合庵」が特別公開される(無料。ただし当日の入館券が必要)。
●東京国立近代美術館で開催の「茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術」との共通チケットも発売。
(詳細は101ページ)