グラフィカルな構図が研究家たちを魅了する
琳派の作品が時を経ても色あせることなく、海外の美術愛好家の心までとらえた理由のひとつに、装飾性の高さが挙げられます。中でも、グラフィカルな工夫を凝らした構図は代々の琳派作家が得意としたものです。
鶴が飛び立って着地するまでを連続的に描いた宗達と光悦の書が織りなす『鶴図下絵和歌巻』。画面の中で躍動しているような『風神雷神図屛風』。デザイン性を徹底して追求した尾形光琳の『紅白梅図屛風』や『燕子花図屛風』。そして鈴木其一の『夏秋渓流図屛風』など、いずれも目に見えるそのままの姿を描くのではなく、最も美しく印象的な構図を選び抜いたことで、斬新でインパクトの強い作品となっています。
それはグラフィックデザインやアニメ、イラストを先取りしていると言っていいほどの斬新さ。昔のものとは思えないような新しい感覚は、構図によるところが大きいのです。
俵屋宗達『風神雷神図屛風』二曲一双 紙本金地着色 江戸時代(17世紀) 各154.5×169.8㎝ 国宝 建仁寺蔵
本阿弥光悦書・俵屋宗達下絵『鶴図下絵和歌巻』一巻(部分) 紙本金銀泥絵・墨書 江戸時代(17世紀) 34×1356㎝ 重文 京都国立博物館蔵
また、大胆な構図を描き上げる能力は琳派の垣根を取り払うことにもつながります。平面にとどまることなく、工芸やきもの、菓子へと琳派が広がった鍵は、構図のデザイン力が握っていたのです。
光琳が最晩年に描いた美術史に残る最高傑作
『紅白梅図屛風』を読み解く!!
画面中央の水流を挟んで、老木の白梅と若木の紅梅が対峙。ふたつの梅は、老境にあった光琳と若き日の自分、パトロンであった中村内蔵助と光琳、弟の乾山と光琳など、様々な見立てがなされてきた。水の流れを表すために光琳が川に描いた波形は、時の経過をも表現。この模様は「光琳波」と呼ばれ、琳派に受け継がれた。
尾形光琳『紅白梅図屛風』二曲一双 紙本金地着色 各156×172・2㎝ 江戸時代(18世紀) 国宝 MOA美術館蔵
老木の白梅、若木の紅梅、それを隔てる深い川
自然界にはあり得ない構図は、まさにグラフィカルの極致で、多様な解釈が試みられてきた。
ひとり立ちした其一が、自己表現を試みた記念碑
『夏秋渓流図屛風』を読み解く!!
師と仰いだ酒井抱一の没後に其一が描いた作品は、抱一の『夏秋草図屛風』に相対するものとして、銀地に対して金地、草花に対して檜林を用いるなど、ことごとく異なる描き方をして差別化を図っている。そこには、弟子として自分を抑えていた其一がプレッシャーから解き放たれ、最大限の自己表現を試みようとした意図が見て取れる。
鈴木其一『夏秋渓流図屛風』六曲一双 紙本金地着色 江戸時代(19世紀) 各165・8×363・2㎝ 根津美術館蔵
木の幹に目を凝らすと、セミが一匹!
夏の情景を際立たせるために描かれたセミ。細部に込められた遊び心をお見逃しなく。
山百合の花が、木の幹にくらべて大きすぎるような
全体のバランスを考えてモチーフを配しているので、多少の違和感がかえって、印象的になっている。
水の流れが、ことさらに強調されている
高価な群青の岩絵具を惜しげもなく使い、みずみずしさを表現。まさにグラフィカルな処理。