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2021.12.31

珠玉の作品群が来日!一世一代の“美の宴”見どころ解説【メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年】

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本当に開催されるんだ・・・。

長引くコロナ禍で、軒並み中止か延期となっていった海外の大型美術展。そんな中、無事に会期通り開催されることになったニュースを聞いて、本当にびっくりするとともに、興奮が抑えきれませんでした。

なんせ、メトロポリタン美術館といえば、エルミタージュ美術館、ルーヴル美術館と並んで、世界3大美術館の一角を占める超ビッグなミュージアム。所蔵する作品は150万点を超えるとされ、その中から選びぬかれた作品が、凄くないわけがありません。まさに黒船来襲。オールスター級のメジャーリーガーがドリームチームを結成して来日したようなインパクトがあるわけです。

なぬっ!! どれだけスゴイか、アートに詳しくない私にも理解できました!

実は僕は東京下町在住で、待っていれば東京展が開催されるのですが、「どうしても見たい!」という欲求には逆らえず、本展だけのために大阪へと遠征を決行。大阪市立美術館でオープン前日に開催された内覧会で、取材させていただくことにしました。

ビッグな海外美術展の王道鑑賞法をご提案

展示風景

さて、「●●美術館展」と、世界各地のビッグな美術館の名前が冠名として銘打たれた美術展は、過去にも数多く開催されてきました。コロナの影響でしばらく海外渡航が難しくなっている現状、海外に行かなくても、その美術館を代表するような作品をピックアップして展示してくれる展覧会は、かつてないほど貴重な存在になっているといえるでしょう。

試しに、2022年の展覧会スケジュールをちらっと見ても、「スコットランド美術館展」(東京都美術館、他)「スイス プチ・パレ美術館展」(SOMPO美術館、他)、「ルートヴィヒ美術館展」(国立新美術館、他)など、いくつかありますね。そこで、メトロポリタン美術館展の詳細レポートに入る前に、「●●美術館展」と言われた時、王道の攻略法をお教えしましょう。

「●●美術館展」といった展覧会では、特定の作家を掘り下げた特集は少なく、まんべんなく各時代・各ジャンルから1点~数点ずつなるべく多くの作家の作品が展示される傾向にあります。だから、注目作品を探すときは、作家を切り口にするより作品本位で見ていったほうが理にかなっているんです。

そこで、以下の3点に注目して展覧会をチェックしてみてください。

  • ポイント1:レアな作品
  • ポイント2:日本で見られない作家
  • ポイント3:初来日作品
  • ポイントが3つに絞られているとわかりやすい!

    展示作品の一覧を眺めながら、この3つを意識しながら作品をピックアップしてみましょう。中には、複数のポイントを満たす作品も見つかります。そんな作品こそ、絶対に見落としてはいけない。なぜなら、世界に数作品しかなく、日本では見られず、過去に一度も来日したことがない…ということになれば、本当に貴重な機会になるからです。おそらく、そういった作品は、今回見ておかないと、1974年に奇跡の来日を果たしたダ・ヴィンチの「モナ・リザ」がその後50年経っても再来日する機運が皆無なように、生きているうちに日本で見られる可能性はほぼないといって構わないでしょう。

    さて、いよいよメトロポリタン美術館展のレポートに入っていきましょう。今回来日した65点の絵画作品は、全作品が西洋美術史において重要な巨匠ばかり。そして、全65点中、実に7割を超える46点が初来日。基本的にどの作品を見ても、ほとんどの鑑賞者にとって初対面で、かつどれも捨て作品はありません。初心者が見ても、ベテランが見ても、すべてのアートファンにとって、新鮮かつ重要な展覧会なのです。

    最重要作品はどれなのか!?すべてのチェックポイントをクリアした神作品を探せ!

    展示風景

    展覧会場に入ると、15世紀から19世紀までのヨーロッパ各地を代表する巨匠の傑作が目白押し。しかも、今回来日した65点は、メトロポリタン美術館ヨーロッパ絵画部門が所蔵する、約2500点ものコレクションのほんの氷山の一角。

    さて、先程僕が提案した「王道鑑賞法」のチェックポイント3項目に沿って、全作品をスクリーニングしていきましょう。すると、ツートップが残りました。それは、以下の2点です。

    カラヴァッジョ『音楽家たち』
    フェルメール『信仰の寓意』

    この17世紀バロック時代を代表する画家2名は、両者とも生涯で数十点しか作品を遺していません。よってこの2人の巨匠の手による作品は、全て激レア作品であるといえます。(ポイント1)。そして、カラヴァッジョもフェルメールも日本で所蔵されている作品はゼロ。(ポイント2)もちろん、日本に今回の展示作品が来るのもはじめて。(ポイント3)すべてのチェック項目を満たした完璧な作品です。

    あれっ、これって、メインビジュアルやチラシに掲載されている作品じゃん?!

    そうなんです。さすがは主催者。「絶対見ておくべき神作品」は、スクリーニングしなくても、ちゃんとメインビジュアルに選ばれているのでした。展覧会では、絵を見る順番は自由です。僕だったら、会場に入ったらまず最初にこの2つの絵の前を目指すでしょう。

    何はともあれ、メインビジュアルの作品は必ずチェック!! 覚えておきます!

    ラピスラズリの青は実物で見ると凄かった!フェルメール「信仰の寓意」

    ヨハネス・フェルメール「信仰の寓意」展示風景/画面越しで「画像」として見るときよりも、実物を見たときのほうがより「青」の鮮やかさが際立って見えました。

    静謐な室内画が魅力のフェルメール。一般的にフェルメールの作品では、アフガニスタンなどの限られた鉱山でしか採れない高価な顔料・ラピスラズリを使ったウルトラマリンと呼ばれる深く澄んだ「青」が特徴。

    本作でも、明らかにフェルメールは「青」に力を入れて描いています。画面上にくまなく目を走らせると、「あっ、こんなところにも青が使われていたんだ!」と気づくことでしょう。ぜひ、心ゆくまでフェルメールブルーを堪能してみてください。人垣ができていることも多いと思うので、単眼鏡も威力を発揮しそうです。

    美しすぎる少年が「密」に描かれた傑作。カラヴァッジョ「音楽家たち」

    カラヴァッジョ「音楽家たち」展示風景

    こちらは、画面内に高密度で描かれた4人の美少年が印象的な作品。1597年、26歳のカラヴァッジョが、最初のパトロンとなったデル・モンテ枢機卿のために描いたとされます。

    まるで化粧をしたように頬を紅潮させた美少年、白い肌をはだけさせ後ろ姿で楽譜を読む少年、彼らの間から誘うような目つきでこちらを妖しく見返してくる少年など、画面から濃密な官能性が放射されています。まさにミケランジェロの描くムキムキ男子とは対照的な仕上がりです。

    まさに美少年てんこ盛り。美少年を描く名手だったカラヴァッジョが、おそらく自らの趣味も全開にしてのびのびと描いた作品でした。
    まさに珠玉の2作品、ぜひ、心ゆくまで向き合ってみてください!

    美しいブルーに美少年。どちらも目の保養になりそう!

    日本であまり所蔵されていない、18世紀以前のオールドマスターを一気に抑える

    ハンス・ホルバイン(子)「ベネディクト・フォン・ヘルテンシュタイン(1495年頃-1522年)」展示風景

    世界で3番目に美術館の数が多いとされる日本。西洋美術の収集にも余念がなく、それこそ明治・大正時代から多くのコレクターの先人たちが、ヨーロッパやアメリカで大量の作品を買い付けて日本に持って帰りました。その努力の積み重ねによって、特に印象派より後の近代絵画については、日本にも相当数のコレクションが揃っているといえるでしょう。

    ですが、18世紀以前の西洋美術作品……となると、やはり本場ヨーロッパに比べたら日本で見られる西洋美術の作品は激減します。西洋美術史に燦然と輝く巨匠達の作品だって、本当にスズメの涙くらいしかないのです。

    西洋美術史の中では何千名もの達人・名手を輩出されてきましたが、中でもとりわけ世界中から人気を博し、評価されている大巨匠がいます。たとえば、17世紀を例にとってみると、上述したフェルメール、カラヴァッジョを筆頭に、ルーベンス、ベラスケス、レンブラント、プッサンなど。しかし、そうした大巨匠の作品は、悲しいかな日本にはほとんど所蔵されていません。

    わたしたちが彼らの作品を見るのは、主に画像や書籍の上だけで、実物と対面できる機会はめったにないのです。本展では、こうした巨匠たちの作品が目白押し。ですので、絶対見逃せない上記の2作品に続いて強くオススメしたいのが、「18世紀以前の日本ではあまり見られないオールドマスター」たちです。

    では、早速いくつか見ていきましょう。

    ルネサンスの3大巨匠の一角・ラファエロ作品が来日!

    ラファエロ・サンツィ「ゲッセマネの祈り」展示風景

    非常に小さな作品なので、少し見逃してしまいそうになるのですが、本展ではダ・ヴィンチ、ミケランジェロとあわせて「ルネサンスの3大巨匠」と並び称される巨匠中の巨匠ラファエロの作品が見られるんです。

    本作「ゲッセマネの祈り」では、翌日にはゴルゴダの丘で磔になってしまう自らの運命に対して、祈りながら葛藤するイエス・キリストが描かれています。まさに聖書のクライマックスとなるのワンシーンですね。弟子たちのカラフルな色彩配置や、イエスを頂点とした安定した三角形構図はさすがラファエロという感じですね。小品でもしっかりしています。

    さて、イエスの横で眠りこけているのは、イエスの十二使徒たちとして知られるペテロ・ヤコブ・ヨハネの3人。こんなにイエスが真剣に祈りを捧げているのに、弟子は起こしても起こしても眠りこけてしまうのでした……。スヤスヤ眠る弟子たちに対して「寝るなお前ら!」と、思わずツッコミを入れてしまいたくなりました。

    馬上の王様を描く名手だったベラスケス

    ベラスケスと工房「オリバーレス伯公爵ガスパール・デ・グスマン(1587-1645年)」展示風景

    ルネサンスの3大巨匠に比べると日本での知名度はやや劣るものの、西洋美術史では最重要人物の一角として非常に評価の高いベラスケス。17世紀スペインを代表する画家で、ハプスブルク家のフェリペ4世の宮廷画家として長く活躍しました。ベラスケスの凄さは、近くで見ると一見粗く大雑把な素早いタッチで描かれているように見えるのに、少し引いて見ると迫力満点でリアルに見えること。人間の視覚を熟知したベラスケスのワザが光ります。

    彼は同時代のどの宮廷画家に比べても、王族・貴族などの貴人たちが乗馬姿を多く描きました。ベラスケスの描く騎馬像は、たいてい後ろ脚立ちをしていること。彼は10作品以上で王族たちの騎馬像をテーマに描いていますが、数作品を除いてほぼ全部後ろ脚立ちでの姿を描いています。ベラスケスの好みだったのか、スペイン王族の好みだったのか…。

    これぞ、ザ・西洋絵画!「王の画家にして、画家の王」ルーベンス

    ペーテル・パウル・ルーベンス「聖家族と聖フランチェスコ、聖アンナ、幼い洗礼者ヨハネ」展示風景

    17世紀バロック絵画を代表する画家で、宮廷画家としてだけでなく、外交官としても活躍した巨匠。神話やキリスト教などをテーマとした歴史画・宗教画を数多く遺し、日本人がいわゆる油絵に対して抱く「ザ・西洋絵画」のイメージのど真ん中を行く画家の一人といってもよいでしょう。

    ルーベンスは、同時代のライバルたちに比べると非常に多作です。にもかかわらず、不思議なことに日本にはルーベンスの作品がほとんどありません。そのためなのか、日本では印象派やルネサンスの巨匠たちに比べると知名度が少し劣ります。イタリア仕込みの色彩豊かな画面と、人物を斜めに配置した斜め構図には独特の緊張感が感じられます。たっぷりとしたふくよかな人物の体型も、ルーベンス作品で見逃せないポイントです。

    本作は、幼子イエス、聖母マリア、殉教者ヨハネ、マリアのお母さんの聖アンナ、イエスのお父さんのヨセフという、最強の組み合わせに、アッシジの聖フランチェスコをプラスワンした、いわばキリスト教の聖人詰め合わせセットのような作品。僕は個人的にはヨセフのファンなのですが、やっぱりヨセフって一番隅っこになっちゃうんだな~と思いながら鑑賞していました。

    ヨセフのファンと言う方初めて聞きました!

    独特すぎる縦長の人物像、エル・グレコ

    エル・グレコ「羊飼いの礼拝」展示風景

    縦に大きく引き伸ばされた人物像が特徴的なエル・グレコ。グレコというのは、スペイン語で「ギリシャ人」を意味することばで、エル・グレコは通名。本名はドメニコス・テオトコプーロスといって、ギリシャのクレタ島出身の画家です。クレタ島からヴェネツィアでの修行時代を経て、スペインに渡ってから大活躍しました。

    西洋美術史では、ある時期に一度完全に忘れ去られ、歴史の狭間に埋もれてしまったけれど、あるタイミングで再評価されて巨匠へと上り詰める画家はわりと多くいるのですが、エル・グレコもその一人なんです。再評価のきっかけを作ったのが、400年後に同郷から輩出された大画家・ピカソだったというのも面白いですね。

    エル・グレコの作品に描かれる独特な縦長の人物や色彩感覚は、遠くから見てもすぐわかるくらいかなり個性が強く感じられます。しかし、見慣れてくると妙にクセになる面白さがあります。じわじわと絵の良さが心に染み渡る感覚を楽しんでみてくださいね。

    フランス美術隆盛の土台を築いた巨匠、プッサン

    ニコラ・プッサン「足の不自由な男を癒す聖ペテロと聖ヨハネ」展示風景

    西洋美術史では、17世紀頃から、100年以上をかけて徐々に芸術の中心地がイタリアからフランスへと移り変わっていきます。そのきっかけを作ったのは、ダ・ヴィンチをはじめ、多くの画家を自国へと引き入れたフランソワ1世の手腕によるところが大きいのですが、後続の世代になって、フランス美術のレベルがぐぐっと上がっていきました。

    そのフランス美術の地位向上に大きく貢献したのが、ニコラ・プッサンです。彼は安定した堅牢な構図と、カラフルだけど目が痛くないナチュラルな色使いで、フランス古典絵画の礎を築きました。しかしプッサン自身は、パリよりもローマを好み、ルイ13世が彼をパリに一時期呼び戻すも、たった2年でローマに帰ってしまいます。

    残念ながら日本国内には1作品もないので、あまり名前は知られていませんが、西洋美術史では非常に重要な画家の一人。同じイタリア留学組でも、ルーベンスのように動きのある構図を好んだ画家から、プッサンのように安定した静かな作品を作り続けた画家まで、本当に色々いますよね。

    キリスト教の勉強をしてから行くと、もっと楽しめそうですね!

    日本ではほぼ無名の、知られざる名手を発掘する楽しみ

    サルヴァトール・ローザ「自画像」展示風景/哲学者でもあったサルヴァトール・ローザ。当時非常に変わり者として知られていましたが、めちゃくちゃ渋いイケオジですよね。こんなふうに年を取りたかったなぁと思いました。

    さて、日本ではめったに見られないオールドマスターの作品を堪能したあとは、せっかくなので、自分だけの「マイ巨匠」を見つけてみてはいかがでしょうか。すでに名前が売れている画家ではなく、まだ日本では魅力が十分に伝わっていなかったり、知名度が劣っていたりする画家の中に、とんでもない名手がいるかもしれない。そう思って、あなた独自のアンテナに引っかかる作品を探してみると、ぐぐっと鑑賞が面白くなってくるはずです。

    本展では、実力も個性もしっかりしているのに、今のところ日本ではほとんど知られていない画家の作品を、いくつかピックアップしてみました。もう少しだけお付き合い頂けましたら幸いです。

    バロック美術+フランス古典絵画が融合!シモン・ヴーエ

    シモン・ヴーエ「ギターを弾く女性」展示風景

    カラヴァッジョが打ち立てた作風は、ヨーロッパ各地に広がり、各地でカラヴァッジョの作風にインスパイアされた「カラヴァッジェスキ」と呼ばれるフォロワーが大量に産まれました。

    シモン・ヴーエもまた、イタリア留学時代にカラヴァッジョから多くを学んだ芸術家の一人。パリヘ帰国後は、ルイ13世の国王付き主席画家へと大出世を遂げ、イタリアで学んだカラヴァッジョばりの劇的表現と、フランスで根付きつつあったルネサンス以来の正統派古典絵画を融合したような作品を描きます。

    こちらは、本展でメインビジュアルとなっているカラヴァッジョ「音楽家たち」のすぐ隣に展示されている作品。楽器を手に持つ人物が描かれたモチーフや、背景が黒塗りで強烈な光が画面に差し込んでいる明暗表現も、見比べてみると面白いですよね。

    日本ではあまり知られていないのですが、Webで画像検索などをかけてみると、その美しい作品群にほれぼれするはずです。

    動物好きオーラが画面から溢れ出る、アルベルト・カイプ

    アルベルト・カイプ「家庭教師と御者を伴うコルネリス(1639-1680年)とミヒール・ポンペ・ファン・メールデルフォールト(1638-1653年)の騎馬像」展示風景

    動物画や風景画を得意としていたカイプ。日本ではほぼ無名な存在ですが、美しい夕日をバックに描かれたスケール感の大きな風景画はイギリスでブレイク。カイプの生まれ故郷であるオランダよりも、今はイギリスでたくさんの作品が残されています。

    そんなカイプのみどころは、画面に描きこまれた多くの動物たち。

    この絵でも一応、主役は馬上の人物ではありますが、のっぺりと描かれていてあまり上手さが感じられ……ません。その一方、前景から後景までをじっくり見渡してみると、様々な毛色の馬や犬などが描かれています。しかもリアルでかわいい。カイプの動物たちへの深い愛情が感じられます。これはどう見ても、人物よりも動物に思い入れがあるだろう!と心の中でツッコミを入れながら鑑賞していました。

    ぜひ、絵の前に立ったら、すみずみまで眺めてみて下さい。こんなところにも動物がいた!と楽しくなります。

    動物たちがまるでそこにいるかのように描かれていて、本当にカワイイ!!

    オランダ絵画のDNAを宮廷に持ち込んだ!グルーズ

    ジャン=バティスト・グルーズ「割れた卵」展示風景

    18世紀に入ると、フランスでは宮廷画壇から発展した王立絵画アカデミーが隆盛し、いわゆる画家の職人組合とは別格の存在として、国内で権威をもつようになります。そこでは、神話や聖書などをテーマとした歴史画を頂点として、肖像画・風俗画・静物画・風景画など、画家はあらかじめ自分がアカデミー入会時に登録した各ジャンルを専門として描くようになっていきました。

    そんな中、絵の中に寓意や教訓を込めた風俗画でブレイクしたのが、ジャン=バティスト・グルーズでした。まるでオランダ絵画のような庶民の日常生活を描いた本作の中には、まるで大衆演劇のように大仰なポーズを取る4人の人物たちが。いかにも、「この絵の中にはお話が隠されているんですよ」と言わんばかりです。

    ちなみにネタバレすると、画面手前に転がった、割れてしまった卵に着目してみましょう。脱力した表情で座り込む少女の、妙にだらしなくはだけた胸元と割れた卵が暗示するのは「奪われた純潔」なのだそうです。とすると、卵を割った犯人は…? もうおわかりですね。

    母親目線(私)で見ると、子どもが卵を割って、家族が怒ったりうなだれたりしているのかと思いました。

    見比べる楽しみ~キリスト教の聖人を攻略せよ~

    これだけ各時代別、各国別に作品が登場していますので、色々と堪能したあとは、ぜひ、作品同士を見比べる楽しみも味わってみて下さい。たとえば、「メトロポリタン美術館展」では、幼子イエス・キリストを抱く母マリアが描かれた「聖母子像」が全部で5作品も登場。これは、見比べないわけにはいかないですね。

    同じモチーフや構図の絵画作品を見比べる時のポイントは、共通点と相違点をそれぞれ見つけ出すこと。ちょっとした間違い探しのような感覚で、何度も絵を見比べてみると、鑑賞が大いにはかどります。

    では、ためしに、本展に出品されている、以下の聖母子像3作品を見比べてみましょう。ランダムに並べてみます。

    バルトロメ・エステバン=ムリーリョ「聖母子」展示風景

    ヘラルト・ダーフィット「エジプトへの逃避途上の休息」展示風景

    カルロ・クリヴェッリ「聖母子」展示風景

    どうでしょうか?3作品を見比べてみて、違いや共通点は見つかりましたか?

    同じモチーフ・構図を描いていても、画家によってこんなにも差が出てくるものなのですね。服装も髪型も違うし、背景の処理もバラバラですね。また、ヘラルト・ダーフィットの作品では、よく見ると、同じ絵の中に複数のマリアの姿が描きこまれています。時間の経過を表現する「異時同図法」が使われているのですね。一方、クリヴェッリの作品では、幼子イエスが画面の外に飛び出て見える一種のだまし絵のような個性的な3D表現や、なぜかマリアの頭部の周囲に配置された野菜も味わい深いです。

    でも、不思議なことに、我が子を抱きとめるマリアの表情はどれも同じなんですよね。かすかに憂いの表情を覗かせつつも、マリアの我が子イエスに対する深い愛情が画面からにじみ出ていました。

    ほんとだ! 必ずイエスを見つめているのですね。目を離せない年頃ですものね。

    大阪、東京の2会場で2022年5月まで楽しめる、至高の西洋美術展

    展示風景

    本稿では、「メトロポリタン美術館展」ならではの切り口をご紹介してきました。ただ、こうしたモノサシは本当は今回の展覧会では不要なのかもしれません。なぜなら、全作品が傑作だからです。なので、さーっと会場を見渡してみて、自分が気に入ったテーマや構図、モチーフがあれば、その作品の前で10分、20分立ち尽くしてじっくりと味わってみるような、シンプルな味わい方でも、入場料のモトは十分とれるでしょう。

    とにかく、行けば必ずあなたにとって新しい発見や、絵を見る喜びが味わえるのが本展の特色。次はいつ日本に来るのかわからないような、素晴らしいレア作品が目白押しです。パンフレットにも書いてあるとおり、まさしく「美の宴」です。ぜひ、あなたなりの楽しみ方を見つけて楽しんでみてくださいね。

    展覧会基本情報

    『メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年』

    展覧会公式サイト:https://met.exhn.jp/

    【大阪展】
    会期:2021年11月13日(土)~2022年1月16日(日)
    会場:大阪市立美術館

    【東京展】
    会期:2022年2月9日(水)~5月30日(月)
    会場:国立新美術館 企画展示室1E

    書いた人

    サラリーマン生活に疲れ、40歳で突如会社を退職。日々の始末書提出で鍛えた長文作成能力を活かし、ブログ一本で生活をしてみようと思い立って3年。主夫業をこなす傍ら、美術館・博物館の面白さにハマり、子供と共に全国の展覧会に出没しては10000字オーバーの長文まとめ記事を嬉々として書き散らしている。

    この記事に合いの手する人

    大学で源氏物語を専攻していた。が、この話をしても「へーそうなんだ」以上の会話が生まれたことはないので、わざわざ誰かに話すことはない。学生時代は茶道や華道、歌舞伎などの日本文化を楽しんでいたものの、子育てに追われる今残ったのは小さな茶箱のみ。旅行によく出かけ、好きな場所は海辺のリゾート地。