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大人だけが知っている!「静寂の京都」

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2022.03.28

桜真っ盛りの六本木で東京・京都・大阪の日本画を見比べる【泉屋博古館東京】

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桜が満開となり、春がやってきました。東京・六本木でこのほど改修工事を終えてリニューアルオープンしたのは、泉屋博古館東京。大阪に拠点を持つ住友家第15代当主の住友春翠(すみとも・しゅんすい、1864~1926年)らが収集した美術品が東京でも見られる貴重な美術館です。さて、リニューアル記念展「日本画トライアングル 画家たちの大阪・京都・東京」を訪れたつあおとまいこは、美しくなった展示室で、桜をはじめとする春の華やぎに出合います。そういえば、第15代当主の名前も春翠です! 二人は関西からもたらされた「春」を堪能し始めました。

春爛漫!

泉屋博古館について=泉屋博古館は、住友家が収集した美術品、工芸品を収蔵展示する美術館である。
本館が立地するのは、京都東山の麓にあたる左京区鹿ケ谷。穏やかな山容を間近にのぞむ景勝地として古くから知られ、明治以降は、数寄者(すきしゃ)が好んで別荘をかまえた地だ。明治・大正を生きた住友15代当主住友友純(春翠)も、かつてここに別荘を構えた。一方、東京館もかつて住友家の麻布別邸があった場所。1990年代、住友連系各社が本社を東京へと移すなか、東京におけるメセナ活動を強化したいとのグループの意向と、六本木再開発構想で、付近一帯を上野の森につづく美術館街にしたいとの東京都の意向が合致し、泉ガーデン開発時にここに分館を建てることにしたものだ(2021年 泉屋博古館東京に改称)。(出典=住友グループ広報委員会ウェブサイト

えっ? つあおとまいこって誰だって? 美術記者歴◯△年のつあおこと小川敦生がぶっ飛び系アートラバーで美術家の応援に熱心なまいここと菊池麻衣子と美術作品を見ながら話しているうちに悦楽のゆるふわトークに目覚め、「浮世離れマスターズ」を結成。さて今日はどんなトークが展開するのでしょうか。

動き出しそうな桜

菊池容斎『桜図』 1847年 展示風景

つあお:この桜、お化けみたい。すごい迫力じゃないですか。

まいこ:ずいぶん巨大。画面いっぱいに描かれていますね。

つあお:特にすごいなぁと思うのは、枝の描き方。何だか毛細血管みたい。

まいこ:そうか、だから動き出しそうに見えるんですね! 動物みたいな感じ!

つあお:たわくし(=「私」を意味するつあお語)の目には、巨大な心臓のようにも見えますよ!

まいこ:うっすらピンクですし。

毛細血管に心臓、お二人の発想がすごいです!そう言われると生きているみたい…

つあお:そしてね、近寄って観察を始めると、枝も花もホント細かく描かれているんですよ。

まいこ:桜の花の一輪一輪が盛り上がるように描かれている。すごい!

つあお:描いたのは、相当なテクニシャンですよ!

まいこ:作者はどなたですか?

つあお:菊池容斎(きくち・ようさい)という、幕末から明治の初め頃に活躍した日本画家なんです。以前たわくしたちが回顧展を取材した渡辺省亭の師匠だったりもします!

菊池容斎=江戸末期~明治初期の画家。名は武保、俗称は量平。江戸の人。18歳のとき高田円乗の門に入って狩野(かのう)派を学び、のち土佐派を習い、さらに狩野探幽(たんゆう)、円山(まるやま)応挙の画風を慕う。後年は洋風の画法をも摂取、和漢洋の画風を広く修める。勤王精神も旺盛(おうせい)で、有職故実(ゆうそくこじつ)を研究して歴史画に新生面を開いた。(出典=日本大百科全書(ニッポニカ)

まいこ:へぇ。名前は聞いたことがありますが、個展とかは見たことがないかも。

つあお:「日本画ウォッチャー」を自任しているたわくしには、前から気になる画家でした。横山大観や菱田春草なんかと比べると有名じゃないんですけど、いろんな展覧会で時々出てくるんです。そのたびごとに、「おお、すげーテクニックだな!」って思うんですよ!

菊池容斎『桜図』ほか 展示風景

まいこ:知る人ぞ知るテクニシャンなんだ!

つあお:まったくそう。東京の画家なんだけど、京都まで円山四条派の画法を学びに行ったこともあるんだとか。

円山四条派=江戸中期、円山応挙によって始められた写実的な絵画の流派円山派と、その流れをくむ応挙門下の呉春の開いた四条派を併称したもの。円山派は、18世紀の中頃、京都の新興町人層の現実的な感性を基盤に、写実性と伝統的な装飾性を融和させた新しい様式で、上方画壇に大きな影響を与え、明治画壇にまで及んでいる。用筆上の特徴としては従来の没骨技法に墨の濃淡表現を加えた付立(つけたて)法とよばれる筆法が用いられている。(出典=徳島県立近代美術館「美術用語詳細情報」

まいこ:へー! あのかわいすぎる犬くんを描いた円山応挙の流派! (関連の過去記事はこちら!

あの「きゃふん」のワンちゃん!そんな流れがあるんですね。

つあお:考えてみたら、応挙もすごいテクニシャンでした。今なら図鑑なんかで使えそうな博物画みたいな絵も描いていたし。

まいこ:菊池容斎の時代に東京から京都に学びに行った画家は珍しかったんでしょうか?

つあお:詳細はよくわからないのですが、狩野派、土佐派から西洋の画法まで学んでいるので、すごく貪欲に何でも勉強した人だったんだろうなあと想像しています。

まいこ:素晴らしい! 今回の展覧会で面白いのは、東京と大阪と京都を「トライアングル」という言葉で紹介しているところですね! 容斎は少なくとも東京と京都の要素を兼ね備えているっていうことになるのかも!

つあお:そうなんです。この桜は、東京・上野の寛永寺のものを描いたのだそうですよ。でも、作品を買ったのは、大阪に拠点を持つ住友家。商家ならではの独自の収集哲学を持っていそう。やっぱり容斎の絵には強く響くところがあったのでしょう。

まいこ:東京と大阪ではずいぶん哲学が違いそうですよね!

つあお:泉屋博古館東京の野地耕一郎館長は、「近代の大阪の画家にはパトロンがついていたから、ほかの画家とは違うんだという個性を彼らに訴えかけることが重要だった。だから、東京のように流派ができず、画家ごとに個性を発揮した」っておっしゃってましたよね。

まいこ:すごいですね。収集家の哲学が画家のあり方まで変えちゃうなんて。

下の図でも、大阪は師弟関係がなく独立していますね!

💡日本画の基礎知識

明治時代の日本画壇を俯瞰する図を作成しました。明治以降、日本画の潮流の中心地は東京でしたが、長い伝統を持つ京都でも途絶えずに先達のDNAを受け継ぐ画家たちが活動をしていました。もっとも、「日本画」という呼称自体は、西洋絵画の流入への反動として、明治中期に東京美術学校創立の頃に生まれたものです。
東京では、哲学者のアーネスト・フェノロサや岡倉天心が日本の伝統絵画のよさに着目して横山大観や菱田春草らの画家を育て、西洋画法を取り入れながら新時代の表現を目指して大きな流れを作ります。その一方で、菊池容斎のような狩野派からつながる別の流れも独自の展開を見せ、近年注目されている渡辺省亭や梶田半古らの才能の輩出につながりました。
京都では、主に江戸時代から続く円山四条派の流れの中で、竹内栖鳳や木島櫻谷らの逸材の輩出が続きました。土田麦僊や村上華岳、甲斐庄楠音などによる革新が始まるのは、大正時代に入ってからです。
大阪については、京都に近いということでこれまであまり注目されてきませんでしたが、泉屋博古館やこのほど開館した大阪中之島美術館などによる顕彰がこれから進むのではないかと思われます。
なお、画家とは貪欲なもので、たとえば河鍋暁斎は最初浮世絵師の歌川国芳に、菊池容斎は京都に行って円山四条派の画法も学んでいるなど特に近代は一つの流派にとらわれない学びの中に身をおいており、実は単純な系譜の図で流れを表すのは困難です。だからこそ、多様で独創的な表現が花開いたのです。(byつあお)
中之島美術館についてはこちらの記事も要チェック!

桜と柳を組み合わせた画家の妙

木島櫻谷『柳桜図』 1917年 展示は前期(〜4/12)のみ 展示風景

まいこ:菊池容斎が東のテクニシャンなら、西のテクニシャンの木島櫻谷(このしま・おうこく)の桜も負けてないですよ!

つあお:いやあ、この屏風は素晴らしい! まさに京都の桜を描いたらしいんですけど、柳と組み合わせているところが妙にグッときます。

まいこ:珍しい組み合わせだなぁと思ったのですが、実際こういう風景があるそうですね。

つあお:描かれているのは、京都の岡崎公園なのだそうです。でもこういう構図で捉えるのは、やっぱり画家のセンスによる部分が大きいでしょうね。花が咲いた桜って存在感が思いっきり強い。ほかの要素を描こうとはなかなか思わないかもしれないですから。

まいこ:私は柳の木が上から垂れ下がってると幽霊みたいに見えて怖いのでなるべく普段から遠ざかっているのですが、これは下から生えている草みたいにも見えて、幽霊っぽくなくていいですね!

つあお:面白い。何か柳の木にトラウマでも?

まいこ:まったくないです! でも子どもの頃柳の下に幽霊が出ると聞いて怖かったので、条件反射的に逃げるようになったんです。

つあお:まいこさんは純真な子どもだったんだなぁ。

まいこ:そういうことにしておきましょう(笑)!

つあお:櫻谷はきっと、桜の花の薄ピンクと柳の淡い緑色の対比を楽しんで描いたんじゃないかなぁ。 柳には「青柳」という呼称もあるくらいですから、色彩も魅力的だと昔から思われていたのでしょう。

まいこ:納得!

つあお:だから、デザイン感覚の視点で見ても素晴らしい。そして琳派的。江戸時代の琳派はデザイン感覚が秀逸でしたから。

まいこ:昨年京都の櫻谷の展覧会を福田美術館に見に行った時にも、琳派的な作品に目を奪われましたね!

木島櫻谷『柳桜図』 部分

つあお:でも、ぐっと寄ってみると、けっこうリアルですよね。デザイン的にしてリアルなのが、櫻谷の特徴なのかも。泉屋博古館も櫻谷の作品をたくさん持っていて、最近展覧会も開いたんですよね。また、見せてもらえるといいな。

柳の葉っぱがとっても細かい!

波のように押し寄せる美女たち

つあお:菊池容斎は東京、木島櫻谷は京都の画家でしたが、この展覧会では大阪の画家が出てくる。これはちょっと面白い。何せ収集した住友家ゆかりの地ですから。美人を12人並べて描いた上島鳳山(うえしま・ほうざん)という画家のこの連作は、なかなかのインパクトでしたね!

上島鳳山『十二ヶ月美人』 1909年 全幅の展示は前期(~4/10)のみ 展示風景

まいこ:掛け軸になった美人たちが1年の12ヶ月に合わせて12人も並んでいて超華やか!

つあお:この一連の作品を所蔵していた大阪の住友家の邸宅では、きっと季節ごとにあるいは月ごとに掛け替えたりしてたんだろうなぁ。

まいこ:夢のような豪邸ですね! たまに12枚勢ぞろいさせたりして。

つあお:わーお! 美女に囲まれて極楽!

まいこ:12枚を全景として見ると、美女たちの頭の位置が波のようになっていますね。波のように押し寄せる美女たち(笑)!

つあお:波にもまれたい(笑)!

まいこ:梅とか七夕とか雪とか、季節を表すモチーフはあるけど、いかにもという感じで描かれているわけでもないのは、ちょっと奥ゆかしいかなとも思います。

つあお:やはり主役の美女たちをいかにうるわしく描くかというところに重点を置いているんでしょう。パトロンのご機嫌伺いだったりして。

まいこ:さすが商人気質の大阪人! でも洗練されていると思う。とても人間らしい女性と、人間離れした妖精みたいな女性が混在しているのも面白いと思います。

つあお:実は、いろんなタイプの女性を描き分けてるんだ!

まいこ:そう感じます。私が気になったのは2月の女性です。

上島鳳山『十二ヶ月美人』より1〜3月(右から) 展示風景

つあお:これは多分、「羅浮仙」という中国の仙女でしょう。

まいこ:梅の木にぽーっと座っている姿が浮世離れ的に色っぽくて、ミステリアス!

梅の名所「羅浮山」に住む梅の精だそうです!

つあお:1月と3月の絵が鮮やかな赤を使っているのとは対照的に、2月の羅浮仙はモノトーンに近い。それもミステリアスな理由ですね!

まいこ:夢の世界はモノクロだという説もありますしね。

つあお:そう言われてみると、実はたわくしは最近夢をよく見るんですけど、色彩がまったく思い出せません。モノクロの世界だからなのかなあ。

まいこ:わーすごい! 瞬時に立証されましたね!

つあお:住友家のコレクションのおかげです。

まいこ:ところでつあおさんのお気に入りは?

つあお:9月の青い着物を着た爽やかそうに見える美女が何を考えているのかなぁと思うと、気になって夜も眠れません。

上島鳳山『十二ヶ月美人』より7〜9月(右から) 展示風景

まいこ:いっそ眠って夢の中で解決してみては?! 確かに彼女が12ヶ月の中でも一番目立っているかも。華がある!

つあお:きっと住友家の人たちも、暑い8月が早く終わって9月になってほしいと思ってたんじゃないかなぁ。そこにこの美女が現れたら、すごく心が涼やかになると思う。

まいこ:女性の姿で涼むというのも乙! そしてこうやって男女にかかわらず気になる女性について話が弾むのも楽しい! 素晴らしい12ヶ月ですね!

つあお:最高です!

まいこセレクト

橋本雅邦 『深山猛虎図』 1890年頃 展示風景

自分自身が寅年なので、虎のアート作品を見ると、自分の分身であるかのように親近感を覚えます。 こちらの絵は、夢の中のような、あるいは映画のセッティングのような滝が流れる風景に、虎の遠吠えが聞こえてきそうな幽玄さが醸し出されているのが魅力。
一方で座っているほうの虎の表情は、とってもコミカル。あんぐりと口を開けて「なんだあれは?」という顔をしています。伝統的な発想から考えると空の龍を見ているということになるのでしょうが、この驚き方から察するとスパイダーマンとかかな(笑)?!

つあおセレクト

村田香谷『西園雅集図』 1904年 展示風景

この絵を見て、「理想郷以外の何物でもないな!」というのが第一印象でした。描かれているのは、中国・北宋時代に西園という場所で開かれた蘇東坡ら16人の文人が居並ぶ風雅な集い。詩書画を楽しむ風景として、江戸時代に谷文晁をはじめとする文人画家たちが多く描いた画題です。
そして、江戸末期から明治を生きた作者の村田香谷は、畢生の大作として住友春翠のために揮毫したのだそうです。何せ村田は3回も中国を訪れ、名勝を回ったといいます。海外渡航は、江戸時代の文人たちにはほぼかなわぬ夢だったのでは? とはいえ、村田の渡航は、コロナ禍さえなければ渡航がかなり自由な現代とは違う、明治時代の話です。見れば見るほど、本物の中国を描いてやろう! という気概が伝わってきます。茶人・風流人だった住友春翠もきっと、この絵を理想郷として見ていたんじゃないでしょうか。
たわくしももちろん、詩書画歌舞音曲を日夜楽しむ理想郷に身をうずめることを夢見ておりますよ!

つあおのラクガキ

浮世離れマスターズは、Gyoemon(つあおの雅号)が作品からインスピレーションを得たラクガキを載せることで、さらなる浮世離れを図っております。​​

Gyoemon『ぼろは着てても心は錦鯉』

いろいろ大変なことが起きている世の中に理想郷なんてあるのかとか、よく思いますけど、心の中に錦鯉を住まわせれば、楽しく毎日を過ごすことができますよ! なんていう意味のことわざ、ありませんでしたっけ。

展覧会基本情報

展覧会名:泉屋博古館東京リニューアルオープン記念展Ⅰ 日本画トライアングル 画家たちの大阪・京都・東京
会場名:泉屋博古館東京(東京・六本木)
会期:2022年3月19日〜5月8日 展示替えあり
公式ウェブサイト:https://sen-oku.or.jp/program/20220319_nihongatriangle/

参考文献

「泉屋博古館名品選99」(青幻舎)

書いた人

つあお(小川敦生)は新聞・雑誌の美術記者出身の多摩美大教員。ラクガキストを名乗り脱力系に邁進中。まいこ(菊池麻衣子)はアーティストを応援するパトロンプロジェクト主宰者兼ライター。イギリス留学で修行。和顔ながら中身はラテン。酒ラブ。二人のゆるふわトークで浮世離れの世界に読者をいざなおうと目論む。

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平成元年生まれ。コピーライターとして10年勤めるも、ひょんなことからイスラエル在住に。好物の茗荷と長ネギが食べられずに悶絶する日々を送っています。好きなものは妖怪と盆踊りと飲酒。