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2024.12.03

浮世絵は版画だけじゃない!? 一枚ずつ手描きした「肉筆画」とは?

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2025大河ドラマ『べらぼう』は、蔦屋重三郎(つたやじゅうざぶろう)が主人公です。多くの浮世絵師を世に送り出したことで知られていますが、『浮世絵』はどうやって描かれていたかご存知ですか?

版画の浮世絵とは

浮世絵の多くは版画でした。版画である浮世絵は絵師(えし)、彫師(ほりし)、摺師(すりし)というそれぞれ専門の職人が手分けして作り上げていました。そして蔦屋重三郎のような版元(今でいう出版社)と呼ばれる人が、どんな浮世絵にするかを決め、まとめ役から販売までてがけていました。最初は墨の一色ずりに筆で着色したものでしたが、江戸後期になると、多色刷りが開発され、木版画としてはその当時世界最高峰ともいえるカラー技術を確立。数百から万単位までの大量印刷を行い、数え切れないほどの作品を世に送り出しました。大量印刷できることで庶民でも手が届く値段になり、江戸時代に一大ブームを巻き起こしたのです。

版画浮世絵について詳しくはこちら
浮世絵版画の作り方を解説!あの北斎の名作の原画が一枚も残ってない理由って?

手描きの浮世絵とは

何枚も作品を作ることができる版画とは違い、1枚1枚手描きで仕上げる浮世絵もありました。
なんというか知っていますか? それは・・・

肉筆画(にくひつが)

と言います!まさに一枚一枚魂をこめて描いている!という感じがしますね!
浮世絵の始祖と言われている菱川師宣(ひしかわもろのぶ)の『見返り美人図』などが有名です。

 菱川師宣『見返り美人図』 東京国立博物館蔵 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

菱川師宣についてはこちら
「見返り美人」人気の秘密は? 菱川師宣の作品と美人画の歴史も紹介

一点のみの肉筆浮世絵はとても高価で、富裕層からの注文制作を基本としていました。ただ懐月堂安度(かいげつどうあんど)を筆頭とする懐月堂派は、版画よりは安くない値段ですが、数多くの肉筆画を制作して店頭で販売する方式をとっていました。

 懐月堂安度『遊女と禿図(ゆうじょとかむろず)』 東京国立博物館蔵 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

また、役者絵で一派を成した鳥居清信をはじめとした代々の鳥居派は芝居小屋に掲げる絵看板、芝居の内容や出演者告知を肉筆画で描き、興行に花を添えたそうです。

 鳥居清信『萩野伊三郎と嵐和か野(はぎのいさぶろうとあらしわかの)』 東京国立博物館蔵 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

江戸時代中期以降は、版画の作品で人気を得てから、肉筆画の注文を受けるようになるというのが、浮世絵師の出世パターンの一つになっていきました。典型的なのは磯田湖龍斎(いそだこりゅうさい)。また、肉筆画の名手として現代でも筆頭に挙げられる勝川春章(かつかわしゅんしょう)が有名です。

勝川春章についてくわしくはこちら
浮世絵師・勝川春章とは? 葛飾北斎の師匠の人生と功績

江戸後期の頃、あの葛飾北斎や歌川広重も肉筆画の作品を多く残しています。
北斎は特に75歳を過ぎた頃から90歳で亡くなるまでは、活動の中心を肉筆画制作に置いていました。
広重は、出羽(山形県)の天童藩から大量の肉筆画の注文を受けたという事情もあり、肉筆画も風景画を中心に描いていたようです。

 歌川広重『御馬献上行列図(おうまけんじょうぎょうれつず)』 東京国立博物館蔵 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

北斎の肉筆画はこちら
画狂人北斎、実は肉筆画がすごかった!90歳で描いた作品に感動!

版画とは違い、一点物の肉筆画。なかなかお目にかかれる機会が少ないですが、版画とはまた違った魅力にあふれていますね!

参考文献
深光富士男『面白いほどよくわかる 浮世絵入門』河出書房新社 2019年
田辺昌子『浮世絵のことば案内』小学館 2005年
『伝統の美がひかる!江戸時代の天才絵師 歌川広重』 監修、山下裕二 発行者、中村宏平 ほるぷ出版 2022年

アイキャッチ右:歌川広重『名所江戸百景・するがてふ』 東京国立博物館蔵 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)