ゴッホやゴーガンなど印象派作家以外も充実!
本展では意外にもゴッホの作品は本作のみ。しかしこの作品が素晴らしいのです。
垣根の向こう側の果樹園には、満開の桃の花が描かれ、明るい空にはおだやかな雲が張り出しています。春の南仏アルルの情景を詩情豊かに描いています。直前にゴーギャンとの共同生活が破綻し、サン=レミの療養院に入院する直前の不安定な時期に描かれた作品とは思えない明るく美しい画面が印象的でした。
ちなみに、画面上方に見えるなだらかな山脈の右端には、雪をかぶったひときわ大きな峯が見えますよね。これは、浮世絵版画や日本美術で日本の情景にあこがれていたゴッホが富士山をモデルに描いたとも言われていますね。(にしては控えめですが・・・)
ルネサンス期以来、西洋美術の定番中の定番のモチーフ「横たわる裸婦像」を用いて描かれた大作です。ゴーガンが2度目のタヒチ滞在時に現地の島の娘をモデルにしているのでしょう。浅黒く豊満な肉体、気怠そうな表情が非常に印象的。「私はただありのままの裸体によって、かつて未開人が持っていたある種の豪華さを想起させたかった」とゴーガンは手紙に書いています。
画面左上に英語で書き込まれた「ネヴァーモア」(直訳:二度とない)という意味深なタイトルはエドガー・アラン・ポーの詩「大鴉」から着想されたとされます。窓際にはちょうど青い鳥が描かれていますね。(もっともゴーガン自身はこの鳥を悪魔の鳥と呼び、ポーの詩との直接的な関連性を友人に宛てた手紙の中で否定しています)
同年に描かれた超大作「われわれはどこから来たのか われわれは何者か われわれはどこへ行くのか」(ボストン美術館)同様、タヒチ時代のゴーガンの作品は神秘的で謎めいた作風が我々の目をひきつけます。
最後にぜひ紹介しておきたいのがボナールが晩年に南仏、ル・カネで描いたとされるオリーヴの木がある風景画。陽光が降り注ぐ南仏の田園風景を色彩豊かに明るく描いた作品は、まさに印象派作品に近い雰囲気があります。特に個人的に目を惹かれたのが、画面左に大きく描かれた3本のオリーヴの木。青と白で美しくアーモンドの木を描いた絶筆「花咲くアーモンドの木」(オルセー美術館)でも描きましたが青々とした葉や紫色のオリーヴの実が渾然一体となって白と青と紫で表現されているのが実に美しいのです。
解説パネルや音声ガイドも秀逸です
本展は、1点1点の作品に丁寧な解説が付けられているのですが、さらに深く探求してみたい人のためには音声ガイドと展示室内で特にいくつかの重要作品の近辺に設置された特別な解説パネルがおすすめです。
解説パネルでは、作品に描かれたモチーフや技法、サミュエル・コートールドがなぜこの作品を気に入って購入したのか「収集経緯」などを図解で徹底解説。なぜ作家はこのように作品を描いたのか、わかりやすく掘り下げて作品を読み解いてくれています。本作のポイントを押さえてからもう一度絵と向かい合うと、一段深い鑑賞体験が味わえます!
また、もう一つのオススメは全20トラック約35分が収録された音声ガイド。画家の言葉、エピソードや絵画が制作された当時の時代背景など、解説パネルには書かれていない内容は非常に勉強になりました。三浦春馬の優しく落ち着いたナレーションや、ラヴェル、フォーレ、ドビュッシーなど画家と同時代に活躍したフランスの音楽家たちのBGM(全10曲)も秀逸でした。こちらもオススメです。
2019年秋季最高の西洋美術展。珠玉の作品群を何度でも楽しもう
本展の副題には「魅惑の印象派」とありますが、展示では、モネやシスレー、ピサロ、セザンヌが描いた水辺や田園を描いた風景画から、ルノワール、ドガ、マネなどが描いたパリの生活風景が情感豊かに描かれた作品まで傑作揃いです。ちょっと大げさかもしれませんが、2019年度の西洋美術展の中では、個人的には今の所No.1なのではないかと思っています。
サミュエル・コートールドが自らの邸内を華やかに彩るために厳選して買い集めた珠玉の作品群。その主力作品の大半が来日している今回の「コートールド美術館展」本当にオススメです。ぜひ何度でも楽しんでみてくださいね。
※特に記載のない作品はコートールド美術館蔵
※作品はすべて©Courtauld Gallery (The Samuel Courtauld Trust)
展覧会基本情報
展覧会名:「コートールド美術館展 魅惑の印象派」
会場:東京都美術館(〒110-0007 東京都台東区上野公園8-36)
会期:2019年9月10日(火)~12月15日(日)
公式サイト