先日、とある展示会で不思議なグラスを見かけ、つい足を止めてしまった。
形状自体はそう珍しいものではない。いわゆる馬上杯というやつだ。問題は、その素材。ボウルはガラスで、フットはセラミック……つまり、ふたつの素材を接合させているのだ。ううむ、これは面白い。実に、奇妙な食器だ(もちろん、それはおかしいという意味ではなく、珍しくて素晴らしいという意味である)。
ひと目で、虜になった
じっくりと観察したかったが、あいにく時間がなかったため、〈九谷和グラス〉という名前をノートに走り書きし、すぐに目的の会場へと急いだ。それからは挨拶をしたりメモを取ったりと非常に忙しく、家に帰ったときにはグラスのことはすっかり忘れてしまっていた。
しかし、それから数日後、その不思議な姿を頻繁に思い出すようになった。そして、気がつけばカタログを眺め、どれを買うかを真剣に吟味するまでになっていた。まるで白昼夢を見ているような気分だった。
最終的に、30種類以上もあるデザインの中から、ペイズリー模様のグラスを選択した。可憐な花をモチーフにしたものにも心惹かれたし、日本の伝統文様をあしらったものにも食指が動いた。しかし、今の自分は〈ハレ〉より〈ケ〉を求めているように感じ、最もシンプルなものを買い求めることにしたのだ。
清廉なデザイン
それから何日か経って、心待ちにしていた荷物が届いた。まるで生まれたての子猫を扱うように、ゆっくりと包みを開ける。
実に美しい。いや、美しいというよりも、清らかと表現したほうが適切かもしれない。眺めているだけですっと心が広がっていくような、そういう清廉さが漂っている。早速、仕事机に飾ってみる。まるで10年前からそこにあるかのように、しっくりと馴染んでくれた。
これからますます暑くなるが、キンと冷やした日本酒をこれで飲めばとても快い気持ちになれそうだ。想像するだけでも喉が鳴る。酒器としてだけではなく、フルーツを盛る器として使うのも素敵かもしれない。
和との出会い
実をいうと、これまで和食器にはほとんど関心がなかった。しかし、この作品と出会ったことで、自分の心の扉がひとつ開け放たれたような気がする。
以前、「歳を取るごとに自分の好みが狭まっていく」と、歳上の友人が言っていた。たしかに自分も昔と比べ、読書や音楽など趣味の幅が狭くなっているように思う。しかし、日用品に関していえば、前よりも好みが広がっているようだ。
……いつか永遠に目を閉じる日が来たとき、自分の周りにどんな日用品があるのだろうか。あまり贅沢なことを言うつもりはないが、願わくば、〈奇妙〉な品々に囲まれていたいと思う。
清峰堂 店舗情報
本社・ショールーム&ショップ ギャラリー陶創館
住所:〒923-1102 石川県能美市新保町ヲ48
Webサイト:http://www.kutani-wa-glass.com